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第2章 「目指せ、ドライゴン帝国!」
132話:「大和、行方不明になる」
しおりを挟むリナたちが水汲みから戻ると、大音量で大和の声を叫ぶ三人の姿があった。
「どうしたのだ?」
「何かあったのですか?」
二人の姿を認めた三人が慌てた様子で駆け寄ってきた。
そして、狼狽した表情を浮かべながらも現状を伝えるためマーリンが口を開く。
「やっヤマトさんがいなくなったですのん! 今手分けして探しているのですが
何処に行ったか分からないですのん!!」
「・・・・・・」
「やっヤマトさまぁ~」
マーリンが現状の報告をマチルダは黙して語らなかったがその表情から
冷静ではないことが窺える。
そして三人の中で最も狼狽していたのがエルノアだっだ。
目に涙を浮かべ、いなくなった大和の名前を発し続けている。
今起こった内容を聞いた二人の行動は実に迅速なものだった。
「フレイヤ!」
「うむ」
その短い一言でお互いの意思を疎通できたことに不思議と疑問は生まれなかった。
フレイヤは人間の姿から元のドラゴンの姿に戻る。
赤い深紅の鱗を体に纏わせた数十メートルの巨大な体躯をしならせると翼を大きく羽ばたかせる。
そして、その背中にひょいっとリナが乗るのを確認したと同時にその巨体は空へと飛び立ってゆく。
フレイヤの羽ばたきによって起こった風圧は凄まじく、馬がひひーんという怯えた嘶きを放ち
三人が頑丈に設置したテントは木の葉が風に飛ばされるように呆気なく吹き飛んでいった。
瞬く間に小さくなっていくフレイヤたちを呆然と見届けた後、残った三人は地上から大和を捜索すべく
それぞれ違う方向へと散っていった。
この時より【ヤマト様大捜索作戦】が発動されたのである。
そして、俺はというと少し迷っていた。 迷うというのは別に遭難しているわけではない。
上空には赤い巨大な塊が制空権を完全に支配しており、迷いの森周辺を飛んでいた飛行型の生物は
まるで蜘蛛の子を散らすようにいなくなってしまっている。
加えて拡声器を使ったかのように大音量のフレイヤの声が森全体に響き渡る。
心なしかその轟音で大地が揺れていると錯覚するほどだ。
その影響によるものなのだろう、森に潜んでいた小動物たちがわき目も振らずに逃げていく光景が広がる。
俺はこの状況に頭を抱えてした。
ひどい頭痛に苛まれているかのように頭に置いた手をくしゃくしゃとする。
髪型が少々崩れてしまったがそんな細かいことを気にしている場合ではなかった。
今のこの現状を打破しなければならないというとてつもなく面倒臭さに顔を顰める。
「ちっ、あいつらめ」
自分でも信じられないくらいの怒気を含んだ声色に一瞬戸惑ったが
それだけ憤慨しているのだと自分を納得させて、思案に移った。
結論から言えばこの状況を収束させることは実に簡単だ。
現在問題となっているのはフレイヤが元のドラゴンの姿で俺を探していることが迷いの森周辺に
被害をもたらしているため彼女の所へ赴けば事態は終息するだろう。
だがそれはあくまでも“今回”はという言葉が裏に隠れている。
今後このような事態が起こることを防ぐため彼女たちは今以上に俺にべったりな状態になるだろう。
彼女たちのような見目麗しい女性と一緒にいられるのは男冥利に尽きることなのだろうが
今の俺からすれば御免被りたい。
決して彼女たちのことが嫌いなわけではないが、かと言って大好きというわけでもないのだ。
だからこそ次回の事も考えた方法を取らなければならない。
こうしている間にもフレイヤの猛威がこの森全体を揺るがす大問題と発展しつつある中
フレイヤたちが今後俺に付いて回らないような方法、そんな方法があるのだろうか・・・・・・。
断言しよう、そんな方法は“ない”!!
今もこうして俺を探すというただそれだけの事のために森の生態系を揺るがし兼ねない軽率な行動を取っているのだ。
例え俺が何を言ったところで俺から離れることはないだろう。
ではどうすべきか?
俺は限られた時間の中でありとあらゆる案をシュミュレートした結果一つの可能性に至る。
面倒ではあるが順を追って説明しよう。
まず最初になぜフレイヤは元のドラゴンの姿で俺を探しているのか?
