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崩壊編
嘘の作戦と本当の作戦
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リアーナは泣きながら怒っていた。
「もう!! シノブちゃん!! いつもいつも何なの!!? 心配ばっかりさせて!! 私達がどんな気持ちだったか分かってるの!!」
「だって作戦なんだからしょうがなかったんだよ」
「まずは謝るのが先でしょ!!」
「ええ~」
「シノブちゃん!!」
「ご、ごめん、リアーナ。心配ばっかり掛けて」
「本当にもう!! 作戦でもあんな事はやめて!!」
リアーナはギュッと俺の体を抱き締める。
「うん。できるだけやめる」
「できるだけじゃないの!! 絶対にやめるの!!」
「うん、本当にごめん」
「そうね、あの血だらけのシノブの姿、こっちも心臓が止まるかと思ったわ」
ロザリンドは言う。
「お前、とんでもない作戦を考えるな。馬鹿と天才、紙一重だ」
「ベリーは天才だけど馬鹿じゃん。紙一重じゃなくて重なってるじゃん」
「はー凄い言い草!!」
「まぁ、私は追い込まれて危機になった時こそ真価を発揮するから」
「シノブちゃん、そういう真価はいらないから」
「は、はい……」
「パパもパパよ!! 何で秘密にしておくの!!?」
「そうだな、仕方なかったとはいえ済まない」
「いや、お前に言ったら反応が不自然になって相手にバレるだろ……けどリコリスはともかく、母さん、俺には教えてくれても良かったんじゃないか?」
「ごめんね~ユー君、でもシーちゃんが絶対に言っちゃ駄目って言うから~」
「シノブ様、傷の方は大丈夫でしょうか?」
「もちろん、クテシアスさんに感謝だね」
「姐さん、本当に無事で良かったっす」
「ミツバはもちろん、みんなを説得するのは大変だったのよ。作戦だと説明してもなかなか納得してくれなくて。もうちょっとで揃って攻め込む所だったのだから。場所も分からないのにね」
ベルベッティアはそう言って笑う。
「ありがとう、ベルベッティア。みんなを抑えるのが一番の大仕事だったかもね」
「当り前だ。あんな作戦、普通は思い付いたって実行なんてできないだろう。信じられるか」
「こんなにヒヤヒヤしたのは久しぶりだったよ……でもシノブが無事で本当に良かった。これで何かあったらマイスさんに合わせる顔が無いからね」
フォリオとタカニャが言う。
そして感心と驚き、ミランが呟く。
「これがシノブ……凄いの一言に尽きるな……」
その呟きを聞き、ヴォルフラムは言うのだ。
「そう。これがシノブ。みんなの想像を軽く飛び越える。だからシノブが何処まで行くのか、俺は凄く気になる」
「ああ、そうだな……俺もだ……」
そんな様子をフレアがただニコニコと微笑み見守っているのだった。
★★★
嘘の作戦の裏、俺達の本当の作戦。
実は防御魔法の中での作戦会議。あれ自体が全てフェイク、アイザックに監視されている事を想定した偽物である。
その中で本当の作戦をどうやって構築していたのか?
そこもアルタイル様様、もうアルタイルに足を向けて寝られねぇよ。
アルタイルは骨を集めると言いつつ、実はヴォルフラムと一緒に近隣を探し回っていた。何を? それは骨などではなく精霊や妖精。
そしてアルタイルが力を借りた古代魔法は言葉無く意思疎通をする魔法だった。頭の中で言葉を思い浮かべると、それが相手の頭の中で声として響く。
なぜ都合よく古代魔法でそんな事が可能なのか……とは思うけど。
つまり嘘作戦の話をしつつ、頭の中では別の作戦を話し合っていた。その相手はフレア、ホーリー、ビスマルク、ヴイーヴル、アルタイル、ベルベッティアの六人。
片目を斬るとか、武器に猛毒を塗るとか、言っている最中である。
【……って、のが表向きの作戦ね】
俺は頭の中で六人に話し掛ける。
【シノブ様。あれは猛毒などではなくクテシアス様の角ですね?】
ホーリーの言葉が頭の中に響く。
【そうだよ】
【ユニコーンの角か。それを武器に塗る……】
ビスマルクは呟き、その意味を考える。
【順番に説明します。まず、アイザックはクソが付く程のクソ野郎なんで、わざと途中まで嘘作戦に乗っかると思います。後で、全部知っていたぞ、とか言って僕達を馬鹿にしたいだろうし】
だからあえて嘘作戦の中でも『そこまでやれば姿を現す可能性が高い』という発言も入れて置いた。引き摺り出す為の誘因の一つとして。
俺は言葉を続ける。
【で、目の前に現れたアイザックを僕がブッ飛ばします。実はもう能力を使えるので。ただ問題はアイザックが本当に近くに居るのかって事です】
【シノブは目の前のアイザックが偽者、つまりソックリのゴーレムが現れると思っているのね?】
と、ベルベッティア。
【そう。でも近くにはいると思うんだよね。クソ野郎だから絶対に近場で見たいはずだし。ただ少しでもその確証が欲しいの。近くにいるなら僕は一帯を一気に一瞬で吹き飛ばすから。それを引き出す為にビスマルクさんとヴイーヴルさんは僕を殺したと見せ掛けてください。致命傷だけど即死しないギリギリで。少しでもアイザックを油断させたいから。ちなみにそこそこ血が流れないと騙せないので一ヶ所ぐらいは普通に攻撃して】
それを聞いて、みんな気付いたのだろう。
俺のやろうとしている事に。
ユニコーンの角を塗った武器で俺自身を攻撃させる。アイザックに俺が死んだと思い込ませる作戦。
【ねぇ、シーちゃん……さすがにそれは危険じゃないかしら~?】
【キオの時もそうだったけど、効果が一瞬なんです。だから貫いてすぐ武器を抜く。その瞬間に傷はもう治っていると思います】
【思います、じゃ駄目。確実でなければ賛同できない。やるなら私の身体でまず実験すべきよ】
そうベルベッティアは言うのだが……
【無理だよ。もしその事を何らかの手段でアイザックに知られたら全てが無駄になる】
【ねぇねぇ~本気なの~? 本当にシーちゃんがそこまでしなくちゃいけないの~?】
【そこまでするから価値があります】
【駄目です。シノブ様にそんな事はさせられません】
【待て、ホーリー】
【しかしビスマルク様……】
【シノブ。お前の中で勝算はどれくらいだ?】
【ほぼ確実に勝てると思います】
勝算……本当はそんなもん分からねぇ……でもこれしかないと俺は思っている。もっと時間があれば良い方法もあったかも知れないが、俺の能力の性質上、アイザックはそんなに時間を待たないだろう。
もし失敗したなら、その後に俺は全てアイザックに従おう。
そのアイザックが死ねと言うならば……まぁ、お父さんやお母さん、お姉ちゃんもいるしな。みんなを守れる可能性があるならそれも良いか。
でもリアーナとか怒りそうだぜ。
後の事はビスマルクに任せれば良い。きっと上手く対応してくれるはず。巻き込んでおいて任せるなんて無責任だ、とこっちにも怒られそうだけどな。
【し、しかし、シノブ様】
【ホーリー】
何かを言い掛けたホーリーをフレアが止める。
そんな俺の考えに、六人とも気付いたのかも知れない。
【……分かった。シノブがそう言うならばやる価値はあるのだろう】
【そうですね。アルタイルえもんもそれで良い?】
【……ああ】
【それと裏切っているように、後で嘘作戦の情報をアイザックに流しといてくださいね】
こうして本当の作戦が決められていたのだ。
★★★
とりあえず帝都に向かう俺達。
近いし、アウグスにも報告せんとな。
その途中。
拘束されたアイザック。
さて、この野郎をどうするか?
