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大陸のアイドル編
求婚禁止令と身辺調査
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俺のお店、その応接室。
背後にはフレアとホーリーが控えている。
「見た目は子供のようだが確かに美しい。家柄は少し気になるが二度も大陸を救った事を考慮して目をつぶろう。お前を私の妻として招き入れる」
「……ほーん」
その男の年齢は二十代の前半だろうか。見た目はまぁ普通ってトコ。ただ身なりは良い。センスはさて置き、高そうな服と装飾品を纏っている。
何人もの従者を連れて店に乗り込んで来やがったのだ。
「もうここで働く事もない。楽をさせてやろう」
「あの、申し訳ありませんが、今はまだ結婚なんて考えられませんのでお断りしています」
アルテュールの件で俺の事は大陸全土に知れ渡っている。以降こうして結婚の申し込みが後を絶たない。
「断ると言うのか? 私が誰だか分かっていないのか?」
男は不快な様子を隠そうとしない。
「ごめんなさい」
「……竜の花嫁だったか……まさかこの私より粗暴な竜を選ぶわけじゃないだろう?」
「そういうわけじゃありません。ただ今はお店の事もありますし、なかなかそういう事は考えられなくて」
「だから働く必要などないと言っているだろう!!」
ドンッとテーブルを叩く男。おいおい、一体どっちが粗暴だってんだ?
そこでホーリー。
「差し出がましいようで恐縮ですが、王国の方からお話はありませんでしたか?」
「……」
男は黙ってしまう。
貴族や何やらからあまりにも結婚の申し込みが多いので、ニーナ経由で王国側からお達しを出してもらっていた。『シノブへの求婚禁止令』を。
それを出されたら男は黙って引き下がるしかない。おいおい、それが今しがた求婚した相手に向ける目か……憎々しげに睨み付けながら応接室を出る。
「マジ疲れた。マジ面倒くせぇ」
「シノブ様」
ニコニコしたフレアがお茶を俺の前に置く。
「本当にお疲れ様です。でも今月も多いですね。王国から下達はあったはずですが」
そしてホーリーはお菓子を目の前に。
「まぁ、そういうの分からない馬鹿もいるんでしょ」
俺はお菓子を口の中に放り込みお茶で流す。
ちなみにフレアとホーリーにもお店経由でお見合いの話がいっぱい。二人とも全部断ってはいるが、有名になると大変よの~
★★★
簡単に印象を変えるなら、やっぱり小道具を使おう。
白く長い髪、前髪を8:2で分ける。そして2の方の髪を耳に引っ掛けるようにして後ろへと流す。そして色や形、飾りも違う何本ものヘアピンで後ろに流した髪を固定する。
片方でも耳を出すだけでかなり印象変わるよね。それに何をしても俺って可愛いぜ。
そして胸元に大きな白いリボンのある白いブラウス。濃い灰色、スーツのような上着。下はセットの山折谷折プリーツスカート。そこにダークブラウンのブーツを合わせる。
リボンが子供っぽい気もするが、これが良く似合ってんだよな。
いやいや、デートじゃないんだよ。
ただアバンセには世話になってるから、買物に付き合ってやるだけなんだよ。花の都でガーデニング用の花の種をね。
……まぁ、手は繋いでいるけど。
「しかし、シノブ……これはどういう事だ?」
「仕掛けたのは私達でもあるんだけどね。ここまで盛り上がるとは思わなかったよ」
街の中、周囲を見回すアバンセ。
白い髪と赤い瞳。大人も子供も、同じような姿をした奴が何人もいる。
「凄いでしょ。私のコスプレ」
「こすぷれ?」
アルテュールの件で俺の姿は大陸全土に映し出されていた。そこで救国の小女神なんて持ち上げられているんだからと、カツラとカラコンのコスプレセットを売り出してみたらこれが大ヒット。
もうファッションリーダーっぽい!! そして我が商会の売上も凄い!! 何より正体を隠せるのが良い!!
