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王立学校編
迷宮探索と竜の罠
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その日、俺、リアーナ、タックルベリー、レイラの四人は校長であるチオ・ラグラックに呼び出された。
このメガネ野郎、校長でありながら頻繁に一般生徒を呼び出しやがんな。そのメガネを叩き折ってやろうか、このメガネ野郎が。
「実はあなた達に頼みたい事があるんです」
「断るとどうなりますか?」
メガネ野郎の言葉に俺は間髪入れず返す。
「何かペナルティがあるわけではありません。ただ協力してもらえれば、成績にそれなりの加算があります」
成績に加算……俺は興味無いが、リアーナ達はやっぱり欲しいトコだろ。
とりあえず話を聞くか。
概要はこんな感じ。
ここから少し離れた場所に存在する地下迷宮の探索をして欲しいとの事である。
最近になって発見されたその地下迷宮。既に王国や学校の調査が入り、安全は確保されている。ただ見落としがあるかも知れないという事、そして程良く魔物が出るので模擬戦優勝パーティーの強化という意味も含めての事らしい。
プチ留学みたいなもんか。
ちなみに危ない状況に陥った時の為に、その場から瞬時に脱出可能な魔法道具も支給されるらしい。
リアーナの力になれるなら、俺に拒否する理由は無い。
ただレイラは……
「すいません。私は辞退をさせて下さい」
魔物と戦う可能性があるなら、自分は邪魔になるとの理由だった。
模擬戦と違い、どんなに小さくても実戦には危険が伴う。レイラ自身がそう言うなら、芸術学部のレイラをこれ以上パーティーメンバーに加えるわけにはいかない。
そこでパーティーメンバーの補充としてロザリンドに白羽の矢が立つ。模擬戦準優勝パーティーのリーダーであり、学年最優秀の剣士という事もあり認められた。
もう一人、マルカを加えようと思ったが、こっちは却下。あくまで模擬戦優勝パーティーに対する探索依頼なので、一回戦敗退のマルカは認められなかったのだ。
でも、リアーナにロザリンド、タックルベリー、この四人ならどんな相手にも負ける気はせんな!!
★★★
馬車に揺られ、野営を交えて数日。そこに到着した。王立学校より少し離れた地方都市。エルフの町と同じ程度の規模だろうか。
「迷宮はここから少し歩いた所にあるらしいわ。今日はこの町で準備をして、迷宮探索は明日からにしましょう」
「ちょっとロザリンドさん!! うちのパーティーリーダーはシノブですのよ!! 勝手に仕切らないでもらえますぅ!! 張っ倒しますですのよ!!」
「そうよ!! わたくしを差し置いてリーダー面をしないでちょうだい!! 張っ倒しますですのよ!!」
「ベリー君もシノブちゃんも、そんな事ばっかり言っているとロザリンドちゃんにいざって時は助けてもらえないよ?」
「ロザリンド様がこのパーティーのリーダーでございます。シノブの野郎は戦闘力が皆無でして、リーダーには不適格。ただの痴女でございます」
「おいこら、ベリー、痴女って言うな、痴女って。マジ殺すぞ」
「二人とも本当に元気ね。だったら買い出しに行ってもらおうかしら?」
「ベリーが荷物持ちね」
「馬鹿言うな、僕は非力だぞ、この痴女」
「殺す!!」
「二人とも騒がないの。まずは宿に行きましょう。その後に全員で買い出しね」
「ロザリンドちゃんが一緒だと助かるよ。私だとシノブちゃんとベリー君を同時に相手出来ないもん」
そんな感じで俺、リアーナ、ロザリンド、タックルベリーの四人による迷宮探索が始まるのだ。
学校側で準備資金は用意されていた。この資金をどう使い準備をするのか、そこからもう迷宮探索は始まっているのだが、さすがロザリンド。計画的ご利用に抜かりがねぇ。
迷宮探索に必要な物を予算内で次々と用意する。
そしてそれらを背負いカバンに詰め込んで、いざ出発である!!
