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第一章 転生、そして新たな人生の幕開け
1話 「気付いたら、生まれ変わってました」
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「おめでとうございます。元気な男の子ですよ」
そう言いながら、清潔な布に包まれた何かを抱えた女性が微笑んだ。
そう言われた相手もまた女性で、額には汗を浮かべており、つい先ほどまで出産の痛みに耐えていたことが窺える。
「よく頑張ったな」
「あなた……」
夫であろう男性が、彼女の手を力一杯両手で握りしめ、出産という大仕事を終えた彼女を労う。
そして、ベッドに横たわる女性の隣に寄り添わせるよう、清潔な布に包まれた何かが置かれた。
その布の中身は玉のような赤ん坊であり、今しがた女性が産んだ新しい命であった。
「あなた、この子は私たちにとって大事な大事な宝です。大切に育てていきましょうね」
「ああ、そうだな、大切に育てていこう」
そんな決意をする二人であったが、生まれてきた赤ん坊はこの時想像もしなかっただろう。
この二人の異常なまでの自分に対する執着ぶりに……。
~~~~~~~
ども、まずは自己紹介と洒落込もう。
俺の名前は小野寺 乱楽(おのでら らんがく)。今年で三十三歳になるうだつの上がらないサラリーマンだ。
ブラックとはいかないまでも、そこそこ勤務状況の厳しい会社に勤めて早十二年になろうかというベテラン会社員ってやつだ。
ベテランといっても、係長だの課長だのといった責任ある役職をもらっているわけでもなければ、会社の命運を分けるような一大プロジェクトを任されているわけでもないただの平社員だ。
尤も、それは俺が自ら望んだ待遇なので、それについて会社に不満は一切なく、今まで波風一つ立てずにやってこれたわけだ。
さて、俺の身の上を語ったところで、ここから本題に入ろう。
そんな面白みもない人生を歩んできた俺だが、現在進行形であり得ない事態が発生している。
俺は今日も会社を勤め上げ、家に帰って明日に備え眠りに就いたはずだったんだが、これは一体どういう状況なんだ?
「べろべろばー、べろべろばー」
現在俺は西洋風の顔立ちをした二十代と思しき男に“べろべろばー”をやられている。
それに対して思う所はあるものの、なぜか言葉を発することができずにいた。
「ウォルトは、今日もご機嫌でちゅねぇ~」
「……」
明らかに風貌と似合っていない猫なで声で、目の前の男が俺に向かって語り掛けてくる。
栗色の短めの髪に紫がかった瞳を持つイケメンだが、精悍な顔つきと筋肉質な体つきは、一端の戦士を彷彿とさせる。
男はまるで赤ん坊を相手にしているかのような態度であったが、俺は三十三歳なのでそれは絶対にあり得ない。
そんなイケメンの猫なで声を聞き流しながら、俺は部屋の周囲を見回す。
作りとしては、ヨーロッパにあるような雰囲気の部屋だったが、シンプルな造りの家具のみで調度品などは一切ない。
どうやらこの世界における基本的な平民の家のようだが、実際どうなのかといえばわからないというのが正直な答えだ。
そんなことを考えていると、男の肩越しから美女がひょっこりと顔を出す。
金髪の美しい艶やかな髪を靡かせながら、碧眼である両の目をこちらに向けてくる。
絶世といっても過言ではないほど整った顔立ちに、仕立てのいいドレスのような服に包まれた神秘的な体。そして、女性としての自己をこれでもかと主張するように服を押し上げる二つの双丘は、男であれば誰もがそこに視線を向けてしまうほどに大きい。
「ウォルトちゃん、今日も男前だわぁ~、将来はママと結婚しましょ!」
……いやいや、いきなり現れて結婚とかなに言っちゃってんのこの人!?
