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お仕事頑張るぞ編

防御魔法と解除魔法

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 森が大規模に燃え上がっていた。
 緑の木々が燃えるには不自然な程に広範囲。これは人為的に火が付けられたもの。
 理由は?
 もちろんそれはユニコーンだろう。
 ユニコーンを炙り出す為に、噂のある辺り一帯を焼き尽くすつもりなのだ。

 森の上、かなり上空でアバンセは旋回する。
 熱気と煙で頭が痛くなりそうだぜ!!
「キオ!! 見える!!」
「み、見えます!! 場所も分かりますけど……火の勢いが凄くて……それと……ま、周りに人がいっぱいいます!!」
 周りに人がいっぱい……こいつ等が火を付けたのだ。
「ちょっと姐さん、どうするつもりなんです!!?」
「助けるに決まってるでしょ!! アバンセ、近くまで行ったら、出来るだけ下に降りて!!」
「……分かった。けど無茶はするなよ」
「こういう時に無茶しないでいつすんのさ?」
 俺は笑った。
「さすがシノブ。そういうムチャクチャな事がよく似合う」
「そう、私はアクションに愛された女なんだよ!!」
 アバンセの背の上、そこで大きくなるヴォルフラム。そのヴォルフラムの背に乗る俺とキオとミツバ。
「二人とも無理して付いて来なくて大丈夫だよ?」
「わ、私がいないと、迷って……シ、シノブさんが死んじゃうかも知れませんから……」
「俺は護衛なんで。どんな所にもお供します」
「そっか。アバンセ、お願い」
「ああ」
 アバンセが高度を落とす。
 濛々と立ち上る煙。熱気が下から吹き付ける。
「じゃあ、ヴォル、行くよ!!」
「落ちないように、全員しっかり掴まって」
 まだかなりの高さがあるが……ヴォルフラムはアバンセの背中から飛び降りる。
「ふぉぉぉぉぉっ」
 自由落下に下っ腹がムズムズするぅ!!
 キオは目を瞑り、必死にヴォルフラムの体にしがみ付く。
「このスリル堪んねぇ!!」
 ミツバは楽しんでいる模様。
 地面がどんどんと近付いて来るぅぅぅっ!! それに熱いぃぃぃっ!!
 かなりの高さがあるが、さすがヴォルフラムの柔軟性。着地はストッと衝撃をあまり感じさせない。上手く着地は出来たが、周りは火の海。
 そこでミツバがヴォルフラムから降り、背中に背負う巨大な戦斧を手に取った。よく見てみれば、戦斧の柄部分には鎖が巻かれている。
「全員、しゃがめ!!」
 ミツバは戦斧を振り回した。鎖を手にして、鎖と繋がった戦斧をまるでハンマー投げのように振り回す。そして周囲の燃え上がる木々を切り飛ばした。
「ミツバさん凄いね!!」
「ありがとうございます、嬉しいっす」
「キオ、詳しい場所は?」
「む、向こうです」
「ヴォル兄、俺が先行しますんで」
「分かった」
 ミツバが燃える木々を排除しつつ移動していると上空からアバンセの怒号が響く。

『この大森林に火を付けた者よ!! ここがこのアバンセの力で繁茂した森と知っての行為か!!』
 見上げればアバンセの飛ぶ姿が見える。
『それが何を意味するのか……身を以って教えてやるぞ!!』
 次の瞬間、アバンセの口から青い炎が放たれた。それは空を二分するかのような業火。

「シ、シノブさん、周りの人達が逃げていきます」
 キオは周囲を見回し言う。その左目はカトブレパスの瞳が発動中。
 アバンセを敵に回すなんて考えられない。いくらユニコーンが目当てだったとしても、そりゃ逃げるしかないだろ。
 そしてキオの案内で辿り着く。

「……シノブ様?」
 そこにはホーリー、フレア、クテシアス。
 三人を半球が囲んでいた。しかも透明の半球に幾つもの魔法陣が浮かび輝く。これは障壁、防御魔法。
「良かった。無事だったんですね」
「……」
 フレアは温和な表情のまま。
「その防御魔法。いくつもの種類が何重にも掛かってますよね?」
「はい。私も姉も防御に特化しておりますので。これぐらいの火事なら問題ありません。それに迫っている者達もこの魔法は簡単に破れないでしょう」
「さっきのアバンセの声聞こえました? もうみんな逃げたと思うから」
「そうですか」
 確かにこの防御魔法は簡単に破れるものじゃない。それに火事が鎮火すれば逃げる術があるのだろう。ただのお節介だったか。
「じゃあ、みんな帰ろうか」
「シノブ?」
「ちょっと姐さん、どういう事っすか? 助けに来たんじゃ?」
「だって相手の立場になって考えてよ。私達がアイツ等の仲間じゃない証拠が無い。むしろ私達が会った数日後にこれだもん、疑うでしょ」
「……」「……」
 フレアもホーリーも黙ったまま。肯定も否定もしない。
 まぁ、俺達がどう思われても、無事ならそれで良い。
「だから、ほら。帰ろ」
「ま、待って下さい……クテシアスさんが……」
 キオが止める。あのクテシアスが静かなのはおかしいと思ったが……フレアとホーリーが立つ向こう、クテシアスが横たわっていた。
「ちょっとクテシアスさん!! どうしたんですか!!?」
「……」
「……お引き取り下さい」
 ホーリーは静かに言う。
 クテシアスに何かがあったのは確か。普通ではない。俺に出来る事があるのか無いのか。あったとしてフレアとホーリーがそれを許すのか。時間の猶予があるのか無いのか。分からない。
「キオもミツバさんも私の能力は秘密にしてよね」
 俺は自らの能力を解放した。体が淡い光に包まれる。その姿をキオやミツバに見せるのは初めてだ。
 そして俺は防御魔法に手を添える。
「……」
「シノブ様……な、何を……」

 防御魔法。それは物理であったり、魔法であったり、それらを阻んで自らを守る為の魔法である。その種類は細かく分類する事が出来る。例えば魔法であれば、炎、氷、など特定の現象に特化しか防御魔法が存在していた。
 一度、発動させれば術者の意思を離れて効果が継続する防御魔法。フレアとホーリーは複数の防御魔法を同時に発動させ重ねているのだ。
 それは竜の罠に近い。
 そして俺はガララントの事があったから、後々に学んだのだ……それらを解除する方法を。

 解除魔法。継続される魔法効果を強制的に解除するもの。
 しかし多くの時間と、途方も無く膨大な魔力量が必要であり、実戦での実用性は皆無。埋もれていた魔法だ。

 今は余裕があり、俺には膨大な魔力がある。
 この防御魔法を解除したらぁ!!
 俺は膨大な魔力を防御魔法に叩き込んだ。幾つも重なった防御魔法を次々と解除していく。
「っ!!?」
「ね、姉さん、防御魔法が!!」
 フレアとホーリーが魔法を掛け直す、俺がそれを次々と解く。これは魔力量の勝負でもある、負けられんぜ!! ドラァァァッ!!
 そして俺は二人の防御魔法を全て解除する。
 その途端、フレアとホーリーは俺の進行を止めようとするのだが、その体が一瞬だけピタッと止まる。キオの能力だ。
 俺は二人の間をすり抜けてクテシアスの所に。
「クテシアスさん!!?」
「……その声はシノブ……だったか……」
「どうしたんですか?」
「しょ、処女にやられた……」
 クテシアスはか細い声でそれだけ呟く。
「クテシアス様!!」
 フレアもホーリーもキオの束縛を胆力で弾き返す。しかし一瞬だけで充分だった。俺との間にミツバが入る。
「姐さんを……シノブさんを信じてやってくんねぇか?」
 二人の相手はミツバにしてもらい、俺はクテシアスに向き合う。
「処女をヤったんじゃなくて?」
「ちょっと姐さん!!?」
「えっ、だって……」
「……確かに処女にやられました。クテシアス様の腹部を見て下さい」
 と、ホーリー。
 出血が無いから気付かなかった。クテシアスの腹部にはザックリとした深い切創。
「回復魔法は?」
「もちろん使いました。でも……」
 回復魔法は対象者の自然治癒力を促進させる魔法。死が近く代謝力の落ちているクテシアスにあまり効果が無い。そういう事なんだろう。ビスマルクの奥さんと同じだ。
 だがそれは回復魔法を使う者が常人の場合。
 俺の底知れぬ魔力量で、全てを補ってやる。
 だから死ぬなのよ、クテシアス!!
「……シノブさん……す、凄いです……何か能力があるとは思いましたけど……」
 キオは小さく呟く。
 魔力全開、俺は回復魔法をクテシアスにブチ込んでやるのだった。

★★★

 アバンセ、凄ぇ。
 爆風消火ってやつか……アバンセから発せられる衝撃波が炎を吹き消し、さらに周囲を破壊して防火帯を作り出す。
「助かったぞ、シノブ」
 立ち上がるクテシアスのその腹部に切創は見られない。
「ありがとうございます。クテシアス様を助けて頂き感謝致します」
 フレアは微笑んで頭を下げる。
「シノブ様。ありがとうございます。そして疑い申し訳ありません」
 ホーリーも頭を下げた。
「いや、疑うのは当然だし仕方無いよ。でも処女に刺されたって聞いたんですけど」
「ああ、それだ。処女が目の前に現れたんでフラフラと出てしまった。そしたら刺された」
「そんなしょーもない方法で殺される所だったんですか……」
「……」「……」
 フレアもホーリーも何も言わない。
「しかしシノブ。お前は私の角が欲しいんじゃないのか? 助けない方が良かったのではないか?」
「死んで良い事なんて無いでしょ」
「そうか」
 クテシアスは笑うのだった。
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