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34話「新しい薬の調合と新しい装備を新調するみたい」
しおりを挟む翌日、商業ギルドを訪れた姫は前日に調合したポーションを納品した。調合したのは下級ポーションが二十本、下級解毒ポーションが十本、下級治癒麻痺ポーションが五本だ。
すべて納品した金額は、合計で48000ゼノとなった。納品後、受付で必要な素材と納品した分の金額を受け取ってギルドをあとにする。
「それにしても、まさかあれだけのポーションで48000ゼノも貰えるなんて思わなかった」
「それだけ希少価値が高いということでしょう」
「ご主人、薬を作るだけで食べるのに困らないニャ」
サラセウムの街並みを眺めながら、三人は納品したポーションの話をする。話の流れで姫がポーションのお金も分配しようかと冗談交じりに言うと、本気で却下された。
そんな一幕がありつつ、姫たちは薬屋へとやってきた。目的は新しい薬を作るためのレシピと材料の調達である。
白髪老人の店主に頼み、薬の材料とレシピ本、他にも新しい調合道具を購入する。それを合わせた金額は全部で27000ゼノと高額になったが、今の下級ポーションの稼ぎがあればすぐに取り戻せる金額であるため、値切ることなく迷わず支払う。
その日はそのまま宿へと戻り、ひたすらレシピ本に記載された手順に従って新たな薬を調合していく。
最初の内は初めて扱う素材もあったので低品質のものしかできなかったが、徐々にこなれていきなんとか普通レベルの品質の薬が完成した。
ちなみに姫が新たに調合した薬は【中級ポーション】・【中級解毒ポーション】・【中級治癒麻痺ポーション】・【魔物除けの薬】・【魔物寄せの薬】の全部で五種類だ。
中級と名のつくものは、その名の通り下級ポーション類の上位互換であるが、ちょっとした怪我や病気にしか効果がない下級ポーションに対し、骨折や内臓損傷などといったさらに重度の怪我や病気を癒す効能を中級ポーションは持っている。
魔物除けの薬と魔物寄せの薬は名前の通り、意図的にモンスターを寄せ付けない効果と寄せ付ける効果をそれぞれ持っている。
「ふう、ちょっと難しかったけどなんとかできた。……なんか久々に疲れたわー」
「主、あんまり無理をなさらないでください」
姫の小さな独り言を耳聡く聞きつけたミルダが、彼女を労う。一方のミャームといえば、ベッドに横になって暢気に寝息を立てている。
今日はダンジョンに潜るのは止め、体の疲れを癒すために奴隷の二人を休ませることにしたのだが、化け物染みた亜人族の体力は凄まじいものらしくまったく疲れを見せてはいなかったのである。
それでも精神的な疲れはあるはずと考えた姫が、念のために今日一日休みにしたのであった。
それから夕食を済ませ、ギルドから受け取った素材で下級ポーション各種を調合すると、その日は眠りに就いた。
( ̄д ̄)( ̄д ̄)( ̄д ̄)( ̄д ̄)( ̄д ̄)
翌日、調合したポーションを再び納品するため朝から商業ギルドへとやってきた。下級のポーションを納品した後、前日作製した中級クラスのポーションが完成ことを告げると、すぐさま応接室へと通された。
すぐにギルドマスターのネルネが現れ、出来上がった中級のポーションを鑑定する。
「どれも申し分ない品質だわ。是非とも納品して頂戴」
「じゃあ値段を決めましょうか」
話し合いの結果、各中級のポーションは以下の値段に決まった。
【中級ポーション 5本】:一本当たり5000ゼノ 合計25000ゼノ
【中級解毒ポーション 3本】:一本当たり6000ゼノ 合計18000ゼノ
【中級治癒麻痺ポーション 2本】:一本当たり6500ゼノ 合計13000ゼノ
【魔物除けの薬 2本】:一本当たり10000ゼノ 合計20000ゼノ
【魔物寄せの薬 2本】:一本当たり7000ゼノ 合計14000ゼノ
そして、中級ポーションを作製後に調合した下級ポーション類は、下級ポーションが30本、下級解毒ポーションが20本、下級治癒麻痺ポーションが10本で、合計した金額は85500ゼノになった。
中級ポーション類の金額と合計すると、今回の取引金額の合計は脅威の17万5500ゼノになった。
(ミャームが言ってった通り、ポーションだけ納品してれば生活には困らないわね)
労力に対してのリターンが明らかにインフレを起こしていることに内心で苦笑いを浮かべながらも、貰えるものは貰っておくことにする姫。
本人としてはお金に意地汚いわけではないのだが、この先物入りになった時にまとまったお金が必要になった時の備えとして、今のうちに稼げるだけ稼いでおこうという魂胆であった。
大金を受け取り、ネルネに挨拶を終えると姫はギルドをあとにした。ギルドをあとにした姫は、その足でミルダとミャームを引き連れて冒険者が通う装備屋が建ち並ぶ区画へとやってきた。
「らっしゃい」
目についた店に入ると、筋肉質の中年の男がぶっきらぼうに挨拶をする。そんな男に少し商品を見せて欲しいと一言告げて、ミルダとミャームに欲しい武器を選ばせる。
二人とも今持っている武器で十分だと言っていたが、この先強力なモンスターが出現する階層に潜ることになるため、まとまったお金が入った今が彼女たちの装備を新調するタイミングだと考えたようだ。
そして、二人が選んだのは鉄でできた棍棒と鉄よりも堅く丈夫な鋼の短剣だった。お値段は棍棒が15000ゼノ、短剣が20000ゼノだったので迷わず購入する。
それから中年の男に二人の防具を見繕ってもらい、防御面の強化もしておくことにした。
ミルダは鉄製の軽鎧一式で、ミャームはモンスターの素材を使った革鎧一式をそれぞれ購入した。ちなみに軽鎧の値段が10万ゼノで革鎧が75000ゼノと予定していた金額を大きく上回ることになったが、必要な経費だと割り切り気前よく支払った。
「よし、これで二人とも強化が完了したことだし、今日は装備の確認も兼ねてダンジョンに行きましょうか」
「それよりも、主は装備を整えなくてもよかったのでしょうか?」
「あたしの強さは二人が一番わかってるでしょ。それにいざとなったら二人があたしのこと守ってくれるんでしょ?」
「っ! もちろんです!!」
「任せるニャ!!」
そんなやり取りをしつつダンジョンに向かっていると、前方から争っている声が聞こえてくる。
どうやらパーティーを組んでいた冒険者が報酬を巡って争っているらしい。
「お願いします。もう少しなんとかなりませんか?」
「なに言ってんだよ。お前ほとんど活躍なんかしてなかっただろ? それなのに報酬を山分けなんて割に合わねぇよ」
「そうよそうよ、最初は魔法が使えるからってことでパーティーに入れてあげたけど、とんだ邪魔者だったじゃない」
二人の男女が女性を責めるように仰ぎたてている。女性も自分がパーティーに貢献できなかったことを自覚しているのか、あまり強く反論できずにいた。
結局男女は最低限のお金が入った皮袋を地面に叩きつけると、女性を置いてその場から離れて行った。
女性は女性で叩きつけられた皮袋を拾い、入っていた中の金額に肩を落としているようだ。
なんとなく遠巻きに様子を見ていた姫たちだったが、そんな彼女たちに気付いたのか女性と目が合ってしまった。
面倒事の予感がしたが、このまま何事もなかったように素通りするわけにもいかず、姫は女性から話を聞いてみることにした。
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