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第八章 ダンジョンの最下層
94話
しおりを挟む「おらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおら」
「グギ」
「ベガッ」
「キシャー」
「クケェー」
「邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だぁぁぁぁぁあああああ」
ミランダが慎重な行動を心掛けている中、それとは反対に秋雨は絶賛進撃中であった。圧倒的なスピードでダンジョンを踏破していき、現在十八階層を行軍中である。
当然だが、そんな状態でもモンスターの襲撃がないはずもなく、彼に気付いたモンスターたちが彼に襲い掛かってくる。
しかしながら、まるで暴走機関車ばりの速度で進行する秋雨を止めることはできず、一瞬にして肉塊になり果てるかわいそうな結末を迎えていた。
もちろん、今の秋雨が取っている行動は一刻も早くミランダを救出するための緊急措置であり、普段の彼からすればありえない行為である。
「はい、十九階層ぉー。次、二十階層ぉー!」
秋雨のダンジョン攻略スピードは尋常ではなく、一つの階層を踏破するのに五分とかかっていない。それだけ今の彼の行軍スピードが異常であり、誰も彼を止めることはできないのだ。
「ボス部屋か」
そして、ボス部屋と呼ばれる特定の階層に君臨するモンスターがいる部屋へと到達する。ボスは十階層ごとに存在し、十階層のボスはダンジョンマンティスの上位種であるキラーマンティスであったが、今の秋雨がその程度の相手でどうこうされるはずもなく、一撃のもとに瞬殺している。
「おじゃましまーす。ふーん、ハイオーガとオーガの群れか」
ボス部屋に入ると、そこには通常のオーガよりも一回り巨大なオーガと、通常サイズのオーガの群れが待ち構えていた。通常サイズといっても、二メートル半もある巨体で決して小さいわけではない。
「邪魔。【氷結の霧(アイスミスト)】」
すぐに決着をつけるべく、オーガたちを視認した秋雨は氷系の魔法を使い、すべて氷漬けにしてしまう。あとに残ったのは氷の彫刻と化したオーガたちの姿であり、秋雨と戦うことなく生命活動を停止してしまった。
「塵と砕けよ。【空砲弾(エアーブリット)】」
空気の弾丸で相手を攻撃する魔法を使い、氷漬けになったすべてのオーガたちを粉砕する。まさに、オーバーキルであった。
ボスを倒したことで次の階層に行けるようになり、秋雨は足早に次の階層へと向かう。
「一応、転移魔法陣には触れておかないとな」
転移魔法陣を利用するためには、その都度各階層の転移魔法陣に触れなければならず、念のため秋雨は各階層の転移魔法陣に触れていた。
「さて、こっからは許可されてない階層だが……」
転移魔法陣を使えるようにした秋雨は、次の階層に行くための扉に視線を向ける。そこには大きな扉があり、二十一階層に続く階段がある。だが、問題はその扉だ。
冒険者ギルドは、冒険者のランクに応じて攻略可能なダンジョンの階層を制限しているのだが、どこの世界にも不正をしようとする輩は存在する。当然ギルドの定めたルールを守らず、許可されていない階層へと足を踏み入れてしまう者もいるのだが、そういった連中は軒並み処分されている。
では、冒険者ギルドがどうやって不正したのかを判定するのかといえば、鍵となってくるのは今秋雨が見ている扉である。
ギルドは五階層や十階層などといった節目となる階層に新しく特殊な扉を設置し、許可されていない冒険者がその扉を通ると、所持しているギルドカードに特殊なマークが刻まれるというシステムを採用している。
当然、そのシステムは秘匿情報であり、ギルド内でもギルドマスタークラスの人間しか詳細は知らされていない。
「なんかこの扉不自然だな。【鑑定先生】」
だが、ありとあらゆるものを見通してしまう秋雨の鑑定能力の前では何の意味もなく、その扉が不正チェックのために設置されたものであるということをすぐに看破する。
そして、その概要をなんとなく理解した彼は、とんでもない方法でそのシステムを掻い潜ろうとした。
「扉を潜るとマークが付くなら、扉を潜らなければいいじゃない」
どこぞの王女が言ったようなセリフを口にしつつ、秋雨は扉のすぐ横の壁に手を当てる。そして、土属性の魔法を使い人ひとりが通れるくらいの穴を開け、扉を迂回するように穴を繋げた。
そう、秋雨が取った策とは、彼が口にした通り“扉を潜らないように壁に穴を開けて、そこから侵入する”という実にシンプルなものであった。
「よし、マークはついてないな」
さすがにギルドもこういった手段を取ってくることを想定しておらず、迂回したあとギルドカードを確認しても不正を行ったことを表すマークはついていなかった。
「この方法を使えば、ランクを上げなくてもダンジョン攻略ができそうだな。ふふふ……いいぞぉ。おっと、今はそんなことを考えている場合じゃないな」
新しい実力隠しの方法を確立した秋雨は、口端を吊り上げ悪い笑顔を浮かべる。しかし、ミランダを助けに向かっていることを思い出し、すぐに真顔に戻る。
「待っていろ。素晴らしいおっぱいを持つ女よ。お前のおっぱいは俺が助ける」
もはや、ミランダの存在意義がおっぱいだけになっているという事実はさておいて、秋雨は証拠隠滅のため開けた穴を元に戻して再びダンジョンを突き進む。
ここからは、ラビラタのダンジョンの中でも下層に位置する階層であるため、モンスターの強さや設置されている罠のレベルが格段に跳ね上がる。そのため、ギルドはその危険性を考慮し、Bランク以上でなければ攻略することを許可していない。
「どけ」
「ビギャ」
そして、登場するモンスターの中には毒を持つ個体も混じっており、これから秋雨が攻略する下層はラビラタのダンジョン内で最高の難易度を誇っている。
「邪魔」
「キシィー」
誇っている。
「鬱陶しい」
「ギュルルル」
誇っている……はず。
「お前はもう、死んでいる」
「ギャベシィー」
……。
誇っているはずなのだが、どうやら秋雨の実力の前では特に問題なく進めている様子だ。
スチールスライムを二匹撃破したことによるものなのか、かなりのレベルアップを果たしている彼にとって、Bランク程度のモンスターでは苦にならない様子だ。
その後、秋雨の快進撃は留まることを知らず、圧倒的な実力を見せつけつつ、ダンジョンを突き進む。
今までの道中、冒険者の姿がちらほらと見受けられたが、そこは光学迷彩を駆使することで姿を隠している。そういった意味での安全策は完璧なのである。
「二十九階層まできたが、いないみたいだな」
「ブモォー」
圧倒的な攻略スピードで、ついにミランダが落とされたと推測される二十九階層へとやってきた秋雨であったが、そこに彼女の姿はなかった。
その代わりに彼を出迎えてくれたのは、筋骨隆々の肉体を持ったミノタウロスであった。
「うるさい」
「ブ、ブモ――」
そんなミノタウロスにイラついたのか、手を翳すと瞬く間にミノタウロスの体が氷漬けになる。もはや詠唱どころか魔法名すら口にすることなく魔法を行使する秋雨だが、この世界の魔法使いにとってそれがどれだけ異常なことなのか彼は気付いていない。
そんな事実など知らぬ存ぜぬとばかりに、おっぱ……もとい、ミランダを求めてさらに奥へと進む。向かってくるミノタウロスやバトルスタリオンを蹴散らすと、ついに三十階層へとやってくる。
「一本道か」
三十階層は長い廊下のような直線が続いており、モンスターの類も出現しないようだった。そして、ラビラタダンジョンの最深部に到達した秋雨は、自身の目を疑うような光景を目の当たりにした。
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