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鬼ごっこ編
帝国図書館と五人の鬼
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現時点で判明しているのは、胸部、右手、左目を鬼側が所持。さらに左足も取られた。
しかもあの作戦は『眼球で体の場所が分かる』からこそ。つまり俺達が右目を所持している事も知られてしまったわけだ。
ただそれでも右目をキープできたのは大きい。まだまだ勝機はあるぞ!!
それにしても……左足一本を切断する為に、想像以上の時間が掛かった。ミツバが打った斧や鋸をいくつも駄目にした。とんでもない硬さ、これが全身って……不安でもある……
しかしそこで当然の疑問が生じる。
「切断できたんならさ、時間を掛ければ消滅させる方法とかあるんじゃないの? 細切れにして焼いて灰にして川に流すとか」
と、シャーリー。
「ああ、それね。『その状態にしても復活する可能性』があるからだって。いつかどこか、知らないトコで復活する可能性があるなら、そのままバラバラにして管理した方が良いって事みたいよ」
どんだけ生命力が強いんだか。
★★★
一方、これは後から報告された話。帝国側で起きていた出来事である。
ミラン、ハリエットと合流するホーリーとドレミド。この時点ではまだ鬼の目的は分かっていない。ただミランは鬼と思われるユッテと顔を合わせている。
そこでユッテが骨董品屋で買い求めた物を調べた。それは黒く干からびた右足の人体標本。没落した王国貴族の家から売り払われた物らしい。
その後、ヴォルフラムとフレアが、ベルベッティアとアリエリを連れてさらに合流。ただアルタイルだけは別行動中。ここでミラン達は鬼の目的を知る。
右足は相手に渡ってしまった。そこで帝国にあると思われる残りの左目を捜索する事になるが、実はこの時点ですでに左目も鬼達の手元である。だがミラン達はその事をまだ知らない。
何の手掛かりも得られずに数日。
大陸内でも屈指の帝国図書館で関連するような情報を集めるが……
「……ふぅ」
ミランは大きく息を吐く。
「なかなか見付からないのね」
それはアリエリの頭の上に乗るベルベッティア。
「王国の建国由来を考えれば、それに関する資料は厳重に処分されているだろうからな。それと思わせるような記述は見付けたが……」
それは決定的な情報ではない。
「シノブとね、一度合流する?」
アリエリの言う通り、このまま何も進展が無ければそれも考えるか……なんて時である。
最初に気付いたのは図書館の外、持ち込み禁止の武具と共に待機をしていたヴォルフラムだった。その鼻と耳がピクッと反応する。
気付くと同時、武具を背中に図書館の中へと飛び込んだ。最初に目に入ったのはホーリーとハリエット。
「ホーリー、ハリエット。敵。図書館の利用者を早く逃がせ」
次にドレミド、フレアを集めてミランの元に。
「敵。相手は五人。今、ホーリーとハリエットが他の人を逃がしている。それとこれ」
「助かる。ヴォル、大体の強さは分かるか?」
ミランは長剣と大盾を手に取る。
「雰囲気だとビスマルク、ヴイーヴルに近い」
「ミラン、ヴォル、フレア、アリエリ、私で五人だ。人数的には同じだな」
「ドレミドはね、情報集めではね、全く役に立たないからこういう所で頑張ろうね」
「アリエリが酷い!!」
そんな様子を見てニコニコとしているフレア。
いつもと変わらない様子にベルベッティアも思わず笑ってしまう。そしてアリエリの頭から飛び降りる。
「私はホーリー、ハリエットを手伝うわ」
そして図書館に現れたのは炎のような赤い二つの角と、黒に近い褐色の肌を持つ五人の鬼。各々が手に持つ金棒。それは無骨な鉄製の鈍器、棍のようだった。
その中にはミランの知る顔もいる。
「ユッテ……」
「手合わせじゃなくて本番。それも良いでしょう?」
「目的は何だ?」
ミランには相手の目的が全く分からない。予想もできない。なぜならこのタイミングで姿を露わす必要が無いからだ。
無理やり理由を探せば、混乱させる事が目的かも知れないが……
「もう自由に動けそうにないから。できるうちにする」
ユッテの表情や声からは何も感じ取れない。ただ淡々とそう口にした。
「俺ぁ、バスティアンってモンだけどよぉ、話は俺達を叩き潰して聞き出せや」
そう言って金棒を構え、最初に動いたのは鬼の老人。細い体だが、その筋張った筋肉は鋼鉄のワイヤーのようにも見えた。
その突進を突進で受け止めるのはヴォルフラム。人の頭など簡単に噛み砕く大口。その中で牙がギラリと光る。
バスティアンは金棒を横にして受け止めた。ヴォルフラムは金棒にガシッと噛み付くと、そのままバスティアンを押し返す。
「ははっ、さすがにとんでもねぇ力だな!!」
そのまま図書館の外へと飛び出すのだった。
「……」
それはまだ少年。年齢的には十代の前半、まだ顔にあどけなさを残す鬼。体に不釣合いな程に大きく太い金棒を構える。
「ここは図書館だからね。外で良い?」
対抗するのはアリエリ。
「……ガキか」
「……」
「……お前みたいなガキじゃ俺の相手にならない」
「……あのね、私の方が少し大きいよね?」
「いや、俺の方が大きいし」
「ううん。そんな事ないよ。私の方がね、大きいから」
「うっさいガキ」
「……」
「早く終わらせてやるからな」
「……鬼って強いみたいだから。本気でやっても大丈夫だよね」
揃って図書館を出て行くアリエリと少年。並ぶその姿は友達同士のようにも見えるが、その戦いは……
「図書館か。俺には縁の無い所だな」
それは病的に痩躯な鬼。以前、リコリスと対峙した鬼である。
「私もだ」
そう言って長剣を抜くのはドレミド。
「ドレミドだったな。馬鹿だが剣の腕は相当なんだろう?」
「だ、誰だ、そんな嘘を言うのは!!? 別に馬鹿じゃないぞ!!」
「しかしだ。剣に関してだけは別。天才とも聞く」
「天才!!? そ、そうだな、自慢じゃないが私は天才だぞ、えっと……」
「ラマートだ」
「ラマート。素直に降参するんだ」
「断る。負けるつもりも無いからな」
そう言ってラマートは金棒を構えるのだった。
「まぁ、ミラン君の相手はユッテがするんだろうしねぇ。じゃあ、俺の相手はフレアさんがしてくれるんだねぇ」
そう言うのは肥満の鬼。こちらは以前にユリアンが対した鬼だった。
フレアはニコッと微笑む。
フレアの周囲に幾つもの魔法陣が浮かび上がった。同時に何種類もの防御魔法を展開させている。
「ああ、自己紹介がまだだった。俺はキーズ。よろしく頼むよ」
キーズも金棒を構えるのだった。
周囲を見回すユッテ。
「立派な図書館だけど、壊れちゃうかも。貴重な本もあるんじゃない?」
「ここにあるのは写本がほとんどだから気にするな。でも帝国としては復旧に時間が掛かるからなるべくなら無傷で頼みたい」
ミランは右手に巨大な盾、左手に長剣を構えた。
「室内で戦うなんて普段はできないから。面白そうだし、多分無理」
そう言ってユッテは金棒を構えるのだ。
★★★
ユッテは突進、金棒を突き出す。
ミランはその一撃を盾で止めるのではなく……
ガギンッッッ
激しい金属音。
盾で金棒を叩き、弾き飛ばす。そして長剣を横薙ぎ。ユッテの胴体を狙う。
しかしユッテは弾き飛ばされた勢いを利用して金棒を回転。ミランの頭部を狙う。
お互いが体を捻り、お互いの一撃を避け、お互いが間合いを取るように後方へと飛んだ。
そしてユッテは身を隠すように背の高い並んだ本棚の間へと飛び込んだ。しかしミランはそのユッテを追わない。
「うぉぉぉぉぉっっっ!!」
木製ではあるが、足元を金属で固定されている本棚。その本棚をミランは力で押し動かす。固定していた金属は弾け飛んだ。そのまま本棚でユッテを押し潰すつもりなのだ。
しかし……
ドンッ
無数の本が吹き飛ぶ。
本棚の向こう側。ユッテの金棒の一撃が本棚を貫通し、金棒はミランの頬を掠める。
同時にミランが突き出した長剣も本棚を貫通する。
ユッテの姿は見えない。しかしこの本棚の向こう側にいる事は気配で分かる。それはユッテもだろう。
本棚越しに何度もお互いの武器を突き繰り出す。
やがてユッテは本棚が存在しないかのように金棒を振り回した。
本棚は砕け、無数の本と紙が舞う。その中に一瞬だけ見えたユッテの姿。ミランは大盾を前面に構えて突進するのだった。
しかもあの作戦は『眼球で体の場所が分かる』からこそ。つまり俺達が右目を所持している事も知られてしまったわけだ。
ただそれでも右目をキープできたのは大きい。まだまだ勝機はあるぞ!!