ちなみに服装は学校の制服。実はこの制服、魔法が施され、その辺りのただの鎧より防御力が高かったりする。
★★★
町から少し離れた場所にそれはあった。
都市と都市を繋ぐ街道から少し逸れた所。地面の上に扉。この光景、サンドンの所に行った時を思い出す。あの時もこんな感じだったわ。
学校から貰った資料では、元々ここには大きく古い屋敷があったらしい。ただ何十年も住む者が居らず屋敷は朽ち果てた。そして朽ちた屋敷を撤去してみたら、この地下迷宮への入口が発見されたとの事。
事前に入った調査では人工的に造られた地下空間である事、崩れた別の箇所が地上と繋がり、そこから魔物が侵入している事が分かっている。
ただ建造者が誰か、その目的は何かなどは分かっていない。
荒く削り出された岩の階段。
先頭をロザリンド、真ん中には俺とタックルベリー、そして最後尾をリアーナが警戒する。
タックルベリーの手には魔法のランタン。持つ者の魔力によって光を発している。
全員が階段を下り始め……
「戻ろう」
「シノブちゃん?」
「バカだ、私は」
「シノブ。どうしたの?」
「……教えられた情報だけを鵜呑みにして、自分達で何も調べてない」
ララが関わっているという事もあるが、何も分かっていない地下迷宮に何の下調べもせずに入るなんて……ちょっとしたプチ留学だと浮かれていたのかも知れん。
「でも僕達が何か調べても、王国や学校が調べた以上の事は分からないんじゃないか?」
「それでも。なんか分からないけど引っ掛かるの。嫌な予感がする」
「予感って、そんな理由で今から引き返すのか?」
「……リーダーはシノブでしょう? 引き返しましょう」
「ロザリンド、お前まで……リアーナはどう思う?」
「私もシノブちゃんが言うなら」
「……はいはい、分かったよ。引き返すか」
「すまんな、皆の衆」
きちんと下調べをしてからまた来よう。
引き返すのだが、時既に遅し。
「シノブちゃん……どうしよう……出入口が無くなってるよ……」
振り返った上り階段の先には岩の天井。
「冗談だろ」
タックルベリーが出入口を塞ぐ岩の天井を叩いたり押したりしてみるが……開かないし動かない、まるでそこには出入口など無かったかのように。
「ちょっといいかしら」
ロザリンドは腰の刀を抜く。そして小さな気合の声と共に刀の切っ先を岩の天井に突き刺した。刀の半分程が岩に埋まるのが……
「突き抜けた感触は無いわ。岩にどれぐらいの厚みがあるか分からない」
「でも全くまだ下りてないだろ。上の岩を砕いて行けばすぐ出られるんじゃないか?」
「とも言えないよ。もしかしたら気付かないうちに魔法で別の場所に飛ばされているかも」
そう、確かにリアーナの言う通りなのだ。ここが地表に近い位置だという確証は無い。
「早速だけどこれ使ってみようか」
それは学校から支給された脱出アイテム。一人一個、魔法陣が刻まれた野球ボール大の球体。事前に魔法陣を登録した任意の場所に瞬間移動が出来る魔法道具である。
今回は学校からの支給だったので、魔法陣は学校に登録されていた。
いきなり学校に戻る事になるが、まぁ仕方ない。
この球体に強い衝撃を与えれば。
ガゴンッと球体を岩の壁に叩き付ける。
……反応無し。
「使い方、間違ってないよね?」
俺の言葉に全員が頷く。
リアーナも、ロザリンドも、タックルベリーも……ガゴンッ、ガゴンッ、ガゴンッ……やっぱり反応無し。
この場から脱出が出来ない。
「おい、僕達、閉じ込められたって事か!!?」
「そうなるかな」
「どうする、シノブちゃん?」
「そうだねぇ~」
「落ち着いてんじゃないよ!!?」
「大丈夫だって」
「何か考えがあるのかしら?」