もちろん裏切りの女神として嫌う傾向も残ってはいるけども。
「でもこれで私も目立たなくなるから行動もしやすくなるよね」
「……いや。シノブ、見られているぞ」
「え? 誰? 私が? 何で?」
「視線をそのままに」
「う、うん」
「敵意ではないが監視されている。近い所だな。前に二人、後ろに三人。それと少し離れた場所から一人。相当の訓練を受けた者達だろう」
「近い奴等をまいて、離れたヤツを捕まえる事はできない?」
「やってみよう」
アバンセに手を引かれ、小さい路地を行ったり来たり。買物のフリをして街の中を歩いて行く。そして入り組んだ路地に入った瞬間だった。アバンセは俺の小さな体を抱えて駆け出す。その動きはヴォルフラムより速い。
アガガガガッ、景色が回る、加速力と遠心力が重く圧し掛かる。
アバンセが足を止めた時には。
「だ、大丈夫か?」
「……」
ヨダレを垂らして失神寸前。
「……いいから……行って……」
「あ、ああ」
アガガガガッ、死ぬ……
「お前だな。なぜシノブを監視……おい、シノブ?」
「……」
「シノブ、シノブ、本当に大丈夫か?」
「……わ……か……も……何……」
「『私を監視していた目的は何?』とシノブが質問しているぞ!!」
俺を抱えたままアバンセはその男と対峙する。
離れた建物の上から監視をしていたのだ。そこに突然アバンセが現れた。もっと動揺があるかと思ったが……プロかよ。動揺など全く感じない。
男は短剣を取り出す。戦うつもりか、自害するつもりか。
「……ま……」
「『待て』」
「い……ろ」
「『言わなくても良い。ある程度の予測は付いているからな。嘘だと思うか? シノブという人物がどういう存在か。これまでの行動を知っていれば分かるだろう? お前の雇い主に伝えろ。その上で周囲を含めて何かしらの危害を加えると言うのなら相手になろう。その際にはシノブの持つ全ての力が敵になると思え。分かったら今すぐ消えろ』」
実際には何の予測も無いけどな。とりあえず牽制。
アバンセの言葉に男は姿を消した。
「逃がして良いのか?」
「ダ……バ……」
「『ダメに決まってんじゃん。今すぐ追って。もちろん相手にバレないように』だな。分かったが、シノブは一緒に連れて行けないからな。気配でバレてしまう。このままここに置いて行くが、何かあったら必ず俺を呼び出すんだぞ。分かったな?」
★★★
アバンセ自身の力は竜に頼ったモノだけではない。人のような教養を持ち博学、武芸にも秀でていた。そしてその中には自らの気配を消して行動する技術もある。
実に優秀だしな、俺はお茶でも飲んで待つか。
ゴクゴクゴク
「ぷは~うめぇ~」
一人だけど、これだけ周りにお客さんがいれば無茶はされんだろ。
「お、お嬢ちゃん、ひ、一人かい? お父さんやお母さんは?」
脂ギッシュな小太りの男が!! これは経験則で分かる!! ロリコンのナンパじゃ!!
「えっと、まぁ、彼氏が」
「こ、こんな小さいうちから悪い子だな、ちょ、ちょっとこっち来て」
「殺しはしない。しかし死んだ方がマシだと思わせる事はできるんだが……やはり殺すか」
男の背後に鬼の形相をしたアバンセが。
「あ、あの、人違いでした……」
ロリコンは逃げ去る。
「アバンセ、おかえり」
「俺のシノブに、本来なら即処刑だぞ」
「いやいや、私は別にアバンセのものじゃないし」
「えっ、さっき『彼氏が』とか聞こえたぞ。どう考えても俺だろう!! この場にいるのは俺ただ一人、つまり彼氏とは俺の事。ハッキリ言おう、この不死身のアバンセ、嬉しくて泣きそうだ」
「勝手に泣け。さっきのは嘘だ」
「夢を!! 夢を見させろ!!」
「あーはいはい、彼氏彼氏」
「軽い……」
「で、どうだったの?」
「その場で灰にしてやろうと思ったぞ。シノブの身辺調査、それも婚姻に関するものだな」
「あーそういう事ね」
