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プロローグ
魔物と名前
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えっ、えっ、何、どうしたんだ!!?
深夜。
突然に抱き上げられ外へ。そして用意されていた馬車に連れ込まれる。
だ、誰だコイツ等? まさか誘拐!!?
……と思ったが、俺を抱いているのは知っている顔のメイドだ。その他にも馬車の中には見た顔がいくつかある。
それからしばらくの時間、馬車に揺られ、行き着いたのは深い森の中だった。
……何だよ、ここは?
緑の木々の匂い。重なる葉の隙間から月明かりが見えた。こっちにも月ってあるんだなぁ、と思った俺の耳にメイドが囁いた。
「……ごめんなさい」
ごめんなさいって、何が……
そして俺はその場に一人、赤ちゃんカゴに入れられたまま放置され、馬車はそのまま遠ざかって行く。
……
…………
………………
捨てられてんじゃん……
……
…………
………………
俺、捨てられてんじゃん!!
山ん中に捨てられてんじゃん!!
捨てるって!!? あるだろ? ほら、もっとあるだろ!!? せめて孤児院的な所とか、あとは養子に出すとか……なのに捨てるって、頭おかしいのかよ!!?
死ぬだろ、これ死んじゃうだろ!!?
泣くか!!? 泣けば誰かが気付いて助けてくれるかも、よし泣くぞ!!
グルルルルルッ
それは獣の低い唸り声だった。
ガサッと草木の揺れる音と共に何かが近付いて来る。
え、嘘、嘘、止めて!!
近付いた何かが上から俺を覗き込んだ。
ギャァァァァァーーーッ!!
犬ゥゥゥゥゥ!!
野犬か狼か、獣が一匹そこにいた。サイズ的には大型犬程もある。
「ねぇ、母さん、ここに人間の赤ちゃんがいる。食べても良い?」
喋りよる!!? この犬っコロ喋りよるぞ!!
それに食べるって俺をか!!?
カプッ
一口。
大きく開かれた獣の口が、俺の頭を一口で咥え込む。鋭い牙が頬に当たる。
嘘だろ……生まれ変わって数日で、もう死ぬのかよ……神様仏様アリア様、何だよ、この運命ってヤツはよ!!?
畜生め。
死ぬために生まれ変わったんじゃねぇぞ!! 死んでたまるかよ!! こんな所で!!
その瞬間、胸の奥に火が灯る。その熱が体中を駆け回り満たしていく。
自分の体が淡く発光しているのが分かった。
咄嗟に振り回す小さな手。それは赤子の小さな手だったが獣を殴り付けた瞬間……
衝撃と共にドグッッッという肉を打つ鈍い音。
「ギャンッ」
獣の体が弾け飛ぶ。
こ、これはアリア様がくれた俺の能力なのか!!?
しかし獣は弾け飛ばされながらも空中で体勢を整え着地する。致命傷にならず、獣は牙を剥きこちらに向き直っていた。
く、来るか!!?
俺にどんな能力があるかは分からないが、このまま黙っておんどれの餌になるつもりは無いからな!!
体を揺さぶり、赤ちゃんカゴから飛び出す。そして全身に力を込めてハイハイの姿勢で対峙。
先手必勝!!
「ばぶわぁ!!」
ハイハイダッシュ、まるで弾丸。
「っ!!?」
獣には紙一重で避けられる。
しかし俺はそのまま後方の大木をハイハイで垂直に駆け上がる。そしてさらに上空へとジャンプ。ジャンプ攻撃でこのまま蹴り倒し……って、ちょっと高くない?
勢いで飛んでみたが、高く飛び過ぎて、獣の姿が木々に遮られて全く見えない。
高い高~いにも程がある!! なんか数百メートルって単位で空に飛んじゃってんだけど!!
そしてそのまま自由落下。
ぎょわわわわわぁぁぁぁぁっ!! 怖いぃぃぃぃぃっ!!
地面が急速に目の前へと迫る。
その時である。
「ヴォル、受け止めなさい!!」
それは女性の声。
その声に反応するように、獣は赤ちゃんカゴを口へと咥えた。
お、俺をそのカゴで受け止めてくれるのか!!? 助かるぜ!!
ドズンッッッッ!!