「まぁ、絶対に使いたくないんだけど」
俺とリアーナの目が合う。同じ事をリアーナも考えているんだろう。
俺は胸元から体育教師ホイッスルを取り出す。
竜の山からここまでかなりの距離があるが、アバンセなら半日も掛からず来てくれるだろ。
「リアーナはサンドンの方をお願いね。もしかしたらサンドンの方が早く来てくれるかも知れないし」
「うん、分かった」
サンドンの所には瞬間移動装置があるし、そっちの方が早いかも知れん。
リアーナも体育教師ホイッスルを胸元から取り出し、二人して笛を吹く。
ピーピーピー
ピーピーピー
「おいおい、どういう事だよ、この状況で?」
「……その笛で誰かの助けが呼べるって事なのね?」
「そそ」
「その助けだけど……今『サンドン』って言わなかった?」
「僕の知っているサンドンは、古代竜・冥界の主サンドンだけどな」
「まぁ、その辺りの説明は追々ね」
★★★
時間の経過を知るのに使うのはこの太いロウソク。一本燃え尽きるのに丸一日掛かる。
そのロウソクに火を灯して数時間。オシッコ出そう。
「トイレ。リアーナお願い」
「うん」
隠してもパーティーの団体行動に影響するし、一人だけで行動する事の無いようにしている。
魔法のランタンも持つリアーナと二人で階段を下りる。
階段の下には岩盤を刳り貫いたような通路がいくつも延びていた。そのうちの一つが行き止りなので、ここをトイレとして使わせて貰おう。
パンツを下げてしゃがみ込む。
「ねぇ、リアーナ。どの程度まで話して良いと思う?」
「アバンセさんや、サンドンさん、それにシノブちゃんの事だよね?」
「どっちみちアバンセやサンドンの事は話すつもりだけど、私の事はどうした方が良いかな?」
ロザリンドもタックルベリーもパーティーの仲間だ。それは命を預ける仲間。その二人に俺の能力を隠す事で何か行き違いが起こらないか……
「シノブちゃんが力を使う時で良いと思うよ。使わないならそのまま秘密でも良いんだから」
「まぁ、そうかぁ」
立ち上がりパンツを上げる。
そんな感じで時間は過ぎ、今、太いロウソクの一本目が燃え尽きた。
丸一日が過ぎた。
階段の上。岩の壁を背にして仮眠をしたせいか、ケツと背中が痛ぇ。
しかしアバンセとサンドンが現れる気配が無い。
ちなみに半日経過した時点でパルとヤミの笛も吹いてみたが、やはりパルもヤミも現れる気配が無い。
「おかしい……」
「おかしいね……」
アバンセが本気で空を翔れば、半日で到着するはず。丸一日は掛からない。
「どういう事?」
「シノブさんよぉ、説明をお願いしますよぉ」
「うん、そうだね」
細かい経緯は省き、アバンセやサンドン、パルやヤミと知り合いである事を説明する。
「おまっ…… 世界の頂点に君臨する五人の竜だぞ? そのうちの四人と知り合いとか冗談だろ?」
「冗談じゃないよ。ベリーに魔法の話をしたよね? あれサンドンからの知識だもん」
「冗談じゃないのかよ……」
「シノブ……あなたって本当に常識から外れているわね……」
まぁ、さらに常識から外れた力を持っているわけですが。
「でもシノブちゃんと私が持っているこの笛なら、どれだけ離れていても届くはずなんだけど……」
その言葉でタックルベリーはリアーナを見詰める。
「……」
「……ベリー君?……どうしたの?」
「どれだけ離れていても笛を吹いた事が分かるんだな?」
「私達はそう聞いているけど。だよね、リアーナ」
「うん」
「……物理的に音が届いているわけじゃない。そうなると、その笛には何かしらの魔法が掛かっていると考えるべきか……もしかして……ここは……竜の罠……」
タックルベリーの言葉に俺とリアーナは顔を見合わせた。
竜の罠……その言葉に聞き覚えがあったからだ。
