転生してもノージョブでした!!

山本桐生

文字の大きさ
上 下
42 / 276
地下大迷宮編

裏の顔と乙女の禁断ワード

しおりを挟む
 気を失っていたダブローが目を覚ます。その瞬間に激痛。
「あぐぅぅぅぅぅっ」
 呻く。
 体を動かそうとするが、椅子に縛り付けられている事に気付いた。
「あまり動かない方が良いと思うけど。両足とも折れているし」
「お、お前……」
「シノブさんです、数時間ぶり。キラッ」
 目元でピースサインを決めてみる。
 本当は体とかめっちゃキツイけど、空元気、ダメージとか無いんですけど感を出してやる。俺の後ろにはビスマルクが護衛として控えていた。
 別部屋ではリアーナ、ロザリンド、タックルベリーが別の二人を取り調べているトコ。
「お、俺にこんな事をして後でどうなるか分かっているのか!!?」
 ダブローは脂汗を浮かべた顔で、食って掛かるように叫ぶ。
 俺は笑う。
「後で、って……後なんかあるわけないでしょう?」
 一瞬、呆けたような表情を浮かべるダブロー。
「ま、待て。ちょっと待て。何だ、それは……何だ、それはどういう意味だ!!?」
「どういう意味も何も、そのまんまの意味でしょう。あなたは殺す」
「殺すって……お、お前にそんな事が出来るものか!!」
「確かに私は人を殺した経験なんか無いけど」
「……私には出来ないとでも?」
 静かに、低く、地の底に響くようなビスマルクの声がすげぇ。素人の俺でも背筋が震えるような威圧感。
「私達が直接手を下さなくても、身動きが取れないように縛り上げて、迷宮の奥に放置すれば良いだけだし。迷宮には色々いるみたいだし、助からないよね」
「あっ……ち、違うんだ。俺も上から指示をされて……それに仕方なく従っただけなんだ!!」
「私があなた達に捕まっていたのは何の為だと思う? 勝ち誇って滑らせた言葉と、追い詰められて出て来た今の言葉、どっちが信じられる?」
 最初にダブローを捕らえて尋問しても、適当に嘘を吐く事が出来る。そしてその真偽を見極める手段は無い。
 だからこそ捕まり、相手に勝ちを確信させた上で喋らせた。その状態なら嘘を言う必要も無いからだ。まぁ、俺なら勝ちを確信しても相手に情報など与えないけどな。要はダブロー、やっぱり馬鹿だわ。
「……住む場所も、食い物も、条件として最高の物をお前達全員に与える。だから助けてくれ……」
「助けてくれ?」
「……助けて下さい」
「どうする? ビスマルクさん?」
「この男は、女を弄ぶんだろう? だったらリコリスの為にも、シノブ、お前達の為にもここで殺すべきだ。私が今やる」
 そう言ってビスマルクは俺の前へと進み出た。
「ああっ!! や、止めろ!! た、助けて下さい!! お願いします、助けて!! 命だけはお願いします!!」
 涙目で喚き散らすダブロー。最初の威嚇的な面影はどこいった?
「待って、ビスマルクさん。私にはちょっと聞きたい事があるの。ダブローさん?」
「な、何でも答えます!! だから殺さないで!!」
「最初に。別の部屋では他の二人に話を聞いているの。もしその二人との話に齟齬があれが即座に殺す。嘘だけは言わないでね」
 ダブローはコクコクと頷くのだった。

★★★

 この町の裏の顔。
 それは女を犯す為の町。
 この町の代表はグレゴリだが、実質的に町の運営をしていたのはダブローだった。その権力を使い、反抗する者は理由を付けてこの町から追放する。
 この迷宮で町から追放される事は実質的には死刑に近い。
 だからダブローには誰も逆らえなかった。
 そして何人かの仲間を集めて、女を好き勝手に凌辱する。閉ざされ、娯楽の少ない町。ここで生きるダブローにとって、それはただの遊びだった。
 ただ遊びを始めたのはダブローではない。昔から、何年も、何十年も行われてきた忌まわしい遊び。

