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お仕事頑張るぞ編
二年後と自分のお店
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「そんなワケでただいま~」
おおっ、マイホーム、落ち着くわ~
「『ただいま~』じゃないでしょう?」
こないだは泣いて出迎えてくれたのに、どうして……
家に帰るとそこには仁王立ちのお母さん。その表情は怒り。めっちゃくちゃ怒ってらっしゃる。まぁ、想像は付くんだけどな……
そのお母さんの後ろにはヴォルフラム。
「ヴォル~ただいま~ちょっと助けて~」
「話は聞いている。無理。諦めて怒られて」
「ちょっと、こっちに座りなさい」
「はい……」
そう……俺は親に相談無しで自主退学をしていたのだ!!
「王立学校、辞めたんだって?」
「はい……で、でも無駄になった学費ならちゃんと働いて」
「学費の事なんて話してないの!!」
「はい……」
「編入した時、シノブの将来が少しでも広がればと思って、お母さんは送り出したの。なのに勝手に退学なんてして理由は?」
「あのですね、それは」
お母さんがテーブルをバンッと叩く。
「『お姉ちゃんが卒業したから』って理由で退学申請をしたそうね?」
「な、何でそれを!!?」
退学を申請するにあたり理由が必要だった。何でも良いだろうと理由は適当にしていた。それが伝わっておるわ……
「誰の為に編入したの? お姉ちゃんの為?」
「え、い、いや、理由は適当に」
「適当!!?」
「そうじゃなくて、他に良い理由が無くて」
「理由が無い!!?」
ひぃっ。何を言っても火に油を注いでしまう!!
こうなったら心を無に……
「シノブ!! 聞いているの!!?」
「ひぃっ」
その後、お父さんが帰って来るまで説教は続いた。
★★★
そして久しぶりにお父さんとお風呂。
「お母さん怒ってたな」
「うん、凄く怒ってた。怖かったよー」
俺はお湯を両手で掬い、パシャッと顔を洗う。
「理由は分かっているんだろ?」
「もちろん私が原因なんだけど……勝手に自主退学なんてしたから」
「最初に話を聞いた時はお父さんも言葉を失ったけどな。理由は言えないのか?」
俺は湯から上がり、湯船の縁に腰を掛ける。
「……王立学校の校長が私の能力を探っていると思ったの。秘密を暴く為に生徒であるお姉ちゃんが利用されるかもって考えて。だからこっちから相手の懐に飛び込んでやったんだよ」
「……『場合によっては王立学校を消滅させてやろう』とか言っていたけど、本気だったんだな……」
あっ……確かに編入前に冗談めかして、そんな事を言ったような記憶が。
「で、でも、校長にはそんな気も無かったみたいだし、お姉ちゃんも卒業しちゃったから」
「それでもう王立学校に通う必要は無いと」
俺は頷く。
「私はこれから、私のやりたい事をするの」
「後悔しないのか?」
「それは分からない。人生とは満足と後悔の連続なのだから……」
「シノブらしいな。まぁ、お母さんにはお父さんから少し話をしておくよ」
そう言ってお父さんは笑うのだった。
★★★
そして俺は……仕事として移動式のタピオカミルクティー屋を始めるのだった。
お茶に甘味料とミルクを加え、そこに芋からタピオカ風の物を作って加えてみる。これがお母さんに意外と評判が良かった。
前世でも流行った時期があったから、これなら商売になるかもと、手製でリヤカーみたいなのを作り移動販売を始める。
これが大当たり。
そして二年後。
タピオカミルクティーで稼いだお金を使い……
「ねぇ、ヴォル。私凄くない?」
「それは認める。まさか自分のお店を持つなんて」
「でしょ~」
商店街、立ち並ぶ商店の一角にこの俺、シノブ16歳は自分のお店を持つ。
さすがにお父さんもお母さんも度肝を抜かれていた。まさか自分の娘が16歳にして自分のお店を持つなんて。
「でも本当に良いのか? タピオカミルクティーを辞めるなんて」
「ああ~良いの良いの、ブームは短いから」
今、この町にはタピオカミルクティーのお店が乱立している。そろそろブームが過ぎて閉店ラッシュになるんじゃないかな。その前に俺は見切りを付けていた。
「それで今度は何をするんだ?」
「まぁ、今日辺りだと思うんだけどね~」
店の中は既にレイアウト済み。後は商品を待つだけなんだよなぁ。
ヴォルと二人、店の中で待っていると……
「ここかしら~シーちゃんのお店は~?」
「そうだと思うけど」
おっ、来たか。
「ヴイーヴルさん、久しぶりです。ユリアンも。大きくなったね」
「あら~シーちゃん、久しぶり~変わらないわね~」
パタパタと手を振りながら近付き、俺の体をギュッと抱き締める。
「これでも少しは大きくなったんですけど!!」
「そうかぁ? 昔見た時と変わらないぞ」
それはヴイーヴルと、少しだけ成長したユリアンだった。ヴイーヴルの姿は二年前と変わらない。しかし俺より背の低かったユリアンは、すでに俺の身長を越えていた。
それ対して、俺は僅かに背が伸びたものの、二年前とあまり変わらない。
「シノブ。この人達が竜の罠で会った二人?」
「そそ。二人とも、こっちはヴォルフラム。ヴォルって呼んで。私の大事な友達なの」
「ヴォルちゃんね~よろしく~ヴイーヴルよ~凄く綺麗な毛並み、力強さが溢れているわね~」
「ユリアン。ヴォルね、よろしく。でもこの大きさ普通じゃないよな?」
「そりゃヴォルはこの辺りを守る、次期の森の主だからね。後で背中に乗せてくれるよ」
「えっ、本当か?」
目を輝かせるユリアン。やはりまだまだお子様だぜ。まぁ、俺も今だにジェットコースターみたいで大好きだけどな!!
「シノブの友達なら」
「じゃあ、お母さんも乗せてもらおうかな~」
「母さんはやめろよ。恥ずかしいだろ」
「酷い~あっ、それとシーちゃん、ちゃんと石持ってきたから~」
「ありがとうございます!!」
「石?」
「ほらこれ」
ユリアンは皮袋から石を取り出す。それは丸めた拳程度の大きさ。
「シノブ、これは?」
「これはね……ちょっとユリアン。魔力入れてみて」
「ああ」
ユリアンはその石に魔力を流すと……石が発光する。最初に少しだけ魔力を入れるだけで、この石は一晩近く発光する。しかも最初に流す魔力量により、発光の強弱が変わる。
そうこれは竜の罠で発見した、あの壁の石。
ガララントが死んでも石の効力は失われていなかった。
そしてちょうどそこに……
「うっす、姐さん。持って来ました」
成人男性でありながら、俺と同じ程度の低身長。なのにその体は筋肉に包まれ、首や腕などは普通の人の倍以上に太い。まるで岩の塊のような男。
種族はドワーフ。目立つのはその髪型、大砲のようなリーゼント。一体どこでこういう髪形を知るのか……そしてドワーフと言えばヒゲなのだが、彼はまだ若く、そのヒゲはもみあげから顎下に繋がるお洒落な感じ。
「ありがとーミツバさん。それとさすがに人前で『姐さん』は止めません? ミツバさんの方が年上だし」
「いえ、歳は関係ねぇっす。姐さんには命を救われた。だから姐さんで」
ドワーフの青年、ミツバは俺よりも年上。
それは二年前。
人形使いの三つ首竜がゴーレムを連れてエルフの町を襲った時、俺やリアーナ、ヴォルフラムはゴーレムと戦った。その場にミツバもいたらしい。気付かなかったけど。それに俺は指示だけで何もしていないんだけどな。
「それで姐さん、そちらの方は誰っすか?」
「こっちはね……」
と、また自己紹介をした所で。
「姐さん、これっす」
それはランタン。
この世界、夜の明かりはランタンやランプ、もしくは発光魔法。ランタンやランプは火と油を使い、使い場所と火事などに気を付けないといけない。発光魔法は常に魔力の供給が必要となる。
つまり面倒臭ぇ。そこでこれよ!!