「竜の罠。シノブもリアーナも何か知っているのね?」
ロザリンドの言葉に俺は頷く。
リアーナ育成計画中に勉強としてサンドンから聞いた事がある。
竜の罠。
それはその名の通り、竜を捕らえるための罠。
竜の血肉、牙や鱗。それらは希少な素材である。さすがにアバンセ達を封じ込める程の力は無いが、下位の竜の力を封じ込める空間、それが竜の罠だ。
「これは僕の仮説だけどな」
タックルベリーの話はこう。
ここは竜の罠。竜に反応して対象を閉じ込める。
その罠が今、発動している。
王国や学校の調査団には発動せず、俺達の時に発動したのは、俺とリアーナがこの体育教師ホイッスルを持っていたから。笛の持つ竜の魔力に罠が発動したのだ。
そして笛を吹いてもアバンセ達の助けが無いのは、笛自体に強い魔力が宿っていないから。つまり発動した竜の罠により、笛の効果が封じ込まれている。
「面白いわね。魔力に質の違いがあるなんて」
魔力の質……ロザリンドに言われて、俺もアアァと心の中で頷いた。
「おっ、ロザリンドも良いトコに気付いたな」
タックルベリーは本当に楽しそうに笑いやがる。まぁ、魔法に携わる者としての気持ちは分かるけどな。
「あっ……ランタンの灯……」
リアーナも気付いたようだ。
「ランタンに灯が付いているって事は僕達の魔力はこの場所でも使えるって事だ。ただ竜の魔力の宿った笛は使えない。これは魔力と呼ばれるモノが人と竜で違う事を意味している。そしてこれ」
それは学校から貰った脱出魔法道具。
タックルベリーは言葉を続ける。
「前にシノブから聞いた話と照らし合わせるなら、この道具に掛かる魔法は竜に属する者との契約で成り立っているんだろ。だから竜の罠では使えない」
つまりそれは……
「……私達は自分達だけでここから出ないと駄目って事だね」
このメガネ野郎、校長でありながら頻繁に一般生徒を呼び出しやがんな。そのメガネを叩き折ってやろうか、このメガネ野郎が。
「実はあなた達に頼みたい事があるんです」
「断るとどうなりますか?」
メガネ野郎の言葉に俺は間髪入れず返す。
「何かペナルティがあるわけではありません。ただ協力してもらえれば、成績にそれなりの加算があります」
成績に加算……俺は興味無いが、リアーナ達はやっぱり欲しいトコだろ。
とりあえず話を聞くか。
概要はこんな感じ。
ここから少し離れた場所に存在する地下迷宮の探索をして欲しいとの事である。
最近になって発見されたその地下迷宮。既に王国や学校の調査が入り、安全は確保されている。ただ見落としがあるかも知れないという事、そして程良く魔物が出るので模擬戦優勝パーティーの強化という意味も含めての事らしい。
プチ留学みたいなもんか。
ちなみに危ない状況に陥った時の為に、その場から瞬時に脱出可能な魔法道具も支給されるらしい。
リアーナの力になれるなら、俺に拒否する理由は無い。
ただレイラは……
「すいません。私は辞退をさせて下さい」
魔物と戦う可能性があるなら、自分は邪魔になるとの理由だった。
模擬戦と違い、どんなに小さくても実戦には危険が伴う。レイラ自身がそう言うなら、芸術学部のレイラをこれ以上パーティーメンバーに加えるわけにはいかない。
そこでパーティーメンバーの補充としてロザリンドに白羽の矢が立つ。模擬戦準優勝パーティーのリーダーであり、学年最優秀の剣士という事もあり認められた。
もう一人、マルカを加えようと思ったが、こっちは却下。あくまで模擬戦優勝パーティーに対する探索依頼なので、一回戦敗退のマルカは認められなかったのだ。
でも、リアーナにロザリンド、タックルベリー、この四人ならどんな相手にも負ける気はせんな!!
