悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号

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第六章 料理と錬金術と強敵と治療

58話

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 時は秋雨とレブロが初邂逅を果たしてから十二日後のこと、現在グリムファーム支部冒険者ギルドのギルドマスターであるレブロは王都【バッテンガム】の冒険者ギルド本部にある会議室にいた。


 目立った調度品など一切なく、十数人から使用する長いテーブルと十数脚の背もたれ付きの椅子だけが設置されていた。
 今日は、年に一度開催されるバルバド王国内にある主だった冒険者ギルドのギルドマスターたちが、ギルド本部のある王都で情報交換を目的とした定例報告会が開かる日であった。


 椅子に座っている人物たちは、誰もが現役時代にその名を轟かせた強者ばかりであり、会議室内には異様な空気が漂っていた。


「それでは