「との事です。グレゴリさん」
「……え?」
 ダブローは気付かなかった。大きなビスマルクの影に隠れるようにして立つグレゴリに。
「何故……私は気付かなかったのだ……」
 呆然とするグレゴリ。
「……巧妙に隠されていたという事もありますが、迷宮から出られないから、そしてこの町でしか生きられないからだと思います。絶対に何処へも逃げられない、だからこの町の権力者には逆らえない。加害者も被害者も口を閉ざすしか無かったんです」
 もし何処かに逃げ場があったなら、全てを告発する者もいたはず。
 俺は言葉を続ける。
 グレゴリを睨み付けるように鋭い視線で。
 もちろんグレゴリが全てを知った上で許容していたとは思わない。
「でもグレゴリさん、あなたもこの町で生きている時間は長い。その間、不審に思う事もあったはずです。『気付かなかった』のではなく、町の安定の為に『気付かないふり』をしていたのでしょう?」
「それは……」
 グレゴリは言葉を失う。
「私はあなたにも相当の責任があると思っています。ハッキリ言って……お前ら全員ちんこ切り落として死に晒せ!! このカスどもが!!」
 遊びの対象に、俺はもちろん、リアーナとロザリンド、リコリスだって入っていたかも知れない。そう考えたら腸が煮えくり返る思いだぜ!!
 このジジイだって『全く何も知りませんでした』で済むかカス。
「おっと、失礼。下品な言葉をごめんなさい」
 俺はニコッと笑った。
 もうグレゴリは何も言葉を発しないのだった。

★★★

 ダブローを含めて三人が町外れの牢屋にブチ込まれた。
 他にも同じような野郎が何人か発覚している。追って牢屋行きになるだろう。
 とりあえず、今回の件は一段落着いた。
 今は横穴などではなく、一件の家が提供されている。
 ドッと疲れたわ。
 テーブルを囲むように俺、リアーナ、ロザリンド、タックルベリー、ビスマルク、リコリス。
「リアーナぁー、お茶が熱いからフーフーしてぇー」
「うん、火傷しちゃうと大変だもんね」
 そう言ってリアーナは俺の前に置かれたカップを手に取り、熱いお茶をフーフーする。
「過保護過ぎる」
 タックルベリーの言葉にリコリスは笑う。
 ロザリンドはお茶を一口。
「シノブ、今日はそれを飲んだら、もう少し休みなさい。体調も万全ではないでしょう?」
「お母さん?」
 俺の言葉にリコリスは笑う。
 そこでタックルベリーが思い出し笑い。
「ああっ、そういう言えばシノブ、お前、凄かったな。こっちまで声が聞こえていたぞ」
「声?」
「確かにまさかあんな啖呵を切るとは思わなかった」
 ビスマルクはそう言って大笑い。
「……」「……」「……」
 リアーナ、ロザリンド、リコリスは黙ってお茶を同時に口へと運んだ。
「切り落とすんだろ?」
「ちんこ?」
「ブハッ!!」「ブハッ!!」「ブハッ!!」
 リアーナ、ロザリンド、リコリス、同時にお茶を吹き出す。
「ガハハハハッ」
「シノブちゃん、女の子がそんな事を口にしちゃ駄目だよ!!」
「下品よ、シノブ」
 確かに乙女の禁断ワードか。
「ベリーのアホぉーが話を振るから」
「だって尋問中、声が聞こえた瞬間、リアーナもロザリンドも硬直していたんだぞ。僕は笑いを堪えるのに必死だったんだからな」
 そう言ってタックルベリーも笑った。
「だ、だってシノブちゃんが急にあんな事を言うから」
「本当よ。何事かと思ったわ」
「男の子はそういう単語が大好きだから」
「シノブちゃんは女の子だよね?」
「そうだったわ」
「今一瞬ビックリしました。シノブさんは男の人だったのかって」
 リコリスは目を丸くして言う。
「大丈夫、私、切り落とすようなモノは本当に無いから。おっとベリー『おっぱいも無い』とか言ったら、それセクハラだから。訴えるよ」
「言わねぇよ!! 妙は印象操作は止めろ!!」
 俺は笑った。
 良かったぜ、こうしてまたみんなで話せるんだからな。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

魔道具作ってたら断罪回避できてたわw

かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます! って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑) フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

処理中です...