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大陸のアイドル編

スフィンクスとパンツおじさん

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「知っているのか?」
「うん。王立学校の時の同級生なんだけど」

 王国で有数の名家でもあるロイドエイク家。
 同級生であった、ディン・ロイドエイク。
 俺を見下していた嫌な奴。模擬戦の二回戦でボコボコにしてやったら、その報復で顔面をブン殴られた。ディンの停学後に俺も退学したので、その後あの馬鹿がどうなったのかは知らない。

「ほーう、シノブをか。よし、物理的に消滅させよう」
「そうして欲しいけど。でも何でロイドエイク家が私と?」
「そこまでは分からなかったな。どちらにしろまたニーナ経由で話を通せば良いだろう」
「まぁ、そうだけど……」
 あの一件でディンは確実にその名前に傷が付いた。ロイドエイク家が俺に良い印象を持つわけ無い。その俺と結婚なんて考えるか? 嫌な予感がするぜぇ……

★★★

 もちろん嫌な予感をそのままにするつもりはねぇ。
 すぐさまレオ経由でロイドエイク家の周囲を調べてみる。
 そして分かった事。
 今、王国の中で勢力を伸ばしている派閥がある。その派閥の中の一つがロイドエイク家。嫌な予感がするのはその派閥のメンバー。そのほとんどが人間至上主義であり、エルフやその他を劣等種族と考える。そして女神アリアを裏切りの邪神としている。
 エルフの町で育ち、アリアの見た目に似ている俺にとってはまさに天敵。
 そしてそのグループを支持するのがラムニタ海商。実はここ、スヴァル海商とモア商会が合同で設立した商会なんだよね。

 ……って、事で。
「お久しぶりです。お母さんがいなくても会ってくれるんですね」
「面会を拒絶されるとは思わなかったのかい?」
「はい。話は聞いていると思うので」
 俺はニコッと笑みを浮かべる。
 交易都市、本で満たされた一室、目の前には年齢不詳のエルフ。血は繋がっていないが、俺から見れば曾祖母になるのか。実質的にモア商会を取り仕切るメリッサだ。
「小賢しい娘だ」
「まぁまぁ、小賢しい娘のつまらない話です」
「……聞こうじゃないか」
「じゃあ、さっそく本題に。まず私の事を極端に敵視する存在の一つがラムニタ海商ですね。スヴァル海商のジャンスさんにとっては商売敵、モア商会のドミニクスさんにとっての私は跡取り候補」
 ドミニクスはモア商会の次期代表とされているが、メリッサの血縁者ではない。
「ありえない」
「もちろんありえないです。メリッサさんの方からも話はしてあるんでしょうし。それでも頭の中からはその可能性が消えないんでしょうね」
「……」
「それともう一つの存在。エルフの町で育てられた裏切りの邪神そっくりな忌むべき小娘。そんな小娘が大陸を救ったなどと持て囃され、商会も順調に稼いでいる……私の事が許せないくらい憎いでしょうね、その存在は」
「王国の一派閥だね」
「はい。『シノブが邪魔』っていうお互いの利害関係が一致したんでしょう。だからその派閥をラムニタ海商が金銭面で支持していると」
「その割にはロイドエイク家がお前との婚姻を望んでいるらしいが」
「いやいや、普通に分かりますよ。敵対する危険を考慮して、逆に取り込んでやろうって事でしょう」
 そこでメリッサは笑う。
「だからどうだっていうんだい? また私から何か話を通せと? そこまでする義理は無いね」
「逆ですよ。私はメリッサさんの為に忠告してあげようと思いまして」
「必要無い」
「って、思いますよね。情報を常に集めているんでしょうから。王国のその派閥は人間至上主義、エルフを劣等種族として見下しています。エルフが立ち上げたモア商会に良い印象はありませんよ。きっと何処かで軋轢が生じます」
「本当にくだらない忠告だね。そんな事は織り込み済みで協力しているんだろうよ」
「そこに一つ。メリッサさんが知らない情報があったら?」
「無いね」
「どうしてロイドエイク家なのか?」
「ロイドエイク家にはお前と同じ年齢の息子がいるだろう。王立学校でも一緒だったはずだ。話をするのに調度良いのだろう」
「多分、私怨」
「私怨?」
「ロイドエイク家にとってはある意味で汚点ですからね。あまり公にされていない出来事があります。私にも関係のある話なんですけど」

 ディンとの喧嘩は俺にとっては小さな出来事。でも面子を気にする家柄ならどうか。その家柄が高ければ高い程に許せない出来事だったのではないか。だから隠しているはず。
 その時の出来事を説明した上で俺は言う。
「もし婚姻の件に私怨が絡んでいるのだとしたら、理屈じゃ説明できない行動だってありえます。そんな相手とお付き合いをするのは危険じゃありませんか?」
「本当に私怨が絡んでいるならね。確かに調べてみる必要はありそうだが……ただそれを私に伝える意味が分からない」
「だってモア商会ならそれを上手く利用してくれそうですし。結果として私に恩恵があれば」
「お前はとんでもない女だね」
「ありがとうございます」
 そうして俺は笑う。
 まぁ、これでとりあえずロイドエイク家の方は様子見だな。 

★★★

 生物として頂点に立つのは竜。
 しかしその竜に並び立つような存在もいる。
 例えばカトブレパス。視線で相手を即死させるその能力は竜でさえ忌諱する。
 例えばユニコーン。戦闘能力では竜に及ばないが、その角の治癒能力はまさに唯一無二。

 その巨体は竜に劣らない。人の顔と獅子の体を持つ。
 謎かけを行い、答えられない者を優越感を浮かべて見下してくる。その名はスフィンクス。
 そんな存在が俺を訪ねて来たのだ。
 ざわつくエルフの町から引き離す。
「キサマがシノブか!!?」
「は、はい、私がシノブですけど、スフィンクスさんですよね?」
「第一問!!」
「ちょっと待って!! 話を聞いて!!」
「んん? 降参か?」
「まだ問題も出してないですよね!!? そうじゃなくて、あなたの事は話に聞いています。謎かけ勝負を挑んでくる迷惑な奴だって。勝っても負けても何も無いけど、謎かけを拒むと人を食べてしまうんですよね? そのスフィンクスさんが何で私の所に?」
 ちなみに今までスフィンクスに謎かけで勝った者はいない。
「キサマはその頭で大陸を二度救った。そして我輩も頭には自信がある。互いの知恵比べ、第一問!!」
「くっ」
 この野郎、聞いていた通り迷惑な奴だ!!
「パンはパンでも食べられないパンはなぁ~んだ?」
 えっ!! 知恵比べってこの程度!!?
 そこで一緒に付いてきているシャーリー。
「はい!! 分かりません!!」
「ちょっとシャーリー……」
「いや、分からなくても問題無いんでしょ? どうなるか気になるし」
 ちなみにフレア、ホーリー、ヴォルフラムも一緒。もちろんスフィンクスが少しでも危害を加える素振りを見せればすぐに行動するだろう。
 そしてスフィンクスは鼻で笑った。そしてニヤニヤと見下した視線で言う。
「ばーか」
 何だコイツ、マジで。
「どうだ、シノブ、キサマは分からんのか?」
「フライパン」
「正解!! キサマ、賢者か!!?」
「……」
「だ、第二門!! 上は洪水、下は大火事、これなぁ~んだ?」
「お風呂」
「即答!!? さすがに恐ろしい、実に恐ろしい頭脳だ……正解」
「……」
「第三問!! よんでもよんでも返事をしないものはなぁ~んだ?」
「本」
「せ、正解だ……三問連続とは……我輩に並ぶか……」
「それは違うと思います。私が出す謎かけに答えられないなら、スフィンクスさん、あなたは私より下です」
「この我輩に挑むと言うのか!!? 面白い!!」
「いきますよ!! 第一問!! パンはパンでも食べられないパンはなぁ~んだ?」
「愚問だな。フライパン」
「不正解。正解はパンツおじさんです」
「……パンツおじさん?」
「はい。近所に住むおじさんです。だよね、シャーリー」
「ああ、パンツ一丁で出歩く髪の薄い変態でしょ? たまにいるよね」
「パンツおじさんは食べられませんし。はい、不正解一つ」
「ぐぬぬっ」
「次、第二問!! 上は洪水、下は大火事、これなぁ~んだ?」
「風呂だ!!」
「不正解、正解はパンツおじさん」
「!!?」
「パンツおじさんの家で火事がありまして。火事が一階、二階で寝ていたパンツおじさんが失禁したって聞いています。これで不正解二つですね」
「意味が、意味が分からない……」
「最後の第三問!! よんでもよんでも返事をしないものはなぁ~んだ?」
「本に決まっている!!」
「ブー、不正解。正解はパンツおじさん」
「またパンツおじさん!!?」
「パンツおじさん、火事で家を失ったショックでいくら呼び掛けても返事をしないんです」
「そして予想以上に悲しい話」
「これで不正解三つです。私の勝ちです。ばーか」
「この我輩がぁぁぁっ!! 謎かけで完全に負けただとぉぉぉっ!! うおぉぉぉぉぉっ!!」
「そして私からの第四問!! 朝は四本足、昼は二本足、夜は三本足、これなぁ~んだ?」
「パ……パンツおじさん?」
「不正解。正解は人。赤ちゃんは四つん這い、大きくなって足で立ち、老人は杖を使うから。時間の経過になっています」
「パンツおじさんは人であろう?」
「パンツおじさんはまだ杖使う歳じゃないし」
「くおぉぉぉっ、では我輩からの第四問!! この四問目で全ての勝負が決まる!! この謎かけに答えられたのならキサマの勝ち、答えられなければ我輩の勝ちだ!!」
「今までの謎かけの意味は……」
「いくぞ!! 生まれ変わってカミと呼ばれるおじさん、これだぁ~れだ?」
「……」
『生まれ変わり』、救国の小女『神』と呼ばれる、前世の『おじさん』……答えは『俺』だ。
 そういう事か、スフィンクスが謎かけで負けない理由は。それが能力なのか、答えられない謎かけで勝負を決する。
「どうした? 分からんのか?」
「……」
「降参か? 降参か?」
「……」
「んー? どうした? 答えは?」
「……せん」
「聞こえんぞ? 何だぁ?」
「……分かりません」
「我輩の勝ちのようだな。ふふんっ」
 スフィンクスは見下した視線を送りながら言う。
「答えはパンツおじさんだ」
「パンツおじさん!!? ど、どういう……」
「さらばだ!! 敗者共よ!! ばーか、ばーか」
 そして去っていくスフィンクス。
「ねぇ、シノブ、あれ何なん?」
「さぁ、知らないよ……」

★★★

 後日。
「ちょっと、シノブ、あそこ、パンツおじさん」
 シャーリーが視線を向けるその先。
 パンツおじさんだ!! しかし。
「あれ、本当だ。でも普通に服着てるけど」
「あたしも噂で聞いたんだけどさ、家が焼けてから『生まれ変わった』ようにきちんと働いているんだって」
「何の仕事してるんだろうね?」
「散『髪』屋さんだって。本人はほとんど髪が無いくせにさ」
「くせに、って事はないでしょーよ……」
 まぁ、働く先があるって素敵よね。
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