転生してもノージョブでした!!

山本桐生

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地獄のタワーディフェンス編

批判と家出

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 大黒炎の襲撃から数週間。
 救国の小女神が竜と共に大陸を救った……そんな話の裏で広がっていく一つの噂。

『シノブはエルフの町を見捨てた。所詮は捨て子だから』

 エルフの町は竜の山、アバンセの足元。
 シノブが竜と共に行動をしたのなら、何故エルフの町を後回しにして優先しなかったのか?
 アバンセの力があれば、ここまで町に被害は出なかったのではないか?
 シノブにあれだけの力があるのなら、何故その力を最初から出さなかったのか?
 ……それは交易都市や帝国など権力を持つ所を助け、自らの立場を高める為。その為にエルフの町を犠牲にしたのだ……そんな噂。

「……って、また噂している」
 お店の外で遠巻きにこちらを眺めて、なにやら話している年配の女性が二人。
 ヴォルフラムの耳がそんな噂を聞き取る。
 その途端にシャーリーが店内から飛び出した。
「ちょっと、そこのおばちゃん!! 聞こえてんだけど!! くだらない噂話が!!」
 ビックリした表情を浮かべる二人。
「ちゃんと説明されてんでしょ? 交易都市がダメになったらこっちにいっぱい難民が流れてくる。そしたらもっと混乱するって。それにシノブがみんなを避難させたから、これだけ被害があっても死人が出てないんでしょ。そのシノブに何なの? 馬鹿なんじゃない!!」
 年配の女性二人はそのままそそくさと逃げていく。
「ちょっとシャーリー、そんなに怒鳴らなくても」
「あ!!? シノブは悔しくないの? あんな言われ方されて!!? あたしはムカついてんだけど!!」
「あはは、ありがとう、シャーリー。いいから、ほら、中に入んな」
「もう……何笑ってんの……」
「おい、それじゃなくても通りは狭いんだから、お前が騒いだら客も入らないだろ。それこそシノブの迷惑になるぞ」
「くっ……確かに……」
 ミランに言われて、シャーリーは渋々と店内へと戻る。
 まだ大通りには大穴が空いたままだし、土壁も片付いていない。あれを補修するには普通の人力では無理、俺の能力で直したいが、まだ使えるように戻らない。
「警備隊員の方から説明されているはずですが……なかなか落ち着きませんね」
 ホーリーは言う。
 最初に噂が出た時点で、俺がアバンセを交易都市に向かわせた理由を警備隊員から町の住人達へ説明がされている。しかしそれでも噂が収まらない。
「まぁ、聞く人によっては後付けの理由に聞こえるんだろうし。もう少し経てば落ち着くんじゃない?」

 ……なんて思っていたんだが……
 それからさらに数日。
 批判が強まっていく。それは俺が大通りの修復と土壁の撤去をしないから。
 いやいやいや、言っとくけどね、俺だって直したいのよ? でも能力がまだ使えないんだって!!
 そんな俺の事情を知っているお父さんやタカニャが『また黒い炎が現れる可能性があるから残している』と先延ばしにしているのだが……『噂を聞いた俺がエルフの町に嫌がらせをしている』……そんな話になっているのだ。
 まぁ、そのですね、ふざけんな、この野郎。そんな感じ。

 そんな噂話に耐えて耐えて耐えて……
 ほら、直したぞ!!
 土壁を撤去して、大通りの穴も埋めた。細かい整備まではできないけど、ほとんど元通りだ。後は町の細かい復興をね。
 まぁね、復興にはお金が掛かるからね。
 自然を愛し、自然に寄り添うエルフであるけども。外界と繋がっている以上にやっぱりお金は必要なのよ。
 だからってさ……
 朝、お店に向うと、そこには一通の手紙が。要約するとその中身は……

『シノブが今回の指揮官であるなら、町に被害が出たのはシノブにも責任がある。商会として町を拠点に稼いでいるのだから、町の復興に金を出すべき』

 そんな内容である。
「あたしの魔弾で蜂の巣にしてやる」
「においから相手を探す事ができるぞ」
「シャーリーもヴォルも……放って置きなよ。そのうち無くなるって」

★★★

 おかしい……批判が収まらん。
 いやさぁ、大多数は俺の味方なわけよ。俺が居たから被害が抑えられた事を理解してくれている。だけど数少ない批判の声が収まらない。
 お店も普段と変わらないように見える……けど時々、睨むような視線が向けられているのに気付く。
 どうしてだ?
 ……と不思議だったが、その理由が分かった。
「シノブ。分かったわ」
 それは町の情報を集めていたベルベッティア。
「中心となって噂を広めている人物がいる。彼がある事ない事をもっともらしく話して噂を広げているわ。そして比較的に貧しい住人を集めて、シノブの商会に対する妬みも利用しているの」
「『彼』って事はその中心人物が誰かも分かっているんだよね?」
「ええ」
「誰?」
「その相手に復讐でもするつもり?」
「いやいや、私がそんな面倒な事するわけないじゃん。たださ、やっぱり理由を知りたいし」
「……シノブが『テト』と呼んでいた青年よ」
「っ!!?」
 俺は予想外の人物に言葉を失う。
 テトがどうして?
「間違い無いわ」
 小さい頃から仲は悪かったと思うが、ここまでか? ここまで恨みを買っていたのか? 俺の事が気に入らないだけでここまでの事をするのか?
 俺はエルフの町の為にできるだけの事をしたつもりだったが……
 テトの言葉が思い出される。

『お前はこの町の人間じゃないだろ。所詮は捨て子なんだから』

 はぁ……
「シノブ? 大丈夫?」
「あー、うん。大丈夫。ちょっとビックリしただけだから」
 ビックリした。
 そして話を聞いて力が抜ける……なんかちょっと疲れちまった……

★★★

 ……
 …………
 ………………
 部屋の中、俺はベッドの上に転がっていた。
 相変わらず、俺に対する良い話も悪い話も聞く。そういうのも含めて少し疲れてしまった。
 上半身を起こす。
 よし、家出したろっ!!
「ねぇ、ヴォル」
「どうした?」
 同じく部屋の中で丸くなっていたヴォルフラムが体を起こす。
「ちょっと町を離れようか」
「離れる? エルフの町を出て行くのか?」
「そういうわけじゃないけどさ。ちょっとだけ、本当にちょっとだけ離れたいな、って。ヴォルも一緒に行ってくれない?」
「構わない」
「よしっ」
「お店や、みんなはどうする?」
「お店はワガママを言ってお母さんに頼む。みんなには何も言わない」
「誰も連れて行かないのか?」
「そのつもり。人が増えれば考える事も増えるし。ヴォルだけで良いよ。まぁ、後々ホーリーには怒られそうだけどね」
「シャーリーには文句を言われそう」
「あははっ、確かに。その光景が頭に浮かぶよ」

 その後、お父さんとお母さんに少し旅に出たいと伝える。
 二人とも噂の話は知っていた。だから少しここから離れて羽を伸ばすのも良いだろう、と許可もしてくれた。
 みんなには事後報告でお母さんから伝えてもらえる事に。

 そして俺は明日朝早く、このエルフの町から旅に出掛けるのである。
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