26 / 37
24話「魔法の訓練をするみたい」
しおりを挟む姫がホットケーキを作った日から数日後、彼女はこんなことを口にする。
「もうそろそろ、新しい魔法を覚えたいな」
姫がこのリムの街での生活にも慣れてきたので、ここで新しい魔法を覚えて自身の強化をしようと考えたのだ。
さっそく魔法の訓練のため外に出ようとしたところで、ミルダに呼び止められる。
「主、出掛けるのならお供します」
「外には出るけど、出掛けはしないよ。庭で魔法の訓練をするだけだから」
「訓練、ですか?」
「なんなら、ミルダも一緒に訓練する?」
「ふぁ~、ご主人お腹が空いたニャ~」
護衛として真面目に働こうとするミルダとは対照的に、大きな欠伸をしながら自由な振る舞いをするミャーム。そんな姿に呆れる姫に対し、奴隷としての自覚がないと叱責するミルダという構図が出来上がるのはもはや彼女たちの日常だ。
とりあえず朝食を済ませ、三人とも魔法の訓練を行うこととなった。
ミルダとミャームに関しては、オーガ族と猫人族であるため魔法の適正があまりないのだが、それでもやらないよりはいいということで姫の訓練に付き合うことにした。
「二人とも、魔力を感じ取ることはできる?」
「できません」
「ニャーもできないニャ」
姫の問い掛けに二人とも首を横に振る。それを受け、これは最初から説明しなければならないことを理解した姫が二人に魔力についての講義を開始する。
魔力とは、どんな人間も必ず持っているものであり、主に魔法を使用する際に消費されるものである。魔法を習得する際、まず初めにやらなければならないことといえば、魔力の存在を感じ取り体内に魔力というものが巡っていることを認識するところからスタートする。
「まずは魔力を感じるところからやってみようか。じゃあ、最初は体の力を抜いて大きく息を吸ったり吐いたりしてみよう」
魔法を使うにせよ何にせよ、最初にやるべきことは体内にある魔力を感じ取れなければ始まらないため、今まで自分がやってきた方法でミルダとミャームを指導する。
姫の指示に従い、力を抜き体内の魔力を感じ取ろうとするが、なかなか上手くいかないようで二人とも唸り声を上げる。次第にその声にも力が籠り、自ずと体の方にも力が入ってしまい、ますます上手くいかないという悪循環を起こしてしまう。
この方法は、本人が魔力を感じ取れなければ先に進むことができないため、無理のない程度に個人練習をしろと姫は指示を出し、自身の魔法の修行を開始した。
ミルダたちとは違い、毎日欠かさず魔力を感じ取る修行と魔力を使用した身体強化の修行を行っていたので、比較的簡単に新しい魔法を覚えることができた。
尤も、姫の場合【英雄の素質】という称号を持っているため、さらにも増して魔法を覚えやすい恩恵を得られていた。
「さて、こんなもんかな」
一通り各属性の魔法を新たに追加し、姫は自分自身を改めて鑑定する。
名前:重御寺姫(♀)
年齢:25歳
種族:人間
体力:4300 / 4300
魔力:8800 / 10480
スキル:【火魔法Lv3 NEW】、【水魔法Lv3 NEW】、【風魔法Lv3 NEW】、【土魔法Lv3 NEW】、
【光魔法Lv2 NEW】、【闇魔法Lv2 NEW】、【生活魔法Lv3 NEW】、【回復魔法Lv3 NEW】、
【魔力操作Lv6 NEW】、【魔力制御Lv5 NEW】、【身体強化Lv5 NEW】、【鑑定Lv3 NEW】、【異世界言語学LvMAX】
修得魔法:
【火魔法】:ファイア、ファイアーボール、ファイアーアロー、ファイアランス、バーストフレア(NEW)
【水魔法】:ウォータ、アクアバレット、プリズンウォータ、アクアストーム(NEW)
【風魔法】:ウインド、ウインドカッター、ウインドシールド、ロンドブレイク(NEW)
【土魔法】:アース、アースウォール、アースクエイク、ガンズロック(NEW)
【光魔法】:ライト、ライトアロー、シャイニングレーザー(NEW)
【闇魔法】:ダーク、ダークジャベリン、ダークボム(NEW)
【生活魔法】:クリーン、ヒート、アイシング、ギャザリング(NEW)
【回復魔法】:ヒール、キュア、ディスペル、ハイヒール、ラウンドヒール(NEW)
称号:異世界人、英雄の素質、九死に一生、八属性詠唱者
状態:異常なし
以前鑑定した時よりも、体力と魔力が大幅に上昇しており、全体的に強化されている。各スキルが軒並みレベルアップし、魔法も新たに八種類増えた。
ちなみにこの世界の魔法の概念としての一例を挙げると、魔法自体に決まった固定の魔法というものは存在しない。
例えば、火の玉を敵に向かって打ち出す魔法を使った時、ある魔法使いはそれを“ファイアーボール”と唱える者もいれば“フレアボール”と唱える者もいる。
そして、魔法使いとしての力量は、魔力操作及び魔力制御の練度によって決まってくるため、熟練の魔法使いは基本的に貴重な人材となる。
