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恐怖の大王編

封印と土地

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「うっそ……マジで……もしかして……もしかしなくてもシノブじゃない?」
「いやいや、嘘じゃないんだな、これが。私が超絶美少女、救国の小女神様であるシノブ様よぉ~」
「自分で美少女とか……また否定ができない所がムカつく。でもまだロリじゃん。成長して凄いブサになれ」
「これで成長後なんだけど!!」
 頭上の夜空にはいくつもの星が流れる。大小いくつもの惑星が浮かび、その中には地球も見えた。世界の狭間で俺はすあまと対峙する。
「……どうしてここが……」
「そうね。アソブーという男はあなた達が考えるより優秀だったのよ」
「……本当に全てを管理していたのか」
「ええ。魔法陣の管理権を与えていたのでしょう? 何処が何処へと繋がっているのか、無数にある魔法陣の出入先全てを把握していたわ。その中で意味の無い場所をいくつも中継するような経路を見付けていた。それはあなた達の逃走経路だわ」
 ベルベッティアはおはぎと対峙する。
「ママぁ……ママぁ……」
 虚ろな瞳で繰り返すアンゴルモアを囲むのはリアーナ達。
「もう絶対に逃げられないよ。これだけの仲間もいるし、私もあなたと同じ、隠した力を持っているから」
 ロザリンドはもちろん、タックルベリーやビスマルクもいる。逃げるのは不可能だろ。
 そこですあまはため息、そしておはぎと顔を見合わせる。
「ねぇ、おはぎ、どう? なんか良い案ある?」
「命乞いぐらいか」
「命乞いかぁ~」
「すあまが後先考えないで行動するからだろ」
「って、事なんだけど、命乞いって大丈夫?」
 命などまるで掛かっていないような言い方で俺は思わず笑ってしまう。
「大丈夫かな。これで死人が出ていたら許さないけど、奇跡的にいなかったし。でもあなた達を普通の手段で拘束しても不安だから。これ」
 俺の手には木彫りの馬の置物。

 遥か昔。
 ララは置物にすあまを封印し、置物は王国が管理していた。
 しかしそれはいつしか流出し、流れ流れて俺の手元に巡ってきた。そう……スケベ宿屋を開店しようとした、あの夢魔の置物がそれだったのだ。あれは封印されていたサキュバスすあまの漏れ出した力だったのだろう。
 その後、置物はお母さんに没収され、破壊された。ある意味で俺がすあまの封印を解いたようなもんだ……

「また封印するって事ね。でも封印が解けたら仕返しに行くかも」
「面倒くさいから私が死んだ後にして……それとアンゴルモアだけど……」
「私が封印されたら勝手に消えるよ」
「……仲間じゃないの?」
「仲間とはちょっと違うんだよね。ただ利用したっていうか」
 説明を続けるのはおはぎ。
「アンゴルモアは悲しい男だったな。元々は実に誠実な」
「ああ、そういう背景の話は興味も無いしどうでもいいんで。要点だけよろしく」
「……」
 造られた鉄人形、それが今のアンゴルモアだった。しかし他の鉄人形と違うのは、元々のアンゴルモアの人格を模して造られた事。そして同じ能力も与えられた事。自分の分体を造る為の研究の一環だったらしい。
 その中の失敗作の一つが今のアンゴルモア。精神は不安定で、母親を求める子供のような鉄人形。それもすあまの支配があってこそ。
 すあまが封印され、支配が解ければ喋る事も動く事も無いだろう。ただの人形だ。

 おはぎは元のアンゴルモアと面識があり、アンゴルモアの死後にすあまと行動を共にした。

「これで全部、さっさと封印すればぁ。まぁ、寝てるみたいなもんだったから時間の流れとか感じないし。ほら好きにしろぉぉぉいっ!!」
「もし私の子孫にあったらイジメたりしないでよ」
「してやるに決まってるでしょうが!!」
「あははっ」
 マジですあまは面白いヤツだな。絶対に関わりたくねぇタイプだけど。
「おはぎ。あなたも一緒で良いのかしら?」
「俺はすあまを気に入っているからな。ベルベッティアだって気に掛ける相手には最後まで付き合うだろう?」
「ふふっ、そうね。私でもそうするわ」
 それはララから伝えられた魔法陣。サキュバス封印の為の魔法。すあまとおはぎの姿が光の粒子となり、魔法陣の中心に置かれた馬の置物に吸い込まれていく。
 二人が封印されるとアンゴルモアは人の姿を保てなかった。黒い粘液となり広がり、やがて消えてしまう。
「……なんか色々と大変だったけど、今回は私の出番とかほぼ無しだったね」
 なんせ能力も解放してないしな。

