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崩壊編

準備と出発

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 さて自己紹介も終わった所で。
「フレア、ホーリー」
 俺の言葉でフレアとホーリーは大きな木箱を目の前にドスンッと置く。金具で補強された木箱だ。そしてその蓋を開けると……
「ちょっと、シノブちゃん、これ……」
「とんでもない大金ね……」
 リアーナもロザリンドも目を丸くする。
 木箱の中に大量の金貨が溢れていたからだ。
 これは俺達の活動資金。
「ビスマルクさん。これで冒険者とか傭兵とか雇って欲しいんです。信用が出来て、実力も伴った人。元国境警備隊だったビスマルクさんならそういう伝手もあると思うんですけど」
「分かった。任せてくれ」

 昨日の事が思い出される。
 お父さんとお母さんを目の前にして俺は言う。
「今まで貯めたお金を使わせて」
 それは相当な金額である。一生は遊んで暮らせるお金。
 そんな大金に対して、二人はあっさりと言う。
「シノブが自分の仕事で貯めたお金なんだから自由に使ったら良い。でもシノブじゃないとダメなのか?」
 今、この大陸で起こっている事を伝えていた。そして二人とも俺の神々の手としての能力を知っている。だからやろうとしている事も分かっているのだろう。
「……自分が出来る事やりたいの」
 そんな俺をお母さんが抱き締めて言う。
「お母さんにはシノブの方が大切なの。でももう決めたのね?」
「無理はしないよ」
「分かった。ちゃんと無事に帰って来るんだよ」
「うん……」

 とりあえずこれだけあれば、さらに戦力も増強出来るはず。

★★★

 準備には少し時間が掛かるので、その間にお店の事もしとこうかね。
「……そんなわけでいつもいつもすみませんけど、またお店の方をお願いします」
「いえ、そういう事ならば」
 レオは言う。
「それとニーナさんに飛竜の事、ありがとうございますと伝えて下さい」
 ニーナは交易都市の統治者だろう。
 レオと出合ったのはその交易都市の近く。レオが誰かに仕えているならニーナの可能性が高い。
「……分かりました」
 そしてレオもそれを否定しない。
 大陸が分割されてから、ここまでの道程を地図として記録してある。ニーナと連絡を取る事も可能だろう。
 まぁ、レオの目的までは分からないが、悪い事は考えてないだろ。後の事は任せよう。
「シノブ様。これをお持ち下さい」
 そう言ってレオが差し出しのは一本の短剣だった。その鞘の部分に刻印が刻まれている。それはニーナから貰った手紙の封にも使われていたもの。
「レオさん、これって……」
 きっとこれもニーナからだ。
「シノブ様の助けになると思いますので」
 そう言ってレオは笑うのだった。

★★★

 雇った冒険者と傭兵、質と期間を考慮した上で雇ったのは四十二人。
 そのうちの二人。
「フォリオ・カージナル。昔、ビスマルク隊長に世話になった」
 そう言うのは鷹や鷲に似た猛禽類の獣人だった。顔は鳥そのものであり、その両手は人のそれではなく大きな翼。そして両足には人の鎧など簡単に貫き通すような鋭く巨大な鉤爪。
 フォリオはビスマルクが国境警備隊をしていた時の部下だった。今はもう退役している。
「こんな年寄りを狩り出したって役には立ちませんよ」
「ガハハハハッ、何を。まだまだそんな歳ではないだろう?」
「竜の罠にいたビスマルクさんとは違います。もう俺の方が年上なんですからね」
 猛禽類だからなのか、それとも性格を表しているのか、その目は鋭い。睨み付けるようなフォリオをビスマルクは意に介さない。
「しかしお前が近くにいてくれて助かったぞ」
 大森林は大陸の中でも最大級の森林であり、混じった血の性質なのか、この辺りを好む獣人は多い。フォリオもその一人だった。
 そしてもう一人。
「タカニャ・ジェンヌだ。よろしくな」
 種族は俺と同じ人間。二十代後半、身長が190センチ程度あり、小麦色に日焼けした肌は筋肉ではち切れんばかりだった。日に焼けた茶色の髪の後ろで結び、そして人懐こく笑う鼻の上には傷がある。
 なにより特徴的だったのは大きく膨らむ胸。服の上からでも分かる程の巨乳。
 そう、その辺りの男性よりも筋肉質で体格は良いのだが、タカニャは女性なのである。
「タカさんも来てくれるんですか?」
「まぁ、マイスさんの頼みじゃ断れないよ。シノブの面倒を見て欲しいって」
 ニカッを笑うタカニャ。愛称はタカさん。
 彼女はお父さんの部下に当たる人で、俺も彼女の事は知っている。
 お父さんはそれなりの役職なので、このエルフの町を離れる事が出来ない代わりに、部下であるタカニャが力を貸してくれる事になった。
「先ほどタカさんの実力を見せてもらったが、相当な豪傑だな」
 ビスマルクの言葉にタカニャは豪快に笑う。
「ははっ、よしとくれよ、豪傑なんて嬉しくて恥ずかしいじゃないか」
 そしてビスマルクは向き直る。その視線の先にいるのは……
「ロザリンド、リアーナ。お前達二人を呼んだ理由だが」
 ロザリンドとリアーナの二人。二人に対してビスマルクは言う。
「今回、雇った冒険者と傭兵。お前達に二十人ずつ指揮を取ってもらう」
「私達が?」
 ロザリンドの少し困ったような問いにビスマルクは頷く。
「そうだ」
「で、でも私、人を指揮した経験なんて無いですし、そんな事を言われてもどうすれば……」
 リアーナも戸惑う。
 当然だ。冒険者も傭兵も二人より年上であり、経験も豊富だろう。それを学生である二人が指揮を取るなんて通常では考えられない。
「きっとお前達の為になる。ここで学んでおけ。もちろん優秀な副隊長を補佐に付ける。それがこの二人だ。フォリオはロザリンドに、タカさんはリアーナに。もちろん出来ないと言うのであれば無理強いはしないが」
「……分かったわ。迷惑を掛けると思うけど、よろしくお願いします。フォリオさん」
「それを補佐するのが副隊長だ。それとお前は隊長。俺の事はフォリオと呼べ」
「ええ、フォリオ。頼りにしているわ」
 ロザリンドは承諾。そしてリアーナも。
「うん、こんな機会は滅多に無いんだから、良かったと思わなくちゃ。タカさん、私もよろしくお願いします」
 そんなリアーナにタカニャは笑って答える。
「まぁ、そんなに気を張る必要は無いさ。あんたは思ったように行動しな。私が全て補佐してやるよ」
 こうしてさらに二人の仲間が加わるのだった。
「ロザリンドもリアーナも大変だねぇ~」
「シノブが一番大変なんだぞ」
 ビスマルクは言う。
「僕? どうして?」
「今まで大人数の指揮をした事があるか?」
「無いですけど……」
「シノブは事前に何通りもの作戦を練るだろう? しかし人数が増えれば増える程、集団戦では想定外の事が起る。その全てを事前に予測する事は不可能だ。だからこそその時その時での判断が必要となる。それに慣れるんだ」
「あの……僕は別に指揮能力とか必要無いんですけど……ビスマルクさんがやってくれれば良いんじゃないかなぁ~って」
「お前が私達を集めたんだ。全体の指揮は任せるぞ、シノブ。ガハハハハッ」
「ええっ……」
「責任重大ね。シノブがしっかりしないと私達は全滅だわ」
「頑張って、シノブちゃん!!」
 ロザリンドとリアーナは笑うのだった。

★★★

 さて髪の毛を無造作に切られたわけだが、出発前に整えとくか。
「ホーリー、ホーリー、ちょっとお願いがあるんだけどー」
「何でしょうか?」
「髪の毛を切って整えて欲しいの」
「……シノブ様の髪でしょうか?」
「え? もちろんそうだけど」
「……分かりました」
「ほら、適当にザクッと切られた感じだから、少しきちんとしようかなって。お願い」
「……はい」
 ホーリーは器用そうだしな。

 って、事で髪の毛を切ってもらう事。
 俺は目を瞑る。
 髪の毛を切られている間は寝たフリをする事に決めている!! 前世で床屋の爺さんが何度も何度も同じ話をするので寝たフリで乗り切っていた。そう、髪の毛を切る時に寝たフリをするのはすでに俺のポリシーなのだ!!

 ジョキンッ
「あっ」

 あっ?
 今、ホーリーが小さく声を出さなかったか? それに落ちた髪が少し多いような……

 ジョキンッ、ジョキンッ
 右、左、右、左……うん? 左右のバランスを取りながら? でもそんなに切ったら、どんどん短くなるんじゃ……

 ジョキンッ、ジョキンッ、ジョキンッ
 不安過ぎるんだが。
 そして結果は。
「シノブ様……」
「ホーリー? 苦手なら最初から苦手って言お。ね?」
「……申し訳ございません」
 ホーリーは下げた頭を全く上げない。
「シノブ、男の子みたいだ」
 俺を見て、ヴォルフラムは言う。
 少女と言えば少女だが、可愛らしい少年とも言える、そんな感じにまで髪の毛は短くされていた。
「……僕っ娘だから……全く問題無いから……」

 そしてほんの数日。
 準備は終わった。出発の日である。
 お父さん、お母さん、両方からグッと抱き締められる。
「じゃあ、行ってきます」
 俺はその温かさを忘れないように、しっかりと覚えるのだった。

★★★

「すげー」
 改めて見ると多いなー
 二頭引きの馬車が三台。しかしこれは俺達が乗る為ではない。必要な荷物を運ぶ為の馬車。俺達は徒歩である。
 その俺達を真ん中にして、前方にはロザリンドとフォリオ。そして冒険者と傭兵が二十人。
 後方にはリアーナとタカニャ。そして冒険者と傭兵が二十人。
 ちなみに飛竜二匹も連れて来ている。移動ではなく偵察として使わせてもらっていた。

 さて当初は他国との領土問題で揉めると思ったが、大陸ではそれ程の大きな問題になっていなかった。ニーナが動き回っているおかげもあるだろうが、最大の要因はゴーレムだ。
 突然現れたゴーレムに対処をしている為、他国を侵攻する余裕が無いという事。
 そこはゴーレム様々……なのか?

 とにかくこうして俺達は出発するのである。
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