ランタンの中にガララント石を入れて、外側からランタンに魔力を当てれば……ランタンに明かりが灯る。
「……ヤバイ。大金持ちになっちまう……」
俺は呟く。
火の心配をする事も無く、光の強弱も自由、魔力の供給も最初だけ。しかも現時点ではうちの店だけの独占販売。しかも試作品をお姉ちゃんに送り、既に王国騎士団の中でも話題になっている。もう、成功が約束された商品。
「成功っすね」
「それもミツバさんのおかげだよ」
「うっす、ありがとうございます」
さすがドワーフ。
ランタンの細工も造りもしっかりして、これは高く売れる!!
ドワーフは高度な鍛冶、工芸技術を持つ種族。ミツバとは最初、お母さんのツテで知り合ったのだ。
「これがシーちゃんの言っていた新商品なのね~欲しいわぁ~」
「もちろん、ヴイーヴルさんにはあげますよ。それに石も買い取りますし」
「とりあえず馬車で運べるだけ石は持って来たからさ」
「よしでは皆の衆……作戦会議を始める!!」
さて現時点で最低限に必要な人材。
「本当にミツバさんは良いの? 工房をやめて」
「自分は姐さんに付いて行くっす。専属で行きます」
「ヴイーヴルさんとユリアンは大丈夫?」
「もちろん大丈夫よ~」
竜の罠、その中のあの町は王国の支援を受け、今でも存在していた。何処にも行く場所の無い人達が暮らしている。そしてヴイーヴルとユリアンも。
二人が定期的に石を供給してくれる事に。
ちなみに時間の流れが違う事を利用して何か商売をしようと思ったが、残念ながらその環境は失われていた。
「ちょっと聞きたい事があるんだけど」
と、ユリアン。
「はいはい、何でしょう?」
「ここで商売をするんだろ? 例えば町の住人全員に売ったら、それで終わりになるんじゃないのか? その後は何を売るんだ?」
「さすがにユリアン。賢いお子様だね」
「『お子様』はいらないんだけど」
「実はね、二年掛けて調べていたんだけど、この石はある程度に使うと割れちゃうんだよね」
「ふ~ん、消耗品か。石だけ別売りにするつもりなんだ?」
「正解」
「それともう一つ。この石は俺達が独占しているわけじゃないし、ランタンを売りに出したらすぐに真似されると思うけど」
それに答えるのはミツバ。
「光の調節には魔力が正確に伝わる事が必要なんだよ。その為にランタン本体に特別な細工を施してんだ。いつかは真似されるが簡単じゃねぇ」
試作品を作ったり、準備には一年以上を掛けた。今日明日に真似が出来るとは思わん。
「だから私達は真似される前に、このお店に箔を付けるの。『ガララント石を使って最初にランタンやランプを売り出したお店』、そして『その商品は王国騎士団も使っている』ってね」
その為、それなりの数を王国騎士団に寄付するつもり。
「何年かすれば同じような商品が溢れて、売上も下がると思う。だから独占販売が出来る今のうちに稼げるだけ稼いで次に備えるんだよ!!」
「でも石だけで使えるんだから、ランタンにする必要が無いんじゃないの?」
「そう。だから入れ物は付加価値。それを欲しがるような裕福層が今回のメインターゲットなの。くっくっくっ」
「シノブ、悪い顔をしている」
「違う、ヴォル。これは商売人の顔って言うの」
「そんな悪い顔をした商売人を見た事が無いんだけど」
「シーちゃんのお店、人がいっぱい買いに来てくれると良いわね~」
「まぁ、俺達の収入源にもなるし」
「姐さん、頑張りましょう」
こうしてシノブ商店、開店である!!
おおっ、マイホーム、落ち着くわ~
「『ただいま~』じゃないでしょう?」
こないだは泣いて出迎えてくれたのに、どうして……
家に帰るとそこには仁王立ちのお母さん。その表情は怒り。めっちゃくちゃ怒ってらっしゃる。まぁ、想像は付くんだけどな……
そのお母さんの後ろにはヴォルフラム。
「ヴォル~ただいま~ちょっと助けて~」
「話は聞いている。無理。諦めて怒られて」
「ちょっと、こっちに座りなさい」
「はい……」
そう……俺は親に相談無しで自主退学をしていたのだ!!
「王立学校、辞めたんだって?」
「はい……で、でも無駄になった学費ならちゃんと働いて」
「学費の事なんて話してないの!!」
「はい……」
「編入した時、シノブの将来が少しでも広がればと思って、お母さんは送り出したの。なのに勝手に退学なんてして理由は?」
「あのですね、それは」
お母さんがテーブルをバンッと叩く。
「『お姉ちゃんが卒業したから』って理由で退学申請をしたそうね?」
「な、何でそれを!!?」
退学を申請するにあたり理由が必要だった。何でも良いだろうと理由は適当にしていた。それが伝わっておるわ……
「誰の為に編入したの? お姉ちゃんの為?」
「え、い、いや、理由は適当に」
「適当!!?」
「そうじゃなくて、他に良い理由が無くて」
「理由が無い!!?」
ひぃっ。何を言っても火に油を注いでしまう!!
こうなったら心を無に……
「シノブ!! 聞いているの!!?」
「ひぃっ」
その後、お父さんが帰って来るまで説教は続いた。
★★★
そして久しぶりにお父さんとお風呂。
「お母さん怒ってたな」
「うん、凄く怒ってた。怖かったよー」
俺はお湯を両手で掬い、パシャッと顔を洗う。
「理由は分かっているんだろ?」
「もちろん私が原因なんだけど……勝手に自主退学なんてしたから」
「最初に話を聞いた時はお父さんも言葉を失ったけどな。理由は言えないのか?」
俺は湯から上がり、湯船の縁に腰を掛ける。
「……王立学校の校長が私の能力を探っていると思ったの。秘密を暴く為に生徒であるお姉ちゃんが利用されるかもって考えて。だからこっちから相手の懐に飛び込んでやったんだよ」
「……『場合によっては王立学校を消滅させてやろう』とか言っていたけど、本気だったんだな……」
あっ……確かに編入前に冗談めかして、そんな事を言ったような記憶が。
「で、でも、校長にはそんな気も無かったみたいだし、お姉ちゃんも卒業しちゃったから」
「それでもう王立学校に通う必要は無いと」
俺は頷く。
「私はこれから、私のやりたい事をするの」
「後悔しないのか?」
「それは分からない。人生とは満足と後悔の連続なのだから……」
「シノブらしいな。まぁ、お母さんにはお父さんから少し話をしておくよ」
そう言ってお父さんは笑うのだった。
★★★
そして俺は……仕事として移動式のタピオカミルクティー屋を始めるのだった。
お茶に甘味料とミルクを加え、そこに芋からタピオカ風の物を作って加えてみる。これがお母さんに意外と評判が良かった。
前世でも流行った時期があったから、これなら商売になるかもと、手製でリヤカーみたいなのを作り移動販売を始める。
これが大当たり。
そして二年後。
タピオカミルクティーで稼いだお金を使い……
「ねぇ、ヴォル。私凄くない?」
「それは認める。まさか自分のお店を持つなんて」
「でしょ~」
商店街、立ち並ぶ商店の一角にこの俺、シノブ16歳は自分のお店を持つ。
さすがにお父さんもお母さんも度肝を抜かれていた。まさか自分の娘が16歳にして自分のお店を持つなんて。
「でも本当に良いのか? タピオカミルクティーを辞めるなんて」
「ああ~良いの良いの、ブームは短いから」
今、この町にはタピオカミルクティーのお店が乱立している。そろそろブームが過ぎて閉店ラッシュになるんじゃないかな。その前に俺は見切りを付けていた。
「それで今度は何をするんだ?」
「まぁ、今日辺りだと思うんだけどね~」
店の中は既にレイアウト済み。後は商品を待つだけなんだよなぁ。
ヴォルと二人、店の中で待っていると……
「ここかしら~シーちゃんのお店は~?」
「そうだと思うけど」
おっ、来たか。
「ヴイーヴルさん、久しぶりです。ユリアンも。大きくなったね」
「あら~シーちゃん、久しぶり~変わらないわね~」
パタパタと手を振りながら近付き、俺の体をギュッと抱き締める。
「これでも少しは大きくなったんですけど!!」
「そうかぁ? 昔見た時と変わらないぞ」
それはヴイーヴルと、少しだけ成長したユリアンだった。ヴイーヴルの姿は二年前と変わらない。しかし俺より背の低かったユリアンは、すでに俺の身長を越えていた。
それ対して、俺は僅かに背が伸びたものの、二年前とあまり変わらない。
「シノブ。この人達が竜の罠で会った二人?」
「そそ。二人とも、こっちはヴォルフラム。ヴォルって呼んで。私の大事な友達なの」
「ヴォルちゃんね~よろしく~ヴイーヴルよ~凄く綺麗な毛並み、力強さが溢れているわね~」
「ユリアン。ヴォルね、よろしく。でもこの大きさ普通じゃないよな?」
「そりゃヴォルはこの辺りを守る、次期の森の主だからね。後で背中に乗せてくれるよ」
「えっ、本当か?」
目を輝かせるユリアン。やはりまだまだお子様だぜ。まぁ、俺も今だにジェットコースターみたいで大好きだけどな!!
「シノブの友達なら」
「じゃあ、お母さんも乗せてもらおうかな~」
「母さんはやめろよ。恥ずかしいだろ」
「酷い~あっ、それとシーちゃん、ちゃんと石持ってきたから~」
「ありがとうございます!!」
「石?」
「ほらこれ」
ユリアンは皮袋から石を取り出す。それは丸めた拳程度の大きさ。
「シノブ、これは?」
「これはね……ちょっとユリアン。魔力入れてみて」
「ああ」
ユリアンはその石に魔力を流すと……石が発光する。最初に少しだけ魔力を入れるだけで、この石は一晩近く発光する。しかも最初に流す魔力量により、発光の強弱が変わる。
そうこれは竜の罠で発見した、あの壁の石。
ガララントが死んでも石の効力は失われていなかった。
そしてちょうどそこに……
「うっす、姐さん。持って来ました」
成人男性でありながら、俺と同じ程度の低身長。なのにその体は筋肉に包まれ、首や腕などは普通の人の倍以上に太い。まるで岩の塊のような男。
種族はドワーフ。目立つのはその髪型、大砲のようなリーゼント。一体どこでこういう髪形を知るのか……そしてドワーフと言えばヒゲなのだが、彼はまだ若く、そのヒゲはもみあげから顎下に繋がるお洒落な感じ。
「ありがとーミツバさん。それとさすがに人前で『姐さん』は止めません? ミツバさんの方が年上だし」
「いえ、歳は関係ねぇっす。姐さんには命を救われた。だから姐さんで」
ドワーフの青年、ミツバは俺よりも年上。
それは二年前。
人形使いの三つ首竜がゴーレムを連れてエルフの町を襲った時、俺やリアーナ、ヴォルフラムはゴーレムと戦った。その場にミツバもいたらしい。気付かなかったけど。それに俺は指示だけで何もしていないんだけどな。
「それで姐さん、そちらの方は誰っすか?」
「こっちはね……」
と、また自己紹介をした所で。
「姐さん、これっす」
それはランタン。
この世界、夜の明かりはランタンやランプ、もしくは発光魔法。ランタンやランプは火と油を使い、使い場所と火事などに気を付けないといけない。発光魔法は常に魔力の供給が必要となる。
つまり面倒臭ぇ。そこでこれよ!!
ランタンの中にガララント石を入れて、外側からランタンに魔力を当てれば……ランタンに明かりが灯る。
「……ヤバイ。大金持ちになっちまう……」
俺は呟く。
火の心配をする事も無く、光の強弱も自由、魔力の供給も最初だけ。しかも現時点ではうちの店だけの独占販売。しかも試作品をお姉ちゃんに送り、既に王国騎士団の中でも話題になっている。もう、成功が約束された商品。
「成功っすね」
「それもミツバさんのおかげだよ」
「うっす、ありがとうございます」
さすがドワーフ。
ランタンの細工も造りもしっかりして、これは高く売れる!!
ドワーフは高度な鍛冶、工芸技術を持つ種族。ミツバとは最初、お母さんのツテで知り合ったのだ。
「これがシーちゃんの言っていた新商品なのね~欲しいわぁ~」
「もちろん、ヴイーヴルさんにはあげますよ。それに石も買い取りますし」
「とりあえず馬車で運べるだけ石は持って来たからさ」
「よしでは皆の衆……作戦会議を始める!!」
さて現時点で最低限に必要な人材。
「本当にミツバさんは良いの? 工房をやめて」
「自分は姐さんに付いて行くっす。専属で行きます」
「ヴイーヴルさんとユリアンは大丈夫?」
「もちろん大丈夫よ~」
竜の罠、その中のあの町は王国の支援を受け、今でも存在していた。何処にも行く場所の無い人達が暮らしている。そしてヴイーヴルとユリアンも。
二人が定期的に石を供給してくれる事に。
ちなみに時間の流れが違う事を利用して何か商売をしようと思ったが、残念ながらその環境は失われていた。
「ちょっと聞きたい事があるんだけど」
と、ユリアン。
「はいはい、何でしょう?」
「ここで商売をするんだろ? 例えば町の住人全員に売ったら、それで終わりになるんじゃないのか? その後は何を売るんだ?」
「さすがにユリアン。賢いお子様だね」
「『お子様』はいらないんだけど」
「実はね、二年掛けて調べていたんだけど、この石はある程度に使うと割れちゃうんだよね」
「ふ~ん、消耗品か。石だけ別売りにするつもりなんだ?」
「正解」
「それともう一つ。この石は俺達が独占しているわけじゃないし、ランタンを売りに出したらすぐに真似されると思うけど」
それに答えるのはミツバ。
「光の調節には魔力が正確に伝わる事が必要なんだよ。その為にランタン本体に特別な細工を施してんだ。いつかは真似されるが簡単じゃねぇ」
試作品を作ったり、準備には一年以上を掛けた。今日明日に真似が出来るとは思わん。
「だから私達は真似される前に、このお店に箔を付けるの。『ガララント石を使って最初にランタンやランプを売り出したお店』、そして『その商品は王国騎士団も使っている』ってね」
その為、それなりの数を王国騎士団に寄付するつもり。
「何年かすれば同じような商品が溢れて、売上も下がると思う。だから独占販売が出来る今のうちに稼げるだけ稼いで次に備えるんだよ!!」
「でも石だけで使えるんだから、ランタンにする必要が無いんじゃないの?」
「そう。だから入れ物は付加価値。それを欲しがるような裕福層が今回のメインターゲットなの。くっくっくっ」
「シノブ、悪い顔をしている」
「違う、ヴォル。これは商売人の顔って言うの」
「そんな悪い顔をした商売人を見た事が無いんだけど」
「シーちゃんのお店、人がいっぱい買いに来てくれると良いわね~」
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