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女神の微笑み編

ポーとアンア

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「ここに御馳走がぁ~地竜があるよとぉ~誘われてぇぇぇ~ん、ラララ~」
 音痴な歌声が空に響く。
「ウォウウォウウォウ、地竜が5体なんてぇ~捕るの難しいからぁ~捧げられたら来ちゃうよねぇぇぇ~」
 しかも歌いながら全部説明してくれんじゃん。
 つまり地竜は俺達に向けてではなく、歌う大食と呼ばれる竜、ポーを呼び出す為のもの。
「それじゃ一気にいただきますぅ、ヘイッ!!」
 ヘイッ!!じゃねぇよ、バカ野郎。
 狭い通り道に、絶対ムリな巨体を強引に捻じ込んでくる。激しく揺れる地面。

 ガガガガガッッッ 
 ガリガリガリッッッ
 ドズズズズズッ

 そして大口を開け、砂利道、川、両サイドの壁を削りながら突き進む。土だろうが岩だろうが全て口の中に入れ、川の水で流し込む。
 倒した地竜も一口で消えていく。目の前に迫るポー。
「シノブ!!」
 ロザリンドだ。ヒセラと一緒に馬車の外へと引き摺り出され、地面へと押し付けられる。
 ポーと止めるのは無理と判断するリアーナ。魔導書を開き発動させたのは大地を操る魔法。眼前に迫るポーに目掛け岩の槍で突き上げる。

 ドゴンッ

 一際大きく地面が揺れる。激しい衝撃音。
 ポーの動きが僅かに上へと逸れた。頭上を掠める巨体。
 うぉぉぉぉぉっ!! 掠めるだけで吹き飛ばされそうになるぅぅぅっ!!
 そのままポーはまた上空へと飛び上がった。
「今ぁぁぁ~何かぁ~下からぁ~叩かれた気がするよぉ~ヘイッ!!」
 だからヘイッ!!じゃねぇよ、バカ野郎。
「ああああああああああっ!!」
 それはトラコスパーティー、女の悲鳴。
「僕が絶対に助ける!!」
 トラコスは焦燥した表情を浮かべ、ポーを見上げる。
「ダ、ダメです、トラコス様、今の私達では勝てません」
「逃げなきゃ……トラコスはまだここで死んで良い人間じゃないんだよ!!」
「仲間を見捨てと言うのか!!?」
 俺が視線を向けると……トラコスパーティー、仲間が一人足りない……ポーに食われたのか……
「ロザリンド」
「シノブ……使うのね?」
「もちろん。ポーの相手は私がする」
 久々。体の中で魔力が燃え上がる。それは体外へと溢れ、淡い光となり全身を包む。
「フンッ!!」
 そしてジャンプ一直線。
 食ったものを吐き出しやがれぇぇぇっ!!
 
 ドズゥゥゥンッッッッッ

 握り締めた拳を、真下からポーの腹部へと叩き込んだ。
「ゴバァァァァァァァッッッ」
 その巨体が『く』の字に曲がる程の一撃。ポーの口から大量の土砂や岩が吐き出された。
 それに合わせるリアーナの風魔法。吐き出されたものに、突風が下から吹き付ける。重い岩などは風の影響を受けないが、軽い人間は体が浮き上がる。
 見えた。ポーから吐き出された女性の姿。
 そしてロザリンド。
「リコリス程に得意じゃないのだけれど」
 落ちてくる岩などを足場に空中を駆け上がる。そしてそのまま女性を抱きとめた。
 それを確認して俺はさらに力を込める。
 その巨体を、さらに空高く蹴り上げる。
「何何何、何なの~ご飯の邪魔をするものは許さないよぉ~、ヘイッ!!」
 大口を開けて迫るポー。
「ヘイッ!!じゃないよ!! とりあえずブッ飛ばすからね!! 話は後!!」

★★★

 ポーの巨体は墜落した。
「う~ん、降参んんんんん~君は誰なのさぁ?」
「私はエルフの町のシノブ」
「シノブ……ああ、あのアバンセのぉ」
「私達はあなたの食事を邪魔するつもりはありません。ただその場にいたもので、一緒に食べられたら困るので抵抗させていただきました」
「いやいや~君達みたいな人間を食べたりしないよ~」
 普通に食べたけどね。
「あの場にいた地竜は食べてもらって構わないので、攻撃した事は許してください」
「分かった、分かったよ~、地竜が食べられるならぁ、許しちゃうよ~後で食べるからぁ~今はちょっと動けないから後でね~ランランル~」
 温厚な竜で助かったぜ。
 それ俺はどうすっかな。木々に囲まれた周囲を見渡す。能力が尽きた今、どうやってみんな所に戻るか……なんて考えていたが……
「シノブ殿ぉぉぉっ!!」
「ヒメ?」
 コノハナサクヤヒメである。