「お前達……私に何をした?」
アイザックは言う。
「力を封印した。方法は教えない、解く方法にも期待しない方が良いよ。もうあなたはゴーレムを操る事もできなければ世間一般が使うような魔法すら使えない」
「……ではなぜミラベルが生きている?」
アイザックは隣に立つミラベルへと視線を向けた。
「それも教えない」
「……これから私をどうするつもりだ?」
「ミラベルを監視に付けてここから叩き出す。後は生きるなり野垂れ死ぬなり好きにすれば」
「甘いな。ここで私を殺さないときっと後悔するぞ」
「ああ、大丈夫。ずっと監視してるから。どうやってするか? あなたならいくつか方法を知っているでしょ。まぁ、その知っている方法を選んでいるかは教えないけど」
実は肉眼では目視が出来ない程、極小のゴーレムをアルタイルが操っているのだ。ゴーレムが得た情報は、そのままアルタイルが知る事が出来る。
アイザックも同じゴーレムを扱い、俺達の動向を知っていたのだろう。
「ちなみにできれば、そのまま死んでどうぞ」
「……」
昨日の事である。
「これだけの事をしたのだから重い罪も当然だと思う。けど、シノブ……それでもお願いしたいの。アイザックを見逃して欲しい」
それはミラベルだった。
まだ彼女の事を完全に信じる事はできないが、話だけは聞いてやろう。まぁ、護衛にフレアとホーリーもいるから大丈夫だろ。
それとすでにゴーレムであるミラベルはアルタイルの監視下なので、そのアルタイルも呼んでおく。
「……どうして? ヴァルゴ、ローロン、ママトエトエ、あなたの仲間を殺したのはアイザックでしょう?」
「ええ、そうね……でも、それでも……彼は私達にとっては父親だった……」
「それはあなた達がゴーレムだから?」
「……私達……元は普通の人間だったのよ。アイザックと同じく、孤独な人間……」
アリエリもドレミドも孤児だった。
二人だけではない。ミラベルも、ヴァルゴも、ローロンも、ママトエトエも、孤独に生き、そして様々な理由で長くは生きられなかった。
そして死後、ゴーレムとして再び命を与えたのがアイザック。
「血は繋がっていないけど、本当の家族のようだと思えた。それを奪ったのがアイザックだっとしても、与えてくれたのもアイザックだったの」
「……」
「だから……どうかお願い……」
「……このまま逃して、また悪い事をするかも」
「私がさせない」
ミラベルは言い切る。
「ミラベルがアイザックを監視するって事?」
「ええ」
「……」
「……」
重傷者は多い。しかしこれだけの大混乱の中で死者が出ていない。
「……アルタイル。ミラベルとアイザックの動向は確認できる?」
「ああ」
「分かった。でも少しでも怪しい素振りを見せたら、今度はアイザックを見付け出して、王国なり帝国なりに突き出すよ。だからミラベルがしっかり監視する事。それで良い?」
「ありがとう……シノブ……」
フレアもホーリーも驚いた表情を浮かべる。
「シノブ様。本当によろしいのでしょうか?」
「……みんなには後で説明する。それとミランを呼んでもらえる?」
それが昨日の話。
そして俺はアイザックを蹴り出すのであった。そう、言葉の通り、ドカッとね!!
「もう!! シノブちゃん!! いつもいつも何なの!!? 心配ばっかりさせて!! 私達がどんな気持ちだったか分かってるの!!」
「だって作戦なんだからしょうがなかったんだよ」
「まずは謝るのが先でしょ!!」
「ええ~」
「シノブちゃん!!」
「ご、ごめん、リアーナ。心配ばっかり掛けて」
「本当にもう!! 作戦でもあんな事はやめて!!」
リアーナはギュッと俺の体を抱き締める。
「うん。できるだけやめる」
「できるだけじゃないの!! 絶対にやめるの!!」
「うん、本当にごめん」
「そうね、あの血だらけのシノブの姿、こっちも心臓が止まるかと思ったわ」
ロザリンドは言う。
「お前、とんでもない作戦を考えるな。馬鹿と天才、紙一重だ」
「ベリーは天才だけど馬鹿じゃん。紙一重じゃなくて重なってるじゃん」
「はー凄い言い草!!」
「まぁ、私は追い込まれて危機になった時こそ真価を発揮するから」
「シノブちゃん、そういう真価はいらないから」
「は、はい……」
「パパもパパよ!! 何で秘密にしておくの!!?」
「そうだな、仕方なかったとはいえ済まない」
「いや、お前に言ったら反応が不自然になって相手にバレるだろ……けどリコリスはともかく、母さん、俺には教えてくれても良かったんじゃないか?」
「ごめんね~ユー君、でもシーちゃんが絶対に言っちゃ駄目って言うから~」
「シノブ様、傷の方は大丈夫でしょうか?」
「もちろん、クテシアスさんに感謝だね」
「姐さん、本当に無事で良かったっす」
「ミツバはもちろん、みんなを説得するのは大変だったのよ。作戦だと説明してもなかなか納得してくれなくて。もうちょっとで揃って攻め込む所だったのだから。場所も分からないのにね」
ベルベッティアはそう言って笑う。
「ありがとう、ベルベッティア。みんなを抑えるのが一番の大仕事だったかもね」
「当り前だ。あんな作戦、普通は思い付いたって実行なんてできないだろう。信じられるか」
「こんなにヒヤヒヤしたのは久しぶりだったよ……でもシノブが無事で本当に良かった。これで何かあったらマイスさんに合わせる顔が無いからね」
フォリオとタカニャが言う。
そして感心と驚き、ミランが呟く。
「これがシノブ……凄いの一言に尽きるな……」
その呟きを聞き、ヴォルフラムは言うのだ。
「そう。これがシノブ。みんなの想像を軽く飛び越える。だからシノブが何処まで行くのか、俺は凄く気になる」
「ああ、そうだな……俺もだ……」
そんな様子をフレアがただニコニコと微笑み見守っているのだった。
★★★
嘘の作戦の裏、俺達の本当の作戦。
実は防御魔法の中での作戦会議。あれ自体が全てフェイク、アイザックに監視されている事を想定した偽物である。
その中で本当の作戦をどうやって構築していたのか?
そこもアルタイル様様、もうアルタイルに足を向けて寝られねぇよ。
アルタイルは骨を集めると言いつつ、実はヴォルフラムと一緒に近隣を探し回っていた。何を? それは骨などではなく精霊や妖精。
そしてアルタイルが力を借りた古代魔法は言葉無く意思疎通をする魔法だった。頭の中で言葉を思い浮かべると、それが相手の頭の中で声として響く。
なぜ都合よく古代魔法でそんな事が可能なのか……とは思うけど。
つまり嘘作戦の話をしつつ、頭の中では別の作戦を話し合っていた。その相手はフレア、ホーリー、ビスマルク、ヴイーヴル、アルタイル、ベルベッティアの六人。
片目を斬るとか、武器に猛毒を塗るとか、言っている最中である。
【……って、のが表向きの作戦ね】
俺は頭の中で六人に話し掛ける。
【シノブ様。あれは猛毒などではなくクテシアス様の角ですね?】
ホーリーの言葉が頭の中に響く。
【そうだよ】
【ユニコーンの角か。それを武器に塗る……】
ビスマルクは呟き、その意味を考える。
【順番に説明します。まず、アイザックはクソが付く程のクソ野郎なんで、わざと途中まで嘘作戦に乗っかると思います。後で、全部知っていたぞ、とか言って僕達を馬鹿にしたいだろうし】
だからあえて嘘作戦の中でも『そこまでやれば姿を現す可能性が高い』という発言も入れて置いた。引き摺り出す為の誘因の一つとして。
俺は言葉を続ける。
【で、目の前に現れたアイザックを僕がブッ飛ばします。実はもう能力を使えるので。ただ問題はアイザックが本当に近くに居るのかって事です】
【シノブは目の前のアイザックが偽者、つまりソックリのゴーレムが現れると思っているのね?】
と、ベルベッティア。
【そう。でも近くにはいると思うんだよね。クソ野郎だから絶対に近場で見たいはずだし。ただ少しでもその確証が欲しいの。近くにいるなら僕は一帯を一気に一瞬で吹き飛ばすから。それを引き出す為にビスマルクさんとヴイーヴルさんは僕を殺したと見せ掛けてください。致命傷だけど即死しないギリギリで。少しでもアイザックを油断させたいから。ちなみにそこそこ血が流れないと騙せないので一ヶ所ぐらいは普通に攻撃して】
それを聞いて、みんな気付いたのだろう。
俺のやろうとしている事に。
ユニコーンの角を塗った武器で俺自身を攻撃させる。アイザックに俺が死んだと思い込ませる作戦。
【ねぇ、シーちゃん……さすがにそれは危険じゃないかしら~?】
【キオの時もそうだったけど、効果が一瞬なんです。だから貫いてすぐ武器を抜く。その瞬間に傷はもう治っていると思います】
【思います、じゃ駄目。確実でなければ賛同できない。やるなら私の身体でまず実験すべきよ】
そうベルベッティアは言うのだが……
【無理だよ。もしその事を何らかの手段でアイザックに知られたら全てが無駄になる】
【ねぇねぇ~本気なの~? 本当にシーちゃんがそこまでしなくちゃいけないの~?】
【そこまでするから価値があります】
【駄目です。シノブ様にそんな事はさせられません】
【待て、ホーリー】
【しかしビスマルク様……】
【シノブ。お前の中で勝算はどれくらいだ?】
【ほぼ確実に勝てると思います】
勝算……本当はそんなもん分からねぇ……でもこれしかないと俺は思っている。もっと時間があれば良い方法もあったかも知れないが、俺の能力の性質上、アイザックはそんなに時間を待たないだろう。
もし失敗したなら、その後に俺は全てアイザックに従おう。
そのアイザックが死ねと言うならば……まぁ、お父さんやお母さん、お姉ちゃんもいるしな。みんなを守れる可能性があるならそれも良いか。
でもリアーナとか怒りそうだぜ。
後の事はビスマルクに任せれば良い。きっと上手く対応してくれるはず。巻き込んでおいて任せるなんて無責任だ、とこっちにも怒られそうだけどな。
【し、しかし、シノブ様】
【ホーリー】
何かを言い掛けたホーリーをフレアが止める。
そんな俺の考えに、六人とも気付いたのかも知れない。
【……分かった。シノブがそう言うならばやる価値はあるのだろう】
【そうですね。アルタイルえもんもそれで良い?】
【……ああ】
【それと裏切っているように、後で嘘作戦の情報をアイザックに流しといてくださいね】
こうして本当の作戦が決められていたのだ。
★★★
とりあえず帝都に向かう俺達。
近いし、アウグスにも報告せんとな。
その途中。
拘束されたアイザック。
さて、この野郎をどうするか?
「お前達……私に何をした?」
アイザックは言う。
「力を封印した。方法は教えない、解く方法にも期待しない方が良いよ。もうあなたはゴーレムを操る事もできなければ世間一般が使うような魔法すら使えない」
「……ではなぜミラベルが生きている?」
アイザックは隣に立つミラベルへと視線を向けた。
「それも教えない」
「……これから私をどうするつもりだ?」
「ミラベルを監視に付けてここから叩き出す。後は生きるなり野垂れ死ぬなり好きにすれば」
「甘いな。ここで私を殺さないときっと後悔するぞ」
「ああ、大丈夫。ずっと監視してるから。どうやってするか? あなたならいくつか方法を知っているでしょ。まぁ、その知っている方法を選んでいるかは教えないけど」
実は肉眼では目視が出来ない程、極小のゴーレムをアルタイルが操っているのだ。ゴーレムが得た情報は、そのままアルタイルが知る事が出来る。
アイザックも同じゴーレムを扱い、俺達の動向を知っていたのだろう。
「ちなみにできれば、そのまま死んでどうぞ」
「……」
昨日の事である。
「これだけの事をしたのだから重い罪も当然だと思う。けど、シノブ……それでもお願いしたいの。アイザックを見逃して欲しい」
それはミラベルだった。
まだ彼女の事を完全に信じる事はできないが、話だけは聞いてやろう。まぁ、護衛にフレアとホーリーもいるから大丈夫だろ。
それとすでにゴーレムであるミラベルはアルタイルの監視下なので、そのアルタイルも呼んでおく。
「……どうして? ヴァルゴ、ローロン、ママトエトエ、あなたの仲間を殺したのはアイザックでしょう?」
「ええ、そうね……でも、それでも……彼は私達にとっては父親だった……」
「それはあなた達がゴーレムだから?」
「……私達……元は普通の人間だったのよ。アイザックと同じく、孤独な人間……」
アリエリもドレミドも孤児だった。
二人だけではない。ミラベルも、ヴァルゴも、ローロンも、ママトエトエも、孤独に生き、そして様々な理由で長くは生きられなかった。
そして死後、ゴーレムとして再び命を与えたのがアイザック。
「血は繋がっていないけど、本当の家族のようだと思えた。それを奪ったのがアイザックだっとしても、与えてくれたのもアイザックだったの」
「……」
「だから……どうかお願い……」
「……このまま逃して、また悪い事をするかも」
「私がさせない」
ミラベルは言い切る。
「ミラベルがアイザックを監視するって事?」
「ええ」
「……」
「……」
重傷者は多い。しかしこれだけの大混乱の中で死者が出ていない。
「……アルタイル。ミラベルとアイザックの動向は確認できる?」
「ああ」
「分かった。でも少しでも怪しい素振りを見せたら、今度はアイザックを見付け出して、王国なり帝国なりに突き出すよ。だからミラベルがしっかり監視する事。それで良い?」
「ありがとう……シノブ……」
フレアもホーリーも驚いた表情を浮かべる。
「シノブ様。本当によろしいのでしょうか?」
「……みんなには後で説明する。それとミランを呼んでもらえる?」
それが昨日の話。
そして俺はアイザックを蹴り出すのであった。そう、言葉の通り、ドカッとね!!
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