転生してもノージョブでした!!

山本桐生

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神々の手編

正義の味方と悪の手先

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 小さくなったアバンセを胸に抱えて向かった先。
 森林の中にポツンと現れる小屋。大陸を支配しようとしたアルテュールの最後の場所がこんなみすぼらしい小屋なんて……

「どうしてだ!!? どうしてコイツ等を連れて来たんだ!! 殺せ!! 今すぐ殺せよ!!」
「アルテュール様……シノブに抱えられているのが小さいながら不死身のアバンセです。あの竜がここにいる以上、それは不可能と思われます」
「そもそも何でアバンセがここにいるんだよ!! おい、どうなってるんだよ!!」
 アルテュールは喚く。そして仮面を投げ捨てた。
「……シノブ……この男が本当に大陸を支配しようとした男なのか?」
「本当、こんな小心者に引っ掻き回されたなんて腹が立つ」
「この俺が小心者だと!!?」
 睨むアルテュールの視線を俺は真っ直ぐ受け止める。
「戦いを始めた時に覚悟はあったでしょう? なのにこの期に及んでギャーギャー騒いで。最後くらい毅然と振舞いなさい」
「ふ、ふざけるな!! 何でだよ……何で俺が捕まるんだよ……確かに人は死んだかも知れない……けどそれだって俺が大陸を支配してしまえば平和になるんだ。それを邪魔するお前こそ悪じゃないか!!」
「そうかもね」
「おい、シノブ……」
 俺はアバンセの体を撫でる。
「でも私は正義の味方でも、悪の手先でも無いよ。自分自身が正しいと思うように行動しただけ。だからアルテュール、あなたを悪だとは思わない。ただお互いの主張が違ってぶつかった。それだけ」
「……あのさ、だったらさ、俺がそんな悪人じゃないのは分かるだろ? 俺の行動だって大陸の為を思ってだったんだから……でも捕まったら、死刑になるかも……あの……見逃してくれよ!!」
「できない」
「もう俺はお前達の前には現れない。戦うような事もしない。違う形で人々の助けになるように行動する。だから頼む。見逃してくれ……命だけは助けてくれ」
「それは私が決める事じゃない」
「だって捕まったら死刑になるんだろ!!? 頼む、頼むからこのまま見逃して……」
「……少ないとはいえ死傷者だって出てる!! なのにこのまま逃げるつもり!!? 最後の責任を取りなさい!!」
「殺せ!! アストレア!! コイツを殺せ!!」
 アストレアは剣を抜く。
「どこまでも不快」
 アバンセの口の端から青い炎が漏れる。
 そしてアストレアの剣は……

 トスッ……

 抵抗を感じさせるような事も無く、滑らかにアルテュールの体を貫いた。
「あっ……あっ……な、何で……アストレア……」
 そのアストレアの背後からもう一人、女が姿を現す。おうし座の女、イオだとすぐに理解する。そしてイオは言う。
「もうアルテュール様に逃げる術は無い。だがこのまま捕まれば罪人として王国に処罰されるだろう。それだけはさせない。我々の王は誰にも辱めを受けない」
 アルテュールは崩れ落ちる。
「……た、助けてくれ……死にたくない……だ、誰か……た、助け……あ、あ……」
 そこでアストレアは剣を投げ捨てる。
「シノブ。勝手な言い分なのは分かっています。ここでアルテュール様は亡くなります。それを責任として、遺体は王国に渡さないで欲しい」
 王国に遺体を引き渡せば、必ずその姿は晒されるだろう。それをアストレアは分かっている。
「……分かった」
 そこでイオは笑う。
「シノブって人間を直に始めて見たけど、随分とお優しいんだな」
「よく言われる」
 俺も笑った。
「その礼だ。ここから少し行くと竜脈を乱す仕掛けがある。それを壊せば元通りになる」
 イオは場所を説明して、アルテュールの傍へとしゃがみ込んだ。その体に触れて小さく呟く。
「アルテュール様。私達も一緒に行きますから」
「……も、もう……い、一度……」
 反応するようにアルテュールは小さく呻きを上げた。
「大陸を混乱に招いた事。アルテュール様に代わって謝罪をさせて頂きます」
 アストレアだ。
「……誰も……誰かアルテュールをもっと早く止められなかったの? アンとメイがいなくなった時、あなたならこの戦いに勝機が無い事も分かっていたんじゃない?」
「私達の望みはアルテュール様の望み。どんな命令でも従うのみです……最後は裏切る形になってしまいましたが」
 アストレア、そしてイオの体が砂のように崩れ落ちていく。
 アルテュールは死んでいた。
「あなた達は最後にアルテュールを守ったんだよ。絶対に、絶対に裏切ってなんかいない」
 そこでアストレアは笑った。
「ふふっ、シノブ、あなたは本当に優しいのね」

 最後に残されたのは二枚のイラスト。
 俺はそのイラストをアルテュールの胸元に抱かせた。
 アルテュールの最後の言葉『もう一度』……その言葉の意味を俺だけが何となく分かる。与えられたもう一度の命、もう一度やり直したい……でもな、ここは漫画の世界じゃないんだよ。もっと他の生き方は無かったのかよ……
 そして小屋を出る。
「良いのか? 遺体を王国に引き渡さなくて」
「約束だからね」
「……分かった」
 そしてアバンセから放たれる青い炎が全てを包み、全てを灰に変えてしまうのだった。

★★★

 イオに説明された場所、崖下の洞窟の奥の底。魔法陣の描かれた台座に納められた無色透明の水晶。水晶は淡く光輝いていた。
「ねぇ、アバンセ、これだよね?」
「……そうだ……しかし凄まじいな、これは。魔法陣で流れる竜の力を制御し、全ての力をこの小さな水晶一つで受け止めている」
 人の姿をした全裸アバンセが台座に触れる。そして周囲も調べる。
「……いや、アバンセ。あんまり動かないで」
「ん? どうした?」
「いや、ブラブラ揺れてるから……そもそも何で全裸なの!!?」
「し、仕方ないだろう!! 準備する時間など無かっただろうが!!?」
 確かにそうだけど!!
「そもそもだ。もう何度か見ているだろう?」
「うるさい馬鹿。で、これを壊せば良いんだよね」
「本当に大丈夫か? 敵の言う事を信じても」
「……正直に言うと分からないよ。けど他に何も思い付かない。それとやっぱり……うん、やっぱり信じたい」
「……そうか。何かあっても必ず俺が守る。安心しろ」
「うん。ありがと」
 アバンセは水晶に手を伸ばす。ゴリゴリと石同士を擦り合わせるような鈍い音。そのまま握り潰した。さらに魔法陣の描かれた台座も蹴り砕く。
 これで全てが終わっ……
「ちょおぉぉぉぉっ!! 何これぇぇぇぇぇっ!!」
 何じゃあ!!?
 突然だった。洞窟の中に何かが吹き荒れる。まるで空気が水飴になったような感覚。激しく対流する何かに押し流されそうになる俺を抱き止めたのはアバンセだった。
「シノブ!! 竜の力だ、竜の力が凄まじい勢いで流れ出している!!」
「やっぱり罠だったの!!?」
「……違う、これは……さっきまで竜脈から勢いよく力を吸い上げていたんだ。速くなった竜脈の流れ、その勢いが収まらない」
「どうすれば……」
「時間と共に元に戻る。流れもそのうち緩やかになり落ち着くだろう」
「なら安心じゃん。良かった」
「良くないぞ。この勢いのまま力が流れるなら、竜脈が落ち着くまでユリアンとヴイーヴルは持たない」
「マジ良くないじゃん!!」
 どうすれば……頭をフル回転。そして。
「……ねぇ、アバンセ……竜脈の力、ここから押し返せない?」
「どういう事だ?」
「そのまんまだよ。ここからアバンセが竜の力を逆方向に流し込むの。それで竜脈の流れを堰き止めるなり、速さを抑えるなりできないかな?」
「できると断言はできないが、やる価値はあると思う。ただ制御が恐ろしく難しいぞ」
「さっきアバンセが蹴り砕いた台座の魔法陣があればいける?」
「可能性は上がるだろうが……どんな魔法陣だか知っているのか?」
「知らないけど、一度でも見た事のある魔法陣なら再現できるから。でも私が能力を使っている間だけだからね」
「ああ、なら全力でやってやろうじゃないか」

 久しぶりだな、能力を使うのは。
 一呼吸、そして体内の魔力に火を付ける。力は光となり溢れ出し俺の体を包む。それは神々の手としての能力を解放。そして台座に描かれていた魔法陣を空中に再現する。
「あんま時間無いからね!!」
「任せろ!!」
 アバンセは魔法陣を通して竜脈へと力を流し込んだ。粘り気を帯びた空気の圧力も少しだけ弱まる。周囲に光の粒子が舞う。
 これで竜脈の流れを抑えられれば……しかしアバンセの表情は険しい。全身に汗を浮かべ、歯を食い縛る。やがて唸るように声を振り絞った。
「……俺一人では力が足りない……」
 当然だ。こちらは竜が一人、それに対して向こうはサンドン、パル、ヤミ、三人の竜の力。
「ねぇ、できるか分からないけど……私がいたら?」
「シノブとの共同作業……胸が熱くなるな」
「そういう事を言ってる場合じゃないでしょ!! どうなの!!?」
「あ、ああ、もちろん助かるぞ」
「しゃあ、おらぁぁぁぁぁっっっ!!」
 俺も全魔力をブチ込むのだった。

★★★

 竜脈に力を注ぎ込むと分かる。それは口や原理ではなく、感覚で分かるもの。
 竜脈、それはまるで血管だ。そこに逆から力を注ぐと、流れが弱まる。しかし力を強く注ぎ続けると、逆流により血管は切れて破裂してしまう。調節が難しい。
 やがて……俺の体から光が消える。時間切れだぜ。それと同時に魔法陣も消えた。
 周囲に漏れ出した竜脈の力を感じない。ただ暗いだけの洞窟。
「シノブ……立てるか?」
「ごめん、ちょっと無理」
 三人の竜に対抗するための力、そして調節するための精神的疲労、いくら神々の手でもちょっと無理ぃ、すぐに立てないぃ。
 そんな俺をアバンセが抱き上げる。
「全裸の男に抱っこされているのは気になるけど、ありがとうね、アバンセ」

 竜脈の流れは落ち着いていた。
 これならもうヴイーヴルとユリアンが離れても問題無い。
 これで本当に全てが終わったのだ。
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