115 / 180
第十章 気を付けていても、面倒事はどこからでもやってくる
115話
しおりを挟む「いらっしゃいやせ――おや、あなた様は」
夜が明けると、秋雨はその足でレイヴ奴隷商会へと向かった。目的は、自分に幻術をかけた相手を調べることであり、その手がかりとなるエリスを訪ねることだ。
昨日見た幻術は、エリスの姿に酷似した存在であり、彼女と何か関わりがあると秋雨は考えた。そこで、今一度彼女を調べることにしたのである。
「エリスに会わせてもらえますか?」
「かしこまりやした。こちらへ」
案内に従い、応接室へと通される。そこには簡素なテーブルとソファーが置かれており、特に貴重品などは置かれていない。
しばらく、待っているとエリスが姿を現す。逃げられないようにするためなのか、念のために両腕に手枷をはめられており、秋雨としては少々痛々しい気分になる。
奴隷制度のなかった日本の価値観を持つ彼からすれば、奴隷という存在自体が嫌悪感を抱くものであり、あまり好ましいものではなかった。
異世界ファンタジーでは、艶めかしい女奴隷を買ってキャッキャウフフなイチャコラ展開がよく散見されるが、そういったのは読者を楽しませるためのエッセンスの一つでしかなく、現実にある話ではない。
もちろん、現実でもそういったことを望む人間はいるが、少なくとも秋雨はそういった奴隷を買うという行為はしたくないと考えていた。
(まあ、奴隷の夜伽には興味ありありだけどな)
奴隷自体に忌避感はあるものの、毎夜奴隷が行ってくれる大人の奉仕活動には興味津々で、そのうちそれを目的として奴隷を買いそうな勢いだ。
彼の自制心がいつまでもつのかはさておいて、秋雨はエリスにいろいろと質問を投げ掛ける。ちなみに、彼女は奴隷であるため、ソファーには座らず立ったままである。
「いくつか聞きたいことがあるので、答えられる範囲で答えてくれますか?」
「はい、わかりました」
「あなたが奴隷になった経緯を教えてもらえませんか? そちらの方の話では、以前は別の街の奴隷商会にいたとか」
「……その通りです。ですが、実を言いますと私にもよくわかっていないのです」
「というと?」
そこから詳しい話を聞いたところ、気づいたときにはすでに自分は奴隷として生きており、それ以前にどうやって生きてきたのか、両親は誰でどこの国の生まれなのかすらわからないということらしい。
「唯一わかっていることといえば、名前がエリスということと、夜伽が得意ということだけでした」
「……ああ、そう、ですか(夜伽の情報は余計だな)」
確かに、以前彼女を鑑定したところ房中術と性豪というスキルを持っていたことが確認されている。この二つは、主に夜のアレコレに関するスキルであるため、エリスがそういったプレイに関してテクニシャンであるということは想像に難くない。
だが、それを今ここで言う必要はまったくといっていいほどなく、聞いたところでどうすればいいんだという答えしか返すことしかできない内容だった。
「目が見えなくなったのは最近ですよね?」
「は、はい」
「原因はなんです?」
「前のご主人様が行商人をやっておりまして、その手伝いのため街道を馬車で進んでいたとき、モンスターに襲われたのです。そのとき、たまたま護衛の方が斬ったモンスターの返り血を目に受けてしまいまして……それから目が見えなくなってしまったのです」
「なるほど、それは災難でしたね」
モンスターの血は人間の血とは異なり、人体に有害な物質が含まれていることが多い。そのため、それを目に直接受けてしまうと失明することは避けられない。
運が悪いことに、たまたま護衛がモンスターを斬りつけた際、勢いよく飛び散った血が目に入り、それが原因で目が見えなくなってしまったということらしい。
もともと、夜伽以外には荷物運びや家事などの雑用をやらされていたエリスだったが、目が見えなくなってからは夜の相手以外のことは何もできなくなってしまい、結局役立たずの烙印を押され、捨てられることになってしまったのである。
さて、いろいろとエリスから話を聞いている秋雨であるが、そんなことが聞きたいわけではない。最終的に秋雨はエリスから聞いた話のほとんどを覚えていないだろう。彼の頭の片隅に残るのは、彼女が夜伽が得意というどうでもいい情報のみであることは想像に難くない。
では、彼の本来の目的とは一体何なのか。端的に言えば、何故エリスの魔法の才能が封印されているかということである。
彼が今一度エリスに会うと決意した理由は、自分に幻術をかけた犯人を特定することだ。そして、自分に幻術をかけた相手がエリスではないかと彼は疑っている。
秋雨がエリスを疑っている要因の一つとして、彼が見せられた幻術の姿が彼女に酷似していた点である。そのため、さらに詳しい情報を得るべく、再び奴隷商会を訪れたわけである。
