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キャノンボール編

大陸縦横断収集競争と開催宣言

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 そしてヒセラが帰宅後。
「話は聞かせてもらった!! このあたしも参加してやろうじゃん!!」
 シャーリーだ。
「何、盗み聞き?」
「あたしじゃないし。耳の良いヴォルがね」
「シャーリーが信じられないぐらいヒゲを引っ張る」
「まぁ、すぐに発表されるだろうし別に良いけど。シャーリーがいると私も助かるし」
「ふっ……今回は別行動。シノブとは別のパーティーで参加する」
「そうなの? 何でまた?」
「ほら、前回さ、私の作戦がシノブを上回ったからさ。これはもう世代交代かなと」
「こ、こいつ、調子付きやがって……」
「ミランとハリエットも戻ってきたし、どう? ハリエット、あたしと一緒に参加しない?」
 帝国との調整役をこなすミランとハリエット。ついさっき戻ったばかりの二人だった。
「それは……そのですね……」
 ハリエットはチラッとミランに視線を向けた。
「確かに発表も近いから問題はないだろう。今回、帝国は王国の開催に協力する事になっているんだ」
「はい。参加者に主催者側の関係者、それも皇族である私達は参加する事ができません。不正を疑われる事になりますから」
「ええっ……それじゃドレミドとアリエリと……」
「私は構わないぞ」
「私はね、参加しないよ。みんないないとね、お店が大変になるから。いつもいつもね、レオに任せてばっかりじゃダメだよ」
「うぐっ、お子様のクセに正論を……」
 とりあえずシャーリーは放って置いて。
「ねぇ、ミラン。競技は帝国領内も含まれるって事?」
「ああ、そうなるな」
「ちょっと話があるんだけど」
 俺はミランだけを連れ出した。

 そうして周囲に人がいない事を確認して。
「もちろん帝国側は今回の競技が王位継承に絡んでいる事を知ってるんでしょ?」
「お前は相変わらず……こっちが隠したい所を的確に突いてくるな……」
「今回はトラコスが参加するから水面下で王位継承問題が絡んできた。でもね、その問題を解決できる人がいる。それはもちろん国王本人。だけど問題が解決できていないって事は、国王が問題自体を知らないか、知っていて介入をしていないか。そこまで国王が何も知らないボンクラだとは思わない。私はね、後者だと思ってる」
「……」
「そんな時に帝国の協力でしょ? ここからは私の想像だけど……王国と帝国の間に何か密約があるんじゃない?」
「……もし密約があるなら、それは国家間の関係を左右するもの。俺が言うと思うか?」
「思わない」
「逆に、それを詮索するシノブの口を封じる……なんて考えないか?」
「あははっ、まさか。私はミランを信じてるから。友達としても、仲間としても」
「お前……今、分かっててズルい言い方をしただろ……」
「さぁ? 何の事やら」
 そこでミランは大きなため息。
「……ハリエットの婚約が進められている。王国の中枢に近い相手だ。その婚約者候補が競技に参加するんだよ」
「それ、ハリエット本人は知ってんの?」
「もちろん。政略結婚だからな」
「……本人の気持ちは?」
「……良いものじゃない。なにより相手に悪い話しか聞かない」
「じゃあ、何で……確かに帝国の立場としては有意義かもだけど、アウグスさんはそんな事する人じゃないでしょ」
 確かにアウグスは帝国に利があるなら厳しい判断もするだろう。だけど自らの力で防げるなら、娘を不幸にする事なんて絶対にしない人間だと思う。
「もちろん最初は断るつもりだった。だが相手の申し出を受けたのはハリエット本人。皇族である自分の立場を考えたんだろう」
「でも……だからって……」
「そこで皇帝アウグスは一つの条件を付けた。帝国は実力で成り立つ国、身分だけではなく武力でも知略でもそれ相応の者でないと嫁には出さない……だから今回の競技で優勝をする事、ってな。だから正直に言うが……シノブが参加してくれて助かる」
「優勝を約束なんてできないよ?」
 そこでミランは小さく笑った。
「シノブを負かすような奴だったら俺も認めてやるよ」
 帝国側からも腕利きを参加させてるんだろうけどな……誰にも負けねぇよ、多分。