答えは単純明快、俺が行方不明となったからだ。
これについては俺が頭の中でシュミュレート中に発覚した俺のミスが原因だ。
俺は一人になりたいというささやかな、そう本当にささやかな願いのためこの森を探索することにした。
その際に俺は誰にも森を探索するということを告げていなかった。
理由としては告げれば必ず「私もご一緒していいですか?」という答えが返ってくるとわかっていたからだ。
だからこそ俺は誰にも告げずに森に入った。
10分、15分程度ならば問題ないだろうという浅い考えで行動した結果が今のこの状況を作り上げている。
このような考えを巡らせている今ですら天を破るような大轟音という表現が適切なフレイヤの俺の名を呼ぶ雄たけびが聞こえている。
だからこそフレイヤの元に行くという選択肢は最初からない。
理由としてはこの状況でフレイヤの元に行けば、自分が行方不明だったと自分自身で認める行為と同じになってしまうからだ。
では彼女たちに今まで通りに振舞ってもらう唯一の可能性はこれしかない。
「全く、俺がいなくなったくらいでここまで大袈裟に騒ぐことかよ・・・・・・」
俺は幸せが逃げるほどの大きなため息をつくと、地面を蹴って行動を開始した。
まるでF1のようにブーオオオンという効果音を出すかのように背景を置き去りにしていく。
レベルがカンスト状態ともなれば、走るスピードも並みではない。
そして、元の拠点地に戻ってくると簡単な照明の魔法を上空に打ち放つ。
それを瞬時に視認したのだろう、1秒も経っていない僅かな時間でドラゴン姿のフレイヤが現れる。
「主、そこに居られたのか! 心配しましたぞ!!」
「いいからとっとと人間の姿に戻れ!!」
その言葉を受け取るとフレイヤは即座に人間の姿に戻る。
その後、腕を組むと俺はわざと傲岸不遜な態度を取って彼女をその場に正座させる。
「何をやっとるんだお前は?」
「あっ主が行方不明になったという知らせを受けいても経ってもいられず――――――」
「バカヤロウ!!」
「ひぃー」
「俺は何処にも行っとらん、最初からここに居ったわ!!」
もう分かったと思うが俺が取った選択肢、それは最初から何処にも行っていないというものだ。
つまりはフレイヤの勝手な早とちりだということを彼女本人に理解させることだ。
こうすることで何処にも行っていなかったというこの騒ぎに対する責任から逃れられると同時に
フレイヤの軽率な行動を叱責することで、俺自身に迷惑をかけたという罪悪感を彼女に植え付けることができる。
ここまで行動を共にしてきた彼女の人となりから自尊心がとても高いことが窺える。
その彼女が自分の身勝手な行動から主人である俺に迷惑をかけてしまったという行為は例え俺が許しても
自分自身許されざる大罪として認識するはずだ。
そして、今後このようなことがないようにと自身を自重するのではないだろうかという考えに至ったのだ。
どうだ? あの短い時間で思いついてにしては我ながらいい考えだと思うんだが・・・・・・。
そう考えていたときフレイヤを怒鳴りつけたことを思い出し、さっきの考えを行動に移す。
「お前が勘違いしたことでこの森にどれだけ迷惑をかけたのかわかってるのか!!」
「も、申し訳ございません・・・・・・」
自分が取った行動がどれだけ軽率なものだったことを改めて理解すると途端にしゅんとなる。
いや、元の元凶は俺だけどそこは敢えてスルーしてくれると助かる、ってかスルーしてください!!
そんなこんなでフレイヤに説教をしている間に俺を探しに行っていた者も戻ってきて事件は一件落着する。
リナが戻ってくるなりフレイヤに「落っことさないでくださいよ!!」と言っていたがなんのことだろうかと思ったが
どうせロクでもないことと意識を他のことに向けた。
他の仲間も俺が無事だという事を知ると安堵の表情を浮かべたがそのときマーリンが――――――。
「おかしいですのん、確かにヤマトさんはこの場にいなかったっ、ふぐっ!!」
「おーそうかそうか、マーリンも俺が無事でそんなに嬉しいか~」
余計な一言を言おうとしたマーリンを胸の中で抱きしめると口を胸に押し付けて黙らせる。
他の4人の羨ましそうな視線を浴びながらしばらくして顔を離すとそこにはリンゴのように真っ赤になった顔があった。
とにもかくにも俺は自分の行動によって引き起こされた騒動を自分が原因で起こったことだと悟られずになんとか解決することに成功した。
余談だが、その後フレイヤは俺の予想と反して自重することはなかった。
それどころかなぜかリナとタッグを組んで俺のそばを離れようとしなくなってしまった。
「二人一緒にヤマト様を誘えばよかったんですよ」というわけのわからないことを口にして。
この騒動でますます俺は“一人になりたい願望”が強くなってしまうのだった。
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