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鬼ごっこ編

面倒な事と王国の建国

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 そしてこれも俺が後から聞いた話。

 王立学校で窃盗があった時に、別用件で行動をしていたビスマルクとヴイーヴル。それは学校長に頼まれた用件である。
 少し離れた地方都市で発見された標本の受け取り。その帰り。
 飛竜の手綱に手を掛けるビスマルク。その隣を自らの竜の翼で飛ぶヴイーヴル。
「ねぇねぇ、ユー君とリコリスちゃんの事なんだけど~少し注意した方が良いのかしら~? ちょっと多過ぎよねぇ~ 二人に会うとお互いのにおいがするわ~」
「ああ、その事か。若いから気持ちも分かるがな」
「でもまだ学生なんだから赤ちゃんができちゃったら大変よ~」
「仕方ない。それも若さだな、ガハハハハッ」
 なんて二人が話をしていると。

 ヒュンヒュンヒュン、と風を切る音。
 その音が急速に近付いてくる。

「ヴイーヴル!!」
「っ!!」
 ビスマルクが叫ぶのと同時。ヴイーヴルは大剣を抜き、咄嗟に構える。その真下から棒状の何かが回転をしながら飛んでくる。

 ドギンッッッ、重く響く金属音。
 弾き飛ばされるヴイーヴル。そのまま落下するが、それをビスマルクの飛竜が受け止めた。
「ヴイーヴル!! 大丈夫か!!?」
「……直撃はしてないけど……まさかここで攻撃されるなんてねぇ~」
「タイミング的に狙いはこの標本しか考えられないな」
「面倒な事にならないと良いけど~」
 なんてヴイーヴルは言うが、もちろん面倒な事に繋がっていくのである……

★★★

 さらにこれも俺が後から聞いた話。

 帝国での話。
 アルテュールの件で、いくつかの小国が帝国に反乱の兆しを見せた。その事で帝国は少しだけ混乱した。その帝都の治安維持に当たるのがミランを中心に結成された部隊である。
 王都に勝るとも劣らない整理された街並み。帝都は出自や種族の差別は小さく様々な人間が存在する賑やかな都市でもあった。
 街中を巡回する治安部隊。巨大な盾を背負うミランが足を止める。
「待て」
「……」
 足を止めて振り返るのは今すれ違った女。それはミランが見た事の無い種族の女だった。年齢的には十代後半から二十代前半、ミランとあまり年齢は変わらないように見える。腰の下まで垂れる長い黒髪、褐色の肌は黒に近い。そこまでは珍しくない。しかしその額、髪の生え際辺りから二本の赤い角が伸びていた。炎のように荒々しい角をミランは知らない。
 向き直るミランの左手が帯剣した柄に掛かる。
「……私が……何かした?」
 女は無表情。
「連行しても構わないな?」
「……」
「……」
「……ごめんなさいね。あなたがミランでしょう? 私はユッテ」
「分かってて殺意を向けてきたわけか」
「私は自分の武力にそこそこ自信があってね。そこで偶然あなたの姿を見付けた。大陸を救い、『鉄壁』のミランとも呼ばれる、あなたの強さが気になった。それだけなの」
 全く表情の無いユッテは何を考えているのか分からない。
「……ここにいる目的は?」
 ユッテはミランの背後を指差す。
 しかしミランは振り返らず、視線をユッテから外さない。
「趣味の買物。向こうにね、良い骨董品のお店があるの。ちゃんと購入しているから安心して」
 ミランは手の動きで部下に合図を送る。ユッテの話の真偽を確認しに行け、と。
「……」
「……」
「……」
「……ねぇ、ミラン。救国の小女神とその仲間達。やはりみんな強い? 全員がミランと同程度の力を持っているの?」
 ミランは小さく笑った。
「俺より強い奴は何人もいる。悔しいけどな」
「実は私もなの。周りが強い仲間ばっかりで」
 そのユッテの表情は全く変わらないが、声のトーンがほんの少しだけ明るくなったような気がした。
 そしてミランに部下からの報告が。骨董品店は確かに存在し、ユッテはきちんと適正価格で商品を購入している。何も問題は無い。もちろん拘束する事などできない。
「問題無い。行って良いぞ」
「分かって貰えて良かった」
 その場から離れようとするユッテ。
「ユッテ」
「はい?」
「今度は殺気なんて送ってくるなよ。普通に言えば相手をしてやる」
「嬉しい。いつかね」
 やっぱり最後まで表情を変えないでユッテは人混みの中に消えていくのだった。

★★★

 今日はサンドンの地下神殿へ。
 古代竜・冥界の王サンドンと言えば、竜の中でもさらに高齢。長く生き、その知識量は随一だもんな。ベルベッティアも不老不死ではあるが、この世界だけに留まっているわけではない。やっぱり話を聞くならサンドンだろ。
 フワフワの小さなサンドンを胸に抱える。
「しかしサンドンも腕の中が好きだよね~」
「特に若い娘の腕の中が好きじゃな」
「エロジジイじゃん……」
 サンドンは笑う。
「しかし話とは何じゃ?」
「うん。それなんだけどあんまり見た事のない種族の人がお店に来てさ、サンドンだったら分かるかな、って。黒髪で、肌も黒に近いぐらいの褐色。それと頭に二つの赤い角。それも枝分かれをしてて、炎みたいな角なんだけど」
 まぁ、ユリアンとヴイーヴルみたいな例もあるしな。二人とも竜の力を発動すると角が生えるし。
「……ちょっと待てくれ」
 サンドンは腕の中から飛び出した。そして本来の姿へと戻る。巨躯の体を白い毛で包む竜。
「どうしたの?」
「驚いておる。遥か昔に滅んだと思われている種族じゃからな」
「でも私も色んな文献とか読むけど、そんな種族の話とか見たことないんだけど」
「それはもちろんじゃ。『鬼』とも呼ばれる消された種族でもあるからな」
「ちょっと待って。不謹慎かもだけど面白い話になってきた」

 それは王国の建国時の話である。

 遥か昔。この大陸を支配していた種族。その種族は黒い髪と濃い褐色の肌、赤い二本の角を持つ。特徴的なのは、その圧倒的な戦闘力だった。
 その中でもさらに特出した戦闘力を持つ男が現れる。名をアビスコ。自らを鬼と呼称し、やがて鬼はその種族を表す言葉となり、アビスコは王となる。
 これがアビスコ鬼王。

 しかし鬼は数として少ない種族であり、鬼の、力での支配をその他の種族が受け入れるわけない。
 戦争である。
 結果として鬼は滅び、王国が建国された。

「歴史書の『混乱をしていた地を初代国王が平定した』なんて簡単な説明だけで不思議だったけど……書けない事があったという事なんだね」
「そうじゃな。なんせ王国を建国したのは人ではなく竜なのだから」
「っ!!?」

 圧倒的な力を持つアビスコ鬼王。
 他種族はそれに対抗する為に竜の力を借りたのだ。人との接点を持つ竜。
 酒呑みバッカス。人の作る酒に溺れる竜である。

「さすがにバッカスには勝てなかった。アビスコは倒され、鬼と呼ばれた種族は滅んだ。その後にバッカスが王国を建国したんじゃよ。人の国を創れば、王であるバッカスに酒を貢ぐからじゃ。ただバッカス自身は呑み過ぎですぐに死んでしまったがな」
「は~~~凄いね、私、今、歴史の真実の一つを知ったわけなんだねぇ~~~」
 バッカスが死んだ後に人間が後釜に座ったわけか。そりゃ歴史書に書けねぇよ。王国内には人間至上主義も多い。その国を建国したのが竜だったなんて口が裂けても言えないだろ~
「でも鬼は完全に滅んでいなかった事だよね」
「逃げて生き延びた者もおったのじゃろう。もう随分と時も経っておるし、文献にも鬼の記述は無い。姿を見せても珍しい種族という事で済むだろうさ」
 でも何でわざわざ俺の姿を見に来たんだ? ただの興味本位ならそれで良いけど、うちに来た鬼の口振りからすれば絶対にそれだけじゃない。
「ちなみにではあるが、ララもアビスコ討伐を手伝っておったぞ」
 悠久の大魔法使いララ・クグッチオ。現・王立学校長チオ・ラグラックも関係していたのか。機会があったら話も聞いてみたいもんだぜ。
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