70 / 275
陰謀編
ハッキリしない目的ととんでもないニュース
しおりを挟む
あの時と同じ、異形のゴーレム。
人や獣に似ているが、その体躯は一回りも二回りも巨躯。そして頭の数、腕の数、足の数、バラバラで統一性が無い。バラバラにされた部位をただただ繋ぎ合わせただけの怪物。
それが人を襲い、町を破壊している。
そしてあの時とは違い、リアーナがいない。
不安もあるが、ヴォルフラムと二人ならどうにか出来る……はず。
「ヴォル。行くよ」
「シノブ。振り落とされないようにしっかり掴まれ」
「おうっ!!」
母親に手を引かれる少女。必死な母親の歩幅は少女に合わなかった。
躓き、転ぶ少女。
母子の手が離れてしまう。
その少女の真上に大きな影が重なった。
母親の悲鳴。
影は人型のゴーレムだった。鋭い鉤爪の付いた太い腕、それが少女へと振り下ろされた。
少女は顔を伏せ、瞳を閉じた。この一瞬の後に自分は死ぬ。幼いながら少女はそう思ったのだ。
ガギンッ
金属の鈍い音。
……少女はゆっくり顔を上げるとそこには……
「大丈夫だった?」
はい、俺でしたぁ~!!
間一髪。
少女を襲おうとしていた人型ゴーレム。ヴォルフラムの突撃でその上半身は砕け飛んだ。
少女を母親が抱き締める。
その二人に俺は言う。
「あっちの道のゴーレムは片付けましたから、あっち方向に逃げて下さい。他の人にも出来るだけそう伝えて、誘導しているメイドがいたら、その人に従って下さいね」
母親が何度も頭を下げた。
そして少女は小さく呟く。
「……女神様……?」
俺はニコッと微笑むのだった。
語らずがカッコ良いんだよ!!と自分に酔っております。
★★★
ゴーレムをブッ壊す。
逃げ惑う住人を誘導する。
小さな町とは言え、さすがにヴォルフラム一人ではキツイか。と言うか、一気に片付けないと被害が大きくなる一方だ。
三つ首竜がいる可能性を考慮すれば、出来れば使いたくない能力だけど……
「……ヴォル。降ろして」
「使うのか?」
「このままじゃ取り返しがつかなくなるかも。私が力尽きたら後はお願いね」
「分かった。安心しろ」
ヴォルフラムの背中から降りる。
……久しぶりだ、この感覚。体の中の魔力に火が灯る。燃える魔力は体から溢れだし、淡い光を放ちながら体を包む。
周囲に魔力の波を放つ。それは探索魔法。町も、その外側の山脈までも、そして上空にも魔力を放つ。
本来、探索魔法は生物の有無を確認する魔法ではあるが、ゴーレムはただの無機物ではなく、そこには魔力が込められている。その魔力に俺の魔力が反応する事により探索を可能としていた。
ヴォルフラムはもちろん、アバンセやキオ、フレアとホーリー、そしてミツバ、みんなの位置が手に取るように分かる。そして無数のゴレームと町の住人達、常人には耐えられない大量の情報量。その全てを処理する。これも神々の手の能力のおかげ。
そして俺は町の中を駆けた。
細い俺の腕がゴーレムの胴体に突き刺さる。そのまま腕をブン回すとゴーレムは人形のように投げ飛ばされ、そのまま動かなくなる。
そんな俺に別のゴーレムが襲い掛かるが、今度は廻し蹴り一発で粉砕。
さらに周囲のゴーレムへと魔法を放つ。放たれた光の矢は直線ではなく追撃するように敵を追い、そして貫いた。
全ては一瞬。
「早く立って逃げて!!」
襲われていた人達に向けて叫ぶ。そして叫びつつ、再び光の矢を発射。光の矢は住人を避けて、ゴーレムだけをスクラップにするのだ。
そしてまた駆ける。
町中のゴーレムを破壊していく。
「ありがとう、助かった!!」
「誰だ、アイツは?」
「凄い……あんな簡単に……」
「おい、あまり近付くなよ、もしかしたら敵の仲間かも……」
「そうだな、あの髪と目……裏切りの女神そっくりだ」
「きれい」
「助けて!! 向こうにお母さんがいるの!!」
「ありがとうございます……本当にもう駄目かと……」
「もっと早く助けに来いよ!!」
「凄ぇ!! 一発だぞ!! 粉々じゃん!!」
住民の声は耳に入るが、反応する程に余裕は無い。俺の能力が続くうちに少しでも多くのゴーレムを破壊しないと!!
「あのお姉ちゃん、パンツ見えてる」
スカートで、それを気にする余裕まで無ぇんだよ!!
肉弾戦をしつつ、探索魔法を展開。
三つ首竜と思える反応も無い。
町の中にも、上空にも、町の周囲にも、すでに数えられる程度のゴーレムしか残っていない。これなら後はみんなに任せても大丈夫。
ちょうどそこにヴォルフラム。俺の跡をずっと追っていたのだろう。
「ヴォル、丁度良いトコに」
「そろそろ?」
「うん」
ヴォルフラムは周囲を見回した。至る所にゴーレムの残骸。
「しかし相変わらず、シノブは凄い」
「見直した?」
「今更別に見直さない。昔から凄いのは知っている」
「そっか」
俺の体からフッと光が消える。
ここまでだ。
俺はヴォルフラムに寄り掛かる。
「ちょっと疲れた」
「お疲れ様。後は俺達に任せろ」
それからホーリー、少し遅れてキオ、フレア、ミツバ、そしてアバンセが合流するのだった。
「シノブ様、お怪我はございませんか?」
「もちろん。みんなは大丈夫だった?」
全員かすり傷程度で済んだらしい。そのかすり傷もホーリーの回復魔法で傷跡すら残らないわけだが。
「それにしても凄ぇっす。このゴーレム全部、姐さんですもんね? 戦ってる姿を見たかった……」
「実際に私が戦う姿って、ミツバさんはまだ見た事が無いんだっけ」
「そうっす」
「わ、私は少しカトブレパスの瞳で見えましたけど、あの、ほ、本当に凄かったです、はい」
「そうだろう? シノブの力はこのアバンセと同等なんだぞ」
「何でアバンセが偉そうなの?」
全員が無事なのは良かったけど……どうすんだ、これ……
破壊された町。
竜脈の淀みの原因。それに関する情報をここで集めようと思ったが、そんな状況じゃない。かと言って、この場から離れるわけにもいかないし。
とりあえず近場で野営して、何日か様子を見るか。その為の準備も一応はしてあるからな。
★★★
「竜脈の淀みだぁ?」
「パルはそういうの感じない?」
呼び出していたパルも合流。
「あんまり考えた事も無ぇな」
「そうなの? だって竜脈ってこの大陸の安定に大切なんでしょ?」
「シノブ。逆なんだ」
「逆?」
アバンセは続ける。
「竜脈の安定の為に俺達がいるのではない。俺達がいた所から竜脈が生まれたんだ。結果として大陸の安定に寄与しているが、そうしようと思っているわけではない」
「いや、俺はアバンセとは違うぜ。シノブの為にも大陸の安定は大事だ」
「おい、パル。裏切り者。お前もさっき『考えた事も無い』って言っていただろう?」
小さいアバンセと小さいパルがいがみ合う。それは横に置いといて。
「みんなは今回の事をどう思う?」
「頭使うの苦手なんで」
ミツバ、早々に離脱。
しかし普段はあまり喋らないフレアが言う。
「シノブ様。町の周囲に配置されたゴーレムですが、場所に合っていないと感じました」
「そういえばそうっすね。森の中なんで小回りが利くゴーレムの方が合っていると思うんすけど、殆ど大砲みたいな奴でした」
「遠距離攻撃用って感じの奴ね」
俺の言葉にフレアは頷く。
そして今度はホーリーが言う。
「地形的に考えるなら空を狙っているものと思います。もしそうなら大量の飛竜も空からの接近を意識したものでしょう。しかし……」
わざわざ平地の森の中に配置したんだから、確かに対空を意識したものだろう。だから続ける言葉も予想が付く。
「三つ首竜が空を警戒していたのなら、その相手は同じ竜であるアバンセ様やパル様でしょう。町を襲う理由、それは竜と対する事になっても必要であった……そういう事になります」
「キオはどう?」
「えっ、あ、あの、わ、私は……やっぱり三つ首竜がいない事が気になります……」
「アバンセやパルと戦う事になっても、この町の攻撃は必要だった。でも三つ首竜自身はいない。つまり三つ首竜にはもっと重要な目的がある……そうなるんだけど?」
俺の言葉にみんな黙ってしまう。
情報が少ない。分からん。
とんでもない大事件の可能性もある、しかし……
「あの三つ首の馬鹿竜だからな、ただの暇潰しの可能性もあるよな? それに以前アバンセがボコッただろ。だから嫌がらせって事もあるんじゃねぇか?」
パルは言う。
「その時にパルはシノブにボコられている」
「おい、ヴォル公、余計な事は言うんじゃねぇよ」
俺達は笑った。
それから数日。
辺りを調べたりもしてみたが、何も発見は無かった。あれから三つ首竜はもちろん、ゴーレムも現れない。
三つ首竜のハッキリしない目的。
全くの手詰まり……仕方ねぇ……とりあえず戻ってみるか。
★★★
帰って、サンドンに報告しまして。
サンドンが言うには、竜脈の淀みはもう解消されているらしい。三つ首竜の目的は分からないが、後でサンドン自身が確認に出向くらしい。
現状では気に掛ける事くらいしか出来ない。
そしてそれから数日後。
ウッソだろ……それはそれはとんでもないニュースが……
スヴァル海商、副代表のジャンスが新たな商会を設立した。
モア商会と共に。
そうか……そういう事か……
レオさんから聞いた情報を聞くと……そうか……そういう事か……そうか……
オウラーは無実かぁ……
ジャンスにとってスヴァル海商の名前なんてどうでもよかったんだ。オウラーを失脚させ、優秀な人材を引き抜ければ。
ジャンス自身はスヴァル海商の販路を確保しつつ新たな商会の代表となる。
モア商会はスヴァル海商の販路を利用する事が出来る。
両者の利害が一致したワケだ。それが今回のシナリオ。
そしてそのシナリオの中に俺の暗殺が組み込まれているなら、それは利点の無いジャンス側ではなくモア商会の意思だ。
全部、繋がったわ。
もちろん全容の想像が俺にも出来るんだから、それはお母さんも一緒。考え着いたのは同じ事。
その時のお母さんの顔はね……鬼だね、鬼、怒髪天を突く鬼そのものよ。怒りが全身から噴き出して、背景まで陽炎のように揺れておるわ。
「……お母さん?」
「……シノブ、行くよ」
「行くよ……って、どこ? どこ行くの?」
「モア商会」
「モア商会? モア商会に行くの?」
「そうね。殴り込みよ」
「殴り込み!!?」
「殴り込み」
「モア商会に殴り込みに行くの!!?」
「話をしっかりしないとね。これからの為にも」
そして……いざ、モア商会へ!!
人や獣に似ているが、その体躯は一回りも二回りも巨躯。そして頭の数、腕の数、足の数、バラバラで統一性が無い。バラバラにされた部位をただただ繋ぎ合わせただけの怪物。
それが人を襲い、町を破壊している。
そしてあの時とは違い、リアーナがいない。
不安もあるが、ヴォルフラムと二人ならどうにか出来る……はず。
「ヴォル。行くよ」
「シノブ。振り落とされないようにしっかり掴まれ」
「おうっ!!」
母親に手を引かれる少女。必死な母親の歩幅は少女に合わなかった。
躓き、転ぶ少女。
母子の手が離れてしまう。
その少女の真上に大きな影が重なった。
母親の悲鳴。
影は人型のゴーレムだった。鋭い鉤爪の付いた太い腕、それが少女へと振り下ろされた。
少女は顔を伏せ、瞳を閉じた。この一瞬の後に自分は死ぬ。幼いながら少女はそう思ったのだ。
ガギンッ
金属の鈍い音。
……少女はゆっくり顔を上げるとそこには……
「大丈夫だった?」
はい、俺でしたぁ~!!
間一髪。
少女を襲おうとしていた人型ゴーレム。ヴォルフラムの突撃でその上半身は砕け飛んだ。
少女を母親が抱き締める。
その二人に俺は言う。
「あっちの道のゴーレムは片付けましたから、あっち方向に逃げて下さい。他の人にも出来るだけそう伝えて、誘導しているメイドがいたら、その人に従って下さいね」
母親が何度も頭を下げた。
そして少女は小さく呟く。
「……女神様……?」
俺はニコッと微笑むのだった。
語らずがカッコ良いんだよ!!と自分に酔っております。
★★★
ゴーレムをブッ壊す。
逃げ惑う住人を誘導する。
小さな町とは言え、さすがにヴォルフラム一人ではキツイか。と言うか、一気に片付けないと被害が大きくなる一方だ。
三つ首竜がいる可能性を考慮すれば、出来れば使いたくない能力だけど……
「……ヴォル。降ろして」
「使うのか?」
「このままじゃ取り返しがつかなくなるかも。私が力尽きたら後はお願いね」
「分かった。安心しろ」
ヴォルフラムの背中から降りる。
……久しぶりだ、この感覚。体の中の魔力に火が灯る。燃える魔力は体から溢れだし、淡い光を放ちながら体を包む。
周囲に魔力の波を放つ。それは探索魔法。町も、その外側の山脈までも、そして上空にも魔力を放つ。
本来、探索魔法は生物の有無を確認する魔法ではあるが、ゴーレムはただの無機物ではなく、そこには魔力が込められている。その魔力に俺の魔力が反応する事により探索を可能としていた。
ヴォルフラムはもちろん、アバンセやキオ、フレアとホーリー、そしてミツバ、みんなの位置が手に取るように分かる。そして無数のゴレームと町の住人達、常人には耐えられない大量の情報量。その全てを処理する。これも神々の手の能力のおかげ。
そして俺は町の中を駆けた。
細い俺の腕がゴーレムの胴体に突き刺さる。そのまま腕をブン回すとゴーレムは人形のように投げ飛ばされ、そのまま動かなくなる。
そんな俺に別のゴーレムが襲い掛かるが、今度は廻し蹴り一発で粉砕。
さらに周囲のゴーレムへと魔法を放つ。放たれた光の矢は直線ではなく追撃するように敵を追い、そして貫いた。
全ては一瞬。
「早く立って逃げて!!」
襲われていた人達に向けて叫ぶ。そして叫びつつ、再び光の矢を発射。光の矢は住人を避けて、ゴーレムだけをスクラップにするのだ。
そしてまた駆ける。
町中のゴーレムを破壊していく。
「ありがとう、助かった!!」
「誰だ、アイツは?」
「凄い……あんな簡単に……」
「おい、あまり近付くなよ、もしかしたら敵の仲間かも……」
「そうだな、あの髪と目……裏切りの女神そっくりだ」
「きれい」
「助けて!! 向こうにお母さんがいるの!!」
「ありがとうございます……本当にもう駄目かと……」
「もっと早く助けに来いよ!!」
「凄ぇ!! 一発だぞ!! 粉々じゃん!!」
住民の声は耳に入るが、反応する程に余裕は無い。俺の能力が続くうちに少しでも多くのゴーレムを破壊しないと!!
「あのお姉ちゃん、パンツ見えてる」
スカートで、それを気にする余裕まで無ぇんだよ!!
肉弾戦をしつつ、探索魔法を展開。
三つ首竜と思える反応も無い。
町の中にも、上空にも、町の周囲にも、すでに数えられる程度のゴーレムしか残っていない。これなら後はみんなに任せても大丈夫。
ちょうどそこにヴォルフラム。俺の跡をずっと追っていたのだろう。
「ヴォル、丁度良いトコに」
「そろそろ?」
「うん」
ヴォルフラムは周囲を見回した。至る所にゴーレムの残骸。
「しかし相変わらず、シノブは凄い」
「見直した?」
「今更別に見直さない。昔から凄いのは知っている」
「そっか」
俺の体からフッと光が消える。
ここまでだ。
俺はヴォルフラムに寄り掛かる。
「ちょっと疲れた」
「お疲れ様。後は俺達に任せろ」
それからホーリー、少し遅れてキオ、フレア、ミツバ、そしてアバンセが合流するのだった。
「シノブ様、お怪我はございませんか?」
「もちろん。みんなは大丈夫だった?」
全員かすり傷程度で済んだらしい。そのかすり傷もホーリーの回復魔法で傷跡すら残らないわけだが。
「それにしても凄ぇっす。このゴーレム全部、姐さんですもんね? 戦ってる姿を見たかった……」
「実際に私が戦う姿って、ミツバさんはまだ見た事が無いんだっけ」
「そうっす」
「わ、私は少しカトブレパスの瞳で見えましたけど、あの、ほ、本当に凄かったです、はい」
「そうだろう? シノブの力はこのアバンセと同等なんだぞ」
「何でアバンセが偉そうなの?」
全員が無事なのは良かったけど……どうすんだ、これ……
破壊された町。
竜脈の淀みの原因。それに関する情報をここで集めようと思ったが、そんな状況じゃない。かと言って、この場から離れるわけにもいかないし。
とりあえず近場で野営して、何日か様子を見るか。その為の準備も一応はしてあるからな。
★★★
「竜脈の淀みだぁ?」
「パルはそういうの感じない?」
呼び出していたパルも合流。
「あんまり考えた事も無ぇな」
「そうなの? だって竜脈ってこの大陸の安定に大切なんでしょ?」
「シノブ。逆なんだ」
「逆?」
アバンセは続ける。
「竜脈の安定の為に俺達がいるのではない。俺達がいた所から竜脈が生まれたんだ。結果として大陸の安定に寄与しているが、そうしようと思っているわけではない」
「いや、俺はアバンセとは違うぜ。シノブの為にも大陸の安定は大事だ」