★★★

「シノブ!!」
「おいっ、大丈夫かよ!!?」
「あら、完全待機組のアバンセさんとパルさんじゃん」
「……」「……」
 こうして無事に大陸に戻ったわけである。

 すでに二つの世界は閉じられていた。
 クーネルが存命の間に繋がる事はもう無いだろう。

 ちなみにであるがクーネル側から大陸への賠償として二つの秘宝が送られた。作り手は分からないが、遠い過去から存在する二つの秘石。

 陽光石。
 昼間のうちに日の光を溜め込む事のできる石。夜間に利用すれば地平線まで光を灯す。
 こちらは王国側へ。

 月光石。
 夜間のうちに暗闇を溜め込む事のできる石。昼間に利用すれば地平線まで闇に包まれる。
 こちらは帝国側へ。

 その他、金銭の支払いがあったみたいだが、そこまで詳しい数字を俺達は聞いていない。もちろん他の国々に配るには足りないだろうけど、そこは王国と帝国で色々と話を着けるだろ。陽光石も月光石も代え難い唯一無二のもんだろうしな。

★★★

 そして今、俺の目の前には草原が広がっていた。
 エルフの町、大森林を出てすぐだ。
「ねぇ、シノブちゃんの見せたいものって……ここ?」
「……何か特別なものがあるようには見えないわね」
 リアーナとロザリンド、二人ともエルフの町の冒険者ギルドを拠点としている。
「いつもと何も変わらない景色だ。何かあるとは思えない」
「遠足にしては弁当とか持ってきてないんだけど。まさかただ散歩に付き合わせただけ?」
「シャーリー、食べ物はあるぞ。ほら、足元、この野草は食べられるんだ」
「そんなの食べるの昆虫とドレミドだけなんだけど。いらん」
「酷い!!」
 周囲を見回すヴォルフラム。シャーリーは、ドレミドが毟った草を叩き落とす。
「うん。何かあるのかな? ベルベッティアは分かる?」
「さぁ。私は何も聞いていないし、分からないわね」
 アリエリ、そしてその腕の中に抱かれるベルベッティア。
「ミツバ様は何かお聞きしているようですね」
「ああ……まぁ……何かを造り上げるのは俺達ドワーフの得意分野だからよ。でもまさかこんなに早く姐さんが行動するとは……驚くが、さすがだとも思うぜ」
 ホーリーの言葉を受けて、ミツバは笑ってしまう。
 そんな様子をニコニコとしながら眺めているフレア。
 ふへっ、これを聞いたらみんな驚くだろうな。
「あのさ、ここから見える所全部。買っちゃった」
 ……
 …………
 ………………
「「「えっっっっっ!!?」」」
 みんな声が重なる。
「ほら、この辺りは王国の領地でしょ。でさ、ニーナさんに相談したわけよ。『土地が欲しい』って。そしたら『何度も大陸を救った小女神の頼みなら喜んで』って事で譲ってくれた、格安で」
 格安って言っても商会で稼いだ貯金はかなり吹き飛んだけどな。
「見える所全部って……何をするつもりなの?」
 リアーナの質問に答えたのはヴォルフラムだった。
「孤児院か?」
「昔の事なのに覚えてたんだ?」
「もちろん。シノブ自身が捨て子だったから、将来的に孤児院を造りたい」
「さらに学校も併設してやろうと思ってさ。それで優秀な人材を育てて、将来的に私達の商会を手伝わせるんだよ……ふふっ、見える……初期費用は掛かるが、儲かる我が商会の未来がな……」
「そう、これこそ守銭奴シノブ」
 ヴォルフラムの言葉に俺は笑った。
「その始まりを……私達に見せたかったのね……」
 そう言ってロザリンドは未来に思いを馳せる。

 さてさてこれから先はどうなるかね。
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