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第四章 第二の街【ツヴァイトオルト】
17話「露店で食材調達をしていたら、再び出会ってしまった」
しおりを挟む自称AFOのマスコット的存在(笑)なピエロ少女ことミュールと初対面を果たした後、新たな拠点となる街を散策するため宿の外へと繰り出した。特にこれといった目的はなかったが、それでも自分の知らない新しい場所の散策というものは楽しいもので、人の往来や街並みを見るだけでもとても充実した気分になってくるものだ。
そのまま街の散策をしながら、露店を見て回り情報を収集していく。その成果としていくつか手に入れた情報がある。この街の名は【ツヴァイトオルト】という街で、エアストテールから南部の場所に位置している第二の拠点だ。街の形は、ホールケーキを左右に四分割したエアストテールと同じで四つに区分けされているのだが、それがホールケーキ状ではなく正方形の形だということだ。
これといった特徴はなく、石畳でできた大通りとレンガの家が軒を連ねる街並みをしている。だが、街にいるNPCやプレイヤーの数は前の街と比べものにならないほど多く、メインストリートは人の往来で少なからずごった返していた。まあ、最初の草原のおしくらまんじゅう状態と比べれば大したことはないが……。
そんな様子を眺めながら、地図上の右上の区画である商業区へと歩を進める。前の街と同様に主な区画は、商業区・工業区・公共区・宿場区となっているので、余程のことがない限り迷わないのが有難かった。
「さて、どんなものが売られているんだ」
しばらくマイペースに歩いているうちに商業区へと入ったのか、露店が並んでいる区域へとやってきた。どうやら商業区の入り口周辺は、露店メインの場所となっているらしい。そして、奥に行けば行くほどしっかりとした造りの店舗が建ち並んでいる区画になってくる。
「うーん、野菜とかも種類が豊富で他にもいろんな食材が売ってるな」
店には様々な種類の野菜や果物、肉などといった現実世界のスーパーでもよく見かける食材が売られていた。さすがに鮮度が命の魚介類までは売られていないが、それでもかなりのものだ。一通り目についた食材を買い込み、収納領域にぶち込んでいく。料理スキルを取得している身としては、有難いことこの上ない。ちなみに、俺は一人暮らしということもあって自炊はある程度できる。プロの料理人とまではいかないが、それこそ、主夫としてはそこそこの腕前であると自負している。まあ、あくまでも素人レベルだがな……。
大量に食材を買い込んでいく俺を上客と見たのか、行く先々で店員にいろんな食材を勧められる。そのお陰で、少しばかり店の店員と仲良くなった。
NPCとの取引は、メニュー画面などのウインドウ上またはNPC本人と直接のやり取りで行われる。ウインドウの取引の場合、店の取り扱っている商品の一覧と一個あたりの値段がウインドウに表示され、買い手は欲しい個数を指定して購入するという形だ。
その後、食材を手に入れた俺は今度は主に調理で使う加工済みの食材が並んでいるエリアへとやって来た。
「おっ、小麦粉じゃん」
そこで売られていたのは、真っ白な粉だった。といっても、持っているだけで犯罪になる“例の粉”とは違って、こちらは100%健全な白き粉なのだが……。店先でしげしげと見ていたのを客と判断したのか、店の店員が声を掛けてきた。
「らっしゃい、小麦粉が欲しいのかい? いくら必要だ」
「そうですね。とりあえず10000ゴル分いただけますか」
「えっ!? お客さん、あんた商人か何かなのかかい?」
「……? いいえ、ただの冒険者ですが、それが何か?」
話がどうも噛み合っていないので問いかけてみたところ、10000ゴル分ほどの小麦粉ともなればその量は100㎏に相当するらしく、それだけの量を取り扱うとなれば小売業の商人か大きな食事処を営む料理人だけという答えが返ってきた。だから、俺が商人ではなくただの冒険者だということに衝撃を与えたらしい。
そんなわけで、100㎏という大量購入には驚かれたものの、無事に小麦粉をゲットすることができた。それだけ買ってお金は足りるのかという疑問が浮かぶかもしれないが、最初に手に入れた野菜や果物類は一つ一つの単価が安く、総額は20000ゴル程度に収まっている。今回の小麦粉の分と合わせても、総額は30000ゴルなので大丈夫だ。……何が大丈夫なのかは、俺もよくわからんが。
これも「ステーキクレクレ」のプレイヤーたちの援助の賜物で、所持金が100000ゴルを超えていたのが理由としては大きい。といっても、普通のプレイヤーが掛ける食材の金額としては普通ではないということは付け加えておくが……。
「へい、毎度あり!」
「こちらこそ、いい買い物でした。ところで……米ってあります?」
「……あるよ」
小麦粉も大量ゲットしたところで、次に目指すは日本人のソウルフードであるライス、米である。この店で小麦粉を扱っていたので米もあるかもしれないと問い質したところ、店員が意味ありげな雰囲気を醸し出しながらしたり顔で返答してきた。……なんでそんな得意気なんだ?
