235 / 275
恐怖の大王編
決行と暗殺
しおりを挟む
「雑過ぎるんだが」
計画がよぉ。
王に会わせる。隠し持った短剣で対象を刺殺。クーネルは俺をその場で拘束するが、そのまま元の世界へと戻してくれる。
みんなは待機……という名の人質だろうな。
俺だけ別室に案内され、身なりを整えていた。しかも決行はこの後すぐ。
やっべぇ……どうすりゃ全員が無事に戻れんだ……全く思い付かないんだが……
王。その名はアンゴルモア。
封印され、忘れ去られていた大王である。その彼が数百年ぶりに復活した。
時期的には俺達の世界で遺跡の魔法陣が発動したのと同時期。どう考えても無関係じゃないだろうな。
そしてアンゴルモアはごく短期間のうちにこの世界を支配してしまった。さらに次のターゲットが俺達の世界という事なんだが……
俺は目の前のクーネルへと視線を向ける。
「……何か質問でもあるのか?」
「質問だらけなんですけど」
「必要な質問には答えたつもりだが」
「私だけが相手に近付ける理由……それは見た目のおかげとは聞きました。けどどうしてこの見た目なのか、その辺りの詳しい話は聞いていません」
「必要なのはお前だけが我らの王に近付ける。その事実だけだ」
「その理由が分かれば別の選択肢が生まれるかも知れませんよ?」
「王は殺す。それ以外の選択肢は無い」
「『殺す』以外の選択肢じゃありません。『殺す方法』の選択肢です」
とか言いつつも、探っているのは『殺す以外の選択肢』なんだけどね。
「……」
俺は言葉を続ける。
「……そもそも、アンゴルモアが過去の同一人物かすら怪しいです。もし別人なら私の見た目なんて関係無いじゃないですか。昔話自体がただの創作かも知れませんし」
「アンゴルモアという名の王は過去に実在していたが、それが今の王と同一なのかは確かに分からない。魔法に関しても昔から存在するものというだけで創り出された経緯などは分かっていない。だが王は未知なる魔法を知り、別世界の存在を知り、その移動手段である魔法陣の事も知っていた。そんな存在が突然に現れ、自らを封印された『アンゴルモアの大王』と名乗ったのだ」
「昔話は真実だと?」
「ああ、そうだ。蘇った王。そしてそこに女神アリアの容姿に似たお前。これがただの偶然か?」
「……過去の話が事実なら、別世界まで支配しようとしたのはアンゴルモア。その野望を阻止し、封印したのはアリア様から力を得た彼女です。何らかの関係性がありそうな私をむしろ警戒するのでは?」
「王はかならずお前に興味を持つだろう。何故なら伝え聞く昔話で二人は恋人同士だったのだからな」
「だからって簡単に近付けるなんて……」
「それを利用しなければならない程に守備は硬い。この機会を逃す事はできない。絶対に」
計画の先延ばしは絶対に無ぇな。
「それともう一つ確認です。調査隊について何か情報がありますか?」
クーネルにはリアーナ達が来たら教えるようにお願いしてあったんだが。
「調査隊を発見したとの報告は無い」
「……そうですか」
信じる事も否定する事もできん。せめて無事なら良いんだけどな。
★★★
また目隠し。
魔法陣を使って別の場所に転送された可能性もある。他のみんながどこにいるのか全く分からん。能力を解放して、みんなで逃走する事もできない。そもそもこの場所では魔法に類する特別な力は使えないように細工がされているらしい。だからこその短剣。
そして今、アンゴルモアの大王は目の前にいた。
磨かれた石床の上、深紅の絨毯が伸びるその先。数段高い階段の上、玉座の男。
想像よりも若く見えるその姿は三十代前半くらいか。クセのある黒に近いような濃い茶色の髪、そして明るい栗色の瞳が俺を見下ろしていた。表情には何の感情も浮かんでいない。
俺より一歩前にクーネルが進み出る。
「アンゴルモア様。彼女が報告を致しました異世界からの少女です」
少しの間。
「クーネル」
「はい」
クーネルがアンゴルモアの元へ。
「腰の物を貸せ」
アンゴルモアがクーネルの腰に帯剣されていた剣を抜く。そして……スッ……と、剣先を振り上げる。
えっ、えっ、な、何だ?
クーネルの後ろ姿で何が起こっているのかよく分からん!!