何処ぞの馬鹿な貴族が求婚禁止令を無視して、また俺の周りを探っていたのか。
「ロイドエイク家と言ったか」
「っ!!?」
嘘だろ……あのロイドエイク家かよ……
予想外の家柄に俺は言葉を失うのだった。
背後にはフレアとホーリーが控えている。
「見た目は子供のようだが確かに美しい。家柄は少し気になるが二度も大陸を救った事を考慮して目をつぶろう。お前を私の妻として招き入れる」
「……ほーん」
その男の年齢は二十代の前半だろうか。見た目はまぁ普通ってトコ。ただ身なりは良い。センスはさて置き、高そうな服と装飾品を纏っている。
何人もの従者を連れて店に乗り込んで来やがったのだ。
「もうここで働く事もない。楽をさせてやろう」
「あの、申し訳ありませんが、今はまだ結婚なんて考えられませんのでお断りしています」
アルテュールの件で俺の事は大陸全土に知れ渡っている。以降こうして結婚の申し込みが後を絶たない。
「断ると言うのか? 私が誰だか分かっていないのか?」
男は不快な様子を隠そうとしない。
「ごめんなさい」
「……竜の花嫁だったか……まさかこの私より粗暴な竜を選ぶわけじゃないだろう?」
「そういうわけじゃありません。ただ今はお店の事もありますし、なかなかそういう事は考えられなくて」
「だから働く必要などないと言っているだろう!!」
ドンッとテーブルを叩く男。おいおい、一体どっちが粗暴だってんだ?
そこでホーリー。
「差し出がましいようで恐縮ですが、王国の方からお話はありませんでしたか?」
「……」
男は黙ってしまう。
貴族や何やらからあまりにも結婚の申し込みが多いので、ニーナ経由で王国側からお達しを出してもらっていた。『シノブへの求婚禁止令』を。
それを出されたら男は黙って引き下がるしかない。おいおい、それが今しがた求婚した相手に向ける目か……憎々しげに睨み付けながら応接室を出る。
「マジ疲れた。マジ面倒くせぇ」
「シノブ様」
ニコニコしたフレアがお茶を俺の前に置く。
「本当にお疲れ様です。でも今月も多いですね。王国から下達はあったはずですが」
そしてホーリーはお菓子を目の前に。
「まぁ、そういうの分からない馬鹿もいるんでしょ」
俺はお菓子を口の中に放り込みお茶で流す。
ちなみにフレアとホーリーにもお店経由でお見合いの話がいっぱい。二人とも全部断ってはいるが、有名になると大変よの~
★★★
簡単に印象を変えるなら、やっぱり小道具を使おう。
白く長い髪、前髪を8:2で分ける。そして2の方の髪を耳に引っ掛けるようにして後ろへと流す。そして色や形、飾りも違う何本ものヘアピンで後ろに流した髪を固定する。
片方でも耳を出すだけでかなり印象変わるよね。それに何をしても俺って可愛いぜ。
そして胸元に大きな白いリボンのある白いブラウス。濃い灰色、スーツのような上着。下はセットの山折谷折プリーツスカート。そこにダークブラウンのブーツを合わせる。
リボンが子供っぽい気もするが、これが良く似合ってんだよな。
いやいや、デートじゃないんだよ。
ただアバンセには世話になってるから、買物に付き合ってやるだけなんだよ。花の都でガーデニング用の花の種をね。
……まぁ、手は繋いでいるけど。
「しかし、シノブ……これはどういう事だ?」
「仕掛けたのは私達でもあるんだけどね。ここまで盛り上がるとは思わなかったよ」
街の中、周囲を見回すアバンセ。
白い髪と赤い瞳。大人も子供も、同じような姿をした奴が何人もいる。
「凄いでしょ。私のコスプレ」
「こすぷれ?」
アルテュールの件で俺の姿は大陸全土に映し出されていた。そこで救国の小女神なんて持ち上げられているんだからと、カツラとカラコンのコスプレセットを売り出してみたらこれが大ヒット。
もうファッションリーダーっぽい!! そして我が商会の売上も凄い!! 何より正体を隠せるのが良い!!
もちろん裏切りの女神として嫌う傾向も残ってはいるけども。
「でもこれで私も目立たなくなるから行動もしやすくなるよね」
「……いや。シノブ、見られているぞ」
「え? 誰? 私が? 何で?」
「視線をそのままに」
「う、うん」
「敵意ではないが監視されている。近い所だな。前に二人、後ろに三人。それと少し離れた場所から一人。相当の訓練を受けた者達だろう」
「近い奴等をまいて、離れたヤツを捕まえる事はできない?」
「やってみよう」
アバンセに手を引かれ、小さい路地を行ったり来たり。買物のフリをして街の中を歩いて行く。そして入り組んだ路地に入った瞬間だった。アバンセは俺の小さな体を抱えて駆け出す。その動きはヴォルフラムより速い。
アガガガガッ、景色が回る、加速力と遠心力が重く圧し掛かる。
アバンセが足を止めた時には。
「だ、大丈夫か?」
「……」
ヨダレを垂らして失神寸前。
「……いいから……行って……」
「あ、ああ」
アガガガガッ、死ぬ……
「お前だな。なぜシノブを監視……おい、シノブ?」
「……」
「シノブ、シノブ、本当に大丈夫か?」
「……わ……か……も……何……」
「『私を監視していた目的は何?』とシノブが質問しているぞ!!」
俺を抱えたままアバンセはその男と対峙する。
離れた建物の上から監視をしていたのだ。そこに突然アバンセが現れた。もっと動揺があるかと思ったが……プロかよ。動揺など全く感じない。
男は短剣を取り出す。戦うつもりか、自害するつもりか。
「……ま……」
「『待て』」
「い……ろ」
「『言わなくても良い。ある程度の予測は付いているからな。嘘だと思うか? シノブという人物がどういう存在か。これまでの行動を知っていれば分かるだろう? お前の雇い主に伝えろ。その上で周囲を含めて何かしらの危害を加えると言うのなら相手になろう。その際にはシノブの持つ全ての力が敵になると思え。分かったら今すぐ消えろ』」
実際には何の予測も無いけどな。とりあえず牽制。
アバンセの言葉に男は姿を消した。
「逃がして良いのか?」
「ダ……バ……」
「『ダメに決まってんじゃん。今すぐ追って。もちろん相手にバレないように』だな。分かったが、シノブは一緒に連れて行けないからな。気配でバレてしまう。このままここに置いて行くが、何かあったら必ず俺を呼び出すんだぞ。分かったな?」
★★★
アバンセ自身の力は竜に頼ったモノだけではない。人のような教養を持ち博学、武芸にも秀でていた。そしてその中には自らの気配を消して行動する技術もある。
実に優秀だしな、俺はお茶でも飲んで待つか。
ゴクゴクゴク
「ぷは~うめぇ~」
一人だけど、これだけ周りにお客さんがいれば無茶はされんだろ。
「お、お嬢ちゃん、ひ、一人かい? お父さんやお母さんは?」
脂ギッシュな小太りの男が!! これは経験則で分かる!! ロリコンのナンパじゃ!!
「えっと、まぁ、彼氏が」
「こ、こんな小さいうちから悪い子だな、ちょ、ちょっとこっち来て」
「殺しはしない。しかし死んだ方がマシだと思わせる事はできるんだが……やはり殺すか」
男の背後に鬼の形相をしたアバンセが。
「あ、あの、人違いでした……」
ロリコンは逃げ去る。
「アバンセ、おかえり」
「俺のシノブに、本来なら即処刑だぞ」
「いやいや、私は別にアバンセのものじゃないし」
「えっ、さっき『彼氏が』とか聞こえたぞ。どう考えても俺だろう!! この場にいるのは俺ただ一人、つまり彼氏とは俺の事。ハッキリ言おう、この不死身のアバンセ、嬉しくて泣きそうだ」
「勝手に泣け。さっきのは嘘だ」
「夢を!! 夢を見させろ!!」
「あーはいはい、彼氏彼氏」
「軽い……」
「で、どうだったの?」
「その場で灰にしてやろうと思ったぞ。シノブの身辺調査、それも婚姻に関するものだな」
「あーそういう事ね」
何処ぞの馬鹿な貴族が求婚禁止令を無視して、また俺の周りを探っていたのか。
「ロイドエイク家と言ったか」
「っ!!?」
嘘だろ……あのロイドエイク家かよ……
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