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恐怖の大王編
決行と暗殺
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「雑過ぎるんだが」
計画がよぉ。
王に会わせる。隠し持った短剣で対象を刺殺。クーネルは俺をその場で拘束するが、そのまま元の世界へと戻してくれる。
みんなは待機……という名の人質だろうな。
俺だけ別室に案内され、身なりを整えていた。しかも決行はこの後すぐ。
やっべぇ……どうすりゃ全員が無事に戻れんだ……全く思い付かないんだが……
王。その名はアンゴルモア。
封印され、忘れ去られていた大王である。その彼が数百年ぶりに復活した。
時期的には俺達の世界で遺跡の魔法陣が発動したのと同時期。どう考えても無関係じゃないだろうな。
そしてアンゴルモアはごく短期間のうちにこの世界を支配してしまった。さらに次のターゲットが俺達の世界という事なんだが……
俺は目の前のクーネルへと視線を向ける。
「……何か質問でもあるのか?」
「質問だらけなんですけど」
「必要な質問には答えたつもりだが」
「私だけが相手に近付ける理由……それは見た目のおかげとは聞きました。けどどうしてこの見た目なのか、その辺りの詳しい話は聞いていません」
「必要なのはお前だけが我らの王に近付ける。その事実だけだ」
「その理由が分かれば別の選択肢が生まれるかも知れませんよ?」
「王は殺す。それ以外の選択肢は無い」
「『殺す』以外の選択肢じゃありません。『殺す方法』の選択肢です」
とか言いつつも、探っているのは『殺す以外の選択肢』なんだけどね。
「……」
俺は言葉を続ける。
「……そもそも、アンゴルモアが過去の同一人物かすら怪しいです。もし別人なら私の見た目なんて関係無いじゃないですか。昔話自体がただの創作かも知れませんし」
「アンゴルモアという名の王は過去に実在していたが、それが今の王と同一なのかは確かに分からない。魔法に関しても昔から存在するものというだけで創り出された経緯などは分かっていない。だが王は未知なる魔法を知り、別世界の存在を知り、その移動手段である魔法陣の事も知っていた。そんな存在が突然に現れ、自らを封印された『アンゴルモアの大王』と名乗ったのだ」
「昔話は真実だと?」
「ああ、そうだ。蘇った王。そしてそこに女神アリアの容姿に似たお前。これがただの偶然か?」
「……過去の話が事実なら、別世界まで支配しようとしたのはアンゴルモア。その野望を阻止し、封印したのはアリア様から力を得た彼女です。何らかの関係性がありそうな私をむしろ警戒するのでは?」
「王はかならずお前に興味を持つだろう。何故なら伝え聞く昔話で二人は恋人同士だったのだからな」
「だからって簡単に近付けるなんて……」
「それを利用しなければならない程に守備は硬い。この機会を逃す事はできない。絶対に」
計画の先延ばしは絶対に無ぇな。
「それともう一つ確認です。調査隊について何か情報がありますか?」
クーネルにはリアーナ達が来たら教えるようにお願いしてあったんだが。
「調査隊を発見したとの報告は無い」
「……そうですか」
信じる事も否定する事もできん。せめて無事なら良いんだけどな。
★★★
また目隠し。
魔法陣を使って別の場所に転送された可能性もある。他のみんながどこにいるのか全く分からん。能力を解放して、みんなで逃走する事もできない。そもそもこの場所では魔法に類する特別な力は使えないように細工がされているらしい。だからこその短剣。
そして今、アンゴルモアの大王は目の前にいた。
磨かれた石床の上、深紅の絨毯が伸びるその先。数段高い階段の上、玉座の男。
想像よりも若く見えるその姿は三十代前半くらいか。クセのある黒に近いような濃い茶色の髪、そして明るい栗色の瞳が俺を見下ろしていた。表情には何の感情も浮かんでいない。
俺より一歩前にクーネルが進み出る。
「アンゴルモア様。彼女が報告を致しました異世界からの少女です」
少しの間。
「クーネル」
「はい」
クーネルがアンゴルモアの元へ。
「腰の物を貸せ」
アンゴルモアがクーネルの腰に帯剣されていた剣を抜く。そして……スッ……と、剣先を振り上げる。
えっ、えっ、な、何だ?
クーネルの後ろ姿で何が起こっているのかよく分からん!!
小さく呻いて顔を押さえるクーネル。その腕を伝い鮮血が滴り落ちた。
ま、まさか剣で顔を斬ったのか!!?