それにしても……左足一本を切断する為に、想像以上の時間が掛かった。ミツバが打った斧や鋸をいくつも駄目にした。とんでもない硬さ、これが全身って……不安でもある……
しかしそこで当然の疑問が生じる。
「切断できたんならさ、時間を掛ければ消滅させる方法とかあるんじゃないの? 細切れにして焼いて灰にして川に流すとか」
と、シャーリー。
「ああ、それね。『その状態にしても復活する可能性』があるからだって。いつかどこか、知らないトコで復活する可能性があるなら、そのままバラバラにして管理した方が良いって事みたいよ」
どんだけ生命力が強いんだか。
★★★
一方、これは後から報告された話。帝国側で起きていた出来事である。
ミラン、ハリエットと合流するホーリーとドレミド。この時点ではまだ鬼の目的は分かっていない。ただミランは鬼と思われるユッテと顔を合わせている。
そこでユッテが骨董品屋で買い求めた物を調べた。それは黒く干からびた右足の人体標本。没落した王国貴族の家から売り払われた物らしい。
その後、ヴォルフラムとフレアが、ベルベッティアとアリエリを連れてさらに合流。ただアルタイルだけは別行動中。ここでミラン達は鬼の目的を知る。
右足は相手に渡ってしまった。そこで帝国にあると思われる残りの左目を捜索する事になるが、実はこの時点ですでに左目も鬼達の手元である。だがミラン達はその事をまだ知らない。
何の手掛かりも得られずに数日。
大陸内でも屈指の帝国図書館で関連するような情報を集めるが……
「……ふぅ」
ミランは大きく息を吐く。
「なかなか見付からないのね」
それはアリエリの頭の上に乗るベルベッティア。
「王国の建国由来を考えれば、それに関する資料は厳重に処分されているだろうからな。それと思わせるような記述は見付けたが……」
それは決定的な情報ではない。
「シノブとね、一度合流する?」
アリエリの言う通り、このまま何も進展が無ければそれも考えるか……なんて時である。
最初に気付いたのは図書館の外、持ち込み禁止の武具と共に待機をしていたヴォルフラムだった。その鼻と耳がピクッと反応する。
気付くと同時、武具を背中に図書館の中へと飛び込んだ。最初に目に入ったのはホーリーとハリエット。
「ホーリー、ハリエット。敵。図書館の利用者を早く逃がせ」
次にドレミド、フレアを集めてミランの元に。
「敵。相手は五人。今、ホーリーとハリエットが他の人を逃がしている。それとこれ」
「助かる。ヴォル、大体の強さは分かるか?」
ミランは長剣と大盾を手に取る。
「雰囲気だとビスマルク、ヴイーヴルに近い」
「ミラン、ヴォル、フレア、アリエリ、私で五人だ。人数的には同じだな」
「ドレミドはね、情報集めではね、全く役に立たないからこういう所で頑張ろうね」
「アリエリが酷い!!」
そんな様子を見てニコニコとしているフレア。
いつもと変わらない様子にベルベッティアも思わず笑ってしまう。そしてアリエリの頭から飛び降りる。
「私はホーリー、ハリエットを手伝うわ」
そして図書館に現れたのは炎のような赤い二つの角と、黒に近い褐色の肌を持つ五人の鬼。各々が手に持つ金棒。それは無骨な鉄製の鈍器、棍のようだった。
その中にはミランの知る顔もいる。
「ユッテ……」
「手合わせじゃなくて本番。それも良いでしょう?」
「目的は何だ?」
ミランには相手の目的が全く分からない。予想もできない。なぜならこのタイミングで姿を露わす必要が無いからだ。
無理やり理由を探せば、混乱させる事が目的かも知れないが……
「もう自由に動けそうにないから。できるうちにする」
ユッテの表情や声からは何も感じ取れない。ただ淡々とそう口にした。
「俺ぁ、バスティアンってモンだけどよぉ、話は俺達を叩き潰して聞き出せや」
そう言って金棒を構え、最初に動いたのは鬼の老人。細い体だが、その筋張った筋肉は鋼鉄のワイヤーのようにも見えた。
