転生してもノージョブでした!!

山本桐生

文字の大きさ
上 下
240 / 276
恐怖の大王編

大きな魔法陣と小さな魔法陣

しおりを挟む
 未開の土地に設置された大きな転移魔法陣は一つではない。複数個所に設置されていた。
 そのうちの一つを見て、シノブの姉、王立騎士団ユノは眉を顰めた。不安が急速に広がっていく。もちろん事前にキオから報告を受けていたが……今、直接に目視して分かった。
『これは大きな魔法陣じゃない……いっぱいの小さな魔法陣……』
 拳大の小さな魔法陣がいくつも設置され、それらが光で繋がり立体的な魔法陣を形成している。そこから鉄人形が現れていた。
 地面や転がる大岩、人工的に作られた小さな社、木々の幹などに刻まれた無数の小さな魔法陣。
『でも……どうしてこんな所に……だって自然の地形は変わるのに……』
 遠い昔に作成され、それが今になって発動した転移魔法陣。そう認識していたのに。
 例えば木々は成長する。長い時間の間では倒木だってあるだろう。正確な魔法陣が描けるはずがない。つまり今この時、大陸に転移魔法陣を設置できる者がいるという事だ。
 そうなると作戦は根本から変わってくる。
 この場所こそが陽動であり罠、本命がどこかにあるのだ。
 今すべき事は撤退……だがしかし……それこそが敵の狙い。撤退をさせて未開の土地でさらに鉄人形を増やすなんて可能性も考えられる。
 ユノは心の中で呟く。
『シノブなら……どうしたかな……』
 行くべきか、退くべきか……王国騎士団全体としての判断は撤退である。もちろん目の前の魔法陣は破壊するが。
 先頭を行くユノは指示を出す。
 魔法陣の破壊、そして撤退。
「それと先行している者がいる場合は支援をお願いします」
 それはもちろんビスマルク達の事である。その行動の情報は伝えられていたからだ。

 その同時刻、ビスマルク達も魔法陣に達していた。
 崖下、木々の隙間に大量の鉄人形。さらに淡く光を放つ大きな魔法陣を見付けた。しかしよく確認すれば、それは小さないくつもの魔法陣で形成されている事に気付く。
「ご、ごめんなさい……は、はっきりと細かく確認しませんでした……あの、あの、わ、私の落ち度です……ごめんなさい……」
 キオはその光景を見て青ざめた。やはりユノと同じ結論に辿り着いたからだ。もっと細部まで観察していれば分かった事だった。それを逃したのだ。
「気にするな。お前がいなかったら魔法陣を見付ける事も難しかったのだからな。ここだって放置する事はできない」
「……はい……」
 ビスマルクはキオの頭に巨大な手を優しく置いた。
「ではこのまま魔法陣を破壊するのですね?」
 と、ホーリー
「ベリーちゃん達を待ってからにする~? そうじゃないと囲まれちゃって逃げ場無しよ~」
 と、ヴイーヴル。
「キオ、ベリーは近いか?」
「あ、はい、も、もうすぐそこまで来ています、はい」
「なら問題は無い。私とヴイーヴルが鉄人形の気を引く。その間にキオとホーリーは一つでも良いから魔法陣を破壊してくれ」
 すぐそこまでタックルベリーが来ているのなら、囲まれたとしても充分に逃げ出せるだろうというビスマルクの判断だった。
 しかし……誤算が一つ……

★★★

 探索魔法を飛ばしつつ、さらに攻撃魔法を放つ。
 雨に濡れた前髪さえ気にする余裕がない。
「この先に崖がある、先行したビスマルクさんが魔法陣を破壊しているだろうから、僕達は退路の確保に入るぞ!!」
 退路の確保、その寸前だった。
 王国騎士団本体からの連絡が入る。それはあの連絡役の男だった。
「撤退だ!! 今すぐこの場から撤退するぞ!! 王国騎士団からの命令だ!!」
 そう大声を張り上げながらタックルベリーに並ぶ。
「魔法陣の破壊は終わっていると思いますので、あとはその退路の確保だけです。僕が指示を出すので」
 タックルベリーの言葉を遮るように連絡役は言う。
「タックルベリー様、すぐ撤退してください。これは王国騎士団からの命令なのです」
「言っている意味が分からないんですけど。先行している仲間を見捨てろと?」
「このまま崖下まで攻め込めば、王国兵が戻る事も難しくなります」
 精鋭である王国騎士団ならば問題はない。しかしここにはそれよりも劣る王国の一般兵が多い。鉄人形にもかなりの苦戦をしていた。
「それはこの僕が率先して戦えば問題はないはずです」
「可能性の問題です。ここで王国兵に大きな被害を受けるわけにはいきません。撤退です」
「見捨てようとしているのは救国の小女神シノブの仲間です。その姉である王国騎士団ユノさんの意見はどうなんですか?」
「先行をしている者を支援しての撤退です」
「だったら」
「それはユノ個人の指示。私が伝えるのは王国騎士団としての命令です。どちらを優先するべきかは当然分かっていただけるかと」
 すでに王国兵は撤退を始めていた。騎士団からの命令、想定以上の鉄人形の強さ、タックルベリーに従う者はいない。
「お前、ふざけるなよ」
「……だから最初からこちらに従えば良いものを」
 それは先程のキオの処遇の事を言っているのか……

 誤算だったのは、この連絡役の男。
 ビスマルク達は見捨てられたのだ。

★★★

 魔法陣の破壊は実に簡単だった。小さい魔法陣を一つ破壊するだけで、形成されていた大きな魔法陣は機能を失う。
 後は逃げ出すだけ。この場の数千規模の鉄人形の相手なんてできるわけがない。
 キオが自分の失敗を取り戻すかのようにカトブレパスの瞳を輝かせる。同じような動きの鉄人形だが、その中で微妙に違う動きをするものがいる。これを強い個体と推察し、避けていたのだ。
 空から逃げ出そうと試みるヴイーヴルだが、ビスマルクの言う通り狙い撃ちにされた。強いと思われる個体の腕が伸縮して狙う。避ける事はできるが、避け続ける事は難しい。
 鉄人形の間、障害物の間を駆け抜ける。目的地を設定して向かう事もできない。ただ隙間を見付けて縫うように逃げ回るだけ。休む事すらできないのだ。
 その中でキオは見る。
「えっ、えっ、な、何で……お、王国の人達が、は、離れていきます!!」
「見捨てられたという事でしょうか?」
 何重もの防御魔法を掛けるホーリー。その効果を継続しつつ、逃げ回るのは並みの負担ではない。
「あらあら、ベリーちゃんはどうなっているのかしら~」
 ヴイーヴルは鉄人形の攻撃を受け流した。力を温存する為に。力技はもちろん、その技術も一級品。
「あの、あの、ベリーさんは……きゃっ!!」
 タックルベリーを探して、キオの注意が逸れる。向かってきた鉄人形を殴り飛ばしたのはビスマルクだった。
「キオ。目の前の事だけに集中しろ。タックルベリーならば問題はない」
「は、はい!!」
 しかし動けば動く程に鉄人形が集まる。その包囲網が段々と狭くなる。このままでは身動きが取れず、いずれ囲まれるだろう。つまり全滅は目の前という事だった。
 それでも四人は信じている。タックルベリーという男を。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

魔道具作ってたら断罪回避できてたわw

かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます! って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑) フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。

出戻り勇者は自重しない ~異世界に行ったら帰って来てからが本番だよね~

TB
ファンタジー
中2の夏休み、異世界召喚に巻き込まれた俺は14年の歳月を費やして魔王を倒した。討伐報酬で元の世界に戻った俺は、異世界召喚をされた瞬間に戻れた。28歳の意識と異世界能力で、失われた青春を取り戻すぜ! 東京五輪応援します! 色々な国やスポーツ、競技会など登場しますが、どんなに似てる感じがしても、あくまでも架空の設定でご都合主義の塊です!だってファンタジーですから!!

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

処理中です...