アンゴルモアは静かに言う。
「なぜ連れて来た?」
「……ユエ様に関する情報があれば報告するようにとの事でしたので」
「ああ、その通りだ。だが連れて来いと命令はしていない」
「申し訳ございません」
「お前は命令に背いた……が、私は寛大だ。片目で済んだ事を幸運と思うのだな。下がれ」
アンゴルモアは剣を放り投げた。
片目、って……やっべぇ、このアンゴルモアってのは確かにこの場面だけみたら暗殺しといた方が良さそうじゃねぇか……いやいや、俺にそれができんの?
確かにアンゴルモアの近くには誰もいない。しかし近付くまでの左右に衛兵が並んでいる。
「名は?」
アンゴルモアの冷めたような視線が俺に向けられていた。
「シノブです」
「私の名は知っているな?」
「はい。アンゴルモア様と」
「……話に聞いていた通りの姿だが……女神アリアというには少し背丈が足りないようだ」
「たまたま瞳の色と髪色が同じだけですので」
「『だから自分は女神アリアとは関係ない』という事か?」
「私の世界で女神アリア様の存在が確認された事はありません。おとぎ話の類だと思っていしたが、こちらでは違うのですか?」
「寄れ」
「……はい」
足を一歩踏み出す。
本当に、今、俺がやるしかないのか?
心臓が高鳴る。
人殺しを?
そしてもう一歩。
それで本当にみんなが助かるのか? クーネルを信用するような形で大丈夫なのか?
視線だけで左右を確認する。並び立つ衛兵達はその手に長槍を携えていた。変な動きを見せたら一瞬で刺殺されるんじゃないだろうか。
くそっ、怖い、どうする? 何か、何か……
近付いて気付く。玉座の後ろにも衛兵が控えていた。
そしてそのさらに後ろ、その姿が見えた。
リアーナ!!? ロザリンド!!?
二人の緊張した表情が見て取れる。
ふざけんなっ……こ、こりゃ、どっちだ!!?
リアーナ達がどんな状況なのかは全く分からない。ただどんな状況なのか、可能性の高いものがある。
それは俺達と同じような状況になっている可能性。
一緒に来ているであろうシャーリー達の姿が見えないのは人質になっているから。
だがリアーナ達の目的が俺と同じなら良い。暗殺を成功させてしまえば良いだけなのだから。
でも問題はその逆。
『リアーナ達の目的が暗殺を阻止』だった場合。暗殺に成功しようと、失敗しようと、どちらかの人質が危険に晒される。
クソッ、どっちなんだよ!!?
そしてその中で一つ分かる事。それはクーネルに騙されたという事である。
計画がよぉ。
王に会わせる。隠し持った短剣で対象を刺殺。クーネルは俺をその場で拘束するが、そのまま元の世界へと戻してくれる。
みんなは待機……という名の人質だろうな。
俺だけ別室に案内され、身なりを整えていた。しかも決行はこの後すぐ。
やっべぇ……どうすりゃ全員が無事に戻れんだ……全く思い付かないんだが……
王。その名はアンゴルモア。
封印され、忘れ去られていた大王である。その彼が数百年ぶりに復活した。
時期的には俺達の世界で遺跡の魔法陣が発動したのと同時期。どう考えても無関係じゃないだろうな。
そしてアンゴルモアはごく短期間のうちにこの世界を支配してしまった。さらに次のターゲットが俺達の世界という事なんだが……
俺は目の前のクーネルへと視線を向ける。
「……何か質問でもあるのか?」
「質問だらけなんですけど」
「必要な質問には答えたつもりだが」
「私だけが相手に近付ける理由……それは見た目のおかげとは聞きました。けどどうしてこの見た目なのか、その辺りの詳しい話は聞いていません」
「必要なのはお前だけが我らの王に近付ける。その事実だけだ」
「その理由が分かれば別の選択肢が生まれるかも知れませんよ?」
「王は殺す。それ以外の選択肢は無い」
「『殺す』以外の選択肢じゃありません。『殺す方法』の選択肢です」
とか言いつつも、探っているのは『殺す以外の選択肢』なんだけどね。
「……」
俺は言葉を続ける。
「……そもそも、アンゴルモアが過去の同一人物かすら怪しいです。もし別人なら私の見た目なんて関係無いじゃないですか。昔話自体がただの創作かも知れませんし」
「アンゴルモアという名の王は過去に実在していたが、それが今の王と同一なのかは確かに分からない。魔法に関しても昔から存在するものというだけで創り出された経緯などは分かっていない。だが王は未知なる魔法を知り、別世界の存在を知り、その移動手段である魔法陣の事も知っていた。そんな存在が突然に現れ、自らを封印された『アンゴルモアの大王』と名乗ったのだ」
「昔話は真実だと?」
「ああ、そうだ。蘇った王。そしてそこに女神アリアの容姿に似たお前。これがただの偶然か?」
