2 / 15
第一章
2話
しおりを挟む「えっ? 【運送】……ですか?」
カリファーさんから今後の活動についての打診があった時に彼女の口から出た単語だった。
当然その言葉だけでカリファーさんの意図を理解することなどできるわけがないので、訝しげな表情を浮かべてしまう。
「はい、ルークさんはギルドの重要な手紙や荷物が、どのようにして運ばれているか分かりますでしょうか?」
そのような質問が飛んできたので、しばらく考えた後思いついたことを答える。
「町から町へ商いをしている行商人に届けてもらっているのではないでしょうか?」
この世界には国と国が交易を行う際に中規模から大規模の隊商が組まれ、荷物と商人たちを護衛するために冒険者や傭兵などが雇われることがある。
だが各都市に設営されたギルド同士でそれを行う場合、商人と護衛のそれぞれに報酬を支払わなければならないため、余計にお金がかかってしまう。
加えて、ギルド間での取引は国同士の交易と比べると、かなり小規模になってしまうためギルド専属の運送をやってくれる商人はほとんどいない。
理由は至って単純で、他の商品を取り扱った方が儲けがいいからだ。
「正解です。ですが商人側としては、自分の商いを優先しますので、当然馬車の走る速度は荷物を傷つけないようゆっくりと走ります。ところが、ギルド側としては一刻も早く情報を他のギルドと共有させたいので、できるだけ早く重要書類や荷物を届けたいのです」
例えば、ある森で災害レベルの高い魔物が発生した場合、各ギルドと連携して冒険者をそれぞれ派遣し、早期解決に尽力する。
だが書類や荷物の運送が現状行商人頼みになっているため、なかなか他のギルドに情報が行き渡らない場合がままあるらしい。
行商人によっては街に到着したにもかかわらず、自分の商いを優先したためギルドの書類の提出が遅れてしまったことで、村一つが魔物の手によって壊滅したなどという事例もあったとカリファーさんは顔を顰めながら教えてくれた。
「ですから、ギルドの重要な手紙や荷物だけを運ぶことを目的とした専門の運送業者を探しているのですが、なかなかそんなことを請け負ってくれる行商人もおらず、困り果てていたところに――」
「ちょうどパーティーを追い出された僕が現れたと?」
僕はカリファーさんが全てを言い終わる前に結論を述べた。
どうやら正解だったようで、肩を竦めながら苦笑いを浮かべる。
「ルークさんが荷物の運搬に特化している冒険者だという事はこちらも知っておりますし、できればお願いしたいのですが……」
こちらとしてもいきなりモンスター討伐などの冒険者らしいクエストをこなすつもりもなかった。
最初は薬草採集や僕でも回収が可能なモンスターの素材集めを中心としたクエストからやっていくつもりだったので、カリファーさんの提案はこちらとしても有難かった。
「こっちも最初は簡単なクエストから始めていこうと思っていたので、大丈夫ですよ」
「本当ですか! ありがとうございます、ルークさん」
僕が依頼を受けることを了承すると、彼女の顔が明るくなり、僕の手を取ってぶんぶんと上下に振り回した。
その姿から本当に嬉しいのだなというのが伝わってくるのと同時に、僕と同い年なのに案外子供っぽいところも垣間見れて、とても可愛らしい。
「ど、どういたしまして。あの、カリファーさんそろそろ手を離してくれませんか?」
「え? あ、す、すみません私ったら……」
僕としてもいつまでも彼女と手を握り合っているのも吝かではないが、現実的にそうもいかない。
僕が指摘したことが恥ずかしかったのか、カリファーさんが頬を染め首を竦める。
二人の間に少し気まずい雰囲気が流れたので、話題を変えるため運送の仕事について聞くことにした。
「それで具体的に【運送】の仕事を説明してもらえますか?」
「はい、わかりました」
彼女の説明によると、運送と言っても何も難しい事をするのではなく、少し大きめのリュックサックに書類やら荷物やらを入れ、できるだけ早く別拠点のギルドに運搬するというものだ。
だがここである疑問が浮かんだため、彼女に聞いてみる。
「あの、運搬という事は基本的に徒歩での移動となるわけですけど、それなら馬車で移動している行商人の方が早く到着するのでは?」
「先ほども説明した通り、行商人の場合デリケートな商品を扱っていることが多く、またできるだけ荷物に傷を付けたくないということから、馬車の速度は徒歩で移動している人よりも遅い場合が結構あるんですよ」
「なるほど、町のように舗装された石畳を走るならともかく、街道は舗装されてない凹凸の激しい場所ですからね。そりゃ人の足よりもゆっくり走らせるわけだ」
「それに、馬車の場合は馬の体力も考慮して頻繁に休息を入れるので、拠点と拠点の移動という一点を見れば、行商人が引く馬車よりも徒歩で移動している人の方が早かったりするんです」
確かに、言われてみればその通りだ。
よくパーティーの遠征などで馬車を使う事があったが、馬を引く御者が定期的に馬を休ませるため休息を願い出ていたのを思い出した。
いくら馬の体力が人と比べてかなりのものであるとしても、総重量数百キロもあるものを引き続ければどこかで体力が尽きてしまう。