その突進を突進で受け止めるのはヴォルフラム。人の頭など簡単に噛み砕く大口。その中で牙がギラリと光る。
バスティアンは金棒を横にして受け止めた。ヴォルフラムは金棒にガシッと噛み付くと、そのままバスティアンを押し返す。
「ははっ、さすがにとんでもねぇ力だな!!」
そのまま図書館の外へと飛び出すのだった。
「……」
それはまだ少年。年齢的には十代の前半、まだ顔にあどけなさを残す鬼。体に不釣合いな程に大きく太い金棒を構える。
「ここは図書館だからね。外で良い?」
対抗するのはアリエリ。
「……ガキか」
「……」
「……お前みたいなガキじゃ俺の相手にならない」
「……あのね、私の方が少し大きいよね?」
「いや、俺の方が大きいし」
「ううん。そんな事ないよ。私の方がね、大きいから」
「うっさいガキ」
「……」
「早く終わらせてやるからな」
「……鬼って強いみたいだから。本気でやっても大丈夫だよね」
揃って図書館を出て行くアリエリと少年。並ぶその姿は友達同士のようにも見えるが、その戦いは……
「図書館か。俺には縁の無い所だな」
それは病的に痩躯な鬼。以前、リコリスと対峙した鬼である。
「私もだ」
そう言って長剣を抜くのはドレミド。
「ドレミドだったな。馬鹿だが剣の腕は相当なんだろう?」
「だ、誰だ、そんな嘘を言うのは!!? 別に馬鹿じゃないぞ!!」
「しかしだ。剣に関してだけは別。天才とも聞く」
「天才!!? そ、そうだな、自慢じゃないが私は天才だぞ、えっと……」
「ラマートだ」
「ラマート。素直に降参するんだ」
「断る。負けるつもりも無いからな」
そう言ってラマートは金棒を構えるのだった。
「まぁ、ミラン君の相手はユッテがするんだろうしねぇ。じゃあ、俺の相手はフレアさんがしてくれるんだねぇ」
そう言うのは肥満の鬼。こちらは以前にユリアンが対した鬼だった。
フレアはニコッと微笑む。
フレアの周囲に幾つもの魔法陣が浮かび上がった。同時に何種類もの防御魔法を展開させている。
「ああ、自己紹介がまだだった。俺はキーズ。よろしく頼むよ」
キーズも金棒を構えるのだった。
周囲を見回すユッテ。
「立派な図書館だけど、壊れちゃうかも。貴重な本もあるんじゃない?」
「ここにあるのは写本がほとんどだから気にするな。でも帝国としては復旧に時間が掛かるからなるべくなら無傷で頼みたい」
ミランは右手に巨大な盾、左手に長剣を構えた。
「室内で戦うなんて普段はできないから。面白そうだし、多分無理」
そう言ってユッテは金棒を構えるのだ。
★★★
ユッテは突進、金棒を突き出す。
ミランはその一撃を盾で止めるのではなく……
ガギンッッッ
激しい金属音。
盾で金棒を叩き、弾き飛ばす。そして長剣を横薙ぎ。ユッテの胴体を狙う。
しかしユッテは弾き飛ばされた勢いを利用して金棒を回転。ミランの頭部を狙う。
お互いが体を捻り、お互いの一撃を避け、お互いが間合いを取るように後方へと飛んだ。
そしてユッテは身を隠すように背の高い並んだ本棚の間へと飛び込んだ。しかしミランはそのユッテを追わない。
「うぉぉぉぉぉっっっ!!」
木製ではあるが、足元を金属で固定されている本棚。その本棚をミランは力で押し動かす。固定していた金属は弾け飛んだ。そのまま本棚でユッテを押し潰すつもりなのだ。
しかし……
ドンッ
無数の本が吹き飛ぶ。
本棚の向こう側。ユッテの金棒の一撃が本棚を貫通し、金棒はミランの頬を掠める。
同時にミランが突き出した長剣も本棚を貫通する。
ユッテの姿は見えない。しかしこの本棚の向こう側にいる事は気配で分かる。それはユッテもだろう。
本棚越しに何度もお互いの武器を突き繰り出す。
やがてユッテは本棚が存在しないかのように金棒を振り回した。
本棚は砕け、無数の本と紙が舞う。その中に一瞬だけ見えたユッテの姿。ミランは大盾を前面に構えて突進するのだった。
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