「……過去の話が事実なら、別世界まで支配しようとしたのはアンゴルモア。その野望を阻止し、封印したのはアリア様から力を得た彼女です。何らかの関係性がありそうな私をむしろ警戒するのでは?」
「王はかならずお前に興味を持つだろう。何故なら伝え聞く昔話で二人は恋人同士だったのだからな」
「だからって簡単に近付けるなんて……」
「それを利用しなければならない程に守備は硬い。この機会を逃す事はできない。絶対に」
計画の先延ばしは絶対に無ぇな。
「それともう一つ確認です。調査隊について何か情報がありますか?」
クーネルにはリアーナ達が来たら教えるようにお願いしてあったんだが。
「調査隊を発見したとの報告は無い」
「……そうですか」
信じる事も否定する事もできん。せめて無事なら良いんだけどな。
★★★
また目隠し。
魔法陣を使って別の場所に転送された可能性もある。他のみんながどこにいるのか全く分からん。能力を解放して、みんなで逃走する事もできない。そもそもこの場所では魔法に類する特別な力は使えないように細工がされているらしい。だからこその短剣。
そして今、アンゴルモアの大王は目の前にいた。
磨かれた石床の上、深紅の絨毯が伸びるその先。数段高い階段の上、玉座の男。
想像よりも若く見えるその姿は三十代前半くらいか。クセのある黒に近いような濃い茶色の髪、そして明るい栗色の瞳が俺を見下ろしていた。表情には何の感情も浮かんでいない。
俺より一歩前にクーネルが進み出る。
「アンゴルモア様。彼女が報告を致しました異世界からの少女です」
少しの間。
「クーネル」
「はい」
クーネルがアンゴルモアの元へ。
「腰の物を貸せ」
アンゴルモアがクーネルの腰に帯剣されていた剣を抜く。そして……スッ……と、剣先を振り上げる。
えっ、えっ、な、何だ?
クーネルの後ろ姿で何が起こっているのかよく分からん!!
小さく呻いて顔を押さえるクーネル。その腕を伝い鮮血が滴り落ちた。
ま、まさか剣で顔を斬ったのか!!?
アンゴルモアは静かに言う。
「なぜ連れて来た?」
「……ユエ様に関する情報があれば報告するようにとの事でしたので」
「ああ、その通りだ。だが連れて来いと命令はしていない」
「申し訳ございません」
「お前は命令に背いた……が、私は寛大だ。片目で済んだ事を幸運と思うのだな。下がれ」
アンゴルモアは剣を放り投げた。
片目、って……やっべぇ、このアンゴルモアってのは確かにこの場面だけみたら暗殺しといた方が良さそうじゃねぇか……いやいや、俺にそれができんの?
確かにアンゴルモアの近くには誰もいない。しかし近付くまでの左右に衛兵が並んでいる。
「名は?」
アンゴルモアの冷めたような視線が俺に向けられていた。
「シノブです」
「私の名は知っているな?」
「はい。アンゴルモア様と」
「……話に聞いていた通りの姿だが……女神アリアというには少し背丈が足りないようだ」
「たまたま瞳の色と髪色が同じだけですので」
「『だから自分は女神アリアとは関係ない』という事か?」
「私の世界で女神アリア様の存在が確認された事はありません。おとぎ話の類だと思っていしたが、こちらでは違うのですか?」
「寄れ」
「……はい」
足を一歩踏み出す。
本当に、今、俺がやるしかないのか?
心臓が高鳴る。
人殺しを?
そしてもう一歩。
それで本当にみんなが助かるのか? クーネルを信用するような形で大丈夫なのか?
視線だけで左右を確認する。並び立つ衛兵達はその手に長槍を携えていた。変な動きを見せたら一瞬で刺殺されるんじゃないだろうか。
くそっ、怖い、どうする? 何か、何か……
近付いて気付く。玉座の後ろにも衛兵が控えていた。
そしてそのさらに後ろ、その姿が見えた。
リアーナ!!? ロザリンド!!?
二人の緊張した表情が見て取れる。
ふざけんなっ……こ、こりゃ、どっちだ!!?
リアーナ達がどんな状況なのかは全く分からない。ただどんな状況なのか、可能性の高いものがある。
それは俺達と同じような状況になっている可能性。
一緒に来ているであろうシャーリー達の姿が見えないのは人質になっているから。
だがリアーナ達の目的が俺と同じなら良い。暗殺を成功させてしまえば良いだけなのだから。
でも問題はその逆。
『リアーナ達の目的が暗殺を阻止』だった場合。暗殺に成功しようと、失敗しようと、どちらかの人質が危険に晒される。
クソッ、どっちなんだよ!!?
そしてその中で一つ分かる事。それはクーネルに騙されたという事である。
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