上 下
107 / 268
崩壊編

嘘の作戦と本当の作戦

しおりを挟む
 リアーナは泣きながら怒っていた。
「もう!! シノブちゃん!! いつもいつも何なの!!? 心配ばっかりさせて!! 私達がどんな気持ちだったか分かってるの!!」
「だって作戦なんだからしょうがなかったんだよ」
「まずは謝るのが先でしょ!!」
「ええ~」
「シノブちゃん!!」
「ご、ごめん、リアーナ。心配ばっかり掛けて」
「本当にもう!! 作戦でもあんな事はやめて!!」
 リアーナはギュッと俺の体を抱き締める。
「うん。できるだけやめる」
「できるだけじゃないの!! 絶対にやめるの!!」
「うん、本当にごめん」
「そうね、あの血だらけのシノブの姿、こっちも心臓が止まるかと思ったわ」
 ロザリンドは言う。
「お前、とんでもない作戦を考えるな。馬鹿と天才、紙一重だ」
「ベリーは天才だけど馬鹿じゃん。紙一重じゃなくて重なってるじゃん」
「はー凄い言い草!!」
「まぁ、私は追い込まれて危機になった時こそ真価を発揮するから」
「シノブちゃん、そういう真価はいらないから」
「は、はい……」
「パパもパパよ!! 何で秘密にしておくの!!?」
「そうだな、仕方なかったとはいえ済まない」
「いや、お前に言ったら反応が不自然になって相手にバレるだろ……けどリコリスはともかく、母さん、俺には教えてくれても良かったんじゃないか?」
「ごめんね~ユー君、でもシーちゃんが絶対に言っちゃ駄目って言うから~」
「シノブ様、傷の方は大丈夫でしょうか?」
「もちろん、クテシアスさんに感謝だね」
「姐さん、本当に無事で良かったっす」
「ミツバはもちろん、みんなを説得するのは大変だったのよ。作戦だと説明してもなかなか納得してくれなくて。もうちょっとで揃って攻め込む所だったのだから。場所も分からないのにね」
 ベルベッティアはそう言って笑う。
「ありがとう、ベルベッティア。みんなを抑えるのが一番の大仕事だったかもね」
「当り前だ。あんな作戦、普通は思い付いたって実行なんてできないだろう。信じられるか」
「こんなにヒヤヒヤしたのは久しぶりだったよ……でもシノブが無事で本当に良かった。これで何かあったらマイスさんに合わせる顔が無いからね」
 フォリオとタカニャが言う。
 そして感心と驚き、ミランが呟く。
「これがシノブ……凄いの一言に尽きるな……」
 その呟きを聞き、ヴォルフラムは言うのだ。
「そう。これがシノブ。みんなの想像を軽く飛び越える。だからシノブが何処まで行くのか、俺は凄く気になる」
「ああ、そうだな……俺もだ……」
 そんな様子をフレアがただニコニコと微笑み見守っているのだった。

★★★

 嘘の作戦の裏、俺達の本当の作戦。
 実は防御魔法の中での作戦会議。あれ自体が全てフェイク、アイザックに監視されている事を想定した偽物である。
 その中で本当の作戦をどうやって構築していたのか?
 そこもアルタイル様様、もうアルタイルに足を向けて寝られねぇよ。
 アルタイルは骨を集めると言いつつ、実はヴォルフラムと一緒に近隣を探し回っていた。何を? それは骨などではなく精霊や妖精。
 そしてアルタイルが力を借りた古代魔法は言葉無く意思疎通をする魔法だった。頭の中で言葉を思い浮かべると、それが相手の頭の中で声として響く。
 なぜ都合よく古代魔法でそんな事が可能なのか……とは思うけど。
 つまり嘘作戦の話をしつつ、頭の中では別の作戦を話し合っていた。その相手はフレア、ホーリー、ビスマルク、ヴイーヴル、アルタイル、ベルベッティアの六人。
 片目を斬るとか、武器に猛毒を塗るとか、言っている最中である。

