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第十章 気を付けていても、面倒事はどこからでもやってくる
113話
しおりを挟む(まさか、ミランダがラビラタから追っかけてくるとはな……。一応、想定はしていたが、いざ来られると対応に困るな)
ミランダから逃げることに成功した秋雨は、そんなことを考えながらダンジョンへと向かっていた。
中途半端な別れ方をしたという自覚はあったが、それでもわざわざ追いかけてくるほどとは彼は想像していなかった。
しかし、よく考えてみれば、ミランダとは浅からぬ関係にあり、肉体関係こそなかったものの、昔風に言うところのBは経験済みであり、最終段階であるCまであと一歩というところだった。
なぜかその手前のAをすっ飛ばしてBだけを経験するという特殊な状態ではあるが、とにかく女性側のミランダからすれば、AにしろBにしろ体を許したという事実に変わりはなく、そんな相手が浅い関係だとは思っていなかった。
さらに、イービルトレントとの戦いで、秋雨はミランダの裸を見ており、これも彼女にとっては彼を特別な存在であると認識させるのに一役買ってしまっていた。
この世界は中世ヨーロッパ程度の文化しかなく、日本で言うところの平安時代や戦国時代といった昔かたぎの考え方の人間が多い。
つまりどういうことかといえば、女性であるミランダにとって肌を見せる相手というのは、それこそ生涯の伴侶だけであり、既成事実といっても過言ではない。
もちろん、どんな事案にも不可抗力というものがあり、事故で女性の肌を見てしまうという場面もあるだろう。だが、秋雨の場合は見るどころかがっつりと弄んでしまっている。
そんな相手を昔かたぎの考え方を持っている人間が特別でないと思わない方が不自然であり、ミランダは秋雨を完全にロックオンしていた。
(それにしても、久しぶりに見たが、やっぱいいもん持ってやがるよミランダは)
そんなことになっていようとは夢にも思わず、秋雨は久しぶりに見た彼女の胸を称賛していた。
鍛え抜かれた体つきに揉み応えのある二つの乳房は見栄えが悪くなるかならないかという大きさで、その比率は絶妙の一言に尽きる。まさに黄金比率といってもいい胸とくびれた腰つきは妖艶という言葉がふさわしい。
王都に来てからの秋雨は、さらに慎重な行動を心掛けるべく変装と同時に、女性に対する執着……特に胸に関しての執着を極端に抑え込んでいる。普段からオープンにしてきたものを抑え込むというのは、本人からすればストレスの溜まる行為であり、王都に来てからというもの、秋雨は娼館の世話になろうかという考えが何度も浮かんだ。
だが、自身がグリムファームやラビラタで活動していた冒険者であるということを結び付ける要素を排除するべく、自主的な禁欲生活を行ってきたのである。
客観的に見て秋雨は性に対しては奔放であり、好みの女性に対し無遠慮な視線や言動を繰り返している点からも、ドスケベ……もとい、性的好奇心が強いことが窺える。
そんな人間が半月以上もそういった言動を制限しているとすれば、そろそろ限界が来てもおかしくはない。
それが証拠に、ミランダと再会したことで抑え込んでいた性への欲求が無意識に出てしまい、その意図が彼女に伝わってしまったほどである。
(いっそのこと、ミランダにだけ正体をバラしてしまうか? イービルトレントから命を助けた恩があるから、あいつのおっぱいは揉み放題だしな)
人はそれを恩着せがましい脅迫行為と呼ぶ。いくら命を助けられたからといっても、そういった行為は常識的に考えて恋愛関係にある恋人同士または結婚している夫婦間で行われるのが望ましい。
“お前の命を救ってやったろ? なら、どうすりゃいいかわかってるよなぁ?”などという台詞は、物語に登場する悪役だけが許されている言葉であって、決してまともな人間が口にしていいものではない。
もっとも、それはそれとして秋雨という人間がまともな人間に分類されているのかという別の問題が上がってくるのだが、今取り沙汰されているのは彼がまともであるかどうかという点であるため、今はあえてスルーする。
少なくとも、秋雨は極悪人ではない。おっぱいに対して異常なまでの執着を見せてはいるものの、それは男であれば誰しもが持ちうる嗜好である。
(いや、早まるな。漢秋雨、ここで目の前の誘惑(おっぱい)に打ち勝てずしてなんとするか! だが、うぅむ……揉みたい)
辛うじて口には出ていないものの、その邪な欲望は隠しきれておらず、手をわきわきとした仕草を取っている。幸いなことに人通りの少ない路地を歩いていたため、そのようないかがわしい行為を目撃されることはなかったが、仮にその姿を見られていたならば、積み上げてきたイメージが一気に瓦解するほどに、彼の手つきはいやらしかった。
そんなことを秋雨が考えながら歩いていると、彼の進行方向から人の争う声が聞こえてくる。それはどうやら二人の男と女のようで、女が男に何か縋るように頼み込んでいるようにも見える。
「お願いします! 何でもしますから、見捨てないでください!!」
「けっ、目の見えなくなった役立たずのお前を傍に置く気はねぇよ! 今のお前ができることなんて、夜の相手くらいだろうが!!」
女の見た目は、二十代前半くらいのすらっとした体型をしており、身長も女性にしては高く百六十センチ後半くらいある。薄い青色の髪に目には布が巻かれており、男の言動から最近目が見えなくなったらしい。
体つきは貧相で、特に胸部については僅かな膨らみは認められるものの、男を欲情させるほどの大きさはなく、はっきり言ってしまえばまな板である。
(ふむふむ、ちっぱいというやつか。肉厚なデカ乳もそそるが、慎ましやかなおっぱいもまた趣深いものがある)
