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鬼ごっこ編
応援と理由
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空中で投げ出され、そのまま落下、地面が迫る。
なのに周囲の景色はやけに遅く流れ……これって死ぬ直前に集中力が高まるヤツじゃね!!? どうにかならんか!!? 両手両足で同時に着地すれば粉砕骨折で命を拾えないか!!? こんな美少女が死ぬなんて世界の損失、神様仏様アリア様、助けてくんろ~
……まぁ、ダメみたいだな……
もう地面は目の前。叩き付けられて、俺はここで死ぬ。
「シノブちゃん!!」
ほら、なんかリアーナの声が聞こえるし。
ドンッ
強い衝撃……だけど……あれ? 生きてる? リ、リアーナ?
俺はリアーナの腕の中、お姫様抱っこで受け止められていた。
「ど、どうしてリアーナがここに?」
「私だけじゃない、みんないるよ」
ドギンッ、と重い金属音。
ヴイーヴルの大剣クレイモアを受け止めるのはベレントの金棒。
「あなたのお相手は私がするわねぇ~」
「ヴイーヴルか。凄い力だ」
「まぁねぇ~でもまだまだこんなものじゃないのよ~」
超近距離、そのままの位置でお互いの大きな武器を打ち合う。一歩も退かない高速回転。まるでそこだけ竜巻の中のようだ。
「大丈夫か?」
「ヴォル……うん、大丈夫だけど……」
そしてアビスコを囲むのはロザリンド、ビスマルク、ミラン、ドレミドの四人。
「おーおー、この前は完膚無く叩き潰してやったんだが、また挑んでくるのか。いいぞ、相手してやろう」
アビスコは余裕の表情を浮かべる。
最初に斬り込んだのはロザリンド。
刀の鋭い横薙ぎをアビスコは避けるが、そこにミランが盾を全面に突進していた。ドンッ、と鈍い打撃音。その体当たりにアビスコは態勢を崩す。
そこにビスマルクとドレミド。
ドレミドの長剣の振り下ろしをアビスコは金棒で受ける。そのアビスコの空いた胴体にビスマルクの蹴りがめり込んだ。
アビスコはドレミドを力で押し返し、ビスマルクを蹴り飛ばす。
だがすぐにロザリンドとミランが間合いを詰めた。
四人の絶え間ない攻撃をアビスコは一人で受け止め、避け、反撃する。
周りではみんなが他の鬼と戦っていた。
「シノブ様。ご無事で何よりです。退路の準備は整っております」
ホーリーだ。
「行くよ、シノブちゃん」
頭上から降り注ぐ光の矢、周囲で突然に起こる爆発。タックルベリーとキオだろう。
そうして俺達は林の中へと飛び込むのだった。
★★★
林の中を駆け抜ける。
タックルベリーの探索魔法とキオのカトブレパスの瞳でアビスコの動向を探る。追い掛けては来ないようなので一休み。そこで。
「ビスマルクさんに頼まれて来てみれば……またお前はどうしてこうも問題ばかり……」
呆れたような表情を浮かべるのは猛禽類の血を色濃く受け継ぐ獣人、フォリオ・カージナル。
「やっかい事の全てはシノブを中心にして起こるようだね」
そう言って豪快に笑うのは大柄で筋肉質な女性、タカニャ。
二人とも応援に来てくれたみたいだな。
「いや、基本的に私は巻き込まれているだけで」
「そんな事よりシノブちゃん。言う事あるよね?」
おおっと、このリアーナの様子、怒っている。
「リ、リアーナのおっぱいがクッションになって助かった。ありがとう」
「違うでしょ?『ごめんなさい』でしょ?」
「ご、ごめんなさい」
「最初に気付いたのはリアーナとロザリンドよ」
ベルベッティアは言いながら、俺の肩に飛び乗った。
「そうね、最初から変だと思っていたわ」
ロザリンドは言う。
帝都第三十都市に誘導を決めた時、全員で移動する必要は無かった。機動力を考えるならシノブを中心とした少数の誘導班。残りは最初から第三十都市に向かい待機をすれば良い。
だからリアーナとロザリンドは、まだ作戦を決めあぐねているのだと感じた。
そこで思い至ったのは帝都第十四都市の存在。リアーナもサンドンの所で修業をしていたので、ガーガイガーの道場の場所は覚えている。
どちらの都市を目的地にすべきなのか、そんな問題ならみんなに意見を求めれば良い……なのにそれをしない理由……
アビスコの強さ、そしてシノブの性格を考えた時、一人だけで決着を試みる可能性もあったが確信は持てなかった。
だがキオだ。そんな話を聞いてキオはシノブから口止めを告白する。それは『私はこれから作戦とば別の場所に向かうけど、みんなには黙ってて。絶対ね』そんな口止め。
そこでシノブの真意を確信した。
「あ、あの、わ、私、『黙ってて』って言われましたけど、で、でもリアーナさんとロザリンドさんの話を聞いて、あの、あの、黙ってる事ができなくて……あの……ご、ごめんなさい……」
「ありがとう。キオ。キオのおかげで助かったんだから、謝る事なんてないんだよ」
その頭を撫でる。
みんなが来なければ確実に死んでいた。キオにも感謝だぜ。
「でも能力の使えないシノブなんて雑魚の中の雑魚じゃん。一人でどうにかできると思ってんの?」
シャーリーの言葉に俺はぐぬぬっと唸るのみ。た、確かにそうだけどさぁ……
「ねぇ、シノブちゃん、あれがアビスコなんだよね? それとアルタイルさんが一緒にいたけど……」
アビスコの発言からリアーナはそう解釈する。そしてアビスコ側に立っていたアルタイル。
そんな言葉をビスマルクは遮る。
「話は後だ。今は少しでもこの場所から離れるぞ」
その言葉に俺は頷くのだった。
★★★
「キオ、ありがとう。それと負担を掛けてごめんね」
「だ、大丈夫です、はい!! あの、私、その、き、鍛えてましたから。ま、まだまだ大丈夫です!!」
キオの負担が想像を絶する程に重い。常にカトブレパスの瞳を発動させ、アビスコの監視をしているからだ。キオはそう言うが限界ギリギリだろう。
もちろんキオが一日中寝ずに監視というわけにはいかないので、そこはタックルベリーとリアーナの探索魔法、ベルベッティアとコノハナサクヤヒメの隠密探索でカバーしていた。
そしてアビスコを迎え撃つ為に辿り着いたのは元々の予定であった帝国第三十都市。
小さな地方都市。周囲を囲む城壁はあるものの低く防御には適さない。そして中心部には川が流れていた。
住民の大半を帝国の命としてミランが退避させ、帝国に属する兵には協力を仰ぐ。とはいえ、その兵も200人程。大した戦力にはならず支援中心になるだろう。
ちなみに今はハリエットが罠を大量設置中で大忙し。日に日に近付くアビスコを待つ。
ただどうして俺がここにいると分かるのか?
ユッテはあの時以降、ベレントと連絡を取っていないらしい。となると……アルタイルの棒占いか……第十四都市で先回りされたのもこれだろ。
「シノブ様。ユッテ様をお連れしました」
「ありがとう、ホーリー」
「どんな用?」
相変わらず無表情のユッテ。
「うん、ベレントから何かあった?」
「無い。何も」
「そっか」
数日のうちにアビスコと戦う事になる。何かメッセージでもあるかと思ったが、無いか。
「……うん、分かった。ありがとう、もう良いよ」
「……何を考えているか分からない」
「ん? 私?」
「ベレント」
「ああー……」
「アビスコは確かに強い。大陸を征服する事も可能かも知れない。でも帝国、王国、竜を相手にして鬼という種族が無事で済むとは思えない。被害が大き過ぎる。ベレントだってそれは分かっていたはずなのに……そこまでしてアビスコに手を貸す理由が分からない」
「でも鬼の大半はアビスコに賛同しているんだよね?」
「そう」
「……多分だけど……ユッテの為だよ」
「……私の?」
「うん」
「私は争いを求めていない」
「でも他の鬼はアビスコに賛同しているんでしょ? つまり鬼という種族が戦いに巻き込まれるのはもう回避できない」
「……」
ユッテは黙って次の言葉を待つ。
「そんな状況でユッテを守るにはどうすれば良いのか……そこでベレントは考えてユッテをこっちに寄越したんだよ。私達が勝てばこちら側のユッテは守られる。鬼達が勝てば『ユッテは敵側の内通者として活躍した』ってベレントが引き戻す。つまりこの戦いの勝敗がどっちにしろユッテだけは守られる。そういう事だと思う」
俺も前世ではお兄ちゃんだった。その中で妹を守るとしたらどうするか……ベレントと同じ考えに至ったのかも知れない。
「……そんな事……頼んでない……」
ユッテはそう小さく呟く。
そしてすでにアビスコ鬼王は目の前に迫っているのだった。
なのに周囲の景色はやけに遅く流れ……これって死ぬ直前に集中力が高まるヤツじゃね!!? どうにかならんか!!? 両手両足で同時に着地すれば粉砕骨折で命を拾えないか!!? こんな美少女が死ぬなんて世界の損失、神様仏様アリア様、助けてくんろ~
……まぁ、ダメみたいだな……
もう地面は目の前。叩き付けられて、俺はここで死ぬ。
「シノブちゃん!!」
ほら、なんかリアーナの声が聞こえるし。
ドンッ
強い衝撃……だけど……あれ? 生きてる? リ、リアーナ?