★★★

 王城。
 技術の象徴、細かな意匠を凝らした美しい外観。力の象徴、見る者を圧倒する重厚な造り。その広く、整えられた庭園に集められた俺達。

『大陸縦横断収集競争』
 その参加者が集められていた。

「シャーリー」
「あれ、シノブ達は三人だけ? フレアとかホーリーは?」
「もちろん一緒にくるって言ってたけど、あくまで私の冒険者としての活動だから、巻き込むのもね。それに二人がいたら甘え過ぎる、私が」
「でも拙者はいますぞ」
「あ、あの、シ、シノブさん、わ、私……で、できればシノブさんのパーティーに……」
「ダメダメ、キオだって貴重な戦力なんだから。シノブに成長した姿を見せる良い機会だと思わない?」
「ううっ……シャーリーちゃん……で、でも……」
「あははっ、キオ、どれだけ成長したかきちんと見せてよね」
「は、はい!!」
「ユリアン君、リコリスちゃん」
「なんとなくシノブなら参加しそうな気がしてたけど、まさか対戦相手にはなるとは思わなかった。でもせっかくの機会だから本気でいくからな」
「今のわたくし達がシノブにどれだけ近付けたか確認してやりますわ。もちろんリアーナにもロザリンドにも負ける気はありませんからね」
「うん、私も。油断しないよ」
「ベリーも参加するのね。あまりこういう催しに興味は無いと思っていたけれど」
「年齢制限。僕とドレミドは保護者枠」
「シャーリー達の年齢だと保護者がいないと参加できないらしいんだ。だから私とベリーは保護者枠だ」
「それ今、僕が言ったよな?」
「言った」
「……とにかく興味はない。だから争奪戦になっても僕を狙ってくるなよ」
「ふふっ、本当に何もしないのならね」
 俺達は三人と服の下にコノハナサクヤヒメ。
 シャーリー達は六人パーティーでの参加だった。シャーリー、キオ、ユリアン、リコリス、タックルベリー、ドレミド。
 ここからは敵同士。シャーリー達は離れていく。

「久しぶりだ。随分と名前を売っているようだな」
 そう声を掛けてきた男は……
「あっ……ドンドコドンさん!!」
 男の周りの五人が吹き出す。
「わざとか? 確かに語呂は似ているかも知れないが。本当に忘れたか?」
「まさか。ドンドゥルマさん、お久しぶりです。六戦鬼のみなさんも参加するんですね」
「ああ。得られる栄誉は冒険者として活動するのに役立つからな。それでどうだ、あの時と同じくまた同盟を組むか?」
「そうですねぇ……保留で。状況を見て、競技中にまた」
「そうか」
 離れていく後ろ姿を見送るリアーナとロザリンド。
「ねぇ、シノブちゃん、今のが六戦鬼?」
「うん、二人は見るの初めてだっけ」
「そうね……ただ相当に強いのは分かるわ」
「分かるの?」
「うん。他にもいっぱいいるよ。それに……」
「ライトヒース……アイツも参加してんの……」
 少し離れた位置、俺の視線に気付いたライトヒースは笑みを浮かべた。

 そんな中で……
「シノブ……久しぶり」
「トラコスさん……お久しぶりです」
 光剣と銀翼、トラコス・アンア・コストラ。
「少し話をしたい。どこかで二人になれれば良いんだけど」
「こちらとしては良い事なんて何一つありませんので。お話をする気は全く、これっぽっちも、毛の先ほども無いです。無いです、無いです」
「頼む、機会が欲しい。シノブ、君に謝りたいんだ。そして生まれ変わった僕の姿を見て欲しい」
「生まれ変われるほど時間経ってないでしょ」
「……君は王妃という立場に興味がないの? リアーナ、ロザリンド、君達も」
「興味無し」「私も無いかな」「無いわね」
「頼む、僕の話を」
「そろそろ始まりますので失礼します」
 マジ何なん、あの野郎。

 そして国王代理から挨拶、そして競技の開催が宣言されるのである。
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