最弱の僕……俺が最強を目指すってどうなのよ?

こばやん2号

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第1章 最弱の冒険者

9話

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 サヴァンが冒険者として活動を始めて5日が経過していた。
 彼がいるのは最早常連と言っても差し支えのない頻度で通い詰めた施設、神殿――。
 なにしろ一日最低三回は顔を出しているほどに通い詰めている。
 通い詰めているというのは語弊があるためここは敢えて“送還”されていると言い改めておく。
 今のサヴァンの視界には見慣れた白い清らかな染み一つない綺麗な天井が広がっている。
 横たわる祭壇はまるで彼の特等席という名の定位置と成り下がっていた。
 手慣れたように体を起こすと、体に付いているホコリを払いしゃに構えながら流し目でぽつりとつぶやく。

 「今回の戦いも死闘だったぜ……」

 「はあ~、またあなたですか……」

 そこにいるのはこの神殿に務める神官であるマーレだ。
 もう何回目だろうか、数えるのも馬鹿らしいほどに彼女は同じセリフを力なく言い放つ。

 「おぉ冒険者よ……死んでしまうとは……情けない……」

 この5日間彼女がこの言葉で彼を出迎えるのは実に十五回を超えていた。
 いくら彼女が清廉潔白せいれんけっぱくを信条とする神官であったとしても、こう毎日毎日
蘇りの出迎えをさせられては嫌になるのも至極当然だ。
 流石に「出迎えるのが面倒だからもう死ぬな!」とは言えず、こうして何度も同じセリフを
言ってくれるところに彼女の優しさが窺える。
 そんなマーレの心情を何となく察しているからこそ何とも居たたまれない気持ちになり
サヴァンは申し訳ない表情で自分の後頭部を掻き回す。

 そんな顔をしているとマーレの口からもう少しでこの神殿の連続復活記録を塗り替えてしまうと
皮肉を言われたサヴァンは「肝に銘じます」としか答えようがなかったのであった。
 お察しの通り、この五日間サヴァンはひたすら同じクエストを受け続けていた。
 その内容はラスタリカの町から徒歩で二時間ほど歩いた先にある洞窟に自生する「メニー苔」と呼ばれる
薬草を採取し、ギルドに納品するという冒険者が受けるクエストとしては初歩中の初歩にも関わらず
未だにクエストを攻略できないでいた。
 その理由は至ってシンプル、洞窟に巣食う物モンスターである【スライム】に勝てないからだ。
 このマグナという世界において攻撃性の高いモンスターの中では最弱中の最弱に位置するモンスターであり
駆け出し冒険者でも多少討伐に手間取ることはあるがおおむ鎧袖一触がいしゅういっしょくで倒せるはずのモンスターにサヴァンは
この数日コテンパンにやられていた。

 「なんであんな奴に勝てないんだ? ただのスライムだぞ?」

 この町に来るまでスライムの弱さを知らなかったサヴァンはスライムを強敵として
認識していたのだが、マーレや冒険者ギルドで受付嬢をしているマキナの口ぶりから
スライムがてんで大した事のないモンスターだと知って驚愕した。
 だからこそ勇猛果敢ゆうもうかかんに何度も向かって行くのだが、勝てないのだ。
 何が問題なのかと言えば、主に三つの理由があげられる。

 一つは攻撃命中率の低さにあって、その命中精度は素人以下のド素人だ。
 スライムの攻撃を躱し、いざ反撃に転じる際にほぼ百発百中で攻撃を外すのだ。
 攻撃を外しているから百発百中という言葉は通常であれば違和感のある表現なのだが
今回に限っては“百発百中”という言葉が適切な表現方法だろう。

 二つ目の理由は回避率にある。
 これも命中率と同じく戦闘を優位に進めていくのに必要な能力だが
サヴァンの回避率もまたド素人レベルだった。
 回避という言葉を使用するのがおこがましいほどその動きは鈍重どんじゅうで避けたというよりも
相手の攻撃が外れたと言った方が彼の戦闘を見た者の正しい感想だろう。

 最後の理由として彼の総合的な価値観が受動的であること。
 分かり易く言うと相手の出方を窺い、それに合わせて行動するということだ。
 これだけ聞けば、慎重さを重視しているという事で問題はないのだが
サヴァンの場合、攻撃に転じなければならない場面においても相手の出方を窺ってしまうため
通常であればモンスターの攻撃する番の次は自分の攻撃の番なのだが、自分の攻撃の番でも
相手の出方を窺ってしまうためモンスターの攻撃回数が必然的に増えてしまっているのだ。
 端的に表現すれば彼は潜在的なマゾヒズムを持ち合わせた人物なのだ。
 自分から行動する事よりも相手の行動に合わせる受け身の姿勢がモンスターとの戦闘で
足かせとなってしまっていた。

 さらに彼が現状を打開できない理由として仲間がいないということも要因の一つだ。
 仲間の存在は自分の戦いを客観的に見ることができ、欠点を指摘することができるのだが
まだ冒険者としては駆け出しの彼に仲間と呼べる存在は皆無だった。

 いつまでもクエストを攻略できないことに思いを馳せていると気付けば冒険者ギルドに辿り着く。
 律義なことに朝と夕方にはギルドに顔を出し、クエストに出かける旨と結果の報告をしていた。
 いつものように結果をマキナに報告し終えたサヴァンに向かって遠慮のないため息をついた彼女は
ここ数日の彼の活動内容に対し苦言を呈した。

 「サヴァンさん、もういい加減にメニー苔のクエスト攻略しませんと
いつまで経っても上を目指せませんよ?」

 「何とかしようと頑張っているんですが、なかなか難しいです」

 「だからと言ってウッドマッシュばかり狩るのも飽きませんか?
 我々としては素材が手に入って喜ばしいことですが……」

 そうなのだ、サヴァンもただ同じクエストを受け続けていたわけではない。
 ラスタリカの町の近郊にある森に生息するウッドマッシュを
メインに攻略しているクエストの合間に狩っていたのだ。
 そのお陰もあって日々の生活には困らない程度の金は稼げていたのだ。

 寧ろあまりにウッドマッシュを狩ってくるためその素材となる茸の市場値段が
下方修正されるほど素材の価値が下がっていた。
 それもあってここ数日、道具屋や薬屋には通常よりも品質の高い回復薬が出回るようになり
冒険者の間でちょっとした騒ぎとなっていた。
 回復薬の品質向上の立役者がまさか冒険者としてまだ駆け出しであるサヴァンだということを知る者は
一部の冒険者とギルドの職員しか知らない事実だった。
 ギルドとしてはこのままウッドマッシュを狩り続けてくれるに越したことはないのだが
一人の冒険者を長期間特定の仕事に就かせるのは忍びなかったのだ。

 「今攻略中のクエストの合間にやってるだけですので大丈夫ですよ。
 でもホントにいい加減攻略しないといけませんね、はは……」

 「別のクエストを攻略するにしても他にあるのが【モンスター討伐】のクエストですからね……」

 現在ギルドでは駆け出し冒険者用のクエストとして二つクエストを用意していた。
 一つがメニー苔納品のクエストでもう一つがモンスター討伐のクエストだった。
 今のサヴァンにモンスター討伐のクエストは攻略が難しく、かと言って現在攻略中のクエストも
難航しているためマキナとしては現在攻略しているメニー苔のクエストを是が非でも攻略して欲しかったのだ。
 そんな堂々巡りをしているとサヴァンの後ろから怒鳴り声が飛んでくる。

 「どけ小僧、邪魔だ!」

 「あっ……」

 「って兄貴ぃ、あの時の子供じゃないっすか~。 まだ冒険者やってたんすね」

 「……」

 サヴァンに絡んできた三人組の冒険者は、数日前サヴァンが最初に冒険者ギルドに訪れた時に
悪態を付いてきた者たちだった。
 三下風の冒険者に兄貴と呼ばれた筋骨たくましい体の男が受付のカウンターに肘を置きながら
受付嬢であるマキナに話しかける。

 「討伐クエスト、オーク5匹の討伐完了したぜ。 これが討伐の証だ」

 そう言いながらオークの特徴である豚鼻を五つカウンターに叩きつける。
 マキナは豚鼻が定数あるのを確認すると愛想笑いを浮かべ対応する。

 「確かにオークの鼻五つ確認いたしました。 こちらクエスト攻略報酬とモンスター討伐報酬合わせて100ゴルドになります」

 「……ふんっ」

 マキナが差し出した金の入った革袋を引っ手繰るように受け取った男はサヴァンを一瞥すると
鼻を鳴らしてその場を後にする。
 三人組がいなくなると途端にその場を沈黙が支配しなんとも気まずい空気が流れてしまったので
マキナに明日も頑張りますとだけ告げるとそのままとぼとぼとギルドを後にするのだった。
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