俺はリアーナの腕の中、お姫様抱っこで受け止められていた。
「ど、どうしてリアーナがここに?」
「私だけじゃない、みんないるよ」
ドギンッ、と重い金属音。
ヴイーヴルの大剣クレイモアを受け止めるのはベレントの金棒。
「あなたのお相手は私がするわねぇ~」
「ヴイーヴルか。凄い力だ」
「まぁねぇ~でもまだまだこんなものじゃないのよ~」
超近距離、そのままの位置でお互いの大きな武器を打ち合う。一歩も退かない高速回転。まるでそこだけ竜巻の中のようだ。
「大丈夫か?」
「ヴォル……うん、大丈夫だけど……」
そしてアビスコを囲むのはロザリンド、ビスマルク、ミラン、ドレミドの四人。
「おーおー、この前は完膚無く叩き潰してやったんだが、また挑んでくるのか。いいぞ、相手してやろう」
アビスコは余裕の表情を浮かべる。
最初に斬り込んだのはロザリンド。
刀の鋭い横薙ぎをアビスコは避けるが、そこにミランが盾を全面に突進していた。ドンッ、と鈍い打撃音。その体当たりにアビスコは態勢を崩す。
そこにビスマルクとドレミド。
ドレミドの長剣の振り下ろしをアビスコは金棒で受ける。そのアビスコの空いた胴体にビスマルクの蹴りがめり込んだ。
アビスコはドレミドを力で押し返し、ビスマルクを蹴り飛ばす。
だがすぐにロザリンドとミランが間合いを詰めた。
四人の絶え間ない攻撃をアビスコは一人で受け止め、避け、反撃する。
周りではみんなが他の鬼と戦っていた。
「シノブ様。ご無事で何よりです。退路の準備は整っております」
ホーリーだ。
「行くよ、シノブちゃん」
頭上から降り注ぐ光の矢、周囲で突然に起こる爆発。タックルベリーとキオだろう。
そうして俺達は林の中へと飛び込むのだった。
★★★
林の中を駆け抜ける。
タックルベリーの探索魔法とキオのカトブレパスの瞳でアビスコの動向を探る。追い掛けては来ないようなので一休み。そこで。
「ビスマルクさんに頼まれて来てみれば……またお前はどうしてこうも問題ばかり……」
呆れたような表情を浮かべるのは猛禽類の血を色濃く受け継ぐ獣人、フォリオ・カージナル。
「やっかい事の全てはシノブを中心にして起こるようだね」
そう言って豪快に笑うのは大柄で筋肉質な女性、タカニャ。
二人とも応援に来てくれたみたいだな。
「いや、基本的に私は巻き込まれているだけで」
「そんな事よりシノブちゃん。言う事あるよね?」
おおっと、このリアーナの様子、怒っている。
「リ、リアーナのおっぱいがクッションになって助かった。ありがとう」
「違うでしょ?『ごめんなさい』でしょ?」
「ご、ごめんなさい」
「最初に気付いたのはリアーナとロザリンドよ」
ベルベッティアは言いながら、俺の肩に飛び乗った。
「そうね、最初から変だと思っていたわ」
ロザリンドは言う。
帝都第三十都市に誘導を決めた時、全員で移動する必要は無かった。機動力を考えるならシノブを中心とした少数の誘導班。残りは最初から第三十都市に向かい待機をすれば良い。
だからリアーナとロザリンドは、まだ作戦を決めあぐねているのだと感じた。
そこで思い至ったのは帝都第十四都市の存在。リアーナもサンドンの所で修業をしていたので、ガーガイガーの道場の場所は覚えている。
どちらの都市を目的地にすべきなのか、そんな問題ならみんなに意見を求めれば良い……なのにそれをしない理由……
アビスコの強さ、そしてシノブの性格を考えた時、一人だけで決着を試みる可能性もあったが確信は持てなかった。
だがキオだ。そんな話を聞いてキオはシノブから口止めを告白する。それは『私はこれから作戦とば別の場所に向かうけど、みんなには黙ってて。絶対ね』そんな口止め。
そこでシノブの真意を確信した。
「あ、あの、わ、私、『黙ってて』って言われましたけど、で、でもリアーナさんとロザリンドさんの話を聞いて、あの、あの、黙ってる事ができなくて……あの……ご、ごめんなさい……」
「ありがとう。キオ。キオのおかげで助かったんだから、謝る事なんてないんだよ」
その頭を撫でる。
みんなが来なければ確実に死んでいた。キオにも感謝だぜ。
「でも能力の使えないシノブなんて雑魚の中の雑魚じゃん。一人でどうにかできると思ってんの?」
シャーリーの言葉に俺はぐぬぬっと唸るのみ。た、確かにそうだけどさぁ……
「ねぇ、シノブちゃん、あれがアビスコなんだよね? それとアルタイルさんが一緒にいたけど……」
アビスコの発言からリアーナはそう解釈する。そしてアビスコ側に立っていたアルタイル。
そんな言葉をビスマルクは遮る。
「話は後だ。今は少しでもこの場所から離れるぞ」
その言葉に俺は頷くのだった。
★★★
「キオ、ありがとう。それと負担を掛けてごめんね」
「だ、大丈夫です、はい!! あの、私、その、き、鍛えてましたから。ま、まだまだ大丈夫です!!」
キオの負担が想像を絶する程に重い。常にカトブレパスの瞳を発動させ、アビスコの監視をしているからだ。キオはそう言うが限界ギリギリだろう。
もちろんキオが一日中寝ずに監視というわけにはいかないので、そこはタックルベリーとリアーナの探索魔法、ベルベッティアとコノハナサクヤヒメの隠密探索でカバーしていた。
そしてアビスコを迎え撃つ為に辿り着いたのは元々の予定であった帝国第三十都市。
小さな地方都市。周囲を囲む城壁はあるものの低く防御には適さない。そして中心部には川が流れていた。
住民の大半を帝国の命としてミランが退避させ、帝国に属する兵には協力を仰ぐ。とはいえ、その兵も200人程。大した戦力にはならず支援中心になるだろう。
ちなみに今はハリエットが罠を大量設置中で大忙し。日に日に近付くアビスコを待つ。
ただどうして俺がここにいると分かるのか?
ユッテはあの時以降、ベレントと連絡を取っていないらしい。となると……アルタイルの棒占いか……第十四都市で先回りされたのもこれだろ。
「シノブ様。ユッテ様をお連れしました」
「ありがとう、ホーリー」
「どんな用?」
相変わらず無表情のユッテ。
「うん、ベレントから何かあった?」
「無い。何も」
「そっか」
数日のうちにアビスコと戦う事になる。何かメッセージでもあるかと思ったが、無いか。
「……うん、分かった。ありがとう、もう良いよ」
「……何を考えているか分からない」
「ん? 私?」
「ベレント」
「ああー……」
「アビスコは確かに強い。大陸を征服する事も可能かも知れない。でも帝国、王国、竜を相手にして鬼という種族が無事で済むとは思えない。被害が大き過ぎる。ベレントだってそれは分かっていたはずなのに……そこまでしてアビスコに手を貸す理由が分からない」
「でも鬼の大半はアビスコに賛同しているんだよね?」
「そう」
「……多分だけど……ユッテの為だよ」
「……私の?」
「うん」
「私は争いを求めていない」
「でも他の鬼はアビスコに賛同しているんでしょ? つまり鬼という種族が戦いに巻き込まれるのはもう回避できない」
「……」
ユッテは黙って次の言葉を待つ。
「そんな状況でユッテを守るにはどうすれば良いのか……そこでベレントは考えてユッテをこっちに寄越したんだよ。私達が勝てばこちら側のユッテは守られる。鬼達が勝てば『ユッテは敵側の内通者として活躍した』ってベレントが引き戻す。つまりこの戦いの勝敗がどっちにしろユッテだけは守られる。そういう事だと思う」
俺も前世ではお兄ちゃんだった。その中で妹を守るとしたらどうするか……ベレントと同じ考えに至ったのかも知れない。
「……そんな事……頼んでない……」
ユッテはそう小さく呟く。
そしてすでにアビスコ鬼王は目の前に迫っているのだった。
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