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キャノンボール編

中間発表と強靭の巨人

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 競技は娯楽でもある。そこで中間発表。
 どのパーティーがどの程度の収集品を集めたか。どのパーティーがどの程度のチェックポイントを回ったか。
 ただどのパーティーがどの収集品を持っているかまでは分からない。

 上位には名前をよく聞く冒険者パーティーが名を連ねていた。
 ドンドゥルマの『六戦鬼』
 トラコスの『光剣と銀翼』
 俺達の『女神の微笑み』
 面識は無いが名前だけは聞く『強靭の巨人』
 他にも……
 ライトヒースの『重激』
 シャーリーの『シャーリーと愉快な仲間達』。とんでもないパーティー名にしてやがる。

 そして収集品の詳細も少しずつ見えてきた。
 チェックポイントの数は10ヶ所。収集品は全部で10種類。
 俺達が立ち寄った場所は5ヶ所。収集品の数は他パーティーから奪い取った物を含めて5種類。
 その5種とは『花』『花瓶』『絨毯』『椅子』『燭台』である。ちなみに立ち寄った先、限定数の関係で手に入れる事はできなかったが上限数2の『ベッド』なんて物もあった。今回の収集品は『部屋のレイアウト』に関係した物っぽいな。
 しかしベッドってどうやって持ち運んでるのだろうか。こういうデカい収集品は最後の最後、王都で他から奪い取った方が良いな。
 ちなみに絨毯も椅子もそこそこの大きさではあるが、これはニデックの馬車に積んでもらった。大陸中を回る予定の貴族だもの、馬車も大きく、複数台あるのさ。
 
 ちなみに今一番優勝に近いのは『強靭の巨人』だな。立ち寄った場所は俺達と同じ5ヶ所だが、すでに9種類を集めてやがる。
 だが今すぐにでも順位は変わるかも知れない。

「ツバキちゃん……あの二人組みたいだよ」
「名前の通りだね……デカい。どうする? 無視しとくのも作戦だけど」
「でも好機だわ。物によっては全てが集まる可能性もあるし、相手を阻止する事もできる」
「じゃあ……やっちまうか!!?」

 チェックポイントに向かう途中。すれ違ったのは一組の男女。普通の人間よりも巨大な体躯。強靭の巨人である。

★★★

 こちらはシャーリー視点。

「何ですの、これは!!」
 リコリスだ。
「何? どうかした?」
 と、シャーリー。
「これですわ!! この『シャーリーと愉快な仲間達』!!」
「ああ、それね。リコリスの考えた『深淵なる竜の深き瞳』とかクソダサだから変えた」
「クソダサ!!? カ、カッコいいですわ!! ちょっとユリアンも何か言ってやって!!」
「……俺からしたらどっちもどっちなんだけど」
 ユリアンは言い、さらにタックルベリーが続ける。
「『深淵』と『深き』とか被ってるしな」
「なっ!!? ちょっとドレミド!!」
「私はリコリスの考えたのカッコいいと思うぞ!! えっと、遠縁なる、竜の……遠い親戚?」
「違いますわ!!」
「そもそもユリアン愛が表に出過ぎててキツい」
 シャーリーは呆れたように言うのだった。
「締め上げますわ!!」
「リーダーに逆らうつもり!!?」
「ほら、リコリスもシャーリーもやめるんだ。喧嘩はダメだぞ」
 二人の間に入るドレミド。そんな三人は放って置いて。

 シャーリー達が立ち回った先は4ヶ所。所持している収集品は6種。『花』『花瓶』『絵画』『本』『ペンとインク』『燭台』
「ベリー……どう思う?」
 ユリアンの問いに少しだけ考えるタックルベリー。そして。
「どう考えてもシノブ達の順位がおかしいな。これだけ大陸中を回って、収集品の数からも交戦してるはず。なのに全く目撃情報が無い」
 そう、これは娯楽だ。注目され、人目だって多い。チェックポイント周辺で聞き込めば、必ず他パーティーの情報が収集できる。周辺に小遣い稼ぎの情報屋が集まっているからだ。
「しかもシノブのあの容姿、目立たないわけがない」
 なのに情報が全く得られない。まるで競技自体に参加していないように。
「まぁ、シノブもそれは分かってるだろうから変装してるだろうけど。だけどリアーナとロザリンドの情報も全く出てこないのは不自然過ぎる」
「俺達の想像できない方法で何か……」
 ユリアンも、タックルベリーもその方法が思い付かないのであった。

