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神々の手編

紙切れと漫画

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 フレアとホーリーの防御魔法は便利だなぁ。相手に使う事で逆に拘束する事ができる。つまり防御魔法の檻。
 そして狼の方は全て森の中へと逃げていく。とりあえず罠を凌いだわけだが。
「シノブ、これ」
 ユリアンが一枚の紙切れを差し出す。
「わたくしとユリアンが倒した相手ですが、砂にならずこの紙になりましたわ。見た事の無い雰囲気の絵が描かれていますけど。文字も知らないものですわ」
 俺はその紙切れを受け取り……
「うおっ」
 思わず声が漏れる。
 あーヤバイ、こいつはヤバイ。想像しなかったわけじゃないけどヤバイ。舌打ち。
「何か知っているのか?」
 ミランの言葉に俺は少しの間を置く。
「……ちょっと考えさせて」
 紙切れに描かれているのは女性の姿。しかしその絵柄はこの世界では見た事が無く、前世の世界では良く読んでいた。吹き出しがあり、その中に文字が書かれている。

 これは漫画の中の一コマだ……

 その台詞はアルファベットだが、英語とは違うような気がする……いや、やっぱり英語か? ん? ちょっと待て、違うな……ああっ、これ……多分フランス語だわ。
 前世で、学生の頃に中世の騎士物語であるアーサー王伝説について調べた事がある。だって中学生とか高校生って円卓の騎士とかもう大好きでしょ? ファンタジー感が堪らんもんね。
 その繋がりで知ったのだが、アーサーという名前は欧州でも人気があり相当の人数がいる。そしてフランスではアルテュールと発音される。
 つまりアルテュールは俺と同じ転生者だ。それは神々の手、同じように特殊な能力を持っている可能性。
 そしてこの紙切れから予想するなら、その能力は漫画の中のキャラクターを具現化するもの。
 ただその漫画が何だったかが思い出せない。
 俺も前世では漫画好き。相当数の漫画を読んでいた。しかし似たような絵柄も多く、この一コマだけじゃ漫画の特定ができん。この世界に転生して二十年近く、そりゃ記憶だって薄れるわ。そもそも俺が死んだ後に刊行された漫画かも知れんし。

 まぁ、とりあえずはキオとハリエットを待ってから行動するか。

★★★

 森の中、少し開けた場所。そして目の前に木造の砦。
 砦自体は急拵えだったのだろうか、規模も小さく防衛力はあまり高くないように見える。
 早朝に戻ったキオとハリエットの報告通りだ。
 罠にハマっている最中、キオは森の中に金色の羊を見付けた。特異なその存在にキオはハリエットと共に向かう。
 そして逃げ出した金色の羊を追い、辿り着いた先がこの砦だったと。
 さらにここへ調査団が捕らえられている可能性があるらしい。
 そこでベルベッティアにまた潜入してもらう。
 ただあの野郎に嫌な予感がするぜぇ……

 砦を守るのは女天使と狼。
 それプラス比較的に貧相な衣服の人間と獣人。こっちは未開の土地の原住民かも。
 そしてこの一人。上半身は人間、そして下半身は馬。ケンタウロスだ。しかしケンタウロス自体はこの世界にいない種族。この野郎が嫌な感じ。砦の周囲をグルグル回っていた。
 それと問題は金色の羊が逃げ切ったのなら、罠が破られた事を知っているはず。その俺達に対して何かしら対策を立てているだろ。

「シノブ。もし調査団が捕らわれているとしたらどうするつもりだ?」
 と、ミラン。
 ベルベッティアが戻って来てから対応を決めるつもりだが、ほぼ頭の中では決まっていた。
「……撤退する」
 全員が黙るのだが、その中でハリエットだけが言う。
「……見捨てるのですが?」 
「……」
「調査団の中にはシノブのお姉さんもいるのでしょう? それにリコリスさんとユリアンさんのご両親だっているはずです」
 俺はリコリスとユリアンの二人に視線を向ける。
 二人とも何も言わない。ただただ拳を強く握り締めていた。もちろん気持ちは分かる。
「……こっちの戦力ならお姉ちゃん達を助ける事ができるかも知れない。けど調査団の状態によっては連れて逃げ切る事が難しい。足止めされて援軍でも呼ばれて合流されたらそこで終わり。今の私達ができる事は情報を持ち返る事」
「本当に見捨てるのですか? 今ここで?」
「ハリエット」
 ミランの呼び掛けにハリエットは言葉を飲み込んだ。
「正直、お姉ちゃんとリアーナ、ロザリンド、ビスマルクさんとヴイーヴルさんだけ助けられればって、心の中でそう思ってる。けどね」
 お姉ちゃん達だけなら連れて逃げ切る事も可能だろう。ただ他の調査団まで助ける余裕は無い。残された調査団のメンバーも誰かの家族であり、誰かの大切な人だ。だから……
「それはできない」
 だったら俺達にできる事はこの情報をすぐに持ち返る事。
「……シノブ。私に任せて欲しい」
 ハリエットは言う。
「何か策があるの?」
「調査団を助け出した後の追撃を私が遅らせます。その間に少しでも離れる事ができれば、逃げ切る事も可能になるのではないですか?」
「それはそうだけど。できるの?」
「はい」
「……分かった。時間は?」
「ベルさんが戻って来るまで」
「って、事でみんな。少しだけ休んだら攻め込むよ」
「本当に良いのか?」
 ミランの言葉に俺は微笑む。
「ミランの妹でしょ。信じるよ」
「シノブ様、こちらで捕らえた者はどうしますか?」
「この場に置いてく。逃げる為の速さ勝負だからね。面倒だから置いてくよ」
「殺して首を投げ込んで動揺させるのかと思った」
「ちょっとシャーリー。そんな事を言うと真っ裸にして置いてくよ」
「賛成。僕は賛成だ」
「うわーこいつ絶対モテねぇー」
 タックルベリーの言葉に蔑みの表情を浮かべるシャーリー。
 そんな様子をニコニコと見ているフレア。

 そうして調査団を助ける為の作戦が始まるのだった。
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