★★★
馬車に揺られ、野営を交えて数日。そこに到着した。王立学校より少し離れた地方都市。エルフの町と同じ程度の規模だろうか。
「迷宮はここから少し歩いた所にあるらしいわ。今日はこの町で準備をして、迷宮探索は明日からにしましょう」
「ちょっとロザリンドさん!! うちのパーティーリーダーはシノブですのよ!! 勝手に仕切らないでもらえますぅ!! 張っ倒しますですのよ!!」
「そうよ!! わたくしを差し置いてリーダー面をしないでちょうだい!! 張っ倒しますですのよ!!」
「ベリー君もシノブちゃんも、そんな事ばっかり言っているとロザリンドちゃんにいざって時は助けてもらえないよ?」
「ロザリンド様がこのパーティーのリーダーでございます。シノブの野郎は戦闘力が皆無でして、リーダーには不適格。ただの痴女でございます」
「おいこら、ベリー、痴女って言うな、痴女って。マジ殺すぞ」
「二人とも本当に元気ね。だったら買い出しに行ってもらおうかしら?」
「ベリーが荷物持ちね」
「馬鹿言うな、僕は非力だぞ、この痴女」
「殺す!!」
「二人とも騒がないの。まずは宿に行きましょう。その後に全員で買い出しね」
「ロザリンドちゃんが一緒だと助かるよ。私だとシノブちゃんとベリー君を同時に相手出来ないもん」
そんな感じで俺、リアーナ、ロザリンド、タックルベリーの四人による迷宮探索が始まるのだ。
学校側で準備資金は用意されていた。この資金をどう使い準備をするのか、そこからもう迷宮探索は始まっているのだが、さすがロザリンド。計画的ご利用に抜かりがねぇ。
迷宮探索に必要な物を予算内で次々と用意する。
そしてそれらを背負いカバンに詰め込んで、いざ出発である!!
ちなみに服装は学校の制服。実はこの制服、魔法が施され、その辺りのただの鎧より防御力が高かったりする。
★★★
町から少し離れた場所にそれはあった。
都市と都市を繋ぐ街道から少し逸れた所。地面の上に扉。この光景、サンドンの所に行った時を思い出す。あの時もこんな感じだったわ。
学校から貰った資料では、元々ここには大きく古い屋敷があったらしい。ただ何十年も住む者が居らず屋敷は朽ち果てた。そして朽ちた屋敷を撤去してみたら、この地下迷宮への入口が発見されたとの事。
事前に入った調査では人工的に造られた地下空間である事、崩れた別の箇所が地上と繋がり、そこから魔物が侵入している事が分かっている。
ただ建造者が誰か、その目的は何かなどは分かっていない。
荒く削り出された岩の階段。
先頭をロザリンド、真ん中には俺とタックルベリー、そして最後尾をリアーナが警戒する。
タックルベリーの手には魔法のランタン。持つ者の魔力によって光を発している。
全員が階段を下り始め……
「戻ろう」
「シノブちゃん?」
「バカだ、私は」
「シノブ。どうしたの?」
「……教えられた情報だけを鵜呑みにして、自分達で何も調べてない」
ララが関わっているという事もあるが、何も分かっていない地下迷宮に何の下調べもせずに入るなんて……ちょっとしたプチ留学だと浮かれていたのかも知れん。
「でも僕達が何か調べても、王国や学校が調べた以上の事は分からないんじゃないか?」
「それでも。なんか分からないけど引っ掛かるの。嫌な予感がする」
「予感って、そんな理由で今から引き返すのか?」
「……リーダーはシノブでしょう? 引き返しましょう」
「ロザリンド、お前まで……リアーナはどう思う?」
「私もシノブちゃんが言うなら」
「……はいはい、分かったよ。引き返すか」
「すまんな、皆の衆」
きちんと下調べをしてからまた来よう。
引き返すのだが、時既に遅し。
「シノブちゃん……どうしよう……出入口が無くなってるよ……」