誰が言ったか知らないが、世の中にはこういう格言も存在する。
“女性の胸に大小の違いあれど、その価値に貴賎なし”
この世界にやってきて秋雨が興味を示してきたおっぱいは、そのほとんどが巨乳であった。だが、彼の中では大きいおっぱいだろうと小さいおっぱいだろうとどれも等しくおっぱいなのである。
これも誰かが言っていたが“大きなおっぱいは包まれたいが、小さなおっぱいは包んであげたい”と。秋雨もまたそういった考えを持ち合わせており、女性の胸という一点において彼はその大小に関わらず平等の慈愛を持って誠実に向き合っていた。
……とまあ、いろいろと脱線しまくったが、結局のところ何が言いたいのかというと、秋雨は今目の前で捨てられそうになっている女性に少しばかり興味を持ったのである。
「それでも構いません。後生ですから!」
「じゃあな役立たず。今まで使ってやったこと感謝することだ」
そう吐き捨てるように言い放つと、男は女を置いて去って行った。男が去る最後まで女は縋るように叫んでいたが、目の見えない彼女では男を追いかけることすらできない。
やがて自分が置き去りにされたことに対し、女はその場ですすり泣き始める。その光景は見ていてあまり気持ちの良いものではない。
そして、秋雨はそんな彼女を見て、何か違和感のような感覚に襲われる。それは、彼が持つ野生の勘というべきものであり、特に自分に対する危険察知に用いられることが多い。
しかし、今回の場合は今までとは何か違う感覚であり、近い表現として彼は心の中でその違和感の具体例を挙げた。
(なんだろう。よくわらかんが、この感覚はあれだ。モンスターの群れを倒したときに一匹だけむくりと起き上がってきて「仲間になりたそうにこちらを見ている」と言われたときの感覚にそっくりだ)
某国民的RPGにモンスターを仲間にして戦う育成もののゲームがある。そのときの有名なシチュエーションと似たような状況が重なり、秋雨は内心で困惑する。
まるで神のお告げか何かのように「この人と一緒に行動するといいことがありますよー」と誰かが宣っているかのようだ。
ひとまず、女のことを知るために秋雨は彼女に鑑定を使ってみた。すると、とんでもない結果が表示される。
名前:エリス
年齢:20
職業:奴隷
ステータス:
レベル1
体力 22
魔力 5(封印中 367323)
筋力 4
持久力 3
素早さ 5
賢さ 12
精神力 20
運 2
スキル:房中術Lv2 性豪Lv2、家事Lv2、料理Lv1、
封印中のため使用不可(炎魔法Lv1、氷魔法Lv1、水魔法Lv1、雷魔法Lv1、
風魔法Lv1、土魔法Lv1、闇魔法Lv1、光魔法Lv1、精神魔法Lv1、生活魔法Lv1)
(なん、だと!? 馬鹿な。あり、えない。房中術に性豪のダブルパンチなど、まさにセ〇クスマシーンとでもいうのか!? ああ、あとなんか封印されてるな)
着目するところが大幅にずれているものの、ひとまずは女が特殊な状態にいるということは伝わったようだ。
どういった経緯でそうなってしまったのかまではわからないが、女にはとてつもない魔法の才能があり、それを知った何者かが封印したということは彼女の状態からなんとなく想像できる。
(これが違和感の正体か。ここまで魔法の才を持っているのは俺以外では初めてだな。どうする? 才能はあるみたいだから封印を解けば使い物にはなる。だが、今まで一人でやってきた生活を手放すということになるぞ)
この世界にやってきてからというもの、秋雨はずっと一人で生きてきた。彼自身、この生活を気に入っており、まだもうしばらくは一人で行動したいと思っている。
よく異世界ものの小説でたくさんの可愛い女の子に囲まれてキャッキャウフフなハーレムを築く主人公がいるが、あんなものは読者に媚を売っているとしか思えない現実ではありえない展開である。
実際、そういった主人公たちは口々に「目立ちたくない」と言って、自分の規格外な能力を隠して行動している。だが、ちょっとばかし可愛かったり美人な女性が困っていると、その能力をフルに発揮して場合によっては命懸けで助けたりする。
しかし、現実にはそんな状況になったとしてもすぐにそういった結論を秋雨は出さない。仮に困っている女性を助けたとしても、女性が主人公に恋をするとも限らない。場合によっては都合よく利用されて用がなくなればお払い箱にされる可能性すらある。
それが現実であり、小説のような「異世界でハーレムを作って自由な生活を送るぜ」という展開になること自体がおかしいのである。
(とりあえずは、このまま彼女を放っておくという選択肢はなしだ。一旦、奴隷商会にでも連れていくか)
目先の問題として泣いている女性を放っておくということはできないと考えた秋雨は、奴隷である彼女をどうするかという判断を奴隷商会に委ねることにしたようだ。
「あのぅー、大丈夫ですか?」
「っ!? だ、誰ですか?」
急に声を掛けられたため、女性の身体がビクッと跳ね上がる。恐る恐るといった様子で問い掛けてくる彼女に、秋雨はできるだけ優しい声で話し掛ける。
「通りすがりの者です。何かお困りのようでしたので、声を掛けました。見たところ奴隷のようですが、間違いないですか?」
「は、はい」
「主人はどちらに?」
「……」
一応、ずっと見ていたということを隠すため、彼女にいろいろと質問をする。そして、奴隷の契約主の場所を聞いたところで、女性が押し黙ったタイミングで、彼女に提案を持ちかける。
「とりあえず、ここではなんですから奴隷商会に行きましょう。よろしいですか?」
「……はい。わかりました」
彼女を説得する形で、秋雨は一度彼女と共に奴隷商会へと向かうことになった。
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