小さく呻いて顔を押さえるクーネル。その腕を伝い鮮血が滴り落ちた。
ま、まさか剣で顔を斬ったのか!!?
アンゴルモアは静かに言う。
「なぜ連れて来た?」
「……ユエ様に関する情報があれば報告するようにとの事でしたので」
「ああ、その通りだ。だが連れて来いと命令はしていない」
「申し訳ございません」
「お前は命令に背いた……が、私は寛大だ。片目で済んだ事を幸運と思うのだな。下がれ」
アンゴルモアは剣を放り投げた。
片目、って……やっべぇ、このアンゴルモアってのは確かにこの場面だけみたら暗殺しといた方が良さそうじゃねぇか……いやいや、俺にそれができんの?
確かにアンゴルモアの近くには誰もいない。しかし近付くまでの左右に衛兵が並んでいる。
「名は?」
アンゴルモアの冷めたような視線が俺に向けられていた。
「シノブです」
「私の名は知っているな?」
「はい。アンゴルモア様と」
「……話に聞いていた通りの姿だが……女神アリアというには少し背丈が足りないようだ」
「たまたま瞳の色と髪色が同じだけですので」
「『だから自分は女神アリアとは関係ない』という事か?」
「私の世界で女神アリア様の存在が確認された事はありません。おとぎ話の類だと思っていしたが、こちらでは違うのですか?」
「寄れ」
「……はい」
足を一歩踏み出す。
本当に、今、俺がやるしかないのか?
心臓が高鳴る。
人殺しを?
そしてもう一歩。
それで本当にみんなが助かるのか? クーネルを信用するような形で大丈夫なのか?
視線だけで左右を確認する。並び立つ衛兵達はその手に長槍を携えていた。変な動きを見せたら一瞬で刺殺されるんじゃないだろうか。
くそっ、怖い、どうする? 何か、何か……
近付いて気付く。玉座の後ろにも衛兵が控えていた。
そしてそのさらに後ろ、その姿が見えた。
リアーナ!!? ロザリンド!!?
二人の緊張した表情が見て取れる。
ふざけんなっ……こ、こりゃ、どっちだ!!?
リアーナ達がどんな状況なのかは全く分からない。ただどんな状況なのか、可能性の高いものがある。
それは俺達と同じような状況になっている可能性。
一緒に来ているであろうシャーリー達の姿が見えないのは人質になっているから。
だがリアーナ達の目的が俺と同じなら良い。暗殺を成功させてしまえば良いだけなのだから。
でも問題はその逆。
『リアーナ達の目的が暗殺を阻止』だった場合。暗殺に成功しようと、失敗しようと、どちらかの人質が危険に晒される。
クソッ、どっちなんだよ!!?
そしてその中で一つ分かる事。それはクーネルに騙されたという事である。
計画がよぉ。
王に会わせる。隠し持った短剣で対象を刺殺。クーネルは俺をその場で拘束するが、そのまま元の世界へと戻してくれる。
みんなは待機……という名の人質だろうな。
俺だけ別室に案内され、身なりを整えていた。しかも決行はこの後すぐ。
やっべぇ……どうすりゃ全員が無事に戻れんだ……全く思い付かないんだが……
王。その名はアンゴルモア。
封印され、忘れ去られていた大王である。その彼が数百年ぶりに復活した。
時期的には俺達の世界で遺跡の魔法陣が発動したのと同時期。どう考えても無関係じゃないだろうな。
そしてアンゴルモアはごく短期間のうちにこの世界を支配してしまった。さらに次のターゲットが俺達の世界という事なんだが……
俺は目の前のクーネルへと視線を向ける。
「……何か質問でもあるのか?」
「質問だらけなんですけど」
「必要な質問には答えたつもりだが」
「私だけが相手に近付ける理由……それは見た目のおかげとは聞きました。けどどうしてこの見た目なのか、その辺りの詳しい話は聞いていません」
「必要なのはお前だけが我らの王に近付ける。その事実だけだ」
「その理由が分かれば別の選択肢が生まれるかも知れませんよ?」
「王は殺す。それ以外の選択肢は無い」
「『殺す』以外の選択肢じゃありません。『殺す方法』の選択肢です」
とか言いつつも、探っているのは『殺す以外の選択肢』なんだけどね。
「……」
俺は言葉を続ける。
「……そもそも、アンゴルモアが過去の同一人物かすら怪しいです。もし別人なら私の見た目なんて関係無いじゃないですか。昔話自体がただの創作かも知れませんし」
「アンゴルモアという名の王は過去に実在していたが、それが今の王と同一なのかは確かに分からない。魔法に関しても昔から存在するものというだけで創り出された経緯などは分かっていない。だが王は未知なる魔法を知り、別世界の存在を知り、その移動手段である魔法陣の事も知っていた。そんな存在が突然に現れ、自らを封印された『アンゴルモアの大王』と名乗ったのだ」
「昔話は真実だと?」
「ああ、そうだ。蘇った王。そしてそこに女神アリアの容姿に似たお前。これがただの偶然か?」
「……過去の話が事実なら、別世界まで支配しようとしたのはアンゴルモア。その野望を阻止し、封印したのはアリア様から力を得た彼女です。何らかの関係性がありそうな私をむしろ警戒するのでは?」
「王はかならずお前に興味を持つだろう。何故なら伝え聞く昔話で二人は恋人同士だったのだからな」
「だからって簡単に近付けるなんて……」
「それを利用しなければならない程に守備は硬い。この機会を逃す事はできない。絶対に」
計画の先延ばしは絶対に無ぇな。
「それともう一つ確認です。調査隊について何か情報がありますか?」
クーネルにはリアーナ達が来たら教えるようにお願いしてあったんだが。
「調査隊を発見したとの報告は無い」
「……そうですか」
信じる事も否定する事もできん。せめて無事なら良いんだけどな。
★★★
また目隠し。
魔法陣を使って別の場所に転送された可能性もある。他のみんながどこにいるのか全く分からん。能力を解放して、みんなで逃走する事もできない。そもそもこの場所では魔法に類する特別な力は使えないように細工がされているらしい。だからこその短剣。
そして今、アンゴルモアの大王は目の前にいた。
磨かれた石床の上、深紅の絨毯が伸びるその先。数段高い階段の上、玉座の男。
想像よりも若く見えるその姿は三十代前半くらいか。クセのある黒に近いような濃い茶色の髪、そして明るい栗色の瞳が俺を見下ろしていた。表情には何の感情も浮かんでいない。
俺より一歩前にクーネルが進み出る。
「アンゴルモア様。彼女が報告を致しました異世界からの少女です」
少しの間。
「クーネル」
「はい」
クーネルがアンゴルモアの元へ。
「腰の物を貸せ」
アンゴルモアがクーネルの腰に帯剣されていた剣を抜く。そして……スッ……と、剣先を振り上げる。
えっ、えっ、な、何だ?
クーネルの後ろ姿で何が起こっているのかよく分からん!!
小さく呻いて顔を押さえるクーネル。その腕を伝い鮮血が滴り落ちた。
ま、まさか剣で顔を斬ったのか!!?
アンゴルモアは静かに言う。
「なぜ連れて来た?」
「……ユエ様に関する情報があれば報告するようにとの事でしたので」
「ああ、その通りだ。だが連れて来いと命令はしていない」
「申し訳ございません」
「お前は命令に背いた……が、私は寛大だ。片目で済んだ事を幸運と思うのだな。下がれ」
アンゴルモアは剣を放り投げた。
片目、って……やっべぇ、このアンゴルモアってのは確かにこの場面だけみたら暗殺しといた方が良さそうじゃねぇか……いやいや、俺にそれができんの?
確かにアンゴルモアの近くには誰もいない。しかし近付くまでの左右に衛兵が並んでいる。
「名は?」
アンゴルモアの冷めたような視線が俺に向けられていた。
「シノブです」
「私の名は知っているな?」
「はい。アンゴルモア様と」
「……話に聞いていた通りの姿だが……女神アリアというには少し背丈が足りないようだ」
「たまたま瞳の色と髪色が同じだけですので」
「『だから自分は女神アリアとは関係ない』という事か?」
「私の世界で女神アリア様の存在が確認された事はありません。おとぎ話の類だと思っていしたが、こちらでは違うのですか?」
「寄れ」
「……はい」
足を一歩踏み出す。
本当に、今、俺がやるしかないのか?
心臓が高鳴る。
人殺しを?
そしてもう一歩。
それで本当にみんなが助かるのか? クーネルを信用するような形で大丈夫なのか?