(よし、そろそろいいだろう。てことで【鑑定先生】よろしく)
前回彼女を鑑定した際、そこまで詳細な部分を調べることを怠ってしまった。だが、今回は封印されている部分のさらに深いところを探らなければならないため、その点を重視して鑑定先生に調べてもらった。すると、返ってきた結果に秋雨は目を丸くする。
名前:エリス(天災の魔女ペンドリクス)
年齢:20
職業:奴隷(魔導士)
ステータス:
レベル1(88)
体力 22(封印中 289344)
魔力 5(封印中 367323)
筋力 4(封印中 16342)
持久力 3(封印中 11456)
素早さ 5(封印中 13555)
賢さ 12(封印中 24666)
精神力 20(封印中 27841)
運 2(封印中 18462)
スキル:房中術Lv2 性豪Lv2、家事Lv2、料理Lv1、
封印中のため使用不可(身体制御Lv4、格闘術Lv3、隠蔽Lv5、
炎魔法Lv6、氷魔法Lv6、水魔法Lv6、雷魔法Lv6、風魔法Lv6、
土魔法Lv6、闇魔法Lv5、光魔法Lv5、精神魔法Lv4、生活魔法Lv7)
(Oh……これは、もしかして。エリス自身の中にこの天災の魔女とかいうやつが封印されているってことか? そして、最初に鑑定して出てきた結果が中途半端だったのは、天災の魔女が持っている隠蔽スキルが働いたってところだろうな)
あまりの結果に、秋雨は内心で苦虫を嚙み潰したような顔を浮かべる。やはりというべきか、彼の勘は正しかったようで、エリスの中には【天災の魔女ペンドリクス】という明らかに面倒なことを仕出かしそうな名前の人物が封印されていた。
とある異世界ファンタジーものの小説の中に、人間の瞳に封印され続けてきた魔王がおり、封印を解くことができる力を持った人間が現れるまで虎視眈々と潜伏していたという話が出てくる。
今回の一件もそれに近い状態であり、エリスの中には天災の魔女が封印されており、その封印が解かれるのを今か今かと待っている状態のようだ。
(あの魔王は瞳の中に封印されていた設定だったが、エリスの目が見えなくなったのは最近らしいから、魔女が封印されているのは彼女の身体の中ということになるな)
秋雨は、エリスと店員の二人に気づかれないよう、彼女の身体の周囲を結界で覆い封印を強化してみることにした。だが、そう簡単に事を進めてくれさせそうな相手ではないようで、すぐに抵抗され彼の結界が弾かれてしまう。
(くそ、抵抗しやがった。どうやら、俺に幻術をかけたのはエリスの中にいる魔女でほぼ間違いあるまい。精神魔法がレベル4だし、これほど精神魔法の使い手なんてなかなかいないだろうからな)
自分の結界が弾かれたことに歯噛みしながらも、秋雨はその結果に確信を強める。彼に幻術をかけた存在はエリスの中にいる魔女であり、その目的は言わずもがな自身にかけられた封印を解くことである。
「どうかしましたか?」
「……いや、なんでもないです。話はわかりました。また聞きたいことがあれば、こちらに来ますのでそのときはよろしくお願いします。今日はありがとうございました」
そう言うと、秋雨は店員にいくらかの金を支払い、そうそうにその場をあとにする。
エリスの中にいる禍々しい気配が強くなっており、秋雨の使った結界を見て警戒させてしまったようだ。
(とにかく、今は情報がほしい。図書館で調べてみるか)
現状、天災の魔女に関する情報が乏しく、どういった経緯でエリスの中に封印されているのかがわからない以上、下手に動いて封印が解けるということもある。そのため、秋雨は一度天災の魔女に関する情報を得るため、図書館へと赴くことにした。
210
お気に入りに追加
5,814
あなたにおすすめの小説

家族に無能と追放された冒険者、実は街に出たら【万能チート】すぎた、理由は家族がチート集団だったから
ハーーナ殿下
ファンタジー
冒険者を夢見る少年ハリトは、幼い時から『無能』と言われながら厳しい家族に鍛えられてきた。無能な自分は、このままではダメになってしまう。一人前の冒険者なるために、思い切って家出。辺境の都市国家に向かう。
だが少年は自覚していなかった。家族は【天才魔道具士】の父、【聖女】の母、【剣聖】の姉、【大魔導士】の兄、【元勇者】の祖父、【元魔王】の祖母で、自分が彼らの万能の才能を受け継いでいたことを。
これは自分が無能だと勘違いしていた少年が、滅亡寸前の小国を冒険者として助け、今までの努力が実り、市民や冒険者仲間、騎士、大商人や貴族、王女たちに認められ、大活躍していく逆転劇である。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。


フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる