転生してもノージョブでした!!

山本桐生

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神々の手編

別の場所と捨て駒

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 またまた別の場所。
 金色の羊の追撃を食い止めるのはドレミドとアリエリ、それと冒険者や傭兵。少ない人数ではあるが足止めをするだけならばギリギリ必要最低限の戦力はある。
 幸いにして平地、体格の小さな狼の姿を隠すような場所は少なく、目視で敵の動向を確認できるのがありがたい。
「相手の動きは速い、一対一で相手をするな!! 何人かで組んで、互いの死角を無くすんだ!!」
 周囲にそう指示を出すドレミドだが、自身は単身で狼を斬り倒し続けていた。
 次から次へと狼が現れ襲い掛かる。
「アリエリ、あっちを頼む」
「あっち? 向こうの方?」
「そうだ、流れがあるような気がする。そこを抑えれば状況も楽になるんじゃないか?」
「うん。分からないけど、分かった。あっちね?」
 振るう武器を持たないアリエリ。だがその進む先を阻む狼は、見えない力に叩き飛ばされ、押し潰される。その能力を知らない者が見れば理解のできない現象だった。
 そしてドレミド。シノブやシャーリーなどからはお馬鹿扱いをされる事もあるが、個人としての戦闘技術は群を抜いていた。さらに相手の急所を射抜き、自らの致命傷を回避する、その嗅覚はまさに天性の素質。素直に言うなら天才。
 さらにドレミドは戦場を広げる。組んだグループは互いを離れないように、ただしグループ同士の距離を少しずつ離していた。
 戦場を広げ、狼の密度を下げる。それにより個々の狼の動きが確認しやすく、群れを統率するような個体を見付けやすくしていた。そしてそんな個体をドレミドは的確に倒していく。

「見付けたよ。ねぇ、言葉は分かる?」
 アリエリの前には金色の羊。
「逃げる? 逃げない?」
 大量の狼がアリエリへと飛び掛る。ドンッ、ドンッ、ドンッ、という衝撃音と共に狼は叩き飛ばされる。
「うん。逃げないって事だよね?」
 途切れる事の無いモグラ叩きならぬ、狼叩きが始まるのである。

★★★

 またまたまた別の場所。
 エルフの町近く、大森林に入る直前。少数のアルテュール軍を捉えたリアーナ隊。
 水瓶を持つ金髪の美少年。
「そーいっ!!」
 これは意外、水瓶から何か流して攻撃をしてくるのかと思ったら、水瓶自体で鈍器のように殴ってきた。
 咄嗟にそれを左腕で受け止めるタカニャ。肘を曲げ、筋肉に力を込め、脇を締め、しっかりと胴に密着し、その一撃を受け止める……のだが……
「うおぉぉぉっ!!」
 骨の軋む一撃。筋肉に包まれたタカニャの巨体が宙を飛ぶように吹き飛んだ。
 そのタカニャと入れ替わるようにリアーナが美少年へと向かう。
「そーいっ!!」
 水瓶の一撃。タカニャが吹き飛ばされた事を考えると、リアーナには受け止められない。体を捻るリアーナ、その頬を水瓶が掠める。
 攻撃を頭部にでも受ければ命は無い。
 まさに命の削り合いのような戦い。
「タカさん、周りをお願いします!! 私はこの子を!!」
 タカニャは頷き大声を張り上げた。
「ほら、みんな気合入れな!! 敵は少ないんだ、誰一人エルフの村に行かせるんじゃないよ!!」
 と、言いながらも別の考えが頭に浮かんでいた。
 すぐそこは大森林、エルフの町が狙いならば、どんどんと大森林の中に入り込み、身を隠してしまえば良い。しかし敵の行動はこちらを相手にするような形。つまりリアーナ隊の足止め。
 やはり思った通り、敵の目的はシノブから戦力を少しでも引き剥がす事。だとしたら敵の最終的な目的はシノブだ。シノブの身柄が目的。
 タカニャの持つ針のような細剣。しなり敵を引き裂き、鋭い切っ先が敵を貫く。他の女天使がリアーナに近付かないように排除していく。
 そのおかげでリアーナは敵に集中する事ができた。
「そーいっ!! そーいっ!! そーいっ!!」
 振り回される水瓶。
 その攻撃を紙一重で避けながらリアーナはハルバードを横薙ぎに振り抜いた。美少年の胴体を薙ぐはずだったのに振り抜けてしまった。なぜなら美少年の胴体は背骨など存在しないかのように湾曲している。まるで軟体動物。さらに体は捻れ、ありえない体勢から水瓶が繰り出された。
 予想外の一撃。
 水瓶がリアーナの胴体にめり込んだ。肋骨の折れる音、吐血しながらリアーナが叩き飛ばされる。
 駆け寄るタカニャ。
「リアーナ!!」
「だ、大丈夫です……」
 口元の鮮血を拭うリアーナ。すでに魔道書を開き、自らに回復魔法を掛けていた。
「それよりタカさん……」
 リアーナは小さく呟く。
「……ここは私に任せて、シノブちゃんを追ってください」
「もう追い付けない距離だ」
「良いんです。追い付けなくても」
「……どういう事だい?」
「なるべく近付いてくれれば」
 そしてリアーナから続けられた言葉。『まさか』と思いつつも頷いてしまうタカニャ。そして言う。
「だったらリアーナが行きな。ここは私に任せてさ」

★★★

 そして場面は俺の所に戻って……
 待っててくれ、みんな、もう少しなんだ!!
 もう目の前には国境都市。帝都まではそれなりの距離もあるが、王国領土からは比較的に近い。
 王国と帝国を結ぶ大きな街道沿いに存在するその国境都市。貿易の中継地点としても重要な土地でもあった。その為に王国側の警備も厚い。
 簡単に陥落するような都市ではない。
 ここまで辿り着けば……なのに……

「シノブ……これは……」
 言葉を失うロザリンド。
「何故だ……これだけの数……王国だって気付かないはずがない……」
 その光景はフォリオも予想外のものだった。
「……」
 さすがのフレアにも笑顔は無い。
「うん……フォリオさんの言う通り……これだけの数が移動していたら王国だって絶対に気付く……だから極少数を長い時間かけて、ずっと前から少しずつここに集めていたんだよ……」
 そうとしか考えられない。
 エルフの町に向かったアルテュール軍とは全く規模が違う。多過ぎる……
「シノブ様はそれは……」
「つまり……全ては……最初からこの時の為に……」
 大森林が近い。そこに隠れて潜んでいたのだろう。そしてタイミングを見て姿を現した。それは大量の女天使の軍団。初期の俺達よりも遥かに多い数、つまり2500以上の大軍団。
 対して俺達はロザリンド隊の300人程度。勝てる勝てないの話ではない、勝負にすらならない。

「待ってましたよ、シノブ」
「馬鹿で笑っちまうな」
 そこに立っていたのはアン。そして見下した笑みを浮かべるメイ。
「さすがのあなたでも自分の状況は分かっているようですね」
「……」
「シノブ様、お下がりください」
 フレアとホーリーが俺の前に立つ。
「なんで私なの? そこまでするほど私が重要とは思えないんだけど」
 俺ばっかり目の敵にしやがって。全ては最初から、それも俺を目的とした行動。捕まえるのか、殺すのか、どうするつもりだ、この野郎が。
「この大陸を統一する為の障害として王国と帝国があります。ただ双方とも簡単ではないでしょう。次に竜。こちらは拘束する事に成功していますが、どれくらい拘束し続けられるのか分かりません。そこでシノブです」
「……竜の花嫁と呼ばれる私を人質にでもするつもり?」
「そうです。それと同時に救国の小女神と呼ばれるシノブが敗れた事を知れば、大陸には少なからず動揺も生まれるでしょう」
「ちょっと私の事を過大評価し過ぎじゃない?」
「そうだな。お前は過大評価され過ぎだ」
 メイは笑う。
「まぁ、でも私を拘束できたらの話だよね」
「もう逃げる事はできません。この私達がいるのだから」
 アンは言い切った。
 そう、俺は漫画の中で知っている。最高戦力と言われるネメア。しかしその最高戦力に並ぶ二人がいる。アンとメイだ。そしてその頭脳も加味するなら、二人の厄介さはネメアの遥か上。
 そのアンとメイの後方。母子の姿が見えた。それはうお座に相当する親子。名前も特殊だったから覚えている。まず母親の方はアフロ、外見的な年齢は二十代の後半。そして娘のエロス、まだ十代前半と歳若い。しかしアフロとエロスって、そんな名前は一度見たら忘れんだろ……もう二十年以上前に読んだ漫画でもな。
「さぁ、それはやってみないとね……みんな、とりあえず逃げるよ!!」
 フレアは俺を抱き上げた。そして瞬時にその場から駆け出す。
 それを合図にしたようにロザリンド隊を含めて後退を始める。

 後方、殿を勤めるのはロザリンドとフォリオ。
 先頭を駆けるのは俺を抱いたままのフレア。そして隣に並ぶホーリー。
「ホーリー、ロザリンドに指示を出してきて」
「はい、かしこまりました」
「ロザリンド隊で敵の足止めをするように」
 一瞬、言葉を失うホーリー。
 ロザリンド隊では僅かな時間しか稼げない。
 しかも相手の規模を考えるなら、生き残る事すらできないだろう。つまり俺が逃げる為の捨て駒。ホーリーもそれを理解したからだ。
「ホーリー。お願い」
「……はい」

 そして指示はすぐ後方の二人に伝えられる。
「本当にシノブがそう指示を出したのね?」
「はい」
「……分かったわ。ホーリー、シノブの事をお願いね」
「ロザリンド様……フォリオ様もご無事で」
 ホーリーが戻るのを確認してフォリオは言う。
「捨て駒だな。生きては帰れないぞ」
「そうかしら?」
「俺の役目は無駄な戦いで落とす命を救う事だと思っている。シノブの命令には従うな」
「フォリオ。あなたは副隊長、隊長の私には従ってもらうわ」
「……」
「シノブの指示に従う」
「馬鹿な」
「ロザリンド隊はここで敵の足を止める!! 私が前に出る!! 付いて来なさい!!」
 ロザリンドは反転攻勢、先陣を切って迫る女天使の軍団の中に飛び込んだ。その中でシノブに指示された相手を探す。それはうお座の母子。
 斬って斬って斬り飛ばす。全ての足止めは無理だが、できるだけここで斬り伏せる。刀に風の魔法を乗せ、まさに八つ裂き。一振りで何体もの女天使が砂と崩れ落ちる。
 そしてアンとメイの後ろに立っていた母子を見付けるが、間にはまだ天使の群れ。
「掴まれ」
 フォリオだった。低空で飛ぶその足に掴まる。
「やっぱり来てくれたのね」
「お前に死なれたらビスマルクさんに顔向けができないからな」
 そうしてロザリンドとフォリオは飛ぶ女天使の間をすり抜けて、うお座の母子に向かうのだった。
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