「おい、パル。裏切り者。お前もさっき『考えた事も無い』って言っていただろう?」
小さいアバンセと小さいパルがいがみ合う。それは横に置いといて。
「みんなは今回の事をどう思う?」
「頭使うの苦手なんで」
ミツバ、早々に離脱。
しかし普段はあまり喋らないフレアが言う。
「シノブ様。町の周囲に配置されたゴーレムですが、場所に合っていないと感じました」
「そういえばそうっすね。森の中なんで小回りが利くゴーレムの方が合っていると思うんすけど、殆ど大砲みたいな奴でした」
「遠距離攻撃用って感じの奴ね」
俺の言葉にフレアは頷く。
そして今度はホーリーが言う。
「地形的に考えるなら空を狙っているものと思います。もしそうなら大量の飛竜も空からの接近を意識したものでしょう。しかし……」
わざわざ平地の森の中に配置したんだから、確かに対空を意識したものだろう。だから続ける言葉も予想が付く。
「三つ首竜が空を警戒していたのなら、その相手は同じ竜であるアバンセ様やパル様でしょう。町を襲う理由、それは竜と対する事になっても必要であった……そういう事になります」
「キオはどう?」
「えっ、あ、あの、わ、私は……やっぱり三つ首竜がいない事が気になります……」
「アバンセやパルと戦う事になっても、この町の攻撃は必要だった。でも三つ首竜自身はいない。つまり三つ首竜にはもっと重要な目的がある……そうなるんだけど?」
俺の言葉にみんな黙ってしまう。
情報が少ない。分からん。
とんでもない大事件の可能性もある、しかし……
「あの三つ首の馬鹿竜だからな、ただの暇潰しの可能性もあるよな? それに以前アバンセがボコッただろ。だから嫌がらせって事もあるんじゃねぇか?」
パルは言う。
「その時にパルはシノブにボコられている」
「おい、ヴォル公、余計な事は言うんじゃねぇよ」
俺達は笑った。
それから数日。
辺りを調べたりもしてみたが、何も発見は無かった。あれから三つ首竜はもちろん、ゴーレムも現れない。
三つ首竜のハッキリしない目的。
全くの手詰まり……仕方ねぇ……とりあえず戻ってみるか。
★★★
帰って、サンドンに報告しまして。
サンドンが言うには、竜脈の淀みはもう解消されているらしい。三つ首竜の目的は分からないが、後でサンドン自身が確認に出向くらしい。
現状では気に掛ける事くらいしか出来ない。
そしてそれから数日後。
ウッソだろ……それはそれはとんでもないニュースが……
スヴァル海商、副代表のジャンスが新たな商会を設立した。
モア商会と共に。
そうか……そういう事か……
レオさんから聞いた情報を聞くと……そうか……そういう事か……そうか……
オウラーは無実かぁ……
ジャンスにとってスヴァル海商の名前なんてどうでもよかったんだ。オウラーを失脚させ、優秀な人材を引き抜ければ。
ジャンス自身はスヴァル海商の販路を確保しつつ新たな商会の代表となる。
モア商会はスヴァル海商の販路を利用する事が出来る。
両者の利害が一致したワケだ。それが今回のシナリオ。
そしてそのシナリオの中に俺の暗殺が組み込まれているなら、それは利点の無いジャンス側ではなくモア商会の意思だ。
全部、繋がったわ。
もちろん全容の想像が俺にも出来るんだから、それはお母さんも一緒。考え着いたのは同じ事。
その時のお母さんの顔はね……鬼だね、鬼、怒髪天を突く鬼そのものよ。怒りが全身から噴き出して、背景まで陽炎のように揺れておるわ。
「……お母さん?」
「……シノブ、行くよ」
「行くよ……って、どこ? どこ行くの?」
「モア商会」
「モア商会? モア商会に行くの?」
「そうね。殴り込みよ」
「殴り込み!!?」
「殴り込み」
「モア商会に殴り込みに行くの!!?」
「話をしっかりしないとね。これからの為にも」
そして……いざ、モア商会へ!!
0
お気に入りに追加
201
あなたにおすすめの小説

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

忌むべき番
藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」
メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。
彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。
※ 8/4 誤字修正しました。
※ なろうにも投稿しています。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました

前世の記憶さん。こんにちは。
満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。
周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。
主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。
恋愛は当分先に入れる予定です。
主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです!
小説になろう様にも掲載しています。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる