転生してもノージョブでした!!

山本桐生

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キャノンボール編

優勝と闇落ち

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 ここは花の都。
 最初に貰った収集品の『花』は枯れてしまっていた。
「私はね、ツバキちゃんは普通じゃないと思う、やっぱり」
 アリスに扮したリアーナ。
「そうね……あれこれ作戦を考えるのが馬鹿らしく思えてくるわ……」
 イングリッドに扮したロザリンド。
「まぁ、ユリアンもベリーも、所々でシャーリーやドレミドも鋭いからねぇ。もう何か前提からひっくり返してやろうと思ってね。後は逆に何も考えないようにしてやったよ」
 ニデック親子に紛れて、再度『花』を貰う。
 もしかしたらシャーリー達が近くにいるかも知れないが、何も作戦を立てていない。あえてね。
 そう、俺はユリアン達が考えているであろう前提をひっくり返した。

 まずコノハナサクヤヒメはもうユリアン達を尾行していない。
 そして俺達は収集品を自ら持ち歩いていない。

 手に入れた収集品は夜な夜なコノハナサクヤヒメに頼んで、事前に借りていた王都の宿屋一室に送っていたのだ。
「いやさ、収集品の奪い合いとか言うけどさ『最初から持ってなきゃいいよね?』とか思わない?」
「あのね、ツバキちゃんね、そういう競技だからね。収集品だけ先に王都へ送るとか普通は考えないよ」
「盲点と言えば盲点ね。とは言え別行動をしても目立たないヒメだからこそできた作戦だわ」
「確かにヒメ様様だよ」
 最初、コノハナサクヤヒメに尾行させたのは『尾行に気付くか?』を確認する為。もし尾行を疑う様子が無ければ指定場所へ引き返すように指示していた。
 ユリアンが尾行の可能性を考えないわけがない。無反応だったからこそ、気付かれていると確信した。つまりユリアンは尾行されている事を前提に動くはず。だからこそ俺はその前提を崩したのさ。
 我ながら面白い事を考えるもんよ。

★★★

 そしてそのまま、女神の微笑みは大陸縦横断収集競争に優勝してしまうのである。
 最後の最後に大どんでん返しの大混戦……なんて盛り上がりも無く、気付いたら優勝してました的に。
 
 これでヒセラの望み通り。俺にもさらに箔が付く。
 ハリエットの婚約話も無くなるだろ。後々から聞いた、糸を使ったライトヒースの戦い方。多分あの筋肉野郎は帝国側だな。
 ちなみに俺達の作戦は批判されるとも思ったが、大きな問題にはされなかった。ここを突けば、チュボイが多くの参加者と協力していた事も槍玉に上がるかも知れない。有力貴族であるチュボイが責められるような論調は作られない。
 それと協力してくれたニデックは、多分だけどニーナやヒセラ側。そうでなければ戦いに巻き込まれる可能性があるような協力はしてくれなかっただろう。
 さて。これで良かった、良かった……と、ならないのである。

「おうおう、シャーリーさんじゃないですか!!? なんか『世代交代』とか言ってましたけど、できたんですか? その世代交代とやらは!!?」
「ぐぬぬ……」
「ねぇねぇ今どんな気持ち?」
 俺はシャーリーの周りを飛び回る。
「ちっ、クソが」
「あらまぁ、随分とお口が悪いようで」
「……はぁ」
 そこでシャーリーは大きくため息。
「……何?」
「ユリアン」
「ユリアンがどうかした?」
「リコリスが読んでた本で知ったんだけど……闇落ち?……ってのしそう」
「闇落ち? 誰が? ユリアン?」
 シャーリーは頷く。
「今回はさ、あたしよりもユリアンの方が気合入ってたよ。キオにも言ったけど『シノブに成長した姿を見せる良い機会』、それはユリアンも同じ。だから無視されたみたいで落ち込んでる」
「で、でもそれは」
「あーうん、分かってる。シノブらしい作戦だし、戦わなくていい相手なら、そうして当然。それはユリアンも頭では分かってるよ。けどさ、花の都でシノブ達が優勝した知らせを聞いた時のユリアンの顔が忘れられない。多分、シノブと戦う事に憧れだってあったんだと思う。だけどその戦う為の舞台にすら上がれなかった。悔しさと情けなさでいっぱいの顔……想像できる?」
「……」
「もちろんシノブは悪くないけど、人の気持ちってそういうもんじゃないから。闇落ちする前になんとかして。つーか単純に落ち込んでてウザい」
「……うん……ありがとう」
「そもそもシノブなんか目標にしてたら大半の人間は闇落ちしなきゃいけなくなるじゃん?」
 俺はただ苦笑いを浮かべるのだった。

★★★

 これは俺が後から聞いた話。

 竜の花嫁……対外的に、シノブの後ろには不死身のアバンセがいる。ロザリンドの後ろには轟竜パルがいる。しかしリアーナには?
 だから狙われたのだろう。

 拠点としている生まれ故郷、エルフの町。一人での買物中に狙われる。
「……」
 足を止めず、何食わぬ顔で買物を続けるリアーナだったが、すでに敵対者の視線には気付いていた。複数、そしてそこに混ざる殺意にも。
 そのリアーナの姿が人込みの中に消えた。
 追跡も得意とする敵対者達は見失った事に困惑した。そして一人、また一人と倒されていく。
『ど、どういう事だ……どうなっている……』
 残された一人。仲間と連絡が取れない事に気付く。
 その背後。
「チュボイさんに伝えてもらえますか?」
 背後から女性の声。敵対者はその気配に全く気付かなかった。その事に内心は愕然とする。しかし表に態度は出さない。
「あの……誰かと勘違いしていませんか? チュボイなんて」
 その瞬間、敵対者は心臓を鷲掴みされたような感覚に陥る。実際に掴まれたのは手首。全身に冷たい汗。とてつもない威圧感。
 もちろん背後に立つのはリアーナだった。
「今後、もし私達の周りにあなた達の姿が見えたら許しません。救国の小女神シノブを含めて、その家族、それに連なる人達、全てです」
「話が見えな」
「喋らないで」
「っ!!?」
 ミシッ
 手首の骨が軋む。握力だけで砕かれる寸前だった。
「もう関わらないのなら、こちらから何かをする事はありません。でももし悪意を持って接するつもりならば、私はチュボイ・コインブラを殺します。竜の力を借りてでもです」
 リアーナは敵対者達と面識が全く無い。それでも纏う雰囲気が競技時のチュボイの護衛達と似ていた。同じ所で訓練を受けていたか、常に近しい生活をしているのだろう。
 そこから親玉がチュボイだと確信する。
 ミシッ、ミシッ
「ぐがっ……」
「きちんと伝えてください。分かったら頷きなさい」
「や、やめてくれ……く、砕けるっ!!」
 ミシッ、ミシッ
「私の言う事が聞こえませんでしたか?」
「あっ、あっ」
 敵対者はブンブンと首を縦に振る。そして突き飛ばされて掛け逃げる。
「……あんまりこういうの慣れないよ……でもこれくらいは脅さないと……あとシノブちゃんに相談かな」
 そこでリアーナは困ったような表情を浮かべるのだった。
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