そんなツッコミを言葉にしようとするも、なぜか言葉が出せない。そして、言葉の代わりに出たものといえば。
「あぅー」
まるで赤ん坊が喋るような高い声だった。
その声を聞いた瞬間、女性の顔がらんらんと輝き出したと思ったらこう口にした。
「見てあなた、ウォルトちゃんも私と結婚したいって言ってるわ!」
「おお、息子よ……いくらママが美人だからってママとは結婚できないんだぞ」
……そんなことわかってますがな。ってかこれはやはり、そういうことなのだろうな。
目の前には知らない部屋、見知らぬ美男美女の二人、言葉を出すことができず発した声は赤ん坊の声……。
(どうやら、生まれ変わっちまったようだな、こりゃ)
異世界転生。ゲームや小説なんかでよくあるシチュエーションだが、実際にこの身で経験することになるとは思ってなかったぜ……。
(いやいや待て待て、これが現実だと受け入れるのは時期尚早だ。まだ夢だという可能性もワンチャンある)
俺は一度冷静になって考えてみた。
今自分が置かれている状況が果たして現実のものなのか、それとも俺が見ているただの夢なのかということだ。
夢であれば、かなり疲れが溜っているんだなと苦笑いを浮かべるだけで事足りるのだが、そうならないかもしれないという悪い予感を感じ始めていた。
今も目を閉じて夢から醒めるように頑張っているのだが、どうやら俺の努力も空しく、状況は一向に好転しない。
「おい、見てみろマリアンナ。ウォルトのやつ、目を閉じたり開けたりしてるぞ」
「あらホント、とっても可愛いわぁ~」
……さいですか、そりゃよござんしたねぇ。
どうやらこの夢(?)では、この二人が俺の両親という設定らしいな。
二人とも美男美女だから、その息子である俺は将来イケメンが約束されてるみたいだな。ふむ、悪くない(キリッ)。
というどうでもいいことを頭の中で巡らせつつも、夢から醒めようといろいろやってみたが、まったく目が覚めなかった。
(……まさかの現実かよ。てか何の説明もなく赤ん坊とか、放置プレイにも程があんだろっ! 取説よこせ取説)
普段よくこの手の話をweb小説や書籍などで愛読している俺としては、なんとなくは理解しているものの、やはりこういうのは誰か事情を知っているやつに説明して欲しいという願望が出てしまうものだ。
『ということで、説明に来ましたぁ~』
「……」
……どうやら、この状況を説明してくれるやつが来たみたいだ。
そう言いながら、清潔な布に包まれた何かを抱えた女性が微笑んだ。
そう言われた相手もまた女性で、額には汗を浮かべており、つい先ほどまで出産の痛みに耐えていたことが窺える。
「よく頑張ったな」
「あなた……」
夫であろう男性が、彼女の手を力一杯両手で握りしめ、出産という大仕事を終えた彼女を労う。
そして、ベッドに横たわる女性の隣に寄り添わせるよう、清潔な布に包まれた何かが置かれた。
その布の中身は玉のような赤ん坊であり、今しがた女性が産んだ新しい命であった。
「あなた、この子は私たちにとって大事な大事な宝です。大切に育てていきましょうね」
「ああ、そうだな、大切に育てていこう」
そんな決意をする二人であったが、生まれてきた赤ん坊はこの時想像もしなかっただろう。
この二人の異常なまでの自分に対する執着ぶりに……。
~~~~~~~
ども、まずは自己紹介と洒落込もう。
俺の名前は小野寺 乱楽(おのでら らんがく)。今年で三十三歳になるうだつの上がらないサラリーマンだ。
ブラックとはいかないまでも、そこそこ勤務状況の厳しい会社に勤めて早十二年になろうかというベテラン会社員ってやつだ。
ベテランといっても、係長だの課長だのといった責任ある役職をもらっているわけでもなければ、会社の命運を分けるような一大プロジェクトを任されているわけでもないただの平社員だ。
尤も、それは俺が自ら望んだ待遇なので、それについて会社に不満は一切なく、今まで波風一つ立てずにやってこれたわけだ。
さて、俺の身の上を語ったところで、ここから本題に入ろう。
そんな面白みもない人生を歩んできた俺だが、現在進行形であり得ない事態が発生している。
俺は今日も会社を勤め上げ、家に帰って明日に備え眠りに就いたはずだったんだが、これは一体どういう状況なんだ?
