上 下
87 / 268
崩壊編

六人の男女と突然の開戦

しおりを挟む
 最初に気付いたのは俺達を中心に広域防御魔法を張るフレアとホーリーだった。
 それは範囲内の侵入者に反応する魔法。
 敵か味方か……次にキオがそれをカトブレパスの瞳で確認する。
 正面から向かって来るのは六人の男女。
「僕が前面に出る。リアーナとロザリンドを呼んで。二人の隊の隊員は後方で待機」
 向かって来る相手に、雇った傭兵や冒険者では太刀打ちが出来ない。
 やがて相手は姿を現した。
 向かい合い、対峙する。

「話は聞いている!! お前達だな、私達の邪魔をするのは!!」
 年齢的には俺やリアーナよりも年上、フレアやホーリーよりも年下、それぐらいの女性。流れるような長い金色の髪。そして鋭い視線を放つ瞳は金色に輝いていた。
「違います!! 人違いです!!」
 俺は答えてやる。
「そうか。すまなかったな……おい!! 違うらしいぞ!!」
「いや、間違いない。アイツ等だ」
 女性に答えたのは青い肌をした単眼の青年だった。
「どういう事だ!!? 私を騙したのか!!?」
「騙していません!! 本当に人違いなんです!!」
「おい、人違いだって言っているぞ?」
「だから言っているだろう。アイツ等だ」
「ど、どういう事なんだ!!? 混乱する!!」
「あははははっ」
 あの金髪金眼の女、笑えるわぁ~
「おうっ、お前等、また会ったな!! ははっ」
 ヴァルゴだ。リアーナとロザリンドの姿を見て笑う。
「やっぱりお前達じゃないか!!」
 女性は怒ったように言うのだった。
 女性とヴァルゴ、単眼の青年、そしてアリエリもいる。さらに二人。
 一人は金色の瞳、そして金色の鱗を持つ獣人だった。蛇や蜥蜴のように見える。リザードマンと言われる種族に似ている。
 もう一人、同じく金色の髪と瞳。ただスゲェ、こっちは人魚じゃん。熱帯魚のような金色の下半身は魚のそれ。そしてその下半身は水の球体に包まれ、宙を浮いていた。
 リアーナもロザリンドも武器を構えるが……
「おいおい、こっちは戦う気は無いんだ。武器をしまえ、武器を」
 ヴァルゴは言う。
「ならどういう理由で私達の前に現れたんだ?」
 ビスマルクだ。
「お互い、相手の顔を知っていた方がお遊びは楽しいだろ?」
「お遊び? 遊びでお前達はこんな事をしているのか?」
「違うぞ!! お遊びではない!! 私達は……そう言えば私も理由を聞いていないぞ? どういう事なんだ、ヴァルゴ? お遊びなのか?」
 女性は仲間達に聞く。
「ドレミドはね、話をいつもちゃんと聞いていないから。馬鹿なの?」
 そう答えるのは少女アリエリ。
 くっ……笑っちゃ駄目だ……
「みんな、アリエリが酷い事を言うぞ!!」
「少し黙ってろ」
 そう言うのは金色の鱗を持つリザードマン。
「そうだ、アリエリ、静かにしろ!!」
「ドレミド、お前だ」
「酷い!!」
 あの金髪金眼の女性……ドレミドと呼ばれている奴、面白過ぎるじゃないか……仲間にしたくなるぅ……
 なんて気を取られた隙……足元からだった。
 俺達が立つ地面から金色の靄が立ち上がる。それは意思を持つように足に絡み付いた。
 俺は前方の六人を睨む。
 単眼の青年、その一つだけの大きな瞳が怪しい光を放っている。
「フレア!! ホーリー!!」
「防御魔法は展開しております」
 険しい表情でホーリーは言う。
 二人の防御魔法を越えての攻撃。従来の知っている魔法攻撃ではない。
 しかし……破裂音。それと共に靄が霧散する。
「さ、させません……」
 隣に立つキオだった。
 その左目、カトブレパスの瞳が鮮やかに輝いていた。その力が単眼の青年の力を打ち消す。
 ふわぁぁぁぁぁっ、キオが頼もし過ぎるよぉぉぉぉぉっ!!
「戦うつもりは無いのではなかったか?」
 ビスマルクの言葉に単眼の青年は笑う。
「……俺の力に対抗するなんて、なかなか良い力を持っ、あぐっ!!?」
 パカンッ
 そんな青年の頭を引っ叩くヴァルゴ。
「悪かったな。本当に争う気は無かったんだ。そうだろ? ローロン」
「……そうだな。すまない」
 単眼の青年、ローロンは小さくそう言った。
 ヴァルゴが言葉を続ける。
「アリエリには会った事があるんだろ? こいつがローロン。こっちはドレミドだ。それとママトエトエ。ミラベルだ」
 リザードマンがママトエトエ。
 人魚がミラベル。
「はい。これで私達の自己紹介は済んだよね。帰りましょうよ」
 面倒臭そうにミラベルは言う。
「この場からそのまま帰れると思うのか? 私達の敵であるお前達が目の前に揃っているんだ。まとめて叩くには好機だな。そっちに戦う気は無くても、こっちは違うぞ」
 言いながら、ビスマルクは一歩前に進み出る。
「むっ。好戦的な奴だ。私が相手してやる」
 ドレミドも腰の剣を抜いて一歩前に進み出る。
「まぁ、待てよ。そっちの嬢ちゃんも同じ意見か?」
 そのヴァルゴの言葉は俺に向けられていた。
「……私はこの人に従うだけです」
「おいおい、誤魔化すなよ。ローロンから聞いているぞ。お前がこの隊を率いているんだろ?」
「馬鹿を言うな。まだ子供じゃないか。きっと迷子を保護して、もごもご」
「だからお前は黙っていろ」
 ママトエトエはドレミドの口を塞ぐ。
 まぁ、もう隠す気も無いしな。
「……お互いに戦う気ならそれも良いんだけどね。そっちは逃げる方法くらい考えてるでしょ」
 わざわざ目の前に姿を現すんだから、絶対に逃げ切る方法があるに決まってんだよ。
「それよりも本当にそんな自己紹介する為に僕達の前に現れたわけ? 三つ首竜は馬鹿なの?」
 その俺の言葉に反応したのはドレミドだった。
「三つ首竜?」
 一瞬だけポカンとした表情を浮かべる。
「もう下がれ」
 ママトエトエはドレミドを隠すように後ろへと押し込み、自身が前に立つ。
 おいおい、『三つ首竜』の言葉で何か反応があるかと口にしてみたが、ドレミドの表情を見る限り、とんでもないヒントじゃねぇか。
 コイツ等を操っているのは三つ首竜じゃない可能性が高くなったぞ。
「それにお遊びと言うならルールを教えて欲しいんだけど。それが分からないと充分に楽しめないでしょう?」
「ははっ、面白い嬢ちゃんだな」
 ヴァルゴは笑う。そして言葉を続けた。
「大したルールなんて無ぇ。俺達は大陸を混乱に陥れる。お前達はそれを阻止する。ただそれだけだ」
「目的は?」
「さぁね」
「今、ふと思ったんだけど……全員は無理だけど一人くらいなら捕まえる事が出来るんじゃないかな、ってね」
 俺は笑った。
 そして次の瞬間。
「ベリー!!」
「あいよ!!」
 呼ぶだけで充分だった。
 タックルベリーは瞬時に魔法を発動する。
 ヴァルゴ達の頭上で大爆発が起る。突然の開戦。
 もちろんその程度で終わる相手ではなかった。
 金色の人魚、ミラベル。彼女がタックルベリーの魔法を自らの魔法で相殺する。
「こうなる可能性もあったから嫌だったのに」
 ミラベルは大きく溜息を吐いた。
 そしてドレミドが腰の剣を抜き突進する。
「お前達が始めたんだぞ」
 その突進を止めたのはヴイーヴルだった。素早く飛び出して、ドレミドの剣を受け止める。
「あらあら~こんな可愛いのに、凄い力ね~」
「か、可愛い!!? 私が!!?」
「ええ~とっても~」
「そ、そうか、それは嬉しい。うん、嬉しいぞ」
 なんて会話をしているが……ドレミドの剣はその手先さえ見えない速度で打ち込まれていた。そしてそれに負ける事無く大剣クレイモアで打ち返すヴイーヴル。
 二人ともその力は尋常じゃねぇ。

「私がアリエリの相手をする」
 そう言って飛び出すのはビスマルク。
「そう。戦うの。分かった」
 アリエリの小さい体が宙を浮く。
 相手が子供の姿であれば躊躇が生まれる。だからこそビスマルクだ。見た目に惑わされる程に甘くはない。

 ローロンの単眼がまた鈍い光を帯びる。
 それに反応するようにキオもまたカトブレパスの瞳を発動させるのだ。
「キオ、ローロンをお願い!! ミツバさんも!!」
「は、はい!!」
「了解っす!!」
「あの色……カトブレパスの瞳か……面白い」
 ローロンの力を相殺するキオ、そしてミツバは巨大な戦斧を握り締め、弾丸のように突撃した。

 ミラベルから放たれたのは水の槍だった。超高密度に圧縮され打ち出された水の槍は鉄の扉でさえ簡単に貫くだろう。しかし無数に打ち込まれるそれをフレアの防御魔法が防ぐ。
「リコリス、ユリアン、大変だと思うけどミラベルを任せるよ!!」
「やってやりますわ!!」
「ああ、任された」
 リコリスもユリアンも、一瞬にしてミラベルとの間合いを詰める。
「子供だと思わない方が良いのね」
 ミラベルはそう呟く。
「フレア。二人を守ってあげて」
「はい」
 フレアは微笑んだ。そしてリコリスとユリアンの後を追う。

「おいおい、お前等はどちらかと言うと正義の味方だろ? 正義の味方が戦う意思の無い相手に先制攻撃するなんて、これじゃどっちが悪者か分からねぇな、ははっ」
 ヴァルゴは笑うが……
「ばーか、正義の味方とか悪者とか知った事じゃないし、どうでも良いんだけど。僕は僕のやりたいようにやるだけなんで。リアーナ、ロザリンド、ベリー、お願いね」
「うん。任せて」
「分かったわ」
「はいよ」
「おうっ、またお前達が相手をしてくれるのか、面白い事になってきたな」

 一応、キオの索敵で周りに他の敵がいない事は確認した。しかし絶対は無い。
「フォリオさんとタカさんは辺りを探って下さい。相手の援軍が無いとは限らないので。それと必要なら隊員達の指揮もお願いします」
「ああ」
「本当にとんでもない奴等を相手にしているんだね。任せな」
 フォリオは静かに頷き、タカニャは笑った。
「それとアルタイルえもんは全体の補佐をお願い。押されている所のね」
「……」
 アルタイルは黙ってスケルトンを召還するのだった。

「……で、俺の相手はお前達がしてくれるのか?」
 ママトエトエだ。無造作に近付いてくる。その手に握られているのは長槍。
 ヴォルフラムは元の姿に戻り、ホーリーはより強力な防御魔法を展開する。ベルベッティアは俺の肩へと駆け上がった。
「どうするつもり?」
「どうするって、もちろん話をするんだよ」
 ベルベッティアの言葉に俺は笑みを浮かべる。
 引き出せる情報があるなら引き出してやんぜ!! その為に吹っ掛けたんだからな!!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

新しい自分(女体化しても生きていく)

雪城朝香
ファンタジー
明日から大学生となる節目に突如女性になってしまった少年の話です♪♪ 男では絶対にありえない痛みから始まり、最後には・・・。

転生少女は元に戻りたい

余暇善伽
ファンタジー
平凡な社会人だった飛鳥はある日友人と共に異世界に飛ばされてしまう。しかも友人は少年になっていたのに対して、自分はなぜか少女になっていた。慣れない少女の体や少女としての扱いに動揺したり、異世界での環境に流されながらも飛鳥は元の世界、元の体に戻るべく奮闘していく。

TS転生したけど、今度こそ女の子にモテたい

マグローK
ファンタジー
秋元楓は努力が報われないタイプの少年だった。 何をやっても中の上程度の実力しかつかず、一番を取ったことは一度もなかった。 ある日、好きになった子に意を決して告白するもフラれてしまう。 傷心の中、傷を癒すため、気づくと川辺でゴミ拾いのボランティアをしていた。 しかし、少しは傷が癒えたものの、川で溺れていた子供を助けた後に、自らが溺れて死んでしまう。 夢のような感覚をさまよった後、目を覚ますと彼は女の子になっていた。 女の子になってしまった楓だが、女の子にモテることはできるのか。 カクヨム、小説家になろうにも投稿しています。

女体化入浴剤

シソ
ファンタジー
康太は大学の帰りにドラッグストアに寄って、女体化入浴剤というものを見つけた。使ってみると最初は変化はなかったが…

異世界TS転生で新たな人生「俺が聖女になるなんて聞いてないよ!」

マロエ
ファンタジー
普通のサラリーマンだった三十歳の男性が、いつも通り残業をこなし帰宅途中に、異世界に転生してしまう。 目を覚ますと、何故か森の中に立っていて、身体も何か違うことに気づく。 近くの水面で姿を確認すると、男性の姿が20代前半~10代後半の美しい女性へと変わっていた。 さらに、異世界の住人たちから「聖女」と呼ばれる存在になってしまい、大混乱。 新たな人生に期待と不安が入り混じりながら、男性は女性として、しかも聖女として異世界を歩み始める。 ※表紙、挿絵はAIで作成したイラストを使用しています。 ※R15の章には☆マークを入れてます。

達也の女体化事件

愛莉
ファンタジー
21歳実家暮らしのf蘭大学生達也は、朝起きると、股間だけが女性化していて、、!子宮まで形成されていた!?

転生幼女の怠惰なため息

(◉ɷ◉ )〈ぬこ〉
ファンタジー
ひとり残業中のアラフォー、清水 紗代(しみず さよ)。異世界の神のゴタゴタに巻き込まれ、アッという間に死亡…( ºωº )チーン… 紗世を幼い頃から見守ってきた座敷わらしズがガチギレ⁉💢 座敷わらしズが異世界の神を脅し…ε=o(´ロ`||)ゴホゴホッ説得して異世界での幼女生活スタートっ!! もう何番煎じかわからない異世界幼女転生のご都合主義なお話です。 全くの初心者となりますので、よろしくお願いします。 作者は極度のとうふメンタルとなっております…

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

処理中です...