「ぎゃっ」
赤ちゃんカゴの横をすり抜けて顔面から地面へと激突した。
「……ヴォル……」
「……失敗した」
「……」
「母さん。死んだのか?」
「ぶぅ」
死んどらんわ。生きとるわ。俺は自力で仰向けになる。
この獣、『母さん』とか言いやがったな。母親が一緒なのか……
その母親の姿……じょ、冗談……親とはいえ一回り程度大きいだけだろうと思ったけど……デケェよ!! デカ過ぎるだろ!!
子は大型犬程度、親は象よりさらに大きい……こんな巨大なイヌ科の動物は見た事が無い。アリア様の言葉が思い出される。
『魔物と呼ばれる存在があり』
これが……魔物……
その巨体が近付いて来る。
クッ、怖ぇ……でも……ヤルしかねぇ!!
「……アリア様と同じ、白い髪と紅い瞳」
「女神アリア様?」
「そう。それにさっきの力も不思議だし、全く泣く気配が無いのも不思議……普通の人間の子供ではないのね」
この魔物の母子はアリア様を知ってんのか!!?
すでに全身を包んでいた淡い光は消えている。とにかく普通では無い事をアピールせな!!
「あぶぅ、あぶぅ、あぶぅ!!」
相手の言葉が分かるという事は俺の言葉も伝わるはず……しかしまだ上手く喋る事が出来ない!!
「あーあーうーうーくーくー」
「母さん……これ何か言っているみたいだ。どうする?」
「人間に捨てられたのだから……エルフの所に連れて行きましょう」
「分かった」
エルフ!!?
エルフがいるの!!?
そして翌日。
森の中を駆ける魔物。木々の景色が開けた先にあったのは村ではない……これはもう町というレベル。
巨大な木の洞や、太い枝の上を利用して住居を構えるファンタジー小説のような様子も見える。同時に木材やレンガを使った西洋風の住居が立ち並んでいるのも見えた。
そして……これがエルフの……エルフ耳。
上部が長く、ピンッと尖った耳。日差しの下で揺れ輝く金髪。道行く男も女も子供も老人も基本的に見た目が美しい。これこそエルフ!!
それに……あっちはエルフじゃなくて人間だよな? あれはトカゲ? リザードマンって奴? いやいやリザードウーマンの可能性も。オーク、あんた絶対オークでしょ!!? と様々な種族が普通に混在している。
その中、柴犬のような小型犬と、赤ちゃんカゴを咥え持った秋田犬のような大型犬が歩いて行く。
そう、この魔物の母子、喋るだけではなく、サイズを小さくする事も出来るのだ!!
そうして連れて行かれた先は一軒の家だった。
椅子の上へ器用に座る獣の母子。ドンッとテーブルの上に置かれる俺。そして俺を挟んでテーブルの反対側に座るエルフの男女。
「マイス、セレスティ、いきなりで悪かったわね」
「いや、アデリナ、久しぶりに訪ねてくれて嬉しいんだが……この子は?」
エルフの男女がマイスとセレスティ、魔物の母親の方がアデリナか。お互い普通に話している所を見ると、魔物が喋るのは珍しい事では無いのかも知れないな。
「人間の子供のようだけど……この髪と瞳は……」
女性のエルフ、セレスティが気になるのも、やっぱり俺の髪と目の色みたいだ。
「大森林の中に捨てられていたのを見付けたの。もうちょっとでヴォルフラムが食べてしまうところだったのよ」
「大森林に……あそこは人間の入る所じゃないし、生きていける所じゃない……」
「見付けたのが私達じゃなかったら命は無かったと思う。多分……最初から死んでも良いと思って捨てたのでしょう」
「そんな……かわいそうに……」
セレスティが俺を抱き上げる。フワッという柔らかい匂いが心地良い。それに、こんな美人のお姉さんに抱っこされるなんて初めての経験!!
ちょっとドキドキしちゃうぜ。
「母さん、でも何で捨てたの?」
魔物の子供の方、ヴォルフラムが言う。
「アリア様に似ているのが原因なのかも知れない。あの不思議な力が原因なのかも知れない……でも本当の事は分からないの」
アデリナは言う。
そこで俺をどうするか?
人間に捨てられた以上、また人の所に戻して良いのか?
