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王立学校編
一回戦と低いリスク
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これは一種のお祭りだ。
模擬戦前に王立学校全生徒に参加パーティーのお披露目がある。模擬戦はどの学年にもあり、今回は俺達の学年という事。少し期間が空き、次は別の学年の模擬戦が行われるんだろう。
巨大な円形闘技場。囲むように集まる学校生徒。何千人もの生徒が集まり闘技場の中心で紹介されるパーティーを興味津々で眺めていた。
「酷いよ!! シノブちゃん!! こんなの普通じゃないよ!! 絶対に嫌!!」
「リアーナ、これは勝つために必要な事なんだよ?」
「絶対に嘘!! シノブちゃんは面白がっているだけだよ!!」
俺達パーティーのお披露目で駄々をこねるリアーナ。
少し赤くなった顔を逸らし、リアーナを見ないポルト。逆にタックルベリーは全てを脳内に焼き付けようと視線を逸らさない。そして興奮気味に言う。
「ちょっと、これは凄過ぎるんじゃありませんか? ご馳走様です」
「ベリー君も見ないで!!」
「……リアーナちゃん、こんな……こんなのあるんですね……」
同情の視線を送るレイラ。まぁ、後でレイラにも災難は降り掛かるんだけどな。
「リアーナ、もう着ちゃってるんだから諦めて!!」
「シノブちゃんがムリヤリ着せたんでしょ!!」
「勝つから!! 絶対に勝つから!! ほら、みんなもリアーナを押し出して!!」
「すまない。リアーナ、勝つために必要らしいから」
「ほら、もう諦めろよ」
「でも、こんなに嫌がっているんだから……」
「ほら!! レイラも手伝って!!」
「は、はいっ!!」
「やーーーめーーーてーーーっ!!」
リアーナ、ビキニアーマーにて登場。
ピンクのビキニアーマーはリアーナの乳首部分と股間の前部分だけを隠し、後ろは紐のみ。最高に面積の少ないビキニアーマーだぜ!!
おおおおおおっ……闘技場に響く男子生徒達の歓喜の声。女子生徒達は……うん、まぁ、そうねー、そういう反応よねー
先生がすぐに飛んで来る。
「あなた、なんて格好をしているんですか!!?」
「大丈夫です!! これがありますから!!」
俺はリアーナに鉄仮面を被せる。目だけしか見えない鉄仮面。
「隠すのは顔じゃありません!!」
「じゃあ、これで」
今度はマント。マントでリアーナの体を隠す。
「……それなら……」
「ほ、ほら、リアーナ、恥ずかしいのは最初だけだから」
「……」
うわー、鉄仮面の奥に鋭い視線が……さすがのリアーナも怒ってるぅー
そしてそれとは別にもう一人、目立つ存在が。
鍔の広い帽子、円錐形の頭頂部が折れ曲がったそれは魔女帽子と呼ばれ、魔法を使う者が好んで被っている。その幅広い鍔に隠れて顔は見えない。
アイツは誰だ?
あれが芸術学部の奴だろ?
確かエルフのレイラだっけ。
特別学部以外の生徒も参加可能だったのか。
それにしても芸術学部って……
「すぐに気付かれました」
「良いんだよ。別にレイラの素性を隠すのが目的じゃないから」
この魔女帽子も俺が用意したもの。
これで準備は整った。
★★★
そして。
深い深い森の中。
決められた範囲内で模擬戦は行われる。範囲内と限定されてもかなりの広さがあり、何時間も相手のパーティーを見付けられないんじゃないか?と思う程に広い。
そして凄いぞ。
魔法の力って凄いぞ。
なんと模擬戦の様子は、魔法の力によって王立学校全体に公開されているらしい。テレビカメラみたいなもんだ。どんな魔法で、誰の力かは知らんけどスゲェ。
巨大水晶に映し出されるとの事。その辺りは古臭い。
「それじゃ。みんな頑張ろっか」
「ああ、絶対に勝つぞ」
「勝って、僕は女の子にモテモテだ」
「頑張ります!!」
「……」
「えっと……リアーナ……さん?」
「……模擬戦中もこの格好の必要があるの?」
鉄仮面にマント。マントの下はビキニアーマーのリアーナ。
「もちろん」
「本当に意味があるんだよね?」
「少しだけ」
「少し!!?」
「冗談だよ!! 意味はあるから!! 私を信じて!!」
「分かったよ。シノブちゃんを信じる」
そして模擬戦一回戦開始の笛がどこか遠くで吹かれるのだった。
★★★
……と、しばらく時間が経つのだが。
「来ないね」
俺達は動かず、その場で待つ。
「おい、シノブ。つまんねーから、僕と魔法談義をしようじゃないか」
「えー……今?」
「だって僕ら、する事が無いだろう? 本当ならマントの下のリアーナ鑑賞をしたいんだけどな」
「ポルトとリアーナに怒られるよ」
「少しくらい大丈夫だろ?」
「静かにしろ。蹴り飛ばすぞ」
「ベリー君、本当にうるさい」
「……ほら、怒られた」
ポルトは少しでも早く相手に気付けるように周囲を警戒している。
それはリアーナとレイラもだ。森で暮らすエルフは周囲の気配に鋭敏で、俺達よりも察知の感度が高い。二人して周囲に気を配る。
マルカのパーティーは体術主体のマルカ、鉈のような巨大な剣を持つリザードマン、体の倍もの長さをした槍を持つリザードマン。そして長剣や弓を使う人間、圧倒的な戦闘力を持つ前衛が四人。そして後衛に魔法使いのエルフが一人。
言うなれば、近距離戦闘速攻特化型。
絶対に向こうは動いているはず。
最初に気付いたのはリアーナだった。
「シノブちゃん。向こうもこっちの気配に気付いたみたい。足が速い」
「ぷっ」
「今、私を見て笑った?」
「笑ってない、笑ってない。えっと、じゃあ、リアーナ、ポルト、作戦通りに」
危ねぇ……
「うん」
「任せろ」
「ベリー、レイラ、行くよ」
「はいよ」
「はいっ」
俺はタックルベリー、レイラと共にその場を離れるのだった。
★★★
これは俺が見ていたわけではない。後から聞いた話だ。
その場に残り、マルカ達を待つリアーナとポルト。
最初に見えたのはマルカの姿だった。
「見付けたよ!!」
マルカはそのまま突進して来る。
それに対するのはリアーナ。
マルカの拳の一撃を、身体能力強化の魔法を発動させたリアーナはハルバードで受ける。金属音と衝撃。マルカは手甲を仕込んでいる。もちろん足にも。
「うくっ」
マルカは小さく笑った。
「……リアーナだよね? くくっ」
「マルカちゃんまで笑わないで!! 好きでこんな格好しているんじゃないんだから!!」
「何か作戦?」
「シノブちゃんに聞いて!!」
リアーナの柄の長いハルバードと、マルカの両拳と両足の連打。手数も速さもマルカの方が圧倒的に上。捌ききれなくなる。
そこにリザードマンの二人が到着。
その姿を確認して、リアーナはその場から後退する。
「逃がさない!!」
リアーナを追うマルカには見えない。後退するリアーナの体の後ろから、隠れるようにして飛び出したポルトの姿が。ポルトの突き出した刀がマルカの胸を狙う。
しかしその一撃はリザードマン二人に弾かれる。
さらにマルカのパーティーメンバー他二人も追加。
「ポルト君!!」
「分かっている!!」
リアーナとポルトは全力で後退。さすがに二人では五人を相手に出来ない。
逃がさないように追うマルカ。この段階では追っていると思っているのだろう。けど実際は追わせているのだ。
マルカのパーティーの怖い所はその攻撃力。ただそれはパーティーメンバーが集まってこそ。