振り返った上り階段の先には岩の天井。
「冗談だろ」
タックルベリーが出入口を塞ぐ岩の天井を叩いたり押したりしてみるが……開かないし動かない、まるでそこには出入口など無かったかのように。
「ちょっといいかしら」
ロザリンドは腰の刀を抜く。そして小さな気合の声と共に刀の切っ先を岩の天井に突き刺した。刀の半分程が岩に埋まるのが……
「突き抜けた感触は無いわ。岩にどれぐらいの厚みがあるか分からない」
「でも全くまだ下りてないだろ。上の岩を砕いて行けばすぐ出られるんじゃないか?」
「とも言えないよ。もしかしたら気付かないうちに魔法で別の場所に飛ばされているかも」
そう、確かにリアーナの言う通りなのだ。ここが地表に近い位置だという確証は無い。
「早速だけどこれ使ってみようか」
それは学校から支給された脱出アイテム。一人一個、魔法陣が刻まれた野球ボール大の球体。事前に魔法陣を登録した任意の場所に瞬間移動が出来る魔法道具である。
今回は学校からの支給だったので、魔法陣は学校に登録されていた。
いきなり学校に戻る事になるが、まぁ仕方ない。
この球体に強い衝撃を与えれば。
ガゴンッと球体を岩の壁に叩き付ける。
……反応無し。
「使い方、間違ってないよね?」
俺の言葉に全員が頷く。
リアーナも、ロザリンドも、タックルベリーも……ガゴンッ、ガゴンッ、ガゴンッ……やっぱり反応無し。
この場から脱出が出来ない。
「おい、僕達、閉じ込められたって事か!!?」
「そうなるかな」
「どうする、シノブちゃん?」
「そうだねぇ~」
「落ち着いてんじゃないよ!!?」
「大丈夫だって」
「何か考えがあるのかしら?」
「まぁ、絶対に使いたくないんだけど」
俺とリアーナの目が合う。同じ事をリアーナも考えているんだろう。
俺は胸元から体育教師ホイッスルを取り出す。
竜の山からここまでかなりの距離があるが、アバンセなら半日も掛からず来てくれるだろ。
「リアーナはサンドンの方をお願いね。もしかしたらサンドンの方が早く来てくれるかも知れないし」
「うん、分かった」
サンドンの所には瞬間移動装置があるし、そっちの方が早いかも知れん。
リアーナも体育教師ホイッスルを胸元から取り出し、二人して笛を吹く。
ピーピーピー
ピーピーピー
「おいおい、どういう事だよ、この状況で?」
「……その笛で誰かの助けが呼べるって事なのね?」
「そそ」
「その助けだけど……今『サンドン』って言わなかった?」
「僕の知っているサンドンは、古代竜・冥界の主サンドンだけどな」
「まぁ、その辺りの説明は追々ね」
★★★
時間の経過を知るのに使うのはこの太いロウソク。一本燃え尽きるのに丸一日掛かる。
そのロウソクに火を灯して数時間。オシッコ出そう。
「トイレ。リアーナお願い」
「うん」
隠してもパーティーの団体行動に影響するし、一人だけで行動する事の無いようにしている。
魔法のランタンも持つリアーナと二人で階段を下りる。
階段の下には岩盤を刳り貫いたような通路がいくつも延びていた。そのうちの一つが行き止りなので、ここをトイレとして使わせて貰おう。
パンツを下げてしゃがみ込む。
「ねぇ、リアーナ。どの程度まで話して良いと思う?」
「アバンセさんや、サンドンさん、それにシノブちゃんの事だよね?」
「どっちみちアバンセやサンドンの事は話すつもりだけど、私の事はどうした方が良いかな?」
ロザリンドもタックルベリーもパーティーの仲間だ。それは命を預ける仲間。その二人に俺の能力を隠す事で何か行き違いが起こらないか……
「シノブちゃんが力を使う時で良いと思うよ。使わないならそのまま秘密でも良いんだから」