 俺がポーと戦っている最中、コノハナサクヤヒメは敵対者の残党を狩っていた。そして魔物使いらしき人物を拘束。さらにポーが落下した位置に俺がいると思い、迎えに来たと言う。な、なんて気の利くスライムなのだ……
 みんなの元に戻る途中、その魔物使いらしき野郎を尋問したが、黒幕までは分からず。まぁ、あれだけ大規模な襲撃だもの、その辺りは辿れないようになってて当然だろうな。

「シノブちゃん!!」
「ポーの方は大丈夫だよ。こっちは?」
「うん、大丈夫。仲間の人も命に別状は無かったから」
「シノブ。怪我は?」
「無い無い。だって私だよ?」
 そこにヒセラ。
「シノブさん……あなた、本当にあの竜を……歴史上にしか存在しない一等級冒険者……」
「ヒセラさん。今回の竜との事は忘れて下さい。お願いします」
「しかし一等級冒険者は王国、いえ、大陸の英雄です。それに冒険者ならば誰しも一等級を目指すのでは?」
「理由があります」
 俺の能力は常時使えるものじゃない。高い等級はいらないんだよ。
「……」
「……」
「……分かりました。今回の事は他言しません。護衛の者や王国兵にも言い聞かせますので安心してください」
「ありがとうございます」
 さらにそこへトラコスとその仲間達だ。
「シノブ。リアーナ。ロザリンド。仲間を助けてくれてありがとう。竜を相手にして誰も死なないなんて正に奇跡だ。君達の事を甘く見ていた事を謝罪させてほしい。すまない」
「いえいえ、一時的とは同じ依頼を受けたのだからパーティーみたいなものです。助けるのは当然なんで気にしないでください」
「君達に報いるにはどうしたら良い?」
「でしたら私が竜と戦った事、その実力、全てを見なかった事にして忘れてください」
「し、しかし……」
 トラコスが言いたい事はヒセラと同じ事なんだろう。
「お願いします」
「……分かった。約束しよう」
 トラコスの言葉にパーティーの仲間達も頷くのだった。

★★★

 さてその後、襲撃などは無く、無事に王都へ到着した。
「シノブ。あなたの事だから無事だとは思ったけど、それでも心配した」
 ベルベッティアのお出迎え。
「ありがとう。ベルベッティアの方は無事に脱出ができて良かったよ」
 そしてその後、ヒセラの屋敷へトラコス達と一緒に招かれた。
 間近に見える王城、広い敷地内の大きな屋敷。コイツは……王族の中でも相当に王様と近い。つまり姉妹であるニーナも想像以上に身分が上だぞ……

「道中、襲撃もありましたが、無事に送り届けていただけた事を感謝致します。ただ襲撃の事を含めて色々と調べたい事もありますので、今回の事は他言無用でお願いします」
 ちなみに報酬はギルド経由で支払われる。
「本当にありがとうございました」
 なんてヒセラの言葉の後だった。
「やはり隠す事はできません」
 それはトラコス。パーティーの面々が『言ってはダメ』『考え直して』なんて制止するが、トラコスは言葉を続けた。
「襲撃はこのトラコスに責任がある」
「……どういう事でしょうか?」
 怪訝な表情を浮かべるヒセラ。
「我が名はトラコス・アンア・コストラ」
 シノブ、リアーナ、一つ名。ロザリンド・リンドバーグ、二つ名。トラコス・アンア・コストラ、三つ名……それは王族にのみ許されたもの。
 しかも『アンア』とは王様の直系。
 しかし王様にトラコスなんて息子はいない。つまり国王噂の隠し子、それがトラコス。
「今、決めた。いつか必ず、一等級冒険者へとなり、王座へと座ろう。その時にはシノブ、リアーナ、ロザリンド、君達三人とも傍にいてほしい」
 そう宣言するトラコスだった。
 噂の隠し子がトラコスだとして、同じような噂を持つヒセラと行動を共にした。外部から見たら、俺がヒセラにした例え話が信憑性を高めちゃう。そ、そりゃ場合によってはデカい襲撃になっちゃうだろ……
「あ、そ、そうですか。頑張ってください……じゃあ、リアーナ、ロザリンド、行こうか……」
 つまりトラコスの素性もどこからか漏れている。
 王位継承問題に巻き込まれちゃたまらん……もうヒセラに任せて、この場は早く退室しよう……

 そんな感じで依頼終了である。
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