全力で逃げる二人を逃がさず追うためマルカは先頭を走る。
しかしリザードマンは戦闘での敏捷性は高いが持続的に走る速度は速くない。足場の悪さもあり遅れる。
マルカとリザードマン二人が離されないよう、間に二人。マルカのパーティーが間延びする。
リアーナとポルトはマルカと付かず離れずに森の中を移動していく。
その二人を追いながらマルカは思う……他の三人は?……と。二人が逃げる先を思い出す。確か行き止まり、切り立った崖があったはず。その崖が日光を邪魔して木々が育っていない、見通しの良い場所がある。
その時にマルカは俺達の作戦を見破った。二人に別行動を指示を出すのだった。
★★★
逃げに逃げて、リアーナとポルトの背後には切り立った崖。もう逃げ場は無い。
追い詰めたマルカ。少し遅れてリザードマン二人。
「リアーナ。降参したら? もう勝ち目が無いよ?」
「そんな事ない」
「もうそっちの作戦は分かっているんだから」
「本当に?」
「もちろん」
マルカは言い、崖の上へと視線を向けた。そこに自分の仲間がいると思ったのだろう。しかし……
ヒュンッという風を切る音。崖の上から放たれた矢がリザードマンの胸を撃つ。レイラだ。
同じく崖の上から放たれた魔法の衝撃波がもう一人のリザードマンを弾き飛ばす。それはタックルベリー。
「えっ、な、何で……」
うろたえるマルカ。その背後には俺。
刃がガードされた短剣でマルカの頭をポコッと叩く。
「はい。終わり」
「えっ、シノブ……」
「だから言ったでしょ。私と組まないと後悔するって」
「どうして……どういう事?」
「私達の作戦を見破ったと思ったよね?」
「……シノブ達の作戦は私達をこの場所に誘導する事。それで見晴らしの良い崖の上から攻撃」
「だからマルカは私達の作戦を逆手に取って、途中から二人を崖の上に向かわせたんでしょ?」
マルカは頷く。
「でも私達の目的は最初から崖の上に来る二人だったんだよ。だから待ち伏せして倒した。最後は勘違いして油断している所をね」
相手に何もさせず、低いリスクで勝つ。実際に交戦はほとんどしていない。俺達にしてみれば完勝。だけど相手にしてみれば……
マルカはギリッと唇を噛む。
「私達……何も出来なかった……」
涙目で呟く。
「あんなに頑張ったのに……」
悔しいに決まっている。
「マルカちゃん……」
マルカに近付こうとするリアーナだが、それをポルトが止める。
「リアーナ」
「でも」
「リアーナ、ポルト。行こう」
「ああ」
「……うん」
俺達はマルカ達を残し、その場を離れるのだった。
一回戦は俺達の勝ち。
模擬戦前に王立学校全生徒に参加パーティーのお披露目がある。模擬戦はどの学年にもあり、今回は俺達の学年という事。少し期間が空き、次は別の学年の模擬戦が行われるんだろう。
巨大な円形闘技場。囲むように集まる学校生徒。何千人もの生徒が集まり闘技場の中心で紹介されるパーティーを興味津々で眺めていた。
「酷いよ!! シノブちゃん!! こんなの普通じゃないよ!! 絶対に嫌!!」
「リアーナ、これは勝つために必要な事なんだよ?」
「絶対に嘘!! シノブちゃんは面白がっているだけだよ!!」
俺達パーティーのお披露目で駄々をこねるリアーナ。
少し赤くなった顔を逸らし、リアーナを見ないポルト。逆にタックルベリーは全てを脳内に焼き付けようと視線を逸らさない。そして興奮気味に言う。
「ちょっと、これは凄過ぎるんじゃありませんか? ご馳走様です」
「ベリー君も見ないで!!」
「……リアーナちゃん、こんな……こんなのあるんですね……」
同情の視線を送るレイラ。まぁ、後でレイラにも災難は降り掛かるんだけどな。
「リアーナ、もう着ちゃってるんだから諦めて!!」
「シノブちゃんがムリヤリ着せたんでしょ!!」
「勝つから!! 絶対に勝つから!! ほら、みんなもリアーナを押し出して!!」
「すまない。リアーナ、勝つために必要らしいから」
「ほら、もう諦めろよ」
「でも、こんなに嫌がっているんだから……」
「ほら!! レイラも手伝って!!」
「は、はいっ!!」
「やーーーめーーーてーーーっ!!」
リアーナ、ビキニアーマーにて登場。
ピンクのビキニアーマーはリアーナの乳首部分と股間の前部分だけを隠し、後ろは紐のみ。最高に面積の少ないビキニアーマーだぜ!!