かと言って、アデリナが育てるにしては生態が違い過ぎる。
そこで人と近いエルフの知り合いであるマイスとセレスティの下を訪れたのだと言う。
そんな話をしている最中だった。
一人の少女が現れた。4、5歳くらいだろうか。可愛らしい少女。将来は絶対に美人になるはず。
「お母さん? この子は誰?」
少女は俺の顔を覗き込む。
「この子は……」
「もしかして私の妹!!? もしかして弟かな?」
少女は嬉しそうに笑う。
「ユノはずっと妹か弟が欲しかったもんな」
マイスが少女の、ユノを頭を撫でながら言う。そして続けて言う。
「ちゃんと良いお姉ちゃんになれるか?」
「うんっ!!」
マイスとセレスティが顔を見合わせた。そして……
「はい。しっかりね、お姉ちゃん」
セレスティが微笑んで、俺をユノの腕の中に。
「かわいい……はじめまして。私がお姉ちゃんだよ」
そうして、俺はこの家の子へとなるのだった。
★★★
俺の名前について。
み、見られている……俺の裸体が……し、しかも下半身に視線が集中している……
「女の子だな」
とマイス。
「そうね」
とセレスティ。
そして見られた後は……
「お名前は?」
とユノ。
「『げろしゃぶ』か『フーミン』だな……」
エエーッ!?
マイス!! お前、この野郎、何だよ、それ!!?
「だーだーだー」
と俺は拒否の声を上げるが……
「げろしゃぶかな?」
セレスティ!!?
おかしいよね!!? 親子がマイス、セレスティ、ユノ、げろしゃぶって!!?
ぜ、絶対に阻止しないとダメだ!!
「しぃーしぃーしぃー」
「『シ』?」
ユノの言葉に俺は手をバタバタと動かす。
「のぉーのぉー」
「『ノ』?」
バタバタ
「ぶー」
「『ブ』」
バタバタ
「シノブ」
バタバタバタバタ
俺が前世の両親から今唯一受け継いだもの。
『信夫(のぶお)』という名前。ただそれは漢字の読み方を工夫すれば『しのぶ』にもなる。
考えていたわけじゃない。咄嗟にそう思ったのだ。
「本当に不思議な子だ」
「そうね……まるで言葉も全部分かっているみたい」
マイスとセレスティが驚いたように言う。
……これからは少し普通の子供のように振舞わないと……
そうして10年の歳月が過ぎるのだった。
深夜。
突然に抱き上げられ外へ。そして用意されていた馬車に連れ込まれる。
だ、誰だコイツ等? まさか誘拐!!?
……と思ったが、俺を抱いているのは知っている顔のメイドだ。その他にも馬車の中には見た顔がいくつかある。
それからしばらくの時間、馬車に揺られ、行き着いたのは深い森の中だった。
……何だよ、ここは?
緑の木々の匂い。重なる葉の隙間から月明かりが見えた。こっちにも月ってあるんだなぁ、と思った俺の耳にメイドが囁いた。
「……ごめんなさい」
ごめんなさいって、何が……
そして俺はその場に一人、赤ちゃんカゴに入れられたまま放置され、馬車はそのまま遠ざかって行く。
……
…………
………………
捨てられてんじゃん……
……
…………
………………
俺、捨てられてんじゃん!!
山ん中に捨てられてんじゃん!!
捨てるって!!? あるだろ? ほら、もっとあるだろ!!? せめて孤児院的な所とか、あとは養子に出すとか……なのに捨てるって、頭おかしいのかよ!!?
死ぬだろ、これ死んじゃうだろ!!?
泣くか!!? 泣けば誰かが気付いて助けてくれるかも、よし泣くぞ!!
グルルルルルッ
それは獣の低い唸り声だった。
ガサッと草木の揺れる音と共に何かが近付いて来る。
え、嘘、嘘、止めて!!
近付いた何かが上から俺を覗き込んだ。
ギャァァァァァーーーッ!!
犬ゥゥゥゥゥ!!
野犬か狼か、獣が一匹そこにいた。サイズ的には大型犬程もある。
「ねぇ、母さん、ここに人間の赤ちゃんがいる。食べても良い?」
喋りよる!!? この犬っコロ喋りよるぞ!!
それに食べるって俺をか!!?
カプッ
一口。
大きく開かれた獣の口が、俺の頭を一口で咥え込む。鋭い牙が頬に当たる。
嘘だろ……生まれ変わって数日で、もう死ぬのかよ……神様仏様アリア様、何だよ、この運命ってヤツはよ!!?
畜生め。
死ぬために生まれ変わったんじゃねぇぞ!! 死んでたまるかよ!! こんな所で!!
その瞬間、胸の奥に火が灯る。その熱が体中を駆け回り満たしていく。
自分の体が淡く発光しているのが分かった。
咄嗟に振り回す小さな手。それは赤子の小さな手だったが獣を殴り付けた瞬間……
衝撃と共にドグッッッという肉を打つ鈍い音。
「ギャンッ」
獣の体が弾け飛ぶ。
こ、これはアリア様がくれた俺の能力なのか!!?
しかし獣は弾け飛ばされながらも空中で体勢を整え着地する。致命傷にならず、獣は牙を剥きこちらに向き直っていた。
く、来るか!!?
俺にどんな能力があるかは分からないが、このまま黙っておんどれの餌になるつもりは無いからな!!
体を揺さぶり、赤ちゃんカゴから飛び出す。そして全身に力を込めてハイハイの姿勢で対峙。
先手必勝!!
「ばぶわぁ!!」
ハイハイダッシュ、まるで弾丸。
「っ!!?」
獣には紙一重で避けられる。
しかし俺はそのまま後方の大木をハイハイで垂直に駆け上がる。そしてさらに上空へとジャンプ。ジャンプ攻撃でこのまま蹴り倒し……って、ちょっと高くない?
勢いで飛んでみたが、高く飛び過ぎて、獣の姿が木々に遮られて全く見えない。
高い高~いにも程がある!! なんか数百メートルって単位で空に飛んじゃってんだけど!!
そしてそのまま自由落下。
ぎょわわわわわぁぁぁぁぁっ!! 怖いぃぃぃぃぃっ!!
地面が急速に目の前へと迫る。
その時である。
「ヴォル、受け止めなさい!!」
それは女性の声。
その声に反応するように、獣は赤ちゃんカゴを口へと咥えた。
お、俺をそのカゴで受け止めてくれるのか!!? 助かるぜ!!
ドズンッッッッ!!
「ぎゃっ」
赤ちゃんカゴの横をすり抜けて顔面から地面へと激突した。
「……ヴォル……」
「……失敗した」
「……」
「母さん。死んだのか?」
「ぶぅ」
死んどらんわ。生きとるわ。俺は自力で仰向けになる。
この獣、『母さん』とか言いやがったな。母親が一緒なのか……
その母親の姿……じょ、冗談……親とはいえ一回り程度大きいだけだろうと思ったけど……デケェよ!! デカ過ぎるだろ!!
子は大型犬程度、親は象よりさらに大きい……こんな巨大なイヌ科の動物は見た事が無い。アリア様の言葉が思い出される。
『魔物と呼ばれる存在があり』
これが……魔物……
その巨体が近付いて来る。
クッ、怖ぇ……でも……ヤルしかねぇ!!
「……アリア様と同じ、白い髪と紅い瞳」
「女神アリア様?」
「そう。それにさっきの力も不思議だし、全く泣く気配が無いのも不思議……普通の人間の子供ではないのね」
この魔物の母子はアリア様を知ってんのか!!?
すでに全身を包んでいた淡い光は消えている。とにかく普通では無い事をアピールせな!!
「あぶぅ、あぶぅ、あぶぅ!!」
相手の言葉が分かるという事は俺の言葉も伝わるはず……しかしまだ上手く喋る事が出来ない!!
「あーあーうーうーくーくー」
「母さん……これ何か言っているみたいだ。どうする?」
「人間に捨てられたのだから……エルフの所に連れて行きましょう」
「分かった」
エルフ!!?
エルフがいるの!!?
そして翌日。
森の中を駆ける魔物。木々の景色が開けた先にあったのは村ではない……これはもう町というレベル。
巨大な木の洞や、太い枝の上を利用して住居を構えるファンタジー小説のような様子も見える。同時に木材やレンガを使った西洋風の住居が立ち並んでいるのも見えた。
そして……これがエルフの……エルフ耳。
上部が長く、ピンッと尖った耳。日差しの下で揺れ輝く金髪。道行く男も女も子供も老人も基本的に見た目が美しい。これこそエルフ!!
それに……あっちはエルフじゃなくて人間だよな? あれはトカゲ? リザードマンって奴? いやいやリザードウーマンの可能性も。オーク、あんた絶対オークでしょ!!? と様々な種族が普通に混在している。
その中、柴犬のような小型犬と、赤ちゃんカゴを咥え持った秋田犬のような大型犬が歩いて行く。
そう、この魔物の母子、喋るだけではなく、サイズを小さくする事も出来るのだ!!
そうして連れて行かれた先は一軒の家だった。
椅子の上へ器用に座る獣の母子。ドンッとテーブルの上に置かれる俺。そして俺を挟んでテーブルの反対側に座るエルフの男女。
「マイス、セレスティ、いきなりで悪かったわね」
「いや、アデリナ、久しぶりに訪ねてくれて嬉しいんだが……この子は?」
エルフの男女がマイスとセレスティ、魔物の母親の方がアデリナか。お互い普通に話している所を見ると、魔物が喋るのは珍しい事では無いのかも知れないな。
「人間の子供のようだけど……この髪と瞳は……」
女性のエルフ、セレスティが気になるのも、やっぱり俺の髪と目の色みたいだ。
「大森林の中に捨てられていたのを見付けたの。もうちょっとでヴォルフラムが食べてしまうところだったのよ」
「大森林に……あそこは人間の入る所じゃないし、生きていける所じゃない……」
「見付けたのが私達じゃなかったら命は無かったと思う。多分……最初から死んでも良いと思って捨てたのでしょう」
「そんな……かわいそうに……」
セレスティが俺を抱き上げる。フワッという柔らかい匂いが心地良い。それに、こんな美人のお姉さんに抱っこされるなんて初めての経験!!
ちょっとドキドキしちゃうぜ。
「母さん、でも何で捨てたの?」
魔物の子供の方、ヴォルフラムが言う。
「アリア様に似ているのが原因なのかも知れない。あの不思議な力が原因なのかも知れない……でも本当の事は分からないの」
アデリナは言う。
そこで俺をどうするか?
人間に捨てられた以上、また人の所に戻して良いのか?
かと言って、アデリナが育てるにしては生態が違い過ぎる。
そこで人と近いエルフの知り合いであるマイスとセレスティの下を訪れたのだと言う。
そんな話をしている最中だった。
一人の少女が現れた。4、5歳くらいだろうか。可愛らしい少女。将来は絶対に美人になるはず。
「お母さん? この子は誰?」
少女は俺の顔を覗き込む。
「この子は……」
「もしかして私の妹!!? もしかして弟かな?」
少女は嬉しそうに笑う。
「ユノはずっと妹か弟が欲しかったもんな」
マイスが少女の、ユノを頭を撫でながら言う。そして続けて言う。
「ちゃんと良いお姉ちゃんになれるか?」
「うんっ!!」
マイスとセレスティが顔を見合わせた。そして……
「はい。しっかりね、お姉ちゃん」
セレスティが微笑んで、俺をユノの腕の中に。
「かわいい……はじめまして。私がお姉ちゃんだよ」
そうして、俺はこの家の子へとなるのだった。
★★★
俺の名前について。
み、見られている……俺の裸体が……し、しかも下半身に視線が集中している……
「女の子だな」
とマイス。
「そうね」
とセレスティ。
そして見られた後は……
「お名前は?」
とユノ。
「『げろしゃぶ』か『フーミン』だな……」
エエーッ!?
マイス!! お前、この野郎、何だよ、それ!!?
「だーだーだー」
と俺は拒否の声を上げるが……
「げろしゃぶかな?」
セレスティ!!?
おかしいよね!!? 親子がマイス、セレスティ、ユノ、げろしゃぶって!!?
ぜ、絶対に阻止しないとダメだ!!
「しぃーしぃーしぃー」
「『シ』?」
ユノの言葉に俺は手をバタバタと動かす。
「のぉーのぉー」
「『ノ』?」
バタバタ
「ぶー」
「『ブ』」
バタバタ
「シノブ」
バタバタバタバタ
俺が前世の両親から今唯一受け継いだもの。
『信夫(のぶお)』という名前。ただそれは漢字の読み方を工夫すれば『しのぶ』にもなる。
考えていたわけじゃない。咄嗟にそう思ったのだ。
「本当に不思議な子だ」
「そうね……まるで言葉も全部分かっているみたい」
マイスとセレスティが驚いたように言う。
……これからは少し普通の子供のように振舞わないと……
そうして10年の歳月が過ぎるのだった。
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