「まぁ、そうかぁ」
立ち上がりパンツを上げる。
そんな感じで時間は過ぎ、今、太いロウソクの一本目が燃え尽きた。
丸一日が過ぎた。
階段の上。岩の壁を背にして仮眠をしたせいか、ケツと背中が痛ぇ。
しかしアバンセとサンドンが現れる気配が無い。
ちなみに半日経過した時点でパルとヤミの笛も吹いてみたが、やはりパルもヤミも現れる気配が無い。
「おかしい……」
「おかしいね……」
アバンセが本気で空を翔れば、半日で到着するはず。丸一日は掛からない。
「どういう事?」
「シノブさんよぉ、説明をお願いしますよぉ」
「うん、そうだね」
細かい経緯は省き、アバンセやサンドン、パルやヤミと知り合いである事を説明する。
「おまっ…… 世界の頂点に君臨する五人の竜だぞ? そのうちの四人と知り合いとか冗談だろ?」
「冗談じゃないよ。ベリーに魔法の話をしたよね? あれサンドンからの知識だもん」
「冗談じゃないのかよ……」
「シノブ……あなたって本当に常識から外れているわね……」
まぁ、さらに常識から外れた力を持っているわけですが。
「でもシノブちゃんと私が持っているこの笛なら、どれだけ離れていても届くはずなんだけど……」
その言葉でタックルベリーはリアーナを見詰める。
「……」
「……ベリー君?……どうしたの?」
「どれだけ離れていても笛を吹いた事が分かるんだな?」
「私達はそう聞いているけど。だよね、リアーナ」
「うん」
「……物理的に音が届いているわけじゃない。そうなると、その笛には何かしらの魔法が掛かっていると考えるべきか……もしかして……ここは……竜の罠……」
タックルベリーの言葉に俺とリアーナは顔を見合わせた。
竜の罠……その言葉に聞き覚えがあったからだ。
「竜の罠。シノブもリアーナも何か知っているのね?」
ロザリンドの言葉に俺は頷く。
リアーナ育成計画中に勉強としてサンドンから聞いた事がある。
竜の罠。
それはその名の通り、竜を捕らえるための罠。
竜の血肉、牙や鱗。それらは希少な素材である。さすがにアバンセ達を封じ込める程の力は無いが、下位の竜の力を封じ込める空間、それが竜の罠だ。
「これは僕の仮説だけどな」
タックルベリーの話はこう。
ここは竜の罠。竜に反応して対象を閉じ込める。
その罠が今、発動している。
王国や学校の調査団には発動せず、俺達の時に発動したのは、俺とリアーナがこの体育教師ホイッスルを持っていたから。笛の持つ竜の魔力に罠が発動したのだ。
そして笛を吹いてもアバンセ達の助けが無いのは、笛自体に強い魔力が宿っていないから。つまり発動した竜の罠により、笛の効果が封じ込まれている。
「面白いわね。魔力に質の違いがあるなんて」
魔力の質……ロザリンドに言われて、俺もアアァと心の中で頷いた。
「おっ、ロザリンドも良いトコに気付いたな」
タックルベリーは本当に楽しそうに笑いやがる。まぁ、魔法に携わる者としての気持ちは分かるけどな。
「あっ……ランタンの灯……」
リアーナも気付いたようだ。
「ランタンに灯が付いているって事は僕達の魔力はこの場所でも使えるって事だ。ただ竜の魔力の宿った笛は使えない。これは魔力と呼ばれるモノが人と竜で違う事を意味している。そしてこれ」
それは学校から貰った脱出魔法道具。
タックルベリーは言葉を続ける。
「前にシノブから聞いた話と照らし合わせるなら、この道具に掛かる魔法は竜に属する者との契約で成り立っているんだろ。だから竜の罠では使えない」
つまりそれは……
「……私達は自分達だけでここから出ないと駄目って事だね」
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