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王立学校編
善戦と決着
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ポルトは驚いた。
特別学部の生徒以外にも、こんな生徒が居たのか。
魔法発動の速さと滑らかさ。そして放たれる魔法の威力と精度。継続的に魔法を発動させる魔力量。リアーナも別格だと思ったが、魔法だけを見れば、そのリアーナ以上。
タックルベリー・ヒュンカーヒッター……この男、凄まじい才能を持つ魔法使いだ。
リアーナは力を蓄えるように後方へ控え、戦いには参加していなかった。
ポルトとタックルベリーの二人だけで、対戦パーティー四人を相手にする。タックルベリーの予想以上の力、そして相手も積極的に攻撃をしないため、現時点での戦況は拮抗していた。
しかしそれでも時間の経過と共に……
「押し返す!! ベリー頼む!!」
「うるせぇ!! 勝手に行け!!」
少しずつ後退する戦線。このままだと押し負ける可能性もある。ポルトは前へと飛び出した。
そのポルトを援護するタックルベリーの魔法。相手から放たれる矢や魔法を正確に弾き、相殺する。しかもポルトの動きを邪魔しないように。
ポルトは刀を手に斬り込み、一撃、ニ撃、と攻撃を加え、戦線を押し上げる。
後退をしながら戦うという作戦もある。ただこちらが後退の様子を見せれば、相手が一気に攻めてくる事も考えられる。さすがに相手四人が全力で来たら、ポルトとタックルベリーの二人だけでは止められない。一気に崩れる。
こちらの作戦はリアーナを使わずに、シノブの援護を待つ事なのだから。
相手も強引に攻めては来ない。こちらと同じく援護を待っているのだろう。好都合だ。
★★★
互角の戦い。
ロザリンドのパーティーの圧倒的な勝利を予想していた者の方が多かったはず。ポルト達にとっては善戦と言えた。
しかしそれももう限界が近い。
早くしろ、馬鹿野郎が!!
タックルベリーは魔法の詠唱を呟きつつ、心の中でそう叫ぶ。
魔法を正確に制御するには集中力が必要だ。その集中力を維持するには体力も必要である。どちらも限界に近い事が自分自身で分かる。
それはポルトも同じ。四人を相手に最前線で打ち合うのだ。その重圧は普通ではない。一瞬の気の緩みが負けに繋がる。
張り詰める緊張の糸。二人とも限界が近い。それでもリアーナは手を出さない。何故なら……
僅かな隙間だった。
リアーナに向けて放たれた一本の矢。
「ベリー!!」
ポルトは叫ぶ。
しかし……間に合わん!!
自分の魔法では矢を撃ち落とすのに間に合わない。タックルベリーはそう判断して声を上げる。
「レイラ!! しゃがめ!!」
その声で反射的にしゃがみ込むリアーナ。
矢がリアーナの鉄仮面を掠めた。
その場に尻餅を着き転がる。そして鉄仮面も脱げてカラカラと転がる。
「あうっ、お尻が」
そこに居たのはリアーナでない。
お尻をさするのはレイラだった。
相手パーティーはその光景に、四人全員とも言葉を失った。そして思考と共に動きが停止する。
それとほぼ同時だった。
リアーナだ。
突然に現れたリアーナが短剣を抜きながら突撃していた。
リアーナの短剣が男子剣士一人とエルフの一人を斬り倒す。リアーナの姿を確認したと同時にポルトも突っ込んでいた。
混乱している相手は実に容易い。そこから簡単に相手を打ち負かすのである。
★★★
俺は走っていた。
リアーナと一緒に。
剣と魔法の戦闘音。もうすぐそこ!!
そこで聞こえたのはタックルベリーの声だった。
「レイラ!! しゃがめ!!」
レイラ!!?
バレたのか!!? リアーナとレイラの入れ替わり作戦が!!?
「シノブちゃん、先に行く!!」
そう言ってリアーナは短剣を抜き、俺を一瞬で置き去りにする。
くぅっ、俺の足の遅さが憎い!!
ひーひー
……と荒い息でそこに辿り着いた時には……
「シノブちゃん、やったよ」
「俺達の勝ちだ」
「お前は随分と遅い到着だったな」
「……何もしていないので心苦しい……」
既に勝負は決着していた。
★★★
それは模擬戦終了の合図。
「……勝ったのはシノブ達かしら……」
ロザリンドは一人呟いた。
まさか……あんな事をしていたなんて。まるで冗談のよう。ここまで来ると笑えるわね。
さっきの光景を思い出す。
ロザリンドは刀を抜き、シノブに斬り掛かる。
罠などは無い。
このままシノブを斬り、その勢いで後ろのレイラも倒す。それでおしまい。後はパーティーの援護に向かえば良い。
簡単ははずだった。しかし……
レイラがシノブの襟首を掴み、後ろへと引き戻す。それと同時にレイラ自身がロザリンドの目の前に飛び出した。その動きの速さはレイラのものではない。予想外の動きにロザリンドは戸惑う。
そしてその動きの速さにレイラの被る魔女帽子が飛ばされた。
そこにいたのは……
リアーナ?
戸惑いに戸惑いが重なり、ロザリンドの動きが一瞬だけ鈍る。それをリアーナは見逃さない。
リアーナはロザリンドの腕を取り、自らの体を巻き付けるようにしての捨て身投げ。激しく石畳に叩き付けれたロザリンドは身動きが取れない。
そこでシノブが止めを刺す。
まさに一瞬の勝負だった。
リアーナとレイラが入れ替わっていたなんて。誰が予想出来るのよ?
今、考えれば、シノブは最初からこの作戦を考えていたのね。この模擬戦最終試合の為に。その為の第一試合と第二試合。
……後で色々と聞いてみたいわね。
★★★
こうして模擬戦は終了する。
優勝は俺達のパーティーである。
やったぜ!!
特別学部の生徒以外にも、こんな生徒が居たのか。
魔法発動の速さと滑らかさ。そして放たれる魔法の威力と精度。継続的に魔法を発動させる魔力量。リアーナも別格だと思ったが、魔法だけを見れば、そのリアーナ以上。
タックルベリー・ヒュンカーヒッター……この男、凄まじい才能を持つ魔法使いだ。
リアーナは力を蓄えるように後方へ控え、戦いには参加していなかった。
ポルトとタックルベリーの二人だけで、対戦パーティー四人を相手にする。タックルベリーの予想以上の力、そして相手も積極的に攻撃をしないため、現時点での戦況は拮抗していた。
しかしそれでも時間の経過と共に……
「押し返す!! ベリー頼む!!」
「うるせぇ!! 勝手に行け!!」
少しずつ後退する戦線。このままだと押し負ける可能性もある。ポルトは前へと飛び出した。
そのポルトを援護するタックルベリーの魔法。相手から放たれる矢や魔法を正確に弾き、相殺する。しかもポルトの動きを邪魔しないように。
ポルトは刀を手に斬り込み、一撃、ニ撃、と攻撃を加え、戦線を押し上げる。
後退をしながら戦うという作戦もある。ただこちらが後退の様子を見せれば、相手が一気に攻めてくる事も考えられる。さすがに相手四人が全力で来たら、ポルトとタックルベリーの二人だけでは止められない。一気に崩れる。
こちらの作戦はリアーナを使わずに、シノブの援護を待つ事なのだから。
相手も強引に攻めては来ない。こちらと同じく援護を待っているのだろう。好都合だ。
★★★
互角の戦い。
ロザリンドのパーティーの圧倒的な勝利を予想していた者の方が多かったはず。ポルト達にとっては善戦と言えた。
しかしそれももう限界が近い。
早くしろ、馬鹿野郎が!!
