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30話「ダンジョンで奴隷たちが無双するみたい」
しおりを挟む「はあ! どうだミャーム。アタイは今のやつで二十六匹目だ」
「ニャんのー、ニャーは二十七匹だニャ」
「な、なにぃ!? ならばより多くの敵を倒すだけだ!」
「負けないニャー」
「あんたたち……」
物見遊山にダンジョンへとやってきた姫たちだったが、現在絶賛無双中であった。
まず手始めにミルダが先頭に立ち向かってくる敵を引き付ける前衛、ミャームが姫とミルダの両者をサポートしつつ立ち回る中衛、姫が魔法を使用した支援や範囲攻撃主体で攻撃する後衛を担当することになったのだが、気付けばミルダとミャームがモンスターの討伐数を競って前に突出する陣形となっていた。
最初の印象が悪かったことが原因なのか、二人とも事あるごとに競い合うようになっていた。そして、今回はモンスターの討伐数を巡っての争いが勃発してしまったのだ。
迷宮都市サラセウムのダンジョンは全部で100階層あり、奥に行けば行くほど一つの階層の広さは大きく複雑になっていく。低階層でもかなりの広さを持っており、一つの階層を攻略するのにもそれなりの時間が掛かってしまう。
その見た目は人工的に岩をくり抜いた構造をしており、上下左右の壁と床の全面が岩肌に包まれた洞窟型のダンジョンだ。
攻略する時間が掛かってしまうその一方で、広さがある分冒険者同士の狩り場の取り合いということが起こるのは稀であり、少なくとも姫たちが無双をしても誰にも迷惑が掛からない程度の広さは有していた。
☆1ランクで攻略可能な階層は1~5階層で、そこに出現するモンスターの種類は六種類存在する。
低階層ということもあって出現するモンスターは大したことはなく、スライム・ゴブリン・コボルト・一角ウサギ・ケイブバット・スモールファングボアの六種類だ。
どのモンスターも今の姫たちでは歯ごたえがなく、ほぼ鎧袖一触で撃破されている。彼女たちの戦いを第三者が目の当たりにすれば、誰もがモンスターに同情するほど彼女たちの戦いは圧倒的である。
蹂躙という言葉に相応しく、姫たちに向かって行ったモンスターは尽くドロップアイテムへと変換されていく。どうやら倒したモンスターの死骸は残らず光の粒子となって消えるらしく、あとに残されるのは魔石や骨・牙などの魔物由来の素材だ。
ちなみに二人ともモンスターを狩るのに夢中で、実質的に素材を回収するのは主人である姫が担当している。本来奴隷がやるべき仕事を主人である自分がこなしていることに釈然としない思いがありながらも、普段戦えないことに対するストレスを発散するいい機会であるということで、姫は素材回収をする作業を甘んじてやっている。
ミルダとミャームが暴走気味にモンスターを狩っていく中、自分に向かってくるモンスターを姫は魔法で狩る。
階層が下に行くにつれ、徐々に群れているモンスターの数が増えており、現在5階層を攻略中の姫たちの前には4体から6体で一つのグループを形成している群れがいた。
しかし、絶賛無双中の奴隷二人組にはあまり意味を成さないようで、まるでボーリングの玉がピンに当たって弾け飛ぶような感じでモンスターたちが吹き飛ばされていった。
道中ミルダとミャームたちの暴走により、一時数十匹のモンスターに追いかけられる所謂トレイン状態を引き起こしていたが、姫の放った範囲魔法によって一瞬のうちに殲滅されるという一幕があった。
「二人とも、どうやらボス部屋に到着したようだから、ここからは真面目に攻略するわよ」
「承知しました」
「わかったニャ」
まだ興奮している二人を宥めながら、姫は自分の身の丈の何倍もある扉を見上げる。その先にはボスが待ち構えており、挑戦者が現れるのを今か今かと待ち受けている。
まだ低階層とはいえ少しの油断が命取りになることを知っている姫は、気を引き締め直しいざボス戦に挑もうと歩み始めたその時、突如として“ぐー”という音が響き渡った。
「……今の音なに?」
「わかりません」
「ご主人、腹減ったニャ」
「「……」」
どうやらその音の正体はミャームの腹の音だったらしく、右手で頭の後ろを掻きながら苦笑いを浮かべいる。
現在の時刻は夕方に近い昼過ぎで、ダンジョンに入る前に軽いものを口に入れてから攻略を開始したのだが、どうやら激しく体を動かしたことでお腹が空いてしまったらしい。
そんなミャームに呆れる姫とミルダであったが、二人も腹が減っていることに気付きボス攻略の前に腹ごなしをすることにした。
メニューはサラセウムに来る道中で狩ったモンスターの肉のステーキを姫特製の白パンに挟んだサンドイッチと、野菜と果物をすり潰したものを混ぜ合わせた野菜ジュースだ。
いつモンスターが襲ってくるか分からない状況下で、きっちりとした料理を食べるのはさすがに気を抜き過ぎているため、今回はすぐに食べられるサンドイッチを選択したのだが、それが間違っていた。
「主、おかわりをいただけないでしょうか?」
「ご主人、もっと食べたいニャ」
「ってか、あんたら食い過ぎだから!」
結局作り置きしていたほとんどのサンドイッチを平らげた二人は、満足そうな顔を浮かべていた。姫としては自分が作った料理で喜んでくれることは嬉しいのだが、これではどちらが主なのかわからないなと内心で苦笑する。
そのまましばらく休憩を挟んだ後、十分体が休まったことを確認した三人は、いよいよボス戦に向けて巨大な扉を開けた。
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