【……って、のが表向きの作戦ね】
 俺は頭の中で六人に話し掛ける。
【シノブ様。あれは猛毒などではなくクテシアス様の角ですね?】
 ホーリーの言葉が頭の中に響く。
【そうだよ】
【ユニコーンの角か。それを武器に塗る……】
 ビスマルクは呟き、その意味を考える。
【順番に説明します。まず、アイザックはクソが付く程のクソ野郎なんで、わざと途中まで嘘作戦に乗っかると思います。後で、全部知っていたぞ、とか言って僕達を馬鹿にしたいだろうし】
 だからあえて嘘作戦の中でも『そこまでやれば姿を現す可能性が高い』という発言も入れて置いた。引き摺り出す為の誘因の一つとして。
 俺は言葉を続ける。
【で、目の前に現れたアイザックを僕がブッ飛ばします。実はもう能力を使えるので。ただ問題はアイザックが本当に近くに居るのかって事です】
【シノブは目の前のアイザックが偽者、つまりソックリのゴーレムが現れると思っているのね?】
 と、ベルベッティア。
【そう。でも近くにはいると思うんだよね。クソ野郎だから絶対に近場で見たいはずだし。ただ少しでもその確証が欲しいの。近くにいるなら僕は一帯を一気に一瞬で吹き飛ばすから。それを引き出す為にビスマルクさんとヴイーヴルさんは僕を殺したと見せ掛けてください。致命傷だけど即死しないギリギリで。少しでもアイザックを油断させたいから。ちなみにそこそこ血が流れないと騙せないので一ヶ所ぐらいは普通に攻撃して】
 それを聞いて、みんな気付いたのだろう。
 俺のやろうとしている事に。
 ユニコーンの角を塗った武器で俺自身を攻撃させる。アイザックに俺が死んだと思い込ませる作戦。
【ねぇ、シーちゃん……さすがにそれは危険じゃないかしら~?】
【キオの時もそうだったけど、効果が一瞬なんです。だから貫いてすぐ武器を抜く。その瞬間に傷はもう治っていると思います】
【思います、じゃ駄目。確実でなければ賛同できない。やるなら私の身体でまず実験すべきよ】
 そうベルベッティアは言うのだが……
【無理だよ。もしその事を何らかの手段でアイザックに知られたら全てが無駄になる】
【ねぇねぇ~本気なの~? 本当にシーちゃんがそこまでしなくちゃいけないの~?】
【そこまでするから価値があります】
【駄目です。シノブ様にそんな事はさせられません】
【待て、ホーリー】
【しかしビスマルク様……】
【シノブ。お前の中で勝算はどれくらいだ?】
【ほぼ確実に勝てると思います】
 勝算……本当はそんなもん分からねぇ……でもこれしかないと俺は思っている。もっと時間があれば良い方法もあったかも知れないが、俺の能力の性質上、アイザックはそんなに時間を待たないだろう。
 もし失敗したなら、その後に俺は全てアイザックに従おう。
 そのアイザックが死ねと言うならば……まぁ、お父さんやお母さん、お姉ちゃんもいるしな。みんなを守れる可能性があるならそれも良いか。
 でもリアーナとか怒りそうだぜ。
 後の事はビスマルクに任せれば良い。きっと上手く対応してくれるはず。巻き込んでおいて任せるなんて無責任だ、とこっちにも怒られそうだけどな。
【し、しかし、シノブ様】
【ホーリー】
 何かを言い掛けたホーリーをフレアが止める。
 そんな俺の考えに、六人とも気付いたのかも知れない。
【……分かった。シノブがそう言うならばやる価値はあるのだろう】
【そうですね。アルタイルえもんもそれで良い?】
【……ああ】
【それと裏切っているように、後で嘘作戦の情報をアイザックに流しといてくださいね】

 こうして本当の作戦が決められていたのだ。

★★★

 とりあえず帝都に向かう俺達。
 近いし、アウグスにも報告せんとな。
 その途中。
 拘束されたアイザック。
 さて、この野郎をどうするか?
「お前達……私に何をした?」
 アイザックは言う。
「力を封印した。方法は教えない、解く方法にも期待しない方が良いよ。もうあなたはゴーレムを操る事もできなければ世間一般が使うような魔法すら使えない」
「……ではなぜミラベルが生きている?」
 アイザックは隣に立つミラベルへと視線を向けた。
「それも教えない」
「……これから私をどうするつもりだ?」
「ミラベルを監視に付けてここから叩き出す。後は生きるなり野垂れ死ぬなり好きにすれば」
「甘いな。ここで私を殺さないときっと後悔するぞ」
「ああ、大丈夫。ずっと監視してるから。どうやってするか? あなたならいくつか方法を知っているでしょ。まぁ、その知っている方法を選んでいるかは教えないけど」
 実は肉眼では目視が出来ない程、極小のゴーレムをアルタイルが操っているのだ。ゴーレムが得た情報は、そのままアルタイルが知る事が出来る。
 アイザックも同じゴーレムを扱い、俺達の動向を知っていたのだろう。
「ちなみにできれば、そのまま死んでどうぞ」
「……」

 昨日の事である。
「これだけの事をしたのだから重い罪も当然だと思う。けど、シノブ……それでもお願いしたいの。アイザックを見逃して欲しい」
 それはミラベルだった。
 まだ彼女の事を完全に信じる事はできないが、話だけは聞いてやろう。まぁ、護衛にフレアとホーリーもいるから大丈夫だろ。
 それとすでにゴーレムであるミラベルはアルタイルの監視下なので、そのアルタイルも呼んでおく。
「……どうして? ヴァルゴ、ローロン、ママトエトエ、あなたの仲間を殺したのはアイザックでしょう?」
「ええ、そうね……でも、それでも……彼は私達にとっては父親だった……」
「それはあなた達がゴーレムだから?」
「……私達……元は普通の人間だったのよ。アイザックと同じく、孤独な人間……」
 アリエリもドレミドも孤児だった。
 二人だけではない。ミラベルも、ヴァルゴも、ローロンも、ママトエトエも、孤独に生き、そして様々な理由で長くは生きられなかった。
 そして死後、ゴーレムとして再び命を与えたのがアイザック。
「血は繋がっていないけど、本当の家族のようだと思えた。それを奪ったのがアイザックだっとしても、与えてくれたのもアイザックだったの」
「……」
「だから……どうかお願い……」
「……このまま逃して、また悪い事をするかも」
「私がさせない」
 ミラベルは言い切る。
「ミラベルがアイザックを監視するって事?」
「ええ」
「……」
「……」
 重傷者は多い。しかしこれだけの大混乱の中で死者が出ていない。
「……アルタイル。ミラベルとアイザックの動向は確認できる?」
「ああ」
「分かった。でも少しでも怪しい素振りを見せたら、今度はアイザックを見付け出して、王国なり帝国なりに突き出すよ。だからミラベルがしっかり監視する事。それで良い?」
「ありがとう……シノブ……」
 フレアもホーリーも驚いた表情を浮かべる。
「シノブ様。本当によろしいのでしょうか?」
「……みんなには後で説明する。それとミランを呼んでもらえる?」

 それが昨日の話。
 そして俺はアイザックを蹴り出すのであった。そう、言葉の通り、ドカッとね!!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

TS転生したけど、今度こそ女の子にモテたい

マグローK
ファンタジー
秋元楓は努力が報われないタイプの少年だった。 何をやっても中の上程度の実力しかつかず、一番を取ったことは一度もなかった。 ある日、好きになった子に意を決して告白するもフラれてしまう。 傷心の中、傷を癒すため、気づくと川辺でゴミ拾いのボランティアをしていた。 しかし、少しは傷が癒えたものの、川で溺れていた子供を助けた後に、自らが溺れて死んでしまう。 夢のような感覚をさまよった後、目を覚ますと彼は女の子になっていた。 女の子になってしまった楓だが、女の子にモテることはできるのか。 カクヨム、小説家になろうにも投稿しています。

転生少女は元に戻りたい

余暇善伽
ファンタジー
平凡な社会人だった飛鳥はある日友人と共に異世界に飛ばされてしまう。しかも友人は少年になっていたのに対して、自分はなぜか少女になっていた。慣れない少女の体や少女としての扱いに動揺したり、異世界での環境に流されながらも飛鳥は元の世界、元の体に戻るべく奮闘していく。

女体化入浴剤

シソ
ファンタジー
康太は大学の帰りにドラッグストアに寄って、女体化入浴剤というものを見つけた。使ってみると最初は変化はなかったが…

異世界TS転生で新たな人生「俺が聖女になるなんて聞いてないよ!」

マロエ
ファンタジー
普通のサラリーマンだった三十歳の男性が、いつも通り残業をこなし帰宅途中に、異世界に転生してしまう。 目を覚ますと、何故か森の中に立っていて、身体も何か違うことに気づく。 近くの水面で姿を確認すると、男性の姿が20代前半~10代後半の美しい女性へと変わっていた。 さらに、異世界の住人たちから「聖女」と呼ばれる存在になってしまい、大混乱。 新たな人生に期待と不安が入り混じりながら、男性は女性として、しかも聖女として異世界を歩み始める。 ※表紙、挿絵はAIで作成したイラストを使用しています。 ※R15の章には☆マークを入れてます。

収納持ちのコレクターは、仲間と幸せに暮らしたい。~スキルがなくて追放された自称「か弱い女の子」の元辺境伯令嬢。実は無自覚チートで世界最強⁉~

SHEILA
ファンタジー
生まれた時から、両親に嫌われていた。 物心ついた時には、毎日両親から暴力を受けていた。 4年後に生まれた妹は、生まれた時から、両親に可愛がられた。 そして、物心ついた妹からも、虐めや暴力を受けるようになった。 現代日本では考えられないような環境で育った私は、ある日妹に殺され、<選択の間>に呼ばれた。 異世界の創造神に、地球の輪廻の輪に戻るか異世界に転生するかを選べると言われ、迷わず転生することを選んだ。 けれど、転生先でも両親に愛されることはなくて…… お読みいただきありがとうございます。 のんびり不定期更新です。

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

気がついたら異世界に転生していた。

みみっく
ファンタジー
社畜として会社に愛されこき使われ日々のストレスとムリが原因で深夜の休憩中に死んでしまい。 気がついたら異世界に転生していた。 普通に愛情を受けて育てられ、普通に育ち屋敷を抜け出して子供達が集まる広場へ遊びに行くと自分の異常な身体能力に気が付き始めた・・・ 冒険がメインでは無く、冒険とほのぼのとした感じの日常と恋愛を書いていけたらと思って書いています。 戦闘もありますが少しだけです。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

処理中です...