タックルベリーは魔法の詠唱を呟きつつ、心の中でそう叫ぶ。
魔法を正確に制御するには集中力が必要だ。その集中力を維持するには体力も必要である。どちらも限界に近い事が自分自身で分かる。
それはポルトも同じ。四人を相手に最前線で打ち合うのだ。その重圧は普通ではない。一瞬の気の緩みが負けに繋がる。
張り詰める緊張の糸。二人とも限界が近い。それでもリアーナは手を出さない。何故なら……
僅かな隙間だった。
リアーナに向けて放たれた一本の矢。
「ベリー!!」
ポルトは叫ぶ。
しかし……間に合わん!!
自分の魔法では矢を撃ち落とすのに間に合わない。タックルベリーはそう判断して声を上げる。
「レイラ!! しゃがめ!!」
その声で反射的にしゃがみ込むリアーナ。
矢がリアーナの鉄仮面を掠めた。
その場に尻餅を着き転がる。そして鉄仮面も脱げてカラカラと転がる。
「あうっ、お尻が」
そこに居たのはリアーナでない。
お尻をさするのはレイラだった。
相手パーティーはその光景に、四人全員とも言葉を失った。そして思考と共に動きが停止する。
それとほぼ同時だった。
リアーナだ。
突然に現れたリアーナが短剣を抜きながら突撃していた。
リアーナの短剣が男子剣士一人とエルフの一人を斬り倒す。リアーナの姿を確認したと同時にポルトも突っ込んでいた。
混乱している相手は実に容易い。そこから簡単に相手を打ち負かすのである。
★★★
俺は走っていた。
リアーナと一緒に。
剣と魔法の戦闘音。もうすぐそこ!!
そこで聞こえたのはタックルベリーの声だった。
「レイラ!! しゃがめ!!」
レイラ!!?
バレたのか!!? リアーナとレイラの入れ替わり作戦が!!?
「シノブちゃん、先に行く!!」
そう言ってリアーナは短剣を抜き、俺を一瞬で置き去りにする。
くぅっ、俺の足の遅さが憎い!!
ひーひー
……と荒い息でそこに辿り着いた時には……
「シノブちゃん、やったよ」
「俺達の勝ちだ」
「お前は随分と遅い到着だったな」
「……何もしていないので心苦しい……」
既に勝負は決着していた。
★★★
それは模擬戦終了の合図。
「……勝ったのはシノブ達かしら……」
ロザリンドは一人呟いた。
まさか……あんな事をしていたなんて。まるで冗談のよう。ここまで来ると笑えるわね。
さっきの光景を思い出す。
ロザリンドは刀を抜き、シノブに斬り掛かる。
罠などは無い。
このままシノブを斬り、その勢いで後ろのレイラも倒す。それでおしまい。後はパーティーの援護に向かえば良い。
簡単ははずだった。しかし……
レイラがシノブの襟首を掴み、後ろへと引き戻す。それと同時にレイラ自身がロザリンドの目の前に飛び出した。その動きの速さはレイラのものではない。予想外の動きにロザリンドは戸惑う。
そしてその動きの速さにレイラの被る魔女帽子が飛ばされた。
そこにいたのは……
リアーナ?
戸惑いに戸惑いが重なり、ロザリンドの動きが一瞬だけ鈍る。それをリアーナは見逃さない。
リアーナはロザリンドの腕を取り、自らの体を巻き付けるようにしての捨て身投げ。激しく石畳に叩き付けれたロザリンドは身動きが取れない。
そこでシノブが止めを刺す。
まさに一瞬の勝負だった。
リアーナとレイラが入れ替わっていたなんて。誰が予想出来るのよ?
今、考えれば、シノブは最初からこの作戦を考えていたのね。この模擬戦最終試合の為に。その為の第一試合と第二試合。
……後で色々と聞いてみたいわね。
★★★
こうして模擬戦は終了する。
優勝は俺達のパーティーである。
やったぜ!!
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