転生してもノージョブでした!!

山本桐生

文字の大きさ
上 下
258 / 276
キャノンボール編

中間発表と強靭の巨人

しおりを挟む
 競技は娯楽でもある。そこで中間発表。
 どのパーティーがどの程度の収集品を集めたか。どのパーティーがどの程度のチェックポイントを回ったか。
 ただどのパーティーがどの収集品を持っているかまでは分からない。

 上位には名前をよく聞く冒険者パーティーが名を連ねていた。
 ドンドゥルマの『六戦鬼』
 トラコスの『光剣と銀翼』
 俺達の『女神の微笑み』
 面識は無いが名前だけは聞く『強靭の巨人』
 他にも……
 ライトヒースの『重激』
 シャーリーの『シャーリーと愉快な仲間達』。とんでもないパーティー名にしてやがる。

 そして収集品の詳細も少しずつ見えてきた。
 チェックポイントの数は10ヶ所。収集品は全部で10種類。
 俺達が立ち寄った場所は5ヶ所。収集品の数は他パーティーから奪い取った物を含めて5種類。
 その5種とは『花』『花瓶』『絨毯』『椅子』『燭台』である。ちなみに立ち寄った先、限定数の関係で手に入れる事はできなかったが上限数2の『ベッド』なんて物もあった。今回の収集品は『部屋のレイアウト』に関係した物っぽいな。
 しかしベッドってどうやって持ち運んでるのだろうか。こういうデカい収集品は最後の最後、王都で他から奪い取った方が良いな。
 ちなみに絨毯も椅子もそこそこの大きさではあるが、これはニデックの馬車に積んでもらった。大陸中を回る予定の貴族だもの、馬車も大きく、複数台あるのさ。
 
 ちなみに今一番優勝に近いのは『強靭の巨人』だな。立ち寄った場所は俺達と同じ5ヶ所だが、すでに9種類を集めてやがる。
 だが今すぐにでも順位は変わるかも知れない。

「ツバキちゃん……あの二人組みたいだよ」
「名前の通りだね……デカい。どうする? 無視しとくのも作戦だけど」
「でも好機だわ。物によっては全てが集まる可能性もあるし、相手を阻止する事もできる」
「じゃあ……やっちまうか!!?」

 チェックポイントに向かう途中。すれ違ったのは一組の男女。普通の人間よりも巨大な体躯。強靭の巨人である。

★★★

 こちらはシャーリー視点。

「何ですの、これは!!」
 リコリスだ。
「何? どうかした?」
 と、シャーリー。
「これですわ!! この『シャーリーと愉快な仲間達』!!」
「ああ、それね。リコリスの考えた『深淵なる竜の深き瞳』とかクソダサだから変えた」
「クソダサ!!? カ、カッコいいですわ!! ちょっとユリアンも何か言ってやって!!」
「……俺からしたらどっちもどっちなんだけど」
 ユリアンは言い、さらにタックルベリーが続ける。
「『深淵』と『深き』とか被ってるしな」
「なっ!!? ちょっとドレミド!!」
「私はリコリスの考えたのカッコいいと思うぞ!! えっと、遠縁なる、竜の……遠い親戚?」
「違いますわ!!」
「そもそもユリアン愛が表に出過ぎててキツい」
 シャーリーは呆れたように言うのだった。
「締め上げますわ!!」
「リーダーに逆らうつもり!!?」
「ほら、リコリスもシャーリーもやめるんだ。喧嘩はダメだぞ」
 二人の間に入るドレミド。そんな三人は放って置いて。

 シャーリー達が立ち回った先は4ヶ所。所持している収集品は6種。『花』『花瓶』『絵画』『本』『ペンとインク』『燭台』
「ベリー……どう思う?」
 ユリアンの問いに少しだけ考えるタックルベリー。そして。
「どう考えてもシノブ達の順位がおかしいな。これだけ大陸中を回って、収集品の数からも交戦してるはず。なのに全く目撃情報が無い」
 そう、これは娯楽だ。注目され、人目だって多い。チェックポイント周辺で聞き込めば、必ず他パーティーの情報が収集できる。周辺に小遣い稼ぎの情報屋が集まっているからだ。
「しかもシノブのあの容姿、目立たないわけがない」
 なのに情報が全く得られない。まるで競技自体に参加していないように。
「まぁ、シノブもそれは分かってるだろうから変装してるだろうけど。だけどリアーナとロザリンドの情報も全く出てこないのは不自然過ぎる」
「俺達の想像できない方法で何か……」
 ユリアンも、タックルベリーもその方法が思い付かないのであった。

★★★

 見た目の姿は普通の人間そのものだが、その大きさが普通じゃない。体躯はビスマルクよりさらに大きい。単純な人間ではなく、巨人の血が混ざるような獣人なのかも知れない。
 しかもその背中。ベッドをまるでリュックのように背負ってやがる。

 俺は周囲を見回した。
 土で踏み固めただけの街道。街から少し離れ、農地が広がる。働く人達の姿も見える。よし、だったら俺達は農地でお手伝いする子供達の設定で不意打ちをね。
 俺は離れた位置でリアーナとロザリンドの様子を窺っていた。

「お姉さんとお兄さん。王国の競技に参加してる人達だよね?」
 リアーナは笑顔を浮かべる。
「えーなになに、お姉さん達の事を知ってるの?」
 女の方も笑顔を浮かべてしゃがみ込んだ。それでも俺達よりかなり高い。
「うん。知ってる。お母さんが言ってたの。強靭の巨人って人達が来てるって」
 と、ロザリンド。さらにリアーナが続ける。
「二人ともおっきいからそうだよね?」
「お嬢ちゃん達は怖くないのかな? お兄ちゃん達はおっきいだろ?」
 男の方だ。
「うん。大丈夫」
「私もー」
 その瞬間だった。
 男が腰の巨大な剣を抜き打つ。俺には見えないような速さ。
 だがリアーナもロザリンドも剣筋は捉えていた。それは当てる気のない、試された一振り。普通の子供では反応などできない。だから二人とも動かなかった。
 男は剣を振り抜き、すぐに鞘へと納める。
 リアーナもロザリンドもポカンッと呆気に取られた表情を浮かべた。
「えっ……何……どうかしたの?」
「分かんない……」
 男は笑った。そして言う。
「お兄ちゃん達はさ、体も大きくて子供から見たら怖いんだよな。普通は話し掛けてなんてこないんだ。だけどお嬢ちゃん達は違ったな」
「でもお兄ちゃん達は悪い人じゃないよね?」
「うん。前に大陸を救う為に戦ってた、って」
 そこで女が立ち上がった。
「随分と上手く隠してるようだけど、二人とも剣の動きを視線で追ったね? 普通の子供じゃないよ」
 強靭の巨人が観察していたのは二人の動きではなく、その視線。
「何処の誰かな? 教えてくれるかい?」
 剣を握る男の手。握りを強くした、再び剣を抜く……その瞬間。
 ロザリンドが男の手を蹴り付ける。一瞬だけ抜剣が遅れる。
 リアーナの小さな体が跳び上がる。男の頭部を蹴り飛ばした。
 女も腰の剣を抜く。しかしリアーナとロザリンドはすぐさま強靭の巨人と間合いを取る。
「凄いな。意識が飛びそうだったよ。その辺の大人に鈍器で殴られても平気なんだけどな」
 男は倒れる事なく剣を抜く。
「競技の参加者なんだと思うんだけど、君達みたな参加いたかな? 記憶に無いなぁ」
「……」「……」
 二人はすぐに後退。農地の茂みに隠していた武器を拾う。
「次の作戦だね」
「ええ。このまま逃げるのは簡単じゃないわ」
 もちろん不意打ちが主な作戦だが、もちろんそれだけじゃない。
 再び強靭の巨人の前へと飛び出す。
「ああ、お嬢ちゃん達が……どうやって姿まで変えているかは分からないけど……さっきの攻撃、ハルバードに魔導書、それと刀……」
 男は武器を見て気付く。
「……太陽のリアーナと月のロザリンド……女神の微笑みね。これは私達も本気でやらないと危ないみたい。でも本当にその姿、どうやったの? 魔法?」
 リアーナもロザリンドも、その姿は大陸中に知られている有名人でもある。
 強靭の巨人はすでに戦闘態勢ではあるが……
「ちょっと相談があるんですけど~」
 はい、ここで俺登場!!
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

魔道具作ってたら断罪回避できてたわw

かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます! って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑) フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

処理中です...