おおおおおおっ……闘技場に響く男子生徒達の歓喜の声。女子生徒達は……うん、まぁ、そうねー、そういう反応よねー
先生がすぐに飛んで来る。
「あなた、なんて格好をしているんですか!!?」
「大丈夫です!! これがありますから!!」
俺はリアーナに鉄仮面を被せる。目だけしか見えない鉄仮面。
「隠すのは顔じゃありません!!」
「じゃあ、これで」
今度はマント。マントでリアーナの体を隠す。
「……それなら……」
「ほ、ほら、リアーナ、恥ずかしいのは最初だけだから」
「……」
うわー、鉄仮面の奥に鋭い視線が……さすがのリアーナも怒ってるぅー
そしてそれとは別にもう一人、目立つ存在が。
鍔の広い帽子、円錐形の頭頂部が折れ曲がったそれは魔女帽子と呼ばれ、魔法を使う者が好んで被っている。その幅広い鍔に隠れて顔は見えない。
アイツは誰だ?
あれが芸術学部の奴だろ?
確かエルフのレイラだっけ。
特別学部以外の生徒も参加可能だったのか。
それにしても芸術学部って……
「すぐに気付かれました」
「良いんだよ。別にレイラの素性を隠すのが目的じゃないから」
この魔女帽子も俺が用意したもの。
これで準備は整った。
★★★
そして。
深い深い森の中。
決められた範囲内で模擬戦は行われる。範囲内と限定されてもかなりの広さがあり、何時間も相手のパーティーを見付けられないんじゃないか?と思う程に広い。
そして凄いぞ。
魔法の力って凄いぞ。
なんと模擬戦の様子は、魔法の力によって王立学校全体に公開されているらしい。テレビカメラみたいなもんだ。どんな魔法で、誰の力かは知らんけどスゲェ。
巨大水晶に映し出されるとの事。その辺りは古臭い。
「それじゃ。みんな頑張ろっか」
「ああ、絶対に勝つぞ」
「勝って、僕は女の子にモテモテだ」
「頑張ります!!」
「……」
「えっと……リアーナ……さん?」
「……模擬戦中もこの格好の必要があるの?」
鉄仮面にマント。マントの下はビキニアーマーのリアーナ。
「もちろん」
「本当に意味があるんだよね?」
「少しだけ」
「少し!!?」
「冗談だよ!! 意味はあるから!! 私を信じて!!」
「分かったよ。シノブちゃんを信じる」
そして模擬戦一回戦開始の笛がどこか遠くで吹かれるのだった。
★★★
……と、しばらく時間が経つのだが。
「来ないね」
俺達は動かず、その場で待つ。
「おい、シノブ。つまんねーから、僕と魔法談義をしようじゃないか」
「えー……今?」
「だって僕ら、する事が無いだろう? 本当ならマントの下のリアーナ鑑賞をしたいんだけどな」
「ポルトとリアーナに怒られるよ」
「少しくらい大丈夫だろ?」
「静かにしろ。蹴り飛ばすぞ」
「ベリー君、本当にうるさい」
「……ほら、怒られた」
ポルトは少しでも早く相手に気付けるように周囲を警戒している。
それはリアーナとレイラもだ。森で暮らすエルフは周囲の気配に鋭敏で、俺達よりも察知の感度が高い。二人して周囲に気を配る。
マルカのパーティーは体術主体のマルカ、鉈のような巨大な剣を持つリザードマン、体の倍もの長さをした槍を持つリザードマン。そして長剣や弓を使う人間、圧倒的な戦闘力を持つ前衛が四人。そして後衛に魔法使いのエルフが一人。
言うなれば、近距離戦闘速攻特化型。
絶対に向こうは動いているはず。
最初に気付いたのはリアーナだった。
「シノブちゃん。向こうもこっちの気配に気付いたみたい。足が速い」
「ぷっ」
「今、私を見て笑った?」
「笑ってない、笑ってない。えっと、じゃあ、リアーナ、ポルト、作戦通りに」
危ねぇ……
「うん」
「任せろ」
「ベリー、レイラ、行くよ」
「はいよ」
「はいっ」
俺はタックルベリー、レイラと共にその場を離れるのだった。
★★★
これは俺が見ていたわけではない。後から聞いた話だ。
その場に残り、マルカ達を待つリアーナとポルト。
最初に見えたのはマルカの姿だった。
「見付けたよ!!」
マルカはそのまま突進して来る。
それに対するのはリアーナ。
