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キャノンボール編
再戦と予想外
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なだらかな丘陵地帯に曲りくねった石畳の街道が延びる。
比較的に見通しは良く、不意打ちには適さない。
そんな場所でシャーリー達が対峙するのはライトヒース。その地形は前回とほとんど同じものだったが、違う部分もある。
「前回は遊びだったが、状況が変わったんでな。今度は最後まで付き合ってけや」
そう言ってライトヒースは笑みを浮かべた。再戦である。
さらに続ける。
「ちなみにこっちは全員まだ残ってんぜ」
つまりあの時と同じく5対10。相手の配置も同じく、正面にライトヒース一人、後ろに三人。右に二人、左に二人、離れた位置に二人。
だが今回はドレミドが事前に察知していた。似た風景に『なんか嫌な感じがする』という勘でだ。
ユリアンにとってはありがたい展開。あの時にどうすれば勝てたのか……そう何度もシミュレーションしていたからだ。
分断され劣勢に立たされたのは総合的な戦力が劣っていたから。人数的にも全ての局面で勝てないのならば取れる作戦は一つ。一点突破、勝てる場所で確実に勝つ。
その為に今は……
「こっちは別に付き合う必要もないから。勝手に言ってなよ」
「あん?」
シャーリー達は同時に全力で駆け出した。ライトヒースの反対側、後ろの三人に向かってだ。
前回の時にドレミドは相手を目視し、雰囲気から大体の強さを推察していた。一番厄介なのはやはりライトヒース。彼一人を相手にするより、後ろの三人の方が簡単だと判断していた。確実に勝てる相手だ。
ライトヒースの大声が響く。
「相手すんな!!」
ライトヒースとしてもここで人数を減らすわけにはいかない。
シャーリー達はその場から離脱。
さらにタックルベリーが魔法で炎の壁を立ち上げる。
★★★
「んな事で止められるか。逃がさねぇよ」
もちろんライトヒースは追撃するつもりだったが。
炎の壁を貫くような小さな青い光の玉が迫る。
咄嗟に体を捻るライトヒース。その肩口を光の玉が貫通する。
それは魔弾。
炎の壁の向こう側からの連続射撃。魔弾はライトヒースの仲間達にも撃ち込まれた。
「なかなか面白れぇじゃねぇか!!」
自分の回復なんて後回し、ライトヒースは巨大な戦槌を構えて炎の壁へと向かうのだった。
★★★
探索魔法を何度も細かく飛ばすタックルベリー。
「次はこっちだな」
「任せて!!」
タックルベリーが示した方向に向かってシャーリーは魔弾を放つ。もちろん炎の壁により相手の姿は見えない。それでも何度も何度も撃ち込んだ。
「突進してくる奴がいるな。あの筋肉バカだろ、多分」
「後退する。リコリスもドレミドも収集品を落とすなよ」
「落としませんわ!!」「落とさないぞ!!」
二人の声が重なり、また全力で駆け出すのだった。
★★★
ライトヒースは戦槌を全力で振り下ろす。地形が変わるような一撃で炎の壁も吹き飛ばす。しかしその先には広範囲に渡り氷の槍が突き立っていた。
砕きながら進んでも、迂回して進んでも、全力で後退するシャーリー達には追い付けない。
魔弾の攻撃も止んでいる。
「まさか逃げるとはな」
前回は遊びでおちょくった。リベンジに燃えているかと思ったが、こうもあっさり逃げる選択をするとは……想像以上に冷静、そして予想外だったのだ。
★★★
見通しが良く広い。講じられる策は多くない。人数的にも不利。わざわざこんな所で戦う必要もない。だったら逃げるのが得策。冷静な判断だ……と、相手は思うだろう。
だからこその勝機。ライトヒース達はここで叩く。
相手の動向を知るには探索魔法が基本。それと直接の目視。かなり離れ、探索魔法の範囲外。しかし見通しが良いからこそ、それ以外の方法が可能だった。
上空。ユリアンに抱えられたシャーリー。その赤い眼鏡をクイクイと動かして魔力を通す。本来なら肉眼では確認できない距離だったが……
「やっぱ集まってんのは八人だけみたいよ。予想通りじゃん」
シャーリーにはしっかり見えていた。
「あとはドレミド頼みか」
「でもドレミドの勘って凄くない? 時々探索魔法とかより凄かったりするし。なんだろうね、あの理由のない本能的なヤツ」
「さぁね。俺も竜の血が混ざってるから鋭い方だと思うけど、ドレミドはちょっと理解ができないよな」
ライトヒースから離れて行動する監視役の二人。この二人が周囲の探索や索敵を担うなら、ライトヒースと合流する事はないと予想していた。二人が逆に発見されても、ライトヒースの動向までは分からないようにする為だ。
そして前回の戦いで分かったのは、その監視役が遠くからでも指示、または連絡が可能な事。つまりわざわざ合流して行動する必要はない。
そして今、確実に勝てる相手、それはこの監視役の二人だった。
その為のリコリス、タックルベリー、ドレミドの別行動。大きく街道を迂回しながら、その二人を叩く。
探索魔法を使えば相手に気付かれる可能性があるので、そこはドレミドの鋭い感覚と勘で。もし相手に探索魔法を使われたら、タックルベリーが魔力を察知して素早く撤退である。
その場でしばらく待機して動向を窺う。
ライトヒース達はそのまま八人で談笑しながら移動中。その様子を見てシャーリーは気付く。
「ねぇ……荷物が少ないような気がする……中間発表だとそこそこ収集品を集めてたと思ったんだけど……なんかほぼ手ぶらだし」
眉を顰めるユリアン。
タックルベリーの探索魔法では周囲に他の人間はいなかった。収集品は戦う前に離れた場所へ隠したと思っていた。だが今はその収集品を監視役の二人だけで運んでいる? それを奪い合う競技だ、なのに二人だけで守っているのか? 収集品を持ち歩いていない、その理由は……
「……まだ……戦いは終わっていないから……」
だとしたらこちらの目的を悟られ、誘い込まれたという事。
「シャーリー、撃て!!」
「撤退!!?」
予めに決めていた撤退の合図。
「撤退だ!! それとライトヒースを釘付けにして、リコリス達に近付けるな!!」
「了解!!」
魔弾を放つ。
誘い込まれた三人が逃げ切る為にライトヒースを自由にするわけにはいかないのだ。
比較的に見通しは良く、不意打ちには適さない。
そんな場所でシャーリー達が対峙するのはライトヒース。その地形は前回とほとんど同じものだったが、違う部分もある。
「前回は遊びだったが、状況が変わったんでな。今度は最後まで付き合ってけや」
そう言ってライトヒースは笑みを浮かべた。再戦である。
さらに続ける。
「ちなみにこっちは全員まだ残ってんぜ」
つまりあの時と同じく5対10。相手の配置も同じく、正面にライトヒース一人、後ろに三人。右に二人、左に二人、離れた位置に二人。
だが今回はドレミドが事前に察知していた。似た風景に『なんか嫌な感じがする』という勘でだ。
ユリアンにとってはありがたい展開。あの時にどうすれば勝てたのか……そう何度もシミュレーションしていたからだ。
分断され劣勢に立たされたのは総合的な戦力が劣っていたから。人数的にも全ての局面で勝てないのならば取れる作戦は一つ。一点突破、勝てる場所で確実に勝つ。
その為に今は……
「こっちは別に付き合う必要もないから。勝手に言ってなよ」
「あん?」
シャーリー達は同時に全力で駆け出した。ライトヒースの反対側、後ろの三人に向かってだ。
前回の時にドレミドは相手を目視し、雰囲気から大体の強さを推察していた。一番厄介なのはやはりライトヒース。彼一人を相手にするより、後ろの三人の方が簡単だと判断していた。確実に勝てる相手だ。
ライトヒースの大声が響く。
「相手すんな!!」
ライトヒースとしてもここで人数を減らすわけにはいかない。
シャーリー達はその場から離脱。
さらにタックルベリーが魔法で炎の壁を立ち上げる。
★★★
「んな事で止められるか。逃がさねぇよ」
もちろんライトヒースは追撃するつもりだったが。
炎の壁を貫くような小さな青い光の玉が迫る。
咄嗟に体を捻るライトヒース。その肩口を光の玉が貫通する。
それは魔弾。
炎の壁の向こう側からの連続射撃。魔弾はライトヒースの仲間達にも撃ち込まれた。
「なかなか面白れぇじゃねぇか!!」
自分の回復なんて後回し、ライトヒースは巨大な戦槌を構えて炎の壁へと向かうのだった。
★★★
探索魔法を何度も細かく飛ばすタックルベリー。
「次はこっちだな」
「任せて!!」
タックルベリーが示した方向に向かってシャーリーは魔弾を放つ。もちろん炎の壁により相手の姿は見えない。それでも何度も何度も撃ち込んだ。
「突進してくる奴がいるな。あの筋肉バカだろ、多分」
「後退する。リコリスもドレミドも収集品を落とすなよ」
「落としませんわ!!」「落とさないぞ!!」
二人の声が重なり、また全力で駆け出すのだった。
★★★
ライトヒースは戦槌を全力で振り下ろす。地形が変わるような一撃で炎の壁も吹き飛ばす。しかしその先には広範囲に渡り氷の槍が突き立っていた。
砕きながら進んでも、迂回して進んでも、全力で後退するシャーリー達には追い付けない。
魔弾の攻撃も止んでいる。
「まさか逃げるとはな」
前回は遊びでおちょくった。リベンジに燃えているかと思ったが、こうもあっさり逃げる選択をするとは……想像以上に冷静、そして予想外だったのだ。
★★★
見通しが良く広い。講じられる策は多くない。人数的にも不利。わざわざこんな所で戦う必要もない。だったら逃げるのが得策。冷静な判断だ……と、相手は思うだろう。
だからこその勝機。ライトヒース達はここで叩く。
相手の動向を知るには探索魔法が基本。それと直接の目視。かなり離れ、探索魔法の範囲外。しかし見通しが良いからこそ、それ以外の方法が可能だった。
上空。ユリアンに抱えられたシャーリー。その赤い眼鏡をクイクイと動かして魔力を通す。本来なら肉眼では確認できない距離だったが……
「やっぱ集まってんのは八人だけみたいよ。予想通りじゃん」
シャーリーにはしっかり見えていた。
「あとはドレミド頼みか」
「でもドレミドの勘って凄くない? 時々探索魔法とかより凄かったりするし。なんだろうね、あの理由のない本能的なヤツ」
「さぁね。俺も竜の血が混ざってるから鋭い方だと思うけど、ドレミドはちょっと理解ができないよな」
ライトヒースから離れて行動する監視役の二人。この二人が周囲の探索や索敵を担うなら、ライトヒースと合流する事はないと予想していた。二人が逆に発見されても、ライトヒースの動向までは分からないようにする為だ。
そして前回の戦いで分かったのは、その監視役が遠くからでも指示、または連絡が可能な事。つまりわざわざ合流して行動する必要はない。
そして今、確実に勝てる相手、それはこの監視役の二人だった。
その為のリコリス、タックルベリー、ドレミドの別行動。大きく街道を迂回しながら、その二人を叩く。
探索魔法を使えば相手に気付かれる可能性があるので、そこはドレミドの鋭い感覚と勘で。もし相手に探索魔法を使われたら、タックルベリーが魔力を察知して素早く撤退である。
その場でしばらく待機して動向を窺う。
ライトヒース達はそのまま八人で談笑しながら移動中。その様子を見てシャーリーは気付く。
「ねぇ……荷物が少ないような気がする……中間発表だとそこそこ収集品を集めてたと思ったんだけど……なんかほぼ手ぶらだし」
眉を顰めるユリアン。
タックルベリーの探索魔法では周囲に他の人間はいなかった。収集品は戦う前に離れた場所へ隠したと思っていた。だが今はその収集品を監視役の二人だけで運んでいる? それを奪い合う競技だ、なのに二人だけで守っているのか? 収集品を持ち歩いていない、その理由は……
「……まだ……戦いは終わっていないから……」
だとしたらこちらの目的を悟られ、誘い込まれたという事。
「シャーリー、撃て!!」
「撤退!!?」
予めに決めていた撤退の合図。
「撤退だ!! それとライトヒースを釘付けにして、リコリス達に近付けるな!!」
「了解!!」
魔弾を放つ。
誘い込まれた三人が逃げ切る為にライトヒースを自由にするわけにはいかないのだ。
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