転生してもノージョブでした!!

山本桐生

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冒険者編

一人娘と名も無き村

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 犯人達は王国側へと引き渡された。だがその中に女はいない。首謀者またはそれに近い人間がまだ野放しになっているという事だ。
 それにレンツィオは商工ギルドの仕事としてエルフの町を訪れていた。商工ギルド内にも犯人の仲間がいる。
 人身売買事件の全貌はまだまだこれからだな。

 そんな当ギルドの応接室。
 私の後ろに立つフレアとホーリー。そこにチラチラと視線を向けるのはヌーノだった。
「大丈夫です。二人は私専用のメイドですから。今ここでされた話が外に漏れる事はありませんよ」
「……はい……ありがとうございます」
「それで話とは?」
 ヌーノの訪問。
「……あの……私をシノブさんの近くで働かせていただけないでしょうか?」
「雇ってほしいという話ですか?」
「何でもします!! 賃金も最低限で構いません!! 匿ってほしいのです……」
「……詳しい説明をお願いします」
「……はい……私は……オウラー・スヴァルの一人娘です」
「なっ!!? む、娘さん……ですか?」
 スヴァル海商の元代表。陥れられ、代表の座を追われた。一時期は王国側に拘束されていたが、ほどなくして解放された。まぁ、私が冤罪の可能性を伝えていたからな。その後はどうしているか知らないけど。
「……オウラー・スヴァルが娼婦に産ませた子供……それが私です」
「その事が今回の誘拐に関係あると?」
 私の言葉にヌーノは頷く。
「直接的な関係は無いと思います。けど私の今の状況を利用された気がしています」
 ヌーノは言う。
 スヴァル海商にオウラーの関係者は残っていない。だが最近、スヴァル海商としては跡取りとなる可能性のあるヌーノの存在が明らかになった。
 それが原因でヌーノは身の危険を感じていた。
 あらぁ~、これって私とモア商会の関係に似てるぅ~ ちょっと分かるわぁ~
 つまり今回の事件にヌーノを巻き込む事で、人身売買事件がより商会絡みの事件に見えるというわけだ。
 とりあえず人身売買事件の方は落ち着いたが、ヌーノの状況が変わったわけではない。だからうちで保護してほしい。そういう話だった。
「……分かりました。うちも人手は必要なので」
 まだ全ての事件が終わったわけではない。私の近場にいた方が良いだろう。色々な意味でな。

★★★

「シャーリー助かったよ。魔弾、ありがとうね」
「それだけで他は何もしてないんだけど」
「後で特別に珍しいお菓子あげるからさ。一人で私んトコ来てよ」
「え、うん、ありがと」
「絶対にみんなには秘密だからね」
「?」

★★★

 これは後から報告された名も無き村の出来事。
 大森林に隣接し、村人は全員でも50人にも満たない。魔物などの防衛の為に小さな柵がある程度の村だった。
 
 深夜、暗闇に紛れる土草を踏む足音。最初は一つだったが、少しずつ足音は増えていく。僅かな月明りに照らし出されたその姿。
 二足歩行、体格は子供のよう。爛れたような緑色の肌。様々な種族から見ても醜悪と形容される容姿だった。
 手には各々に武器を持つ。手入れなどされていないような武器。

 最初に気付いたのは深酒の男。酔いを醒まそうと外をフラフラとしていた。
「……なんだぁ?」
 複数の足音。
「ん……んん?」
 目を凝らす。
「あれは……」
 確認して一気に酔いが醒める。
「お、おい、ま、まさか、そんな」
 そして叫ぶのだ。
「ゴブリンだぁぁぁぁぁっ!!」

 突然の夜襲。
 幸いにも男が気付いたおかげで村側の対応は早かった。負傷者は出たものの、なんとかゴブリンを撃退する事に成功した。
 しかし……それから襲撃が繰り返される。
 その対応が冒険者ギルドへと依頼されたのだ。
 それは多くの依頼の中の一つ。別に私が気になるような事も無く、受けようか検討する依頼じゃなかった。けど。
「シノブ。この依頼を受けて欲しい」
 ヴォルフラムだった。
「どうして? なんかあんの?」
「俺は大森林の管理をしている。もちろんゴブリンの存在も知っている。けどゴブリンは村を襲うような種族じゃない」
「それはそうかも知れないけど」
 繁殖力旺盛、男は殺し、女は犯す。前世での創作物ではゴブリンはそんな扱いだったけどな。
 こちらのゴブリンは容姿こそ醜悪かも知れないが基本的には温厚な種族。知識と理性があり、意思疎通も可能。森の奥深くで生活し、他種族を集団で襲うような存在じゃない。
「森の主としてゴブリンの様子を見てくるから、名も無き村の方を頼みたい」
 確かに双方向から解決を試みる方が良いか。
「了解。襲われてんのなら急がないとね。すぐ準備するから」

 ゴブリン退治の始まりである。

★★★

 面子は私、ヴォルフラム、リアーナ、ロザリンド、服の下にはコノハナサクヤヒメ。
 ヴォルフラムは一足早くゴブリンの元へと向かっていた。
 周囲の様子を観察する。
 整備されていない、開けただけの土地にあばら屋が建つ。村自体が廃村に近いじゃん……でも。
「ねぇ、ここの住人とは思えないんだけど」
「そうだね。武器とか防具とか、私達と同じ冒険者みたい」
「依頼を受けた冒険者は私達だけじゃない……としても人数が多いわ。それほど魅力的な依頼とは思えないけども」
 そんな私達の前に。
「お前達、『女神の微笑み』だな? 悪いが、この依頼は俺達のものだ。分かるだろ?」
 冒険者の男が立つ。
 それは暗黙の了解。
 別の冒険者が同じ依頼を受ける事はできる。だが優先権は先発組の冒険者へと与えられる。後発組は先発組が依頼を失敗、または放棄してからの行動となる。
「分かっています。依頼を横取りするつもりはありません」
「この依頼を失敗する事はない。帰っても構わんぞ」
「はい。でもここまでの道のりがありますので、この村で少し休ませてもらいます」
 男が眉を顰める。そして詰め寄る。
「……俺達が失敗すると思っているのか?」
「そんな話じゃありませんので……あの少し離れてもらえますか? ちょっと近いです……」
「馬鹿にしているのか?」
 ええ~ どこでそんな話になるぅ~?
「……」「……」
 黙っているリアーナとロザリンドが怖い。
「本当にそんな事はないんです。勘違いです、ただ本当に少し休みたいだけで」
「……俺達の邪魔だけはするなよ。それに目障りだから早く消えろ。ゴブリンと間違えて殺してしまうかも知れんからな」
 脅しているつもりなのか。

「冒険者。やっぱりクソ」
 俺はニコッと笑う。
「シノブちゃん……それが言えて嬉しそう」
「やっぱりクソだと思ってたものがクソで安心した。やっぱり冒険者ってこうじゃないとね」
「歪んでいるわね……だけど少し気になるわ。一つのパーティーとしては人数が多過ぎる。複数のパーティーがいると思うのだけれど、視線が私達だけに集中し過ぎているのよ」
「つまりここにいる冒険者が全員繋がってるって事?」
「うん、その可能性はあるかも。でもそうなると依頼の報酬と釣り合わない」
「……なんかあるかもね。ヒメ」
「お呼びですな!!?」
 服の下からにゅるんっとコノハナサクヤヒメ。
「情報収集をお願い」
「拙者にお任せぉぉぉっ!!」
 もうちょっと声を抑えろ……目立つだろぉ……
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