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第十二章 魔法国家と魔法学園

129話

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「ここが、魔法国家マジカリーフの王都か」


 秋雨がバルバド王国を去ってから半月後、彼が辿り着いた先は魔法国家マジカリーフの王都だった。


【マギアクルス】……イースヴァリア大陸随一と言われる魔法に秀でた国であり、その特色から魔法やそれに準じた特産品が多く、まさに魔法国家という国に相応しい呼び名となっている。


 その中でも特に注目すべきは、魔法に関する専門の知識を教えている【ダルタニアン魔法学園】であり、秋雨の目的も魔法に関連したものであるため、多少の興味が湧いていた。


「でも、また学生をやるつもりはないからな。それに、こういった学園系は読者受けが悪いって話だし」


 中途半端に異世界ものの小説の知識があるため、偏った感想を口にする秋雨。それについては、何とも言及できないが、少なくとも彼はそう思っているらしい。


 そうはいっても、秋雨がこの国にやってきた目的が魔法をさらにレベルアップさせることであり、そのためには誰かしら魔法に詳しい人間に接触するか魔法について詳細に記載された書物を読まなければならないのだが、その二つが手に入る場所がマジカリーフではダルタニアン魔法学園以外にはない。


「次の者」

「はいはい」


 いろいろと思案しているうちに自分の番がやってきたため、秋雨は王都に入るための通行料を支払い、門を潜った。ちなみに、今まで彼が発行した身分証明書であるギルドカードは使用しなかったので、身分を証明するものを持たない者が支払う銀貨一枚を出して王都に入った。


 国を跨いでいるので、さすがにバルバド王国でいろいろとやらかした一件を知る者がそうそういるとは思えないが、慎重派の秋雨としては念には念を入れたといったところだ。


 そこまで慎重にならなくともいいのではと思うが、何がきっかけで面倒事が舞い込んでくるかわからないため、自らその原因となる要素は避けているのだ。


「これは……どこかで見たような」


 マギアクルスの街並みは、バルバド王国の王都と比べるとより近代的な雰囲気が漂っていた。使用されている石畳も薄茶色ではなく、アスファルトに近い濃い灰色のものを使用しているらしく、地球でそういったものに慣れ親しんでいる秋雨にとっては、どことなく懐かしさを覚える光景であった。


 そして、彼がマギアクルスの街並みを見て懐かしさを覚えた理由として夜でも明るく照らす【魔街灯】の存在がある。魔法に強い国だけあって、一定間隔ごとに魔法の街灯が設置され、夜でも真っ暗な場所を歩かなくてもいいようになっている。


 そんな光景をきょろきょろと田舎者丸出しで歩きつつ、まずはこの国で初めての拠点となる場所を確保するべく、まずは冒険者ギルドへと向かった。


 秋雨がしばらく歩き続けていると、大通りに面した場所に冒険者ギルドを示す看板があったため、その建物に入る。


 時間帯としては、依頼が張り出される朝方を過ぎた冒険者たちが依頼を受けて出かけている頃合いであり、ギルド内にはそれほど冒険者の姿はいない。


 よく見てみると、内装はバルバド王国の冒険者ギルドとあまり大差なく、入り口から入って左手に受付カウンターがあり、右手にはテーブルと椅子が十数組ほど置かれているスペースがあった。


「いらっしゃいませ、本日はどういった用件でしょうか?」

「冒険者登録を頼みたい」

「では、こちらの書類にご記入をお願いします」


 この世界に来てから何度目の冒険者登録なんだとツッコミが飛んできそうなほどに、登録の手続きを行っている秋雨であるが、戸籍など国民一人一人を認識する詳細なデータが存在しないこの世界では、こういった簡易的な身分証発行のセキュリティに関しては、ざるになってしまうのは仕方のないことである。


「確認します。お名前は、ヒビーノ。特技は、剣ということでよろしいですね?」

「ああ」


 今回の秋雨が取る言動は、いつも通りのぶっきらぼうな態度を取り、名前は苗字の日比野から取って【ヒビーノ】と名乗ることにした。


 前回バッテンガムでは、物腰の柔らかい新人冒険者ムーブを取っていたが、それだといろいろと行動に制限がかかってしまうということで、今回は名前だけ変更ということにしたのである。あと、見た目は変更して青い髪と青い瞳にしている。


「冒険者ギルドについてのご説明は必要ですか?」

「頼む」

「それでは、まず……」


 その後、冒険者ギルドについてのルールの説明を聞く。内容は以前説明されたものと変わりなかったが、初めての登録を装っているため、秋雨は大人しく話を聞いた。


「以上となります。何かわからない点やご質問はありますか?」

「特にはない」

「では、以上となります。最後に、私は冒険者ギルドの職員をやっているパメラと申します」


 それから、簡単な自己紹介を職員がしてくる。名前はパメラといい、栗色のショートヘアーをポニーテールにした二十代前半の女性である。クリっとした黄色の瞳は愛くるしく、何よりも女性として均整の取れた体つきはとても魅力的である。


 今まで出会った女性と比べると、多少胸部は心許ないが、それでもDはあろうかという谷間がブラウスの隙間からちらりと見える。


(いい谷間だ。こういうのでいいんだよ、こういうので!)


 その色香に秋雨も満足のようで、内心でこくりと頷きを見せる。最近なかなか女性の肌に触れられていないため、そういった考えが頭を過ってしまう。


 ただ、余談になってしまうのだが、バルバド王国からマジカリーフに移動している際、何度か盗賊に襲われていた女性を助けたことがあり、そのお助け料として女性の胸を触ったことがあったのだ。


 もちろん、姿を見られないように魔法をかけたうえ幻術を使っていろいろとごまかした状態での犯行であったため、女性本人も秋雨に弄ばれたことに気づいていない。


 それによって多少なりとも彼の女性の体に対する衝動は抑えられているものの、目の前に谷間があれば視線が向くのは男として当然の性であった。


「これから、よろしく頼む。ところで、おすすめの宿を紹介してほしいんだが」

「わかりました」


 そんなピンク色なことを彼が考えているとは夢にも思わず、パメラはおすすめの宿を紹介してくれた。もっとも、秋雨の視線がちらちらと自分の谷間に向けられているのは彼女も気づいていたため、彼がどんなことを考えていたのかは大体バレていたのだが、まだ成人したばかりの少年だということで、あまり嫌悪感は抱かれなかった。むしろ、秋雨くらいの少年に異性として見られたことで、彼女の中の女性としてのプライドが満たされたほどである。若いというのは、何かと徳だということが垣間見れた瞬間であった。


「ここが、パメラの言っていた宿だな」


 諸々の手続きを完了させ、冒険者ギルドを後にした秋雨は、彼女が教えてくれた宿へとやってきた。そこは、ギルドからそれほど離れていない場所で、よく駆け出し冒険者が利用する宿として知られている有名な宿とのことらしい。


 おそるおそる中へと入ると、そこはよくある食事処と酒場を兼用する食堂に、簡易的な受付カウンターがあった。カウンターには、椅子に腰かけ大きな口を開きよだれを垂らしながら居眠りをする妙齢の女性がおり、とてもではないが淑女とは言い難い姿を晒していた。


「がー、こぉー」

「……」


 夜勤明けで疲れているのか、それともただのサボりなのかはわからないが、とても気持ちよさそうに眠りこけている。できればこのまま眠らせてやりたいと考える秋雨であったが、それではいつまで経ってもチェックインができないため、ここは心を鬼にして女性の肩をトントンと叩く。


「おい、起きろ」

「かー、すぴぃー」

「客が来たぞ」

「すぷぷぷぷぷぷぷぷ」

「……なるほどな」


 声を掛けても、両肩を揺さぶっても起きなかった女性に、目を細めた秋雨は、バッグからあるものを取り出す。それは、主に湯を沸かすために用いられ、“薬缶”という漢字から薬・茶などを湯で煮出すまたは煎じるため火にかける道具だ。


 彼が取り出したのは、人々が昔から使用している慣れ親しんだ道具……やかんであった。そして、そのやかんには何故かなみなみ一杯に水が入れられており、彼はそれを女性の口元に持っていき、徐にそれを傾けた。


「ごぼっ、ごぼぼぼぼぼっぼぼぼ」

「いつもより多めに傾けておりまぁーす」

「ごぼぼぼ、ぶはあー!! ご、ごほっ、ごほっ。な、なんだぁー!?」


 当たり前のことであるが、寝ているところにいきなり水を口の中に入れられた状態で寝続けられるはずもなく、口の中に溜まった水を吐き出しながら女性が驚きの声を上げる。


 秋雨はそんな彼女を心配するでもなく、にっこりと笑顔を張り付けて一言口にする。


「おはよう」

「だっ、誰だ!? なんでこんなことをする!?」

「客だ。あんたがなかなか起きなかったから、強硬手段を取らせてもらった。ただそれだけのことだ」


 突然叩き起こされる形になってしまった女性が、秋雨に抗議する。しかし、彼はさも当たり前の処置だとばかりに涼しい顔で返答する。


 それでも、納得がいっていないのか、女性の抗議はなおも続く。


「だからって、寝てる人間の口の中に水を突っ込むやつがあるか!」

「仕事中に居眠りしてるからだ。しかも、俺は二度三度と肩を叩いたり揺すったりおっぱいを揉み揉みしたりしたんだ。最初から口に水を突っ込む真似はしてない」

「……ちょっと待て、今聞き捨てならない言葉が聞こえた気がするんだが?」

「気のせいだ。それよりも泊りたいんだが、部屋は空いているか?」


 あの秋雨が目の前で無防備になっている女性に何もしないわけはなく、女性にとってあまり聞きたくはなかった事実を告白する。


 よく見れば、この女性かなり豊満な体つきをしており、胸もかなり大きい。さすがにミランダほどではないにしろ、Gはあろうかという巨乳であった。そんな女性が隙だらけの状態であるにもかかわらず、あの秋雨が何もしないはずはなく、何かしらの性的な接触をすることは想像に難くない。


 その点について女性も気になるところではあったが、この世界にはセクハラという概念はないということと女性の貞操観念が地球と比べてそれほど高くないため、それ以上秋雨が追及されることはなかった。


「ああ、空いてるよ。一泊食事付きで銀貨五枚だ」

「なら、とりあえず十日分で頼む」


 そう言って、女性に大銀貨五枚を差し出し、それと引き換えに彼女から部屋の鍵を受け取る。


「あたしはベルタってんだ。一応、この宿の看板娘さ」

「そうか、俺はヒビーノだ」


 あんな醜態を晒すような女性が看板娘として相応しいのかは別として、簡単な自己紹介を済ませ、秋雨は早々に部屋へと向かった。
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