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鬼ごっこ編
皆殺しと最悪の結果
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とりあえず森の入口付近まで戻る。
「勝てなかった」
そう言う俺の腕の中にはヌイグルミのようなアバンセ。かわいい。
「シノブが能力を解放しても勝てなかったという事ね?」
そう言うロザリンドの腕の中にはヌイグルミのようなパル。かわいい。
「つまり俺と同等。もしくはそれ以上」
「シノブより強ぇ奴か。ありえんのかよ、んな事が」
アバンセとパルは言うが。
「でもハッキリ言って~シーちゃん以外は相手にならないと思うわ~私もビスマルクもアビスコの足止め程度にしかならない感じよ~」
アビスコに投擲された金棒を弾いたヴイーヴルは言う。ただ大剣を手から離してしまった。それは近々で記憶に無い。
「でもアビスコはまだ完全じゃなかったんだよね?」
リアーナの言葉に俺は頷く。
「両目と右手、左足が無かった」
右目は俺達が所持。ちなみに今は引き千切った左手も。
そして左目、右手、左足はベレントが所持。
「それと多分、心臓も無いと思う。勘だけど」
「話を聞く限り、僕もそう思う。心臓が無いから血液が送れず干からびているんじゃないか? 勘だけど」
俺もタックルベリーと同意見。
「でも復活前でそれじゃ勝てないじゃん。勘だけど」
と、シャーリー。
「勘ばっかりかよ……とにかく私はしばらく能力が使えないからね。アビスコとベレントを見付け出して、パルにブッ殺してもらう。って事でこれ。ロザリンドが持ってて。良いよね? パル」
俺は体育教師ホイッスルの一つ、パルの笛をロザリンドへと渡す。
「それは構わねぇが……」
「持つのは私で良いのかしら?」
「リコリスだと無くしそうだし」
「今わたくしの名前を出す必要があります!!?」
「リコリス静かにしろ。余計な事を言って邪魔すんじゃねぇ」
「理不尽過ぎますわ!!」
ミツバに言われてリコリスは叫ぶ。
「はいはい。それでビスマルクさん。みんなを指揮して、アビスコ、ついでにベレントを探してください。見付けたらすぐパルに頼んでくださいね」
「ああ、引き受けよう。シノブはどうするつもりだ?」
「ミランの所です。多分ヴォル達も合流していると思いますし。もしかしたら心臓について何か情報を得ているかも知れませんから」
なんて言っている最中。最初に気付いたのはキオだった。
「シ、シノブさん……う、後ろです……い、いい、います……」
「いる!!? まさかアビスコ!!?」
キオは真っ青な顔をして頷く。
「後ろって、どの辺り……」
俺は振り返り、言葉を失う。
まるで焼け炭となった枯れ木。眼球と両手は無く、片足だけで立つアビスコ鬼王がそこにいた。手の届く所に。
ここまで誰も気配に気付けない。
最初に動いたのはアバンセとパルだった。俺を突き飛ばすと同時に、小さい体から吐き出される炎がアビスコを包む。
次に動いたのはビスマルクとヴイーヴル。
「すぐにこの場から離れるぞ!!」
ビスマルクは俺を抱き上げ、その場から駆け出した。
「キオちゃん、大変だと思うけど常に周囲の索敵をお願いね~」
「は、はい!!」
その場から全員が駆け逃げる。
そんな俺達の様子を確認したのだろう。遠目からでも分かる、アバンセとパルは元の姿へと戻る。二人の共闘体制。
「いきなり現れた時はビックリしたけど、でもこれで終わるんじゃないか?」
タックルベリーは言う。
「まぁ、アバンセとパルって言ったら世界最強はどっちか、って感じでしょ? あたし達の出番はもう終わりじゃね?」
シャーリーの言葉にリコリスも頷く。
「そうですわね。ただ、竜の力を借りるのではなく自分達の力で解決したかったですわ」
「でも能力を解放したシノブで勝てないんじゃ、俺達にはどうする事もできない。竜が味方で良かったとここは素直に喜ぼうぜ」
そう言うのはユリアン。
まぁ、確かにその通りなんだけど……
「シノブ、何か不安があるのね?」
ロザリンドに言われて気付く。そう、今、俺が感じているのは不安だ。
「……リアーナ、すぐにサンドンとヤミも呼び出して」
「えっ? う、うん」
そうしてすぐにリアーナも自分の持つ笛を吹くのだった。
ピピーピピーピピー
★★★
ありえない……そんな、ありえない……
俺達が見たのは空から墜ちる二人の竜だった。アバンセとパルが……負けた?
「逃げるぞ」
ビスマルクだ。
「で、でもアバンセとパルが……」
「アバンセとパルの二人掛りで勝てない。シノブの能力も使えない。皆殺しになる」
「だからって二人を見捨てるなんて」
しかしこの時点ですでに逃げられない状況だったのである。
「シノブ殿!!」
それは俺の服の下に潜むコノハナサクヤヒメ。俺の眼前に飛び出し、アビスコの頭突きを受け止める……が、そのまま遥か彼方まで叩き飛ばされた。
「ヒメ!!」
距離を取っていたはずだが、一瞬でアビスコは目の前に。
ビスマルクの拳と、ヴイーヴルの大剣クレイモアがアビスコの体を打つのはほぼ同時。しかし片足だけのアビスコはバランスを崩す事も無い。
片足でピョンッと跳ねる。そしてそのまま蹴りを繰り出した。
両手を交差させ、それを受けるビスマルクだったが。
空気が震えるような打撃音。ビスマルクの両手は弾かれ、アビスコの蹴りはその腹部に突き刺さった。
「ガハッ!!」
吐血と共に蹴り飛ばされる。
「パパをよくも!! 許しません!!」
「リコリス近付かないで!! リアーナ、ベリー!!」
突っ込もうとするリコリスを止めるのはロザリンド。リアーナとタックルベリーは詠唱を完成させている。
ヴイーヴルは飛び退き、リアーナの岩の槍は下から、タックルベリーの雷球は上からアビスコを狙う。
ユリアンの行動は早く、気を失うビスマルクは担ぎ上げ、その場から離れていた。
ただ魔法攻撃など足止めにもならない。
「リコリスちゃん!! シノブちゃんを連れて早く逃げて!!」
「わ、分かりましたわ!!」
駆け出したリコリスだったが、俺の目の前で弾き飛ばされ地面を転がる。アビスコの体当たりだった。動きが速過ぎて俺にはまったく捉えられない。
「てめぇ、この野郎が!!」
ミツバだ。豪腕で振り下ろされる巨大な戦斧。
同時にロザリンドとキオ、二人も斬り掛かるがアビスコは避けようともしない。
ガキンッ、と金属がブチ当たるような音。さらにヴイーヴルの大剣がアビスコの首を横薙ぎにするのだが、やはり傷一つ付けられない。
そんな中、シャーリーの魔弾が窪んだ目の中へと撃ち込まれる……が、当のアビスコは全く意に介さない。ミツバもロザリンドもキオも、ヴイーヴルでさえただの一撃で崩れ落ちる。
皆殺し……まさにその通り。最悪の結果が脳裏によぎる。
その時だった。
何だこれ、足元……水? 近場には川も池も大量の水源は無かったはず。なのに辺り一面、地面が濡れていた。気付いた次の瞬間には水かさが一気に上がる。
そしてそのまま水に押し流される。ただ不思議なのは体が沈まない事だった。まるで水が意思を持ち、何処かに運ばれているように……
「勝てなかった」
そう言う俺の腕の中にはヌイグルミのようなアバンセ。かわいい。
「シノブが能力を解放しても勝てなかったという事ね?」
そう言うロザリンドの腕の中にはヌイグルミのようなパル。かわいい。
「つまり俺と同等。もしくはそれ以上」
「シノブより強ぇ奴か。ありえんのかよ、んな事が」
アバンセとパルは言うが。
「でもハッキリ言って~シーちゃん以外は相手にならないと思うわ~私もビスマルクもアビスコの足止め程度にしかならない感じよ~」
アビスコに投擲された金棒を弾いたヴイーヴルは言う。ただ大剣を手から離してしまった。それは近々で記憶に無い。
「でもアビスコはまだ完全じゃなかったんだよね?」
リアーナの言葉に俺は頷く。
「両目と右手、左足が無かった」
右目は俺達が所持。ちなみに今は引き千切った左手も。
そして左目、右手、左足はベレントが所持。
「それと多分、心臓も無いと思う。勘だけど」
「話を聞く限り、僕もそう思う。心臓が無いから血液が送れず干からびているんじゃないか? 勘だけど」
俺もタックルベリーと同意見。
「でも復活前でそれじゃ勝てないじゃん。勘だけど」
と、シャーリー。
「勘ばっかりかよ……とにかく私はしばらく能力が使えないからね。アビスコとベレントを見付け出して、パルにブッ殺してもらう。って事でこれ。ロザリンドが持ってて。良いよね? パル」
俺は体育教師ホイッスルの一つ、パルの笛をロザリンドへと渡す。
「それは構わねぇが……」
「持つのは私で良いのかしら?」
「リコリスだと無くしそうだし」
「今わたくしの名前を出す必要があります!!?」
「リコリス静かにしろ。余計な事を言って邪魔すんじゃねぇ」
「理不尽過ぎますわ!!」
ミツバに言われてリコリスは叫ぶ。
「はいはい。それでビスマルクさん。みんなを指揮して、アビスコ、ついでにベレントを探してください。見付けたらすぐパルに頼んでくださいね」
「ああ、引き受けよう。シノブはどうするつもりだ?」
「ミランの所です。多分ヴォル達も合流していると思いますし。もしかしたら心臓について何か情報を得ているかも知れませんから」
なんて言っている最中。最初に気付いたのはキオだった。
「シ、シノブさん……う、後ろです……い、いい、います……」
「いる!!? まさかアビスコ!!?」
キオは真っ青な顔をして頷く。
「後ろって、どの辺り……」
俺は振り返り、言葉を失う。
まるで焼け炭となった枯れ木。眼球と両手は無く、片足だけで立つアビスコ鬼王がそこにいた。手の届く所に。
ここまで誰も気配に気付けない。
最初に動いたのはアバンセとパルだった。俺を突き飛ばすと同時に、小さい体から吐き出される炎がアビスコを包む。
次に動いたのはビスマルクとヴイーヴル。
「すぐにこの場から離れるぞ!!」
ビスマルクは俺を抱き上げ、その場から駆け出した。
「キオちゃん、大変だと思うけど常に周囲の索敵をお願いね~」
「は、はい!!」
その場から全員が駆け逃げる。
そんな俺達の様子を確認したのだろう。遠目からでも分かる、アバンセとパルは元の姿へと戻る。二人の共闘体制。
「いきなり現れた時はビックリしたけど、でもこれで終わるんじゃないか?」
タックルベリーは言う。
「まぁ、アバンセとパルって言ったら世界最強はどっちか、って感じでしょ? あたし達の出番はもう終わりじゃね?」
シャーリーの言葉にリコリスも頷く。
「そうですわね。ただ、竜の力を借りるのではなく自分達の力で解決したかったですわ」
「でも能力を解放したシノブで勝てないんじゃ、俺達にはどうする事もできない。竜が味方で良かったとここは素直に喜ぼうぜ」
そう言うのはユリアン。
まぁ、確かにその通りなんだけど……
「シノブ、何か不安があるのね?」
ロザリンドに言われて気付く。そう、今、俺が感じているのは不安だ。
「……リアーナ、すぐにサンドンとヤミも呼び出して」
「えっ? う、うん」
そうしてすぐにリアーナも自分の持つ笛を吹くのだった。
ピピーピピーピピー
★★★
ありえない……そんな、ありえない……
俺達が見たのは空から墜ちる二人の竜だった。アバンセとパルが……負けた?
「逃げるぞ」
ビスマルクだ。
「で、でもアバンセとパルが……」
「アバンセとパルの二人掛りで勝てない。シノブの能力も使えない。皆殺しになる」
「だからって二人を見捨てるなんて」
しかしこの時点ですでに逃げられない状況だったのである。
「シノブ殿!!」
それは俺の服の下に潜むコノハナサクヤヒメ。俺の眼前に飛び出し、アビスコの頭突きを受け止める……が、そのまま遥か彼方まで叩き飛ばされた。
「ヒメ!!」
距離を取っていたはずだが、一瞬でアビスコは目の前に。
ビスマルクの拳と、ヴイーヴルの大剣クレイモアがアビスコの体を打つのはほぼ同時。しかし片足だけのアビスコはバランスを崩す事も無い。
片足でピョンッと跳ねる。そしてそのまま蹴りを繰り出した。
両手を交差させ、それを受けるビスマルクだったが。
空気が震えるような打撃音。ビスマルクの両手は弾かれ、アビスコの蹴りはその腹部に突き刺さった。
「ガハッ!!」
吐血と共に蹴り飛ばされる。
「パパをよくも!! 許しません!!」
「リコリス近付かないで!! リアーナ、ベリー!!」
突っ込もうとするリコリスを止めるのはロザリンド。リアーナとタックルベリーは詠唱を完成させている。
ヴイーヴルは飛び退き、リアーナの岩の槍は下から、タックルベリーの雷球は上からアビスコを狙う。
ユリアンの行動は早く、気を失うビスマルクは担ぎ上げ、その場から離れていた。
ただ魔法攻撃など足止めにもならない。
「リコリスちゃん!! シノブちゃんを連れて早く逃げて!!」
「わ、分かりましたわ!!」
駆け出したリコリスだったが、俺の目の前で弾き飛ばされ地面を転がる。アビスコの体当たりだった。動きが速過ぎて俺にはまったく捉えられない。
「てめぇ、この野郎が!!」
ミツバだ。豪腕で振り下ろされる巨大な戦斧。
同時にロザリンドとキオ、二人も斬り掛かるがアビスコは避けようともしない。
ガキンッ、と金属がブチ当たるような音。さらにヴイーヴルの大剣がアビスコの首を横薙ぎにするのだが、やはり傷一つ付けられない。
そんな中、シャーリーの魔弾が窪んだ目の中へと撃ち込まれる……が、当のアビスコは全く意に介さない。ミツバもロザリンドもキオも、ヴイーヴルでさえただの一撃で崩れ落ちる。
皆殺し……まさにその通り。最悪の結果が脳裏によぎる。
その時だった。
何だこれ、足元……水? 近場には川も池も大量の水源は無かったはず。なのに辺り一面、地面が濡れていた。気付いた次の瞬間には水かさが一気に上がる。
そしてそのまま水に押し流される。ただ不思議なのは体が沈まない事だった。まるで水が意思を持ち、何処かに運ばれているように……
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