転生してもノージョブでした!!

山本桐生

文字の大きさ
上 下
262 / 276
キャノンボール編

再戦と予想外

しおりを挟む
 なだらかな丘陵地帯に曲りくねった石畳の街道が延びる。
 比較的に見通しは良く、不意打ちには適さない。
 そんな場所でシャーリー達が対峙するのはライトヒース。その地形は前回とほとんど同じものだったが、違う部分もある。
「前回は遊びだったが、状況が変わったんでな。今度は最後まで付き合ってけや」
 そう言ってライトヒースは笑みを浮かべた。再戦である。
 さらに続ける。
「ちなみにこっちは全員まだ残ってんぜ」
 つまりあの時と同じく5対10。相手の配置も同じく、正面にライトヒース一人、後ろに三人。右に二人、左に二人、離れた位置に二人。
 だが今回はドレミドが事前に察知していた。似た風景に『なんか嫌な感じがする』という勘でだ。
 ユリアンにとってはありがたい展開。あの時にどうすれば勝てたのか……そう何度もシミュレーションしていたからだ。
 分断され劣勢に立たされたのは総合的な戦力が劣っていたから。人数的にも全ての局面で勝てないのならば取れる作戦は一つ。一点突破、勝てる場所で確実に勝つ。
 その為に今は……
「こっちは別に付き合う必要もないから。勝手に言ってなよ」
「あん?」
 シャーリー達は同時に全力で駆け出した。ライトヒースの反対側、後ろの三人に向かってだ。
 前回の時にドレミドは相手を目視し、雰囲気から大体の強さを推察していた。一番厄介なのはやはりライトヒース。彼一人を相手にするより、後ろの三人の方が簡単だと判断していた。確実に勝てる相手だ。
 ライトヒースの大声が響く。
「相手すんな!!」
 ライトヒースとしてもここで人数を減らすわけにはいかない。
 シャーリー達はその場から離脱。
 さらにタックルベリーが魔法で炎の壁を立ち上げる。

★★★

「んな事で止められるか。逃がさねぇよ」
 もちろんライトヒースは追撃するつもりだったが。
 炎の壁を貫くような小さな青い光の玉が迫る。
 咄嗟に体を捻るライトヒース。その肩口を光の玉が貫通する。
 それは魔弾。
 炎の壁の向こう側からの連続射撃。魔弾はライトヒースの仲間達にも撃ち込まれた。
「なかなか面白れぇじゃねぇか!!」
 自分の回復なんて後回し、ライトヒースは巨大な戦槌を構えて炎の壁へと向かうのだった。

★★★

 探索魔法を何度も細かく飛ばすタックルベリー。
「次はこっちだな」
「任せて!!」
 タックルベリーが示した方向に向かってシャーリーは魔弾を放つ。もちろん炎の壁により相手の姿は見えない。それでも何度も何度も撃ち込んだ。
「突進してくる奴がいるな。あの筋肉バカだろ、多分」
「後退する。リコリスもドレミドも収集品を落とすなよ」
「落としませんわ!!」「落とさないぞ!!」
 二人の声が重なり、また全力で駆け出すのだった。

★★★

 ライトヒースは戦槌を全力で振り下ろす。地形が変わるような一撃で炎の壁も吹き飛ばす。しかしその先には広範囲に渡り氷の槍が突き立っていた。
 砕きながら進んでも、迂回して進んでも、全力で後退するシャーリー達には追い付けない。
 魔弾の攻撃も止んでいる。
「まさか逃げるとはな」
 前回は遊びでおちょくった。リベンジに燃えているかと思ったが、こうもあっさり逃げる選択をするとは……想像以上に冷静、そして予想外だったのだ。

★★★

 見通しが良く広い。講じられる策は多くない。人数的にも不利。わざわざこんな所で戦う必要もない。だったら逃げるのが得策。冷静な判断だ……と、相手は思うだろう。
 だからこその勝機。ライトヒース達はここで叩く。

 相手の動向を知るには探索魔法が基本。それと直接の目視。かなり離れ、探索魔法の範囲外。しかし見通しが良いからこそ、それ以外の方法が可能だった。
 上空。ユリアンに抱えられたシャーリー。その赤い眼鏡をクイクイと動かして魔力を通す。本来なら肉眼では確認できない距離だったが……
「やっぱ集まってんのは八人だけみたいよ。予想通りじゃん」
 シャーリーにはしっかり見えていた。
「あとはドレミド頼みか」
「でもドレミドの勘って凄くない? 時々探索魔法とかより凄かったりするし。なんだろうね、あの理由のない本能的なヤツ」
「さぁね。俺も竜の血が混ざってるから鋭い方だと思うけど、ドレミドはちょっと理解ができないよな」

 ライトヒースから離れて行動する監視役の二人。この二人が周囲の探索や索敵を担うなら、ライトヒースと合流する事はないと予想していた。二人が逆に発見されても、ライトヒースの動向までは分からないようにする為だ。
 そして前回の戦いで分かったのは、その監視役が遠くからでも指示、または連絡が可能な事。つまりわざわざ合流して行動する必要はない。
 そして今、確実に勝てる相手、それはこの監視役の二人だった。
 その為のリコリス、タックルベリー、ドレミドの別行動。大きく街道を迂回しながら、その二人を叩く。
 探索魔法を使えば相手に気付かれる可能性があるので、そこはドレミドの鋭い感覚と勘で。もし相手に探索魔法を使われたら、タックルベリーが魔力を察知して素早く撤退である。

 その場でしばらく待機して動向を窺う。
 ライトヒース達はそのまま八人で談笑しながら移動中。その様子を見てシャーリーは気付く。
「ねぇ……荷物が少ないような気がする……中間発表だとそこそこ収集品を集めてたと思ったんだけど……なんかほぼ手ぶらだし」
 眉を顰めるユリアン。
 タックルベリーの探索魔法では周囲に他の人間はいなかった。収集品は戦う前に離れた場所へ隠したと思っていた。だが今はその収集品を監視役の二人だけで運んでいる? それを奪い合う競技だ、なのに二人だけで守っているのか? 収集品を持ち歩いていない、その理由は……
「……まだ……戦いは終わっていないから……」
 だとしたらこちらの目的を悟られ、誘い込まれたという事。
「シャーリー、撃て!!」
「撤退!!?」
 予めに決めていた撤退の合図。
「撤退だ!! それとライトヒースを釘付けにして、リコリス達に近付けるな!!」
「了解!!」
 魔弾を放つ。
 誘い込まれた三人が逃げ切る為にライトヒースを自由にするわけにはいかないのだ。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。

下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。 豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。 小説家になろう様でも投稿しています。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

倒した魔物が消えるのは、僕だけのスキルらしいです

桐山じゃろ
ファンタジー
日常のなんでもないタイミングで右眼の色だけ変わってしまうという特異体質のディールは、魔物に止めを刺すだけで魔物の死骸を消してしまえる能力を持っていた。世間では魔物を消せるのは聖女の魔滅魔法のみ。聖女に疎まれてパーティを追い出され、今度は魔滅魔法の使えない聖女とパーティを組むことに。瞳の力は魔物を消すだけではないことを知る頃には、ディールは世界の命運に巻き込まれていた。

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

処理中です...