25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい

こばやん2号

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1話「どうやら異世界に迷い込んだみたい」

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「……ここは何処? あたしは誰? 重御寺姫25歳、彼氏いない歴=年齢……って、やかましいわ!!」


 古典的なノリツッコミをかましつつ、とりあえず周囲の様子を窺う。ぱっと見た感じでは、先ほどと同じ森の中なのだが、ここが元の場所でないということは明白だ。何故なら……。


「日本にこんな果物はなかったはずだよね。色もオレンジ色の水玉模様で不味そうだし。ってか、いつの間にか背負ってた荷物が無くなってるし」


 近くの木に実っていたのは、見た目はリンゴのような果実だった。ただ普通のリンゴと異なる点があるとすれば、本来の赤い色ではなく、白にオレンジの水玉模様の入ったなんとも美味しくなさそうなものであった。


 そして、ふと気付けば自分が背負っていた登山用のリュックが無くなっていた。どこに行ったのだろうと思ったが、それよりも今は重要なことがあると考えを元に戻す。


 視線の先にある果実らしきものは、物珍しいものであったため無意識に果実に目を凝らしていた。すると突然頭の中に“ピコン”というパソコンの操作音のような音と共に目の前にウインドウが出現する。



⦅スキル【鑑定】を覚えました⦆



「あー、これはもう異世界確定だわ。マジか……」


 今起こった出来事に、姫は頭を抱えて落胆する。彼女が今いる場所が地球であれば、まかり間違っても頭の中に操作音が響いたりしないし、ましてや目の前にウインドウが出現するなどというようなことも起こらないだろう。


 水玉模様の果実だけであれば、突然変異の珍妙な果実という言い訳が立っただろうが、先のような現象が起こってしまっては現実逃避の余地すら与えられない。


 夢かもしれないという可能性もワンチャン残されているにはいるが、先ほどまで意識があった人間が、眠ってもいないのにいきなり夢の世界にご招待されるはずもないので、今起きていることは夢ではなく現実だと言わざるを得ない。


 地球とは異なる世界にやってきてしまったというショックはあったが、意外にも姫が立ち直るまでにそれほど時間は掛からなかった。というのも、姫は生粋のオタク女子であり趣味の一つにライトノベルをよく好んで読んでいる。その延長線上として、自分が突然異世界に飛ばされてしまった時にどう行動するのかというシミュレートは、普通の人の何千倍もしてきたのだ。


 それ故、異世界へとやって来たことに驚きはしたものの、思ったよりも錯乱せずに平静を保てているのはそのお陰だったりする。


「とりあえず、手に入れた能力を見てみよう」


 今自分が置かれた状況を正確に理解できていないが、ここが地球ではない異世界であるのなら、今後の生き残りにも影響する自分の持つ能力が重要となってくるため、一度自身の能力を確認する。



【鑑定】:ありとあらゆるものを見通す能力。レベルが上がることで、様々なことがわかるようになる。



 新たに手に入れた【鑑定】というスキルは姫の予想していた通りの能力であった。都合よく手に入ったので、姫は改めて最初に見つけた果実を鑑定してみた。



【アプールの実】:独特な色をした果実、その実は甘く仄かな酸味がある。



 どうやらこの果実は、食用にすることができるらしい。だが、色合い的にちょっと忌避感があるため、さすがに食べることはしなかった。


 続いて、自分の能力がどうなっているのか確かめるべく、姫は自分自身に鑑定を掛けた。



名前:重御寺姫

年齢:25歳

種族:人間

体力:100 / 100

魔力:500 / 500

スキル:【鑑定Lv1】、【異世界言語学LvMAX】

称号:異世界人、英雄の素質



 まず名前・年齢・種族に関しては問題ないが、パラメータは体力と魔力のみだ。おそらくこれがTVゲームでいうところのHPとMPなのだと姫は推測する。


 次にスキルだが、最初に手に入れた鑑定はいいとして、他に異世界言語学というスキルがカンスト状態で修得済みだった。こちらの世界の言葉や文字に対応するためのものだと当たりを付ける。


 最後に称号だが、異世界人というのはこことは違う世界出身の人間という意味のもので、特にこれといった効果はない。もう一つの称号英雄の素質は、あらゆる分野で才能を発揮しやすくなるという効果があるらしく、上手く利用すれば完全無欠の勇者にだってなれそうな可能性を秘めていそうだ。


「ん、これはなに?」


 一通り自分の能力について把握が完了したその時、姫の足元の先に妙な物体を発見する。それは薄い青色をした楕円に近い丸みを帯びた形をしており、ぷるぷるとその体を震わせている。


「もしかして、これが噂のスライムってやつかな」


 その姿はまごうことなき不定形モンスター、スライムである。主にRPGに登場する最弱モンスターであり、地球には存在しない架空の生物でもある。


 人は名前や姿は知っていても、実際には存在していない生物を目の当たりした時、こんなリアクションを取る。


「うわー、ゼリーみたい」


 そう、言葉のボキャブラリーが単調化され、まるで子供が言っているかのような純粋無垢な言葉しか出てこなくなるのだ。


 目や耳などの感覚器官を持たないと言われているスライムだが、姫の言葉を挑発と受け取ったのか“ふるん”と震えた瞬間、彼女に向かって体当たりをしてきたのだ。


「うわっ、危ない! ……お主やる気だな。よろしい、ならば戦争だ!!」


 いきなりの奇襲に多少驚きはしたものの、女の姫でも簡単に避けることができるほどのスピードだったため、スライムの攻撃を簡単に躱す。


 そして、オタク特有の決め台詞を言い放つと、スライムの頭頂部分であろう場所目掛けチョップをお見舞いした。


 その結果は“ぐにゃっ”という効果音が良く似合うほどに姫の手がスライムの体に沈み込み、ついには彼女の放ったチョップという名の攻撃は弾かれてしまう。


 これといってダメージを与えた形跡もなく、先ほどとなんら変わらないスライムがそこにいた。その姿はまるで“お前、俺に何かしたのか?”と言わんばかりであった。


「くそう、やはりここは基本から入らねばならないな。あたしとしたことが、焦って肝心なことを忘れていた。てことで【鑑定】オナシャス!」



名前:なし

年齢:0歳(4日)

種族:スライム

体力:5 / 5

魔力:0 / 0

スキル:【物理耐性Lv7】

称号:なし



 鑑定の結果に、姫は思わず膝を地面につきたくなった。まだ生まれて4日の、人間でいえば赤子のような存在ですら倒すことができない自分の非力さに。


 そこから自棄になった姫は、パンチやキックなどのありとあらゆる攻撃を食らわせたが、物理耐性の高いスライムに有効打を与えることはできなかった。


「くぅー、さては貴様、ただのスライムではないな! そうだ、そうに違いない!」


 少し演技がかったような台詞を吐きつつスライムに話しかけるも、口を持っていないスライムから返事が返ってくることは当然なかった。


 そして、姫はここでようやく周囲の様子に気付いた。自分がスライムの群れに囲まれてしまっているということに……。
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