転生してもノージョブでした!!

山本桐生

文字の大きさ
上 下
71 / 275
陰謀編

メリッサと後継者

しおりを挟む
 エルフの町から少し離れ、ここは交易都市。
 王都程ではないが、大陸内でも有数の大都市である。商業、交易、交通の中心地。王都や隣国を繋ぐ場所。エルフの町とは比較にならない程の大きさ。背の高い建物が多く建ち並ぶ。
 はぁ~観光だったら楽しそうなのに~
 お母さんがズンズンと歩を進める。それに付いていく俺。
 さらにフレアとホーリー。一応、護衛。

 そして辿り着いた先。
 高い壁と門に囲まれたお屋敷。門番が立つ立派なお屋敷だ。
 その門番にお母さんは言う。
「お願いがあるの。セレスティが来た。メリッサにそう伝えて」
「……メリッサ様は不在です。また後日、面会の申し込みをお願いします」
「警備の主任はまだカスト? それとももう引退して弟子のサンドロかしら?」
「……」
「ではコモンズはいる? ダニエラかローサでも良い」
 それはモア商会、前代表のメリッサに古くから仕える者達。その名前をポンポンと出され、門番は何者かと眉をひそめた。
 門番が別の門番に目配せすると、もう一人は屋敷へと向かう。

 門の前で少し待った後。
「こちらへどうぞ。ご案内します」
 そう屋敷に通されるのだった。

★★★

 広い部屋だと思うんだが……酷く狭く感じる。そりゃ当然だ。本、本、本の山。高い天井までの本棚には本がギッシリと詰まっている。部屋の壁は見えない、全て本棚だ。しかも本棚だけでは足りず、大量の本が至る所に高く横積みにされていた。
 もちろんその重厚な仕事机の上にも本は積まれている。そしてその積まれた本の向こう側にエルフの彼女はいた。
「久しぶりだね、セレスティ」
 お母さんよりも年上なのは分かる。ただエルフの年齢はハッキリ言って俺にはよく分からん。
「久しぶりです。お祖母様、お元気でしたか?」
 おばっ!!?
 お母さんのお祖母ちゃんかよ!!? そんな年齢には全く見えねぇよ……お母さんの姉妹と言われても俺は信じちゃうくらい若く見える。
 彼女がお母さんのお祖母ちゃんであるメリッサ。お母さんの言葉をメリッサは鼻で笑う。
「『お元気でしたか?』……お前は私の事を気にしていたのかい?」
「いえ。ただの社交辞令です。お祖母様がどうなろうが私には関係の無い事なので」
 お母さんはそう言い切った。本当に血は繋がっているんだよな?
「……ここに戻ってきたわけではないみたいだね」
「当たり前です。でもお祖母様は私がここに来た理由を知っているのでしょう?」
「いや、知らないね。この家を出た時点で私はお前に何の興味も無い」
「そうでしょうね。でもそれが商会に関係する事なら話は別です」
「商会に関する事はマチアスに任せている。商会関連の事ならマチアスと話をすればいいじゃないか。私は随分と前に商会の代表を降りたんだ」
「違いますね。確かに現代表はお父様ですが、今でも全ての実権はお祖母様が握っています」
「何でそう思うんだい?」
「それが私の知っているメリッサという人物だからです」
 メリッサは俺を一度だけチラッと見るがそれだけ。
「……まずは話を聞こうじゃないか」
 お母さんがこれまでの経緯を話す。そしてその上で自分の考えを伝える。
「最初のギルド加盟の条件、あれはお父様が設定したものです。場合によってはここに連れ戻す事が出来ますから」
 事前に聞いた情報。お母さんとお父さんの結婚を激しく反対したのはメリッサだ。そのメリッサに逆らう事は出来なかったが、内心ではお母さんを手元に置きたかったのは父親のマチアス。
 お母さんは話を続ける。
「でもギルドの決定が覆りました。誰が圧力を掛けたかは分かりませんが」
 お母さんはチラッと俺を見る。
 いや……俺も知りたいんだよ……その謎の後ろ盾。王国に関連した地位の高そうな野郎だとララ。もしくはレオの主人の可能性。
 ただレオの命を助けただけで、その主人がそこまでしてくれるのか? そしてその主人は商工ギルドに圧力を掛けられる程に大物なのか?
「それでドミニクスは焦ったんでしょう。後継者の事で」

 モア商会は設立当初から同族経営の商会だった。
 しかし一人娘のお母さんが家を出た為、現在では後継者不在。正式な後継者の決定はされていないものの、次期の後継者としては副代表であるドミニクスという男の名前がある。
 ただしドミニクスは血縁者ではない。
 血縁の後継者が不在の為、ドミニクスとしては自分が次期の後継者だと思っていたわけであるが……そこに新進気鋭の商会として俺が登場、しかも商工ギルドへ影響を与える程に強力な後ろ盾があり、さらにお母さんが関わっているとなれば……モア商会の次期代表として俺、もしくはお母さんの名前が挙がる可能性をドミニクスは考えた。
 だから俺を殺し、可能性を一つ消せるならば……そうお母さんは推察している。

 メリッサは言う。
「お前自身は戻って来る気が無いようだからね。ユノにその気があれば受け入れてやっても良いとは思っているんだ。あの娘は頭も良い。立派な経営者になるだろう。だがそのユノも王立騎士団に入団していて商売に興味は無いらしい。次期後継者として誰の名前が挙がると言うんだ? まさかそっちの娘の名前が挙がるとでも?」
 メリッサの値踏みをするような視線が俺に向けられた。
「ドミニクスはそう考えたのでしょう」
「馬鹿馬鹿しい。素性の知れない他人をここへ迎え入れてどうする?」
「シノブは私の娘です」
「娘? お前の娘はユノ一人だけだ」
 家を出た者には興味無いと言いつつも、きっと情報だけは色々と集めているんだろうなぁ~
 多分だけど、全部を知った上で静観している。それがメリッサという人物。
 お母さんの背後で見えない炎が燃え上がっているのを感じる!!
「違います。シノブは間違い無く私の娘です」
「血の繋がらない他人など、ここには必要無い」
「あのーちょっといいですか?」
 正直、俺もメリッサを身内とも何とも思っていないのでどうでもいい。むしろ関わりたくない。
 お母さんとメリッサの視線がこっちに向けられる。
「私としては自分で好き勝手したいのでモア商会に関わるつもりはありません。なのでもし、万が一にもドミニクスさんが私達に関わっているようなら止めさせて欲しいんです」
「ドミニクスが本当にお前を殺そうとしたと? 何処の生まれかも分からない、捨てられたお前自身にそれだけの価値があると思うのか?」
「お祖母様、それ以上言うなら許しませんよ」
「どう許さないんだい?」
 許さなければ、どうするか……俺がお母さんを代弁してやるぜ!!
「今、この場であなたの喉笛を喰い破ります!!」
「えっ!!?」
「そしてその首を掲げて、ドミニクスさんを冥土にブチ込みます。だよね、お母さん!!」
「ちょ、ちょっと待ちなさい、シノブ、お母さんそんな事言ってないでしょ!!」
「そうなの? じゃあ、私がやる?」
「だから!! そういう事を言ってるんじゃないの!!」
 そのやり取りを見て、メリッサは吹き出す。
「ふふっ……はははははっ、セレスティ、なかなか面白い子じゃないか」
「……面白いだけではなく、本気もちょっと入っていますので。お祖母様も気を付けて下さい」
「ちょっとじゃなくてかなり」
 俺は小さく呟くが……
「シノブ」
 聞こえてたわ……
 お母さんがメリッサへと向き直る。
「でももし……シノブに何か危害があって、それにモア商会が関係していたなら……私はどんな手を使ってでも……誰の力を借りてでもモア商会を潰し、シノブを守ります。ドミニクスにもそう伝えて下さい」
 メリッサの事だ。俺達の事は調べてあるだろ。パル鉄鋼を扱っていた事から、俺と轟竜パルとの繋がりも頭に入っているはず。
 つまり俺達と敵対すれば謎の後ろ盾と轟竜パルが出て来る、お母さんはそう脅しているのだ。
「……心には留めておくよ」
 
★★★

「ねぇ、お母さん。本当にあれだけで良いの?」
「良いの。シノブもお母さんもモア商会には関わらない事は伝えたから。彼女にとっては商会が全て。その商会に火の粉が掛かるような事はさせないはず。後は抑えてくれるはずよ」
 俺達は早々にメリッサの所を後にする。あの屋敷はお母さんに取って居たくない場所。
「セレスティ様。メリッサ様はシノブ様の暗殺を事前に知らなかった可能性はありますが、一連の流れを追っていれば、ある程度の事は予想が出来ます。でしたらわざわざ出向かなくも良かったのではありませんか?」
 ホーリーの当たり前の質問。
 暗殺計画を事前に止められなかったかも知れない。しかしホーリーの言う通り、その後には全てを把握していたはず。ドミニクスも抑えられるはず。
「……あの人は、別に止めるつもりも無かったのよ」
 お母さんの言葉にホーリーは少しだけ眉をひそめる。
「……どういう事でしょうか?」
「シノブが暗殺されて、その責任はオウラー・スヴァル。モア商会に何も不利益は無い。だから止める気も無い。だけど今回の話で、場合によってはモア商会が損害を受ける可能性が出て来たから天秤に掛けたのよ。シノブの暗殺を見逃す事と、ドミニクスを抑える事、どちらがモア商会にとって得なのかをね」
「凄いね。そこまで人を物として見れるんだから、逆に関心しちゃうよ。やっぱり始末した方が良かったんじゃない?」
「始末とか言わないの。それじゃあの人と一緒な感じになるでしょ?」
「はーい」
「大丈夫だとは思うけど……二人とも、シノブをお願いね」
 お母さんはそう言ってフレアとホーリーに頭を下げた。
「はい」「はい」
 フレアとホーリーは同時に頷くのだった。

 ちなみにではあるが、しばらく後にオウラーは釈放された。嫌疑不十分というヤツだ。しかし釈放された頃には有能な人員はジャンスにほとんど引き抜かれ、スヴァル海商はボロボロの状態であった。ここから立て直すのは相当に大変だろうな……

★★★

 それから何も危険な事は無い、普通の毎日。仕事して食べて寝て遊んで、これが充実ってヤツか!!?
 前世では無職だった俺だったが、今の俺は違うぜ!!
 そして時は過ぎて……

 シノブは18歳になりました!!
 あの幼かった顔付きは変わり、そこには大人の、凛とした女性の顔がある。背は伸びて、胸も大きくなる。その均整の取れた体付きは男性にとっては酷く魅力的に見えるだろう。
 赤く燃える瞳に、白く流れる髪。そして透けるように透明な肌。その美しさはどこか浮世離れしていた。
 女神アリア様の妹……今ならそう言えるんじゃないか?
 ……
 …………
 ………………なんてな!!
「ふざけんな!!」
 叫ぶ。
「それ毎年だね」
 ヴォルフラムは呆れたように言う。
「ヴォル!! 私は去年より大きくなった!!?」
「いや、変わってないけど。去年も変わってなかったし」
「おっぱい!! 無いじゃん!! 全く!! 無いじゃん!!」
 身長も伸びなければ胸も大きくならない……全く成長してねぇんだよ!!
 前世で言えば、完全に俺は小学生だろ!! これが合法ロリ!!?
 そう見た目は子供そのものなのである。
 アリア様よぉ……設定を間違えているんじゃねぇかぁ?
 ……まぁ、来年も再来年も同じような事を言うんじゃないだろうか。これからも穏やかな毎日が続いていくんだろう。
 そう思っていたんだけどな。

 日常は突然に崩壊するのである。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

転生して捨てられたけど日々是好日だね。【二章・完】

ぼん@ぼおやっじ
ファンタジー
おなじみ異世界に転生した主人公の物語。 転生はデフォです。 でもなぜか神様に見込まれて魔法とか魔力とか失ってしまったリウ君の物語。 リウ君は幼児ですが魔力がないので馬鹿にされます。でも周りの大人たちにもいい人はいて、愛されて成長していきます。 しかしリウ君の暮らす村の近くには『タタリ』という恐ろしいものを封じた祠があたのです。 この話は第一部ということでそこまでは完結しています。 第一部ではリウ君は自力で成長し、戦う力を得ます。 そして… リウ君のかっこいい活躍を見てください。

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

じれったい夜の残像

ペコかな
恋愛
キャリアウーマンの美咲は、日々の忙しさに追われながらも、 ふとした瞬間に孤独を感じることが増えていた。 そんな彼女の前に、昔の恋人であり今は経営者として成功している涼介が突然現れる。 再会した涼介は、冷たく離れていったかつての面影とは違い、成熟しながらも情熱的な姿勢で美咲に接する。 再燃する恋心と、互いに抱える過去の傷が交錯する中で、 美咲は「じれったい」感情に翻弄される。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

魔道具作ってたら断罪回避できてたわw

かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます! って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑) フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。

処理中です...