「べろべろばー、べろべろばー」
現在俺は西洋風の顔立ちをした二十代と思しき男に“べろべろばー”をやられている。
それに対して思う所はあるものの、なぜか言葉を発することができずにいた。
「ウォルトは、今日もご機嫌でちゅねぇ~」
「……」
明らかに風貌と似合っていない猫なで声で、目の前の男が俺に向かって語り掛けてくる。
栗色の短めの髪に紫がかった瞳を持つイケメンだが、精悍な顔つきと筋肉質な体つきは、一端の戦士を彷彿とさせる。
男はまるで赤ん坊を相手にしているかのような態度であったが、俺は三十三歳なのでそれは絶対にあり得ない。
そんなイケメンの猫なで声を聞き流しながら、俺は部屋の周囲を見回す。
作りとしては、ヨーロッパにあるような雰囲気の部屋だったが、シンプルな造りの家具のみで調度品などは一切ない。
どうやらこの世界における基本的な平民の家のようだが、実際どうなのかといえばわからないというのが正直な答えだ。
そんなことを考えていると、男の肩越しから美女がひょっこりと顔を出す。
金髪の美しい艶やかな髪を靡かせながら、碧眼である両の目をこちらに向けてくる。
絶世といっても過言ではないほど整った顔立ちに、仕立てのいいドレスのような服に包まれた神秘的な体。そして、女性としての自己をこれでもかと主張するように服を押し上げる二つの双丘は、男であれば誰もがそこに視線を向けてしまうほどに大きい。
「ウォルトちゃん、今日も男前だわぁ~、将来はママと結婚しましょ!」
……いやいや、いきなり現れて結婚とかなに言っちゃってんのこの人!?
そんなツッコミを言葉にしようとするも、なぜか言葉が出せない。そして、言葉の代わりに出たものといえば。
「あぅー」
まるで赤ん坊が喋るような高い声だった。
その声を聞いた瞬間、女性の顔がらんらんと輝き出したと思ったらこう口にした。
「見てあなた、ウォルトちゃんも私と結婚したいって言ってるわ!」
「おお、息子よ……いくらママが美人だからってママとは結婚できないんだぞ」
……そんなことわかってますがな。ってかこれはやはり、そういうことなのだろうな。
目の前には知らない部屋、見知らぬ美男美女の二人、言葉を出すことができず発した声は赤ん坊の声……。
(どうやら、生まれ変わっちまったようだな、こりゃ)
異世界転生。ゲームや小説なんかでよくあるシチュエーションだが、実際にこの身で経験することになるとは思ってなかったぜ……。
(いやいや待て待て、これが現実だと受け入れるのは時期尚早だ。まだ夢だという可能性もワンチャンある)
俺は一度冷静になって考えてみた。
今自分が置かれている状況が果たして現実のものなのか、それとも俺が見ているただの夢なのかということだ。
夢であれば、かなり疲れが溜っているんだなと苦笑いを浮かべるだけで事足りるのだが、そうならないかもしれないという悪い予感を感じ始めていた。
今も目を閉じて夢から醒めるように頑張っているのだが、どうやら俺の努力も空しく、状況は一向に好転しない。
「おい、見てみろマリアンナ。ウォルトのやつ、目を閉じたり開けたりしてるぞ」
「あらホント、とっても可愛いわぁ~」
……さいですか、そりゃよござんしたねぇ。
どうやらこの夢(?)では、この二人が俺の両親という設定らしいな。
二人とも美男美女だから、その息子である俺は将来イケメンが約束されてるみたいだな。ふむ、悪くない(キリッ)。
というどうでもいいことを頭の中で巡らせつつも、夢から醒めようといろいろやってみたが、まったく目が覚めなかった。
(……まさかの現実かよ。てか何の説明もなく赤ん坊とか、放置プレイにも程があんだろっ! 取説よこせ取説)
普段よくこの手の話をweb小説や書籍などで愛読している俺としては、なんとなくは理解しているものの、やはりこういうのは誰か事情を知っているやつに説明して欲しいという願望が出てしまうものだ。
『ということで、説明に来ましたぁ~』
「……」
……どうやら、この状況を説明してくれるやつが来たみたいだ。
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