マルカの拳の一撃を、身体能力強化の魔法を発動させたリアーナはハルバードで受ける。金属音と衝撃。マルカは手甲を仕込んでいる。もちろん足にも。
「うくっ」
マルカは小さく笑った。
「……リアーナだよね? くくっ」
「マルカちゃんまで笑わないで!! 好きでこんな格好しているんじゃないんだから!!」
「何か作戦?」
「シノブちゃんに聞いて!!」
リアーナの柄の長いハルバードと、マルカの両拳と両足の連打。手数も速さもマルカの方が圧倒的に上。捌ききれなくなる。
そこにリザードマンの二人が到着。
その姿を確認して、リアーナはその場から後退する。
「逃がさない!!」
リアーナを追うマルカには見えない。後退するリアーナの体の後ろから、隠れるようにして飛び出したポルトの姿が。ポルトの突き出した刀がマルカの胸を狙う。
しかしその一撃はリザードマン二人に弾かれる。
さらにマルカのパーティーメンバー他二人も追加。
「ポルト君!!」
「分かっている!!」
リアーナとポルトは全力で後退。さすがに二人では五人を相手に出来ない。
逃がさないように追うマルカ。この段階では追っていると思っているのだろう。けど実際は追わせているのだ。
マルカのパーティーの怖い所はその攻撃力。ただそれはパーティーメンバーが集まってこそ。
全力で逃げる二人を逃がさず追うためマルカは先頭を走る。
しかしリザードマンは戦闘での敏捷性は高いが持続的に走る速度は速くない。足場の悪さもあり遅れる。
マルカとリザードマン二人が離されないよう、間に二人。マルカのパーティーが間延びする。
リアーナとポルトはマルカと付かず離れずに森の中を移動していく。
その二人を追いながらマルカは思う……他の三人は?……と。二人が逃げる先を思い出す。確か行き止まり、切り立った崖があったはず。その崖が日光を邪魔して木々が育っていない、見通しの良い場所がある。
その時にマルカは俺達の作戦を見破った。二人に別行動を指示を出すのだった。
★★★
逃げに逃げて、リアーナとポルトの背後には切り立った崖。もう逃げ場は無い。
追い詰めたマルカ。少し遅れてリザードマン二人。
「リアーナ。降参したら? もう勝ち目が無いよ?」
「そんな事ない」
「もうそっちの作戦は分かっているんだから」
「本当に?」
「もちろん」
マルカは言い、崖の上へと視線を向けた。そこに自分の仲間がいると思ったのだろう。しかし……
ヒュンッという風を切る音。崖の上から放たれた矢がリザードマンの胸を撃つ。レイラだ。
同じく崖の上から放たれた魔法の衝撃波がもう一人のリザードマンを弾き飛ばす。それはタックルベリー。
「えっ、な、何で……」
うろたえるマルカ。その背後には俺。
刃がガードされた短剣でマルカの頭をポコッと叩く。
「はい。終わり」
「えっ、シノブ……」
「だから言ったでしょ。私と組まないと後悔するって」
「どうして……どういう事?」
「私達の作戦を見破ったと思ったよね?」
「……シノブ達の作戦は私達をこの場所に誘導する事。それで見晴らしの良い崖の上から攻撃」
「だからマルカは私達の作戦を逆手に取って、途中から二人を崖の上に向かわせたんでしょ?」
マルカは頷く。
「でも私達の目的は最初から崖の上に来る二人だったんだよ。だから待ち伏せして倒した。最後は勘違いして油断している所をね」
相手に何もさせず、低いリスクで勝つ。実際に交戦はほとんどしていない。俺達にしてみれば完勝。だけど相手にしてみれば……
マルカはギリッと唇を噛む。
「私達……何も出来なかった……」
涙目で呟く。
「あんなに頑張ったのに……」
悔しいに決まっている。
「マルカちゃん……」
マルカに近付こうとするリアーナだが、それをポルトが止める。
「リアーナ」
「でも」
「リアーナ、ポルト。行こう」
「ああ」
「……うん」
俺達はマルカ達を残し、その場を離れるのだった。
一回戦は俺達の勝ち。
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