視線だけで左右を確認する。並び立つ衛兵達はその手に長槍を携えていた。変な動きを見せたら一瞬で刺殺されるんじゃないだろうか。
くそっ、怖い、どうする? 何か、何か……
近付いて気付く。玉座の後ろにも衛兵が控えていた。
そしてそのさらに後ろ、その姿が見えた。
リアーナ!!? ロザリンド!!?
二人の緊張した表情が見て取れる。
ふざけんなっ……こ、こりゃ、どっちだ!!?
リアーナ達がどんな状況なのかは全く分からない。ただどんな状況なのか、可能性の高いものがある。
それは俺達と同じような状況になっている可能性。
一緒に来ているであろうシャーリー達の姿が見えないのは人質になっているから。
だがリアーナ達の目的が俺と同じなら良い。暗殺を成功させてしまえば良いだけなのだから。
でも問題はその逆。
『リアーナ達の目的が暗殺を阻止』だった場合。暗殺に成功しようと、失敗しようと、どちらかの人質が危険に晒される。
クソッ、どっちなんだよ!!?
そしてその中で一つ分かる事。それはクーネルに騙されたという事である。
0
お気に入りに追加
201
あなたにおすすめの小説
女神様の使い、5歳からやってます
めのめむし
ファンタジー
小桜美羽は5歳の幼女。辛い境遇の中でも、最愛の母親と妹と共に明るく生きていたが、ある日母を事故で失い、父親に放置されてしまう。絶望の淵で餓死寸前だった美羽は、異世界の女神レスフィーナに救われる。
「あなたには私の世界で生きる力を身につけやすくするから、それを使って楽しく生きなさい。それで……私のお友達になってちょうだい」
女神から神気の力を授かった美羽は、女神と同じ色の桜色の髪と瞳を手に入れ、魔法生物のきんちゃんと共に新たな世界での冒険に旅立つ。しかし、転移先で男性が襲われているのを目の当たりにし、街がゴブリンの集団に襲われていることに気づく。「大人の男……怖い」と呟きながらも、ゴブリンと戦うか、逃げるか——。いきなり厳しい世界に送られた美羽の運命はいかに?
優しさと試練が待ち受ける、幼い少女の異世界ファンタジー、開幕!
基本、ほのぼの系ですので進行は遅いですが、着実に進んでいきます。
戦闘描写ばかり望む方はご注意ください。

形成級メイクで異世界転生してしまった〜まじか最高!〜
ななこ
ファンタジー
ぱっちり二重、艶やかな唇、薄く色付いた頬、乳白色の肌、細身すぎないプロポーション。
全部努力の賜物だけどほんとの姿じゃない。
神様は勘違いしていたらしい。
形成級ナチュラルメイクのこの顔面が、素の顔だと!!
……ラッキーサイコー!!!
すっぴんが地味系女子だった主人公OL(二十代後半)が、全身形成級の姿が素の姿となった美少女冒険者(16歳)になり異世界を謳歌する話。

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

一般人に生まれ変わったはずなのに・・・!
モンド
ファンタジー
第一章「学園編」が終了し第二章「成人貴族編」に突入しました。
突然の事故で命を落とした主人公。
すると異世界の神から転生のチャンスをもらえることに。
それならばとチートな能力をもらって無双・・・いやいや程々の生活がしたいので。
「チートはいりません健康な体と少しばかりの幸運を頂きたい」と、希望し転生した。
転生して成長するほどに人と何か違うことに不信を抱くが気にすることなく異世界に馴染んでいく。
しかしちょっと不便を改善、危険は排除としているうちに何故かえらいことに。
そんな平々凡々を求める男の勘違い英雄譚。
※誤字脱字に乱丁など読みづらいと思いますが、申し訳ありませんがこう言うスタイルなので。


妹が聖女の再来と呼ばれているようです
田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。
「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」
どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。
それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。
戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。
更新は不定期です。


家族もチート!?な貴族に転生しました。
夢見
ファンタジー
月神 詩は神の手違いで死んでしまった…
そのお詫びにチート付きで異世界に転生することになった。
詩は異世界何を思い、何をするのかそれは誰にも分からない。
※※※※※※※※※
チート過ぎる転生貴族の改訂版です。
内容がものすごく変わっている部分と変わっていない部分が入り交じっております
※※※※※※※※※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる