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キャノンボール編

別視点と脱落

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 子供同士で遊んでいるようにしながら、少しその辺りで待機。
 俺は探していたその姿を見付ける。
 温和そうな夫婦だった。その隣には二人の子供、10歳前後だろうか。家族は派手ではないが、しっかりとした質の良い生地を使った服。品が良く、そこそこの身分の者だとすぐ分かる。少し離れた位置に護衛らしい人の姿も見えた。
「ニデックさん」
「ツバキさん……で、良いんですよね?」
「はい、ツバキです」
 もちろん偽名。
 ニデックからは奥さんや子供達の紹介をされて挨拶。
 まずは公衆トイレ内のコノハナサクヤヒメと荷物一式の回収を目立たず不自然のないようにお願いする。その辺りは荷物を持った観光客を装って、ニデックの護衛がやってくれた。
 その後にニデック達親子と談笑しながらチェックポイントへと向かう。
「は~い、参加者の方ですね~、身分証のチェックとこちらが収集品になりますよ~」
「ああ、ありがとう」
 ニデックが受け取ったのは一輪の花。
「こちらの収集品には上限数がありませんから、ほら、君達にもあげるからねぇ~」
 俺は花を受け取る際、その手に握り隠した認識票をチラッと見せる。さらに小声で。 
「あの実は私も参加者なんですけど。ニデックさんとは別で」
 一瞬だけ受付嬢は驚いた表情を浮かべるが、すぐに笑顔へと戻る。作戦の一環として変装する事もあるだろうと。察しが良い。
「こちらのお花ですけど、王都には咲いたものをお持ちくださいね~枯れてしまうと収集品として無効になりますからね~」

 競技が始まる前。
 本来はルール違反だが、できるだけ参加者を探った。
 警戒すべき相手と、それ以外。
 俺が目を付けたのは『それ以外』の方。
 これはイベントだ。収集品の奪い合いではなく、ただチェックポイントを探して大陸中を旅行するようなライト層も存在する。
 このライト層は他の参加者に攻撃される事が少ない。収集品を集めていないからだ。
 その中で見付けたのが、家族で参加していた貴族のニデックだった。

 そう、俺達はすでに協力していた。ニデック家族と。
 強い相手ではなく、最初から勝負を降りている参加者との協力である。
 ちなみに俺が求めたのは、このままニデックと一緒に行動する事。
 ニデック側は俺の話。大陸を救った話を、面白おかしく子供達に話してあげる事。
 こうして俺はニデックが用意していた馬車へと乗り込むのだった。

★★★

 ここからは別視点。後で聞いたリアーナとロザリンドの話。

「本当にツバキちゃんは私達には思い付かないような事を考えるよ。ね、イングリッドちゃん」
「そうね。普通なら組もうとは思わない参加者だわ。そこをあえて見つけ出すのだから……アリス、向こう。やっぱり見ていたのね」
 リアーナの偽名がアリス。そしてロザリンドがイングリッド。
 二人が視線を向けた先、公衆トイレ。
 シャーリー、ユリアン、リコリス、キオの姿が見えた。
「……今、ベリー君の魔力を感じた。探索魔法で探ってるみたい」
「きっと『三人でいる』集団を探しているのね。まさか分かれているとは思わないはず。撹乱は成功ね」
 ユリアンとリコリスがトイレの中へと入っていく。
 シャーリーとキオが何かを話して、キオは首をブンブンと横に振る。そして周囲に視線を走らせた。
「……キオちゃんには悪いけど……退場してもらう」
「カトブレパスの瞳は厄介過ぎるわ」
 そうして二人の少女が歩き出す。