「こんだけたくさん小麦粉を買ってくれたんだ。お客さんに特別にお売りいたしやしょう!」
「それは助かります」
店員がそう言うと、ウインドウに新たに【米】という商品が追加されていた。
【米1㎏】 300ゴル ※最大購入は一人30㎏まで
という感じで表示されていたので、俺は迷わず最大の30㎏を選択して購入を完了させる。これで食材で使った総額が40000近くになってしまったが、俺としてはいい買い物だったと思っているので悔いはない。
後日談だが、どうやらこの店員はある一定数店の商品を購入しないと、米を売ってくれないという情報が掲示板で書き込まれていた。その情報を得る前に、米を手に入れることができてラッキーだったと、俺は心の中で小さくガッツポーズを取った。
それから、調理器具を売っている店で皿や鍋、フライパン等々必要なものを購入していき、俺の露店散策は終了することとなった。調味料も、最低限のものが手に入ったので今の俺の顔を見たらほくほく顔になっていることだろう。もし俺が女だったらもっと時間が掛かっていただろうが、幸いなことに俺は男なので時間的にも1時間程度で済んだ。
最初に露店で見かけた女性プレイヤーが、1時間後同じ店でまだ買い物をしていたのを見た時の俺が思った感想がそれだ。女の人ってなんであんなに買い物に時間が掛かるのだろうか……。
閑話休題。話を元に戻すとしよう。
今日は平日なのでログインできる時間はあと二時間ほどしかない。そのためここからは、少し早足で行動することにしたのだが……。
「おっと」
「ぶひゃっ」
あまりに急いでいたため、前からやってきていたプレイヤーに気付かずぶつかってしまい、その人を抱きとめる形になってしまった。そして、俺にとって悪い知らせと良い知らせが一つずつある。まず悪い知らせは、ぶつかった相手が女の子だということだ。仮にこの一件でGMに対してハラスメント行為として報告されれば、俺は何かしらのペナルティが課せられることになるだろう。最悪アカウントが削除され、二度とログインできなくなる可能性もある。
良い知らせは、ぶつかった相手が俺の顔見知りだったということだ。前回の出会いの印象から考えれば、それほど悪い印象は持たれていないはずなので、こちらが謝罪すれば恐らく大丈夫な……はずだ。
「いてててて、ってあれ? 君はあのときのステーキの人!」
「……その呼ばれ方はあまり嬉しくありませんね。それはともかく、大丈夫ですか?」
そこにいたのは、エアストテールの宿屋で初めてスフェリカルラビットのステーキを作った時にいたローザという女の子のプレイヤーだった。ぶつかった時、俺の胸に顔から飛び込んできたため鼻が少し赤くなっているが、それでもしっかりと受け止めたつもりなので大事にはなっていないはずだ。
「急にぶつかって、申し訳ありませんでした。少し急いでいたもので」
「ううん、あたしも前見ていなかったからおあいこだよ」
よかった、どうやら申請報告でペナルティは回避できたようだ。それにしても、相変わらずこの娘のおっぱ――胸部は凄まじいほどに服を押し上げている。背が低いにも関わらず、その身の丈に合っていないそれは、まるで別の生き物のように感じてしまう。
「……相変わらず、デカいな。ホントにFかよ?(ボソッ)」
「Fだよっ。あ、でもブラはワンサイズ上のGを着けてるかな?」
「……そんなことは一言も聞いてないです。てか、また口に出てしまっていたか」
またしても、心の声を吐露してしまっていたことを反省していると、ローザが問いかけてきた。
「それよりも、君は何をしていたの?」
「え、あ、ああ。街の散策がてら食材の調達ですよ」
「……むぅ、というか気になってたんだけど、いつまであたしに対して敬語なのかな?」
「……親しき中にも礼儀あり――」
「そんなことは気にしないから、敬語はもうやめてくれないかな。他人行儀なの、嫌いだし」
まあ、こちらとしては社会人として最低限のマナーと思って使っていただけなので、やめていいというのならやめることはできるが、一つ疑問に思ったことがある。どうしてこのAFOのプレイヤーたちは、敬語を嫌うのだろうか?
「そういうことなら、これからは敬語なしでいかせてもらう」
「うんうん、それでよろしい。で、これから君の予定はどんな感じなのかな?」
食材が手に入ったので、それを使って新しい料理を作るために調理できる場所を探すと伝えたところ、「あたしも食べた――付いて行きたい」などと言ってきたので同行を許可した。……まったく、女の子なんだからその涎を何とかしなさい。
しばらく、俺とローザの二人で調理できる場所を探したが一向に見つからない。三十分以上歩き続けたが、結局調理場を見つけることができずにいた。調理場を探している最中、ローザがひもじそうな顔をしていたので、仕方なく収納領域に貯め込んでいたスフェリカルラビットのステーキをローザに与えたところガツガツと食べ始めた。幼い見た目の少女が、ステーキを両手にガツガツと頬張る姿はなんとも言えない状況だなと思い、彼女がステーキを食べる姿を見て苦笑いを浮かべる。
「うん、なに? どうかした?」
「いや、なんでもない。ステーキ、美味いか?」
「うんっ」
……さいですか、そりゃよかったですね。
そんなやり取りを彼女としながら、調理場を探し続ける事さらに十五分が経過しようとした頃、とある寂れた建物が目に入ってきた。
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