★★★

 見た目の姿は普通の人間そのものだが、その大きさが普通じゃない。体躯はビスマルクよりさらに大きい。単純な人間ではなく、巨人の血が混ざるような獣人なのかも知れない。
 しかもその背中。ベッドをまるでリュックのように背負ってやがる。

 俺は周囲を見回した。
 土で踏み固めただけの街道。街から少し離れ、農地が広がる。働く人達の姿も見える。よし、だったら俺達は農地でお手伝いする子供達の設定で不意打ちをね。
 俺は離れた位置でリアーナとロザリンドの様子を窺っていた。

「お姉さんとお兄さん。王国の競技に参加してる人達だよね?」
 リアーナは笑顔を浮かべる。
「えーなになに、お姉さん達の事を知ってるの?」
 女の方も笑顔を浮かべてしゃがみ込んだ。それでも俺達よりかなり高い。
「うん。知ってる。お母さんが言ってたの。強靭の巨人って人達が来てるって」
 と、ロザリンド。さらにリアーナが続ける。
「二人ともおっきいからそうだよね?」
「お嬢ちゃん達は怖くないのかな? お兄ちゃん達はおっきいだろ?」
 男の方だ。
「うん。大丈夫」
「私もー」
 その瞬間だった。
 男が腰の巨大な剣を抜き打つ。俺には見えないような速さ。
 だがリアーナもロザリンドも剣筋は捉えていた。それは当てる気のない、試された一振り。普通の子供では反応などできない。だから二人とも動かなかった。
 男は剣を振り抜き、すぐに鞘へと納める。
 リアーナもロザリンドもポカンッと呆気に取られた表情を浮かべた。
「えっ……何……どうかしたの?」
「分かんない……」
 男は笑った。そして言う。
「お兄ちゃん達はさ、体も大きくて子供から見たら怖いんだよな。普通は話し掛けてなんてこないんだ。だけどお嬢ちゃん達は違ったな」
「でもお兄ちゃん達は悪い人じゃないよね?」
「うん。前に大陸を救う為に戦ってた、って」
 そこで女が立ち上がった。
「随分と上手く隠してるようだけど、二人とも剣の動きを視線で追ったね? 普通の子供じゃないよ」
 強靭の巨人が観察していたのは二人の動きではなく、その視線。
「何処の誰かな? 教えてくれるかい?」
 剣を握る男の手。握りを強くした、再び剣を抜く……その瞬間。
 ロザリンドが男の手を蹴り付ける。一瞬だけ抜剣が遅れる。
 リアーナの小さな体が跳び上がる。男の頭部を蹴り飛ばした。
 女も腰の剣を抜く。しかしリアーナとロザリンドはすぐさま強靭の巨人と間合いを取る。
「凄いな。意識が飛びそうだったよ。その辺の大人に鈍器で殴られても平気なんだけどな」
 男は倒れる事なく剣を抜く。
「競技の参加者なんだと思うんだけど、君達みたな参加いたかな? 記憶に無いなぁ」
「……」「……」
 二人はすぐに後退。農地の茂みに隠していた武器を拾う。
「次の作戦だね」
「ええ。このまま逃げるのは簡単じゃないわ」
 もちろん不意打ちが主な作戦だが、もちろんそれだけじゃない。
 再び強靭の巨人の前へと飛び出す。
「ああ、お嬢ちゃん達が……どうやって姿まで変えているかは分からないけど……さっきの攻撃、ハルバードに魔導書、それと刀……」
 男は武器を見て気付く。
「……太陽のリアーナと月のロザリンド……女神の微笑みね。これは私達も本気でやらないと危ないみたい。でも本当にその姿、どうやったの? 魔法?」
 リアーナもロザリンドも、その姿は大陸中に知られている有名人でもある。
 強靭の巨人はすでに戦闘態勢ではあるが……
「ちょっと相談があるんですけど~」
 はい、ここで俺登場!!
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