基本的に荷車を引く馬の頭数は小さいものなら一頭ないしは二頭、大きいものだと八頭もの馬を使って引く場合もある。
それだけ馬にかかる負担が相当なものなのだと想像できる。
話が少しそれてしまったが、続けてカリファーさんが仕事内容の概要を説明し始める。
「次に運送に関しての仕事の部類なのですが、基本はギルドからの指名クエスト扱いとなります。ですが、ルークさんが所属していたパーティーから現時点であなたの脱退申請を受けておりませんので、仮脱退という扱いで受けてもらいます」
パーティーに所属していた者がパーティーを抜ける際、リーダーを務める者がギルドに脱退申請を出さなければならない。
少しばかり説明すると冒険者のランクは現在存在しているランク持ちを入れると、最高でSS、一番下でGまでいるが、最高ランクはSSSがあると聞いている。
つまり冒険者のランクはSSS、SS、S、A、B、C、D、E、F、G、の計九段階存在していることになる。
またクエストも同じくSSSからGまであり、自分が持つランクの一段階上のランクまでなら受けることができる。
例えば、Aランクの冒険者ならばSランクまでのクエストなら請け負う事ができるといった寸法だ。
加えてパーティー自体にもランクがあるが、僕のように一人だけランクに見合っていない存在がいる事が多いため、パーティーランクというのは実際のランクよりも一段階下の評価になる場合が多い。
Sランクの冒険者パーティーならばAランクの冒険者と同じ扱いになるというわけだ。
「これからルークさんに依頼する内容は運搬していただく荷物の重要度から算出してCランク扱いのクエストになります。それとこのクエストの達成度により今後あなたの冒険者ランクが変わりますのでご注意を」
「わかりました」
一度パーティーを抜けた冒険者はギルドによって再びランク査定が行われ本来の実力に見合ったランクが与えられることになる。
実力が伴わなければ、パーティに所属していた時よりもランクが落ちることがほとんどだが、稀にパーティーにいた時よりも上のランクが与えられることがあるそうだ。
もっとも、ずっと荷物持ちばっかりやっていた僕なんて、精々Fランクがいいとこだろう。下手をすれば最低ランクのGだってあり得る。
「ではルークさんギルドカードの提示をお願いします」
「はい」
そう言うと僕は懐に入れてあったギルドカードを取り出し、カリファーさんに渡す。
ギルドカートは冒険者ギルドに所属している証で、言わば身分証明書のようなものだ。
名前と年齢、ギルドカードが発行された都市の名前に現在のランクと最高到達ランクが表記されている。
偽造することは不可能で、そのような行為が発覚すればギルドから永久追放扱いとなり犯罪者として投獄される。
僕からギルドカートを受け取ったカリファーさんが手を翳すと魔法陣のようなものが浮かび上がる。
そして、魔法陣が消えるとそのまま僕にギルドカードを返却した。
「これで先ほどご説明したクエストの受注が完了しましたので、確認をお願いします」
ギルドカードには個人情報が記載されているが、それとは別に余白の部分がある。
そこに今回受注したクエストの内容が追加されていた。
これはクエストを重複して受けることがないようにするための措置で、魔術によって記載されているため改竄することはできない。
「大丈夫みたいです。それで荷物の方はどこにあるんですか?」
「準備はすでに整っておりますので、こちらへ」
案内されたのは、応接室のような場所でテーブルやソファーといった簡易的な家具以外に調度品も何もないシンプルな部屋だった。
部屋のど真ん中に通常より少し大きいリュックサックが置かれており、中身はそれと分かるほどパンパンに詰まっている。
「こちらが運搬していただきたい荷物です。一人で運ぶには少々重いでしょうが、ルークさんなら大丈夫かと思います」
「そうですね、これくらいならいつも運んでる荷物の三分の一くらいなので問題ありません」
「え?」
僕の言葉が聞き取れなかったのか、素っ頓狂な声で聞き返してきたが、それよりもまだ聞いてないことがあったので立て続けに質問する。
「そう言えば何処に運ぶのかまだ聞いてませんでした。この荷物は何処に運ぶんですか?」
「え? あぁ、はい。運んでいただく目的地はここプリマベスタから南東にある都市【レイブンフォール】のギルドです。今回はあまり緊急を要する書類などはありませんが、それでも情報の共有が早いに越したことはありませんので、無理のない程度に急いでいただけるとこちらとしても助かります」
「わかりました。ではこのまま出発しますが、何か他に伝え忘れたことはありませんか?」
現在の時間は早朝の賑わいが落ち着いた時刻的には朝と言っても差し支えない時間帯だ。
今からすぐに出発しても僕としては問題はない。
「ギルドとしては助かりますが、準備はよろしいのですか?」
「はい、宿に自分の荷物が置いてありますので、取りに戻らなければなりませんが、その後すぐに出発します。じゃあカリファーさん行ってきます」
「お気を付けて、行ってらっしゃいませ」
こうして、僕の新たな仕事として、荷物の運搬クエストを受けることになった。
0
お気に入りに追加
323
あなたにおすすめの小説
婚約破棄騒動に巻き込まれたモブですが……
こうじ
ファンタジー
『あ、終わった……』王太子の取り巻きの1人であるシューラは人生が詰んだのを感じた。王太子と公爵令嬢の婚約破棄騒動に巻き込まれた結果、全てを失う事になってしまったシューラ、これは元貴族令息のやり直しの物語である。
最強の職業は付与魔術師かもしれない
カタナヅキ
ファンタジー
現実世界から異世界に召喚された5人の勇者。彼等は同じ高校のクラスメイト同士であり、彼等を召喚したのはバルトロス帝国の3代目の国王だった。彼の話によると現在こちらの世界では魔王軍と呼ばれる組織が世界各地に出現し、数多くの人々に被害を与えている事を伝える。そんな魔王軍に対抗するために帝国に代々伝わる召喚魔法によって異世界から勇者になれる素質を持つ人間を呼びだしたらしいが、たった一人だけ巻き込まれて召喚された人間がいた。
召喚された勇者の中でも小柄であり、他の4人には存在するはずの「女神の加護」と呼ばれる恩恵が存在しなかった。他の勇者に巻き込まれて召喚された「一般人」と判断された彼は魔王軍に対抗できないと見下され、召喚を実行したはずの帝国の人間から追い出される。彼は普通の魔術師ではなく、攻撃魔法は覚えられない「付与魔術師」の職業だったため、この職業の人間は他者を支援するような魔法しか覚えられず、強力な魔法を扱えないため、最初から戦力外と判断されてしまった。
しかし、彼は付与魔術師の本当の力を見抜き、付与魔法を極めて独自の戦闘方法を見出す。後に「聖天魔導士」と名付けられる「霧崎レナ」の物語が始まる――
※今月は毎日10時に投稿します。
呪われ姫の絶唱
朝露ココア
ファンタジー
――呪われ姫には近づくな。
伯爵令嬢のエレオノーラは、他人を恐怖させてしまう呪いを持っている。
『呪われ姫』と呼ばれて恐れられる彼女は、屋敷の離れでひっそりと人目につかないように暮らしていた。
ある日、エレオノーラのもとに一人の客人が訪れる。
なぜか呪いが効かない公爵令息と出会い、エレオノーラは呪いを抑える方法を発見。
そして彼に導かれ、屋敷の外へ飛び出す。
自らの呪いを解明するため、エレオノーラは貴族が通う学園へと入学するのだった。
【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
アラヒフおばさんのゆるゆる異世界生活
ゼウママ
ファンタジー
50歳目前、突然異世界生活が始まる事に。原因は良く聞く神様のミス。私の身にこんな事が起こるなんて…。
「ごめんなさい!もう戻る事も出来ないから、この世界で楽しく過ごして下さい。」と、言われたのでゆっくり生活をする事にした。
現役看護婦の私のゆっくりとしたどたばた異世界生活が始まった。
ゆっくり更新です。はじめての投稿です。
誤字、脱字等有りましたらご指摘下さい。
二度も親を失った俺は、今日も最強を目指す
SO/N
ファンタジー
主人公、ウルスはあるどこにでもある小さな町で、両親や幼馴染と平和に過ごしていた。
だがある日、町は襲われ、命からがら逃げたウルスは突如、前世の記憶を思い出す。
前世の記憶を思い出したウルスは、自分を拾ってくれた人類最強の英雄・グラン=ローレスに業を教わり、妹弟子のミルとともに日々修行に明け暮れた。
そして数年後、ウルスとミルはある理由から魔導学院へ入学する。そこでは天真爛漫なローナ・能天気なニイダ・元幼馴染のライナ・謎多き少女フィーリィアなど、様々な人物と出会いと再会を果たす。
二度も全てを失ったウルスは、それでも何かを守るために戦う。
たとえそれが間違いでも、意味が無くても。
誰かを守る……そのために。
【???????????????】
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
*この小説は「小説家になろう」で投稿されている『二度も親を失った俺は、今日も最強を目指す』とほぼ同じ物です。こちらは不定期投稿になりますが、基本的に「小説家になろう」で投稿された部分まで投稿する予定です。
また、現在カクヨム・ノベルアップ+でも活動しております。
各サイトによる、内容の差異はほとんどありません。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)
音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。
魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。
だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。
見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。
「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる