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崩壊編

元通りと帰宅

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 帝都で最初にした事。
 それは皇帝アウグスへの報告。
「首謀者のアイザックを塔ごと吹き飛ばし、その生死は不明という事か?」
 アウグスの言葉にミランが頷く。
「ああ、こっちまで衝撃が届くぐらいの攻撃だっただろ? 一帯は荒野、あの中からアイザックの死体を見付け出すのは不可能だった。ただゴーレムの統制を今はシノブの仲間がしている事から、アイザックは死んだと思って問題無い」
 もちろんミランも本当の事を知っている。
 真実をアウグスに報告しても仕方ないと思っていたが、それでもミランは俺のお願いを聞いて、そう報告したのだ。
「それでアウグスさん、大陸中に連絡してください。これから大陸を元に戻します。ただその際にどんな影響があるか分からないので心づもりだけはしてください、って」
「大陸が元通りになればアイザックを倒した証明にもなるだろ?」
「しかし……本当にお前が……」
 アウグスの手が俺の頭に置かれる。
「はははははっ、こんな小さいのにな、シノブ、お前は本当に特別だ」
 そう言って頭を撫でるのだ。
「ちょー!! アウグスさん、もうそんな子供じゃないんですから!! やめてぇ!!」
「皇帝に頭を撫でられるシノブ……凄い光景だな、これは」
 ミランは笑うのだった。

 それから数日後である。
 アルタイルが何かを唱える。聞き取れないような小さな声。
 そして幾度かの大地震が繰り返されたのだった。

★★★

「大陸は元の形を取り戻した。シノブ、ヴォルフラム、リアーナ、ロザリンド、タックルベリー、ビスマルク、リコリス、ヴイーヴル、ユリアン、キオ、ミツバ、フレア、ホーリー、アルタイル、ベルベッティア、フォリオ、タカニャ……全員に、帝国を代表して私が感謝の言葉を述べたい」
 そう言って、皇帝アウグスは全員に一人ずつ言葉を掛けていく。

 終わった。
 大陸は元通り。まぁ、この後にアバンセやララの解放とかもあるんだけどな。相当に魔力使用量が大きく、さすがのアルタイルも一度では無理だった。

「シノブ。これだけの優秀な仲間を率い、そして帝国だけではない、この大陸全土を救った。ありがとう。まさに『救国の小女神』の名に相応しい。感謝の言葉をいくつ並べても足らない。この大恩、私は一生を掛けて返そう。どんな事でも構わない、力が必要ならいつでもこの皇帝アウグスを頼れ」
「ありがとうございます!! ではしばらく豪華な食事を用意してください!! そしてゴロゴロしたいです!!」
「ちょっとシノブちゃん!!? 素直過ぎる!!」
「本当にシノブは変わらないわね」
「ああ、度胸が酷いなコイツは」
 ロザリンドもタックルベリーも呆れる。
 しかしアウグスは大笑い。
「構わない。存分に休んでいけ」
 まぁ、不敬罪とか捕まりそうなら、能力使って王国まで逃亡してやるけどな!!

★★★

 帝国から大陸中に伝えられた連絡。

 王国に属するエルフの村のシノブが大陸を救った、と。
 事実、その連絡の直後に大陸は元踊りに。それは帝国の言う通りにシノブという人物が大陸を救ったという事なのだろう。

 救国の小女神シノブ……その名は大陸中を駆け巡るのであった。

★★★

「本当にもう戻るのか? 私としてはお前達全員を国賓として迎え入れ、盛大に祝いたいのだが……」
 と、アウグスは言うのだが……
「嬉しんですけど、それは辞退します。だって帝国でそれに参加したら、王国の方でもそれに参加しなくちゃダメでしょう?」
 帝国に国賓として招かれる、そうなれば後々に王国も俺を招くだろう。そして帝国で参加したのなら、王国でも参加しないと、王国側の面子を潰す事になる。
「問題があるのか?」
「それが凄くあるんですよー。僕自身は捨て子の何処の誰かも分からない出自で、一部では見た目も凄く嫌われていますから。しかも僕の商会は急成長中で嫉妬も多い。叩かれる要素ばっかりなんです」
「商会……もしかしてパル鉄鋼のランタンを扱っていた商会か?」
「あれ? 言ってませんでしたっけ? その商会の代表が僕です。って事でアウグスさん、商会の方もよろしくお願いしますね」
 と、俺は営業スマイル。
「商才まであるのか……素晴らしい。本当に帝国へ来ないか? ミランと一緒にならなくとも、私が全面的に援助をしよう」
「商才と言っても自分一人では何もできませんし。それに僕は基本的にフラフラと好きな事をしたいんです。まぁ、でもアウグスさんは好きなので、機会があればこっちに来ますね」
「そうか。では期待して待っていよう」
 そう言ってアウグスは微笑むのだ。

★★★

 そして……
「ただいま~」
 シノブ様、ご帰宅だぜ!!
 エルフの村、村に入ると同時だ。
「おおっ、救国の小女神様のご帰還だ!!」
「シノブちゃん、聞いたぞ!! 今回の大異変を解決したんだろ!!?」
「おかえり、シノブちゃん、随分と頑張ったみたいだね」
「シノブ、村はお前の話題で持ち切りだぞ。大陸を救った小さい女神だってな」
「ありがとうね、シノブちゃん」
「おい、これやるよ、これ。持ってけ」
 村の人達がいっぱい集まる。そしてお店をやっている人達からは果物やら肉やら魚やらを両手一杯に持たされる。みんなが笑っていた。
 前世では家族にさえ何も返せなかった俺がここまで……我ながら偉いよ。自分で自分を褒めてやりたい、なんて事を言える日が来るとはなぁ……純粋に嬉しいわぁ~

「お父さん、お母さん、ただいま!! やったよ!! 二人の自慢の娘がやってやったんだよ!!」
「あら、お帰り。お父さんは仕事だけど」
「仕事? 可愛い娘が世界を救ったのに仕事って……ちょっと真面目過ぎると思うんだけど!!」
「ふふっ、その真面目な所がお父さんの良い所でしょ」
 そう言ってお母さんは笑うのだった。
 その笑顔を見て、俺は思う。これで本当に終わったんだな……と。
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