★★★

 さらに別視点。後で聞いたシャーリーの話。

 王都で始まった競技。
 キオは常にシノブの姿を追っていた。シャーリーやユリアンも含めて、全員がシノブを最重要人物だと認識している。できるだけ早く退場させるべき相手。
 花の都でシノブを見付け、いつでも狙撃できる態勢は整えていた。だが観光地であり人通りも多い。魔弾が他の人に当たる危険を考えて攻撃は控えていた。
 そして公衆トイレに入った所までは見ていたが……
「俺は男子の方。リコリスは女子の方を頼む」
「ええ、分かりましたわ」
 いくら待ってもシノブはもちろん、一緒に入ったリアーナとロザリンドも出てこない。
 ユリアンとリコリスがトイレへと入っていく。
「ちょっとキオ、本当に見逃してない?」
 シャーリーの言葉にキオは首をブンブンと横に振る。
「み、見逃してないです、ぜ、絶対です……も、もし変装していてもリ、リアーナさんとロ、ロザリンドさんの武器は目立ちますし、わ、分かるはずです、はい」
 確かにリアーナのハルバードもロザリンドの刀も目立つ。長物を持った女性は出てこなかった。
「そもそも入ってなかったとか」
 シャーリーは周囲を見回す。
 タックルベリーは探索魔法で、ドレミドも自らの足でシノブ達の姿を探している。
 そんなシャーリーの元に。
「ねぇ、お姉さん達、救国の小女神様のお友達だよね。私知ってるよ。シャーリーさんにキオさん」
 赤毛の長い髪の少女だった。意思の強そうな目がロザリンドに似ていた。
「ふっふっふっ、あたしも有名になったもんだ……そうだよ、お姉さんがシャーリー。そのうち二代目救国の女神の名を背負うんだから。ほら、握手してあげる。握手したら手を洗っちゃダメだよ。そして未来永劫に語り継いで」
「えっ、あっ、う、うん……」
 若干引き気味に赤毛の少女はシャーリーと握手。
 その赤毛の少女と一緒にいるのは帽子の少女。
「イングリッドちゃん良いなぁ~」
「アリスはさっきシノブさんと握手したでしょ?」
「ちょっと。えっと。イングリッドとアリス?」
「はい、イングリッドです」
「私がアリスだよ」
「アリスはシノブと握手したの? どこで? どこにいたの?」
「向こうだよ。ほら、向こうの生垣が迷路みたいになってる場所があるでしょ。隠れてるの私が見付けたんだよ。お姉さんはシノブさんを探してるの? だったら連れてってあげるね!! ほら早く!!」
「えっ、あっ、あのっ」
 帽子の少女はキオの手を取り、走り出そうと引っ張る。
「キオ、行って!! あたし達もすぐ行くから!! ユリアン、リコリス!!」
 そう言ってシャーリーはトイレへと飛び込んだ。
 同時にキオと帽子の少女も走り出す。その姿を見送り、赤毛の少女はその場を離れるのだった。

「……あのさ……これどういう事?」
 シャーリーは呆気に取られる。
「俺が聞きたいんだけど……」
 ユリアンは呆気に取られる。
「……これは……どういう事ですの?」
 リコリスは呆気に取られる。
「それ今、あたしが言ったから……」
 三人の目の前。
 気を失ったキオが倒れていた。その首に掛けられていた認識票が無い。つまりキオはこの競技から脱落だ。
 生垣で作られた簡単な迷路の中。キオを追ってみたらこの状況。
 すぐにタックルベリーとドレミドも合流する。
「……これは……どういう事だ?」
 ドレミドは呆気に取られる。
「そういうのはもういい。ドレミドは黙ってて」
「シャーリーが酷い!!」
「……話を聞いた限りだけど……その二人の子供はシノブの協力者だろ」
 タックルベリーの言葉にユリアンは頷いた。
「完全にやられた……シノブは花の都で見張られている事を前提として動いていたんだ」
「あー……ごめん。キオが重要なの分かってんだから一人にするべきじゃなかった。あたしのせいだ」
「そうですわ。シャーリーのせい」
「非処女は死ね」
「この女、反省がありませんわぁぁぁぁぁっ!!」
「お前達はうるさい。キオ、キオ、大丈夫か?」
 キオが小さく呻き声を上げる。
「……ユ、ユリアン君……」
 ゆっくりと上半身を起こすキオ。
「誰にやられたか分かるか?」
「……わ、分かりません……」
 キオは帽子の少女と生垣の迷路を進んでいた。その途中、突然だった。誰かが腕に抱き付いた次の瞬間、視界が上下反転する。そのまま地面へと叩き付けられて意識を失う。
「け、けど……多分……リアーナさんです……はい……」
 王立学校の資料で見た事がある。シノブも戦った模擬戦三回戦。リアーナがロザリンドを倒した、捨て身の投げ技。多分、同じもの。
「まだ近くにいるかも。キオ、探せる?」
「待て、シャーリー」
 止めたのはユリアン。
 説明するのはタックルベリー。
「僕達の認識票だけどな、特別な魔力を感じるんだよ。何かしらの魔法だな。監視に似たようなもんだと思うけど。つまりキオが認識票を奪われて競技から脱落した事は王国側に伝わってる。そのキオに協力させたら、パーティー全体が失格になる可能性が高いぞ」
 悔しそうにシャーリーは言う。
「まさか……シノブに成長を見せつけるつもりのキオが一番最初に脱落するなんて。まったく成長見せる機会が無かった……」
「はぐぅぅぅっ」
「お前、傷口に粗塩を捻じ込むなよ」
 タックルベリーに呆れられ、ユリアンには頭を引っ叩かれるシャーリーだった。
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