次に魔法の詠唱についてだが、魔法に大切な要素は頭の中でどれだけ鮮明なイメージを浮かばせるかによるところが大きいので、これも魔法使いによっては呪文を唱えたり、無詠唱で放ったりとまちまちだ。
当然だが、呪文の詠唱なしに魔法を唱える無詠唱の方が難易度が高く、制御もまた難しい。それに加え、呪文は術者の頭の中のイメージを言葉に変換したものであるため、呪文の内容も唱える者によって変わってくる。
とどのつまり、この世界において魔法というのは魔力操作、魔力制御、イメージ力の三つを極めれば魔法使いとして上級者と言われている。
そして、地球からやって来た姫にとって、この三つを理解することは容易く【英雄の素質】と相まって、何の苦労もなく魔法を習得できてしまっていた。
「ぐぬぬぬぬ……」
「ニャああああああ……」
「……」
姫が魔法の習得を終え、再び二人の様子を見てみると、顔を引き攣らせながらこれでもかと言わんばかりに力んだ状態で佇んでいた。
それはまるで、便秘気味の女性が今日こそは出るのではないかという期待を込めてトイレで踏ん張っている光景と重なってしまい、笑ってはいけないのだと思いつつも不覚にも姫は吹き出してしまった。
姫に笑われていることにも気付かず、本人たちは至って真面目に取り組んでいるようだが、これではいつまで経っても魔力を感じ取ることはできないと姫は判断し、一度休憩することにした。
三十分ほど休憩し、再び魔力を感じ取る修行を開始したのだが、姫はとあることを思いつきそれを実行してみることにした。
「んー」
「ニャニャニャー」
「二人とも、そのまま体の力を抜いたまま意識を集中しててね」
姫は二人にそう言うと、二人の背中に手を押し当て自身の魔力を二人に向かって流し込んだ。一気に流し込むのではなく、ゆっくりと緩やかなイメージを浮かべながら体に負担が掛からないよう心掛ける。
するとさっそくその成果が出たのか、ミルダたちの反応が今までと違っていた。そう、違っていたのだが……。
「あぁん、あ、あるじぃー。そ、そこは、ら、らめぇれぇす」
「にゃんっ、にゃんだか体がとっても熱くなってるニャ。は、発情期の時に似てるかもニャー」
「ちょ、ちょっと、二人とも大丈夫!?」
姫が自分の魔力を流してしばらくすると、二人とも様子がおかしくなってしまった。ミルダは普段のクールな表情とは打って変わり、なんとも妖艶な雰囲気と艶めかしい声を上げている。
一方のミャームはミルダほどではないが、やはりいつもの陽気な態度ではなく、顔を上気させ雌の発情したような顔つきをしていた。
この時の姫は知らなかったが、場合によっては他人の魔力を体内に取り込んだ時、稀にだが体の性感帯が敏感になり、一種の媚薬を使ったような状態になることがあるのだ。
二人の様子がおかしいことに驚いた姫は、すぐさま二人に込めていた魔力を止めた。それから夕方になるまで二人の発情は止まらず、危うく貞操を奪われそうになったが、あとになって回復魔法を使えばよかったことに気付き、そのことに思い至らなかった自分に地団駄を踏む羽目になってしまったのであった。
翌日、そんな経験をしたお陰なのか二人とも魔力を感じ取ることができるようになり、数日後ミルダは土魔法のアースと闇属性のダークミストという魔法を、ミャームは風魔法のウインドとウインドカッターを習得することができた。
余談だが、あれから二人が事あるごとに自分に魔力を送り込んで欲しいと懇願してきたが、あの惨事を繰り返してはいけないと判断した姫の手によって却下されることになったのは言うまでもない。
12
お気に入りに追加
521
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
面倒くさがりやの異世界人〜微妙な美醜逆転世界で〜
波間柏
恋愛
仕事帰り電車で寝ていた雅は、目が覚めたら満天の夜空が広がる場所にいた。目の前には、やたら美形な青年が騒いでいる。どうしたもんか。面倒くさいが口癖の主人公の異世界生活。
短編ではありませんが短めです。
別視点あり
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-
ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。
困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。
はい、ご注文は?
調味料、それとも武器ですか?
カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。
村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。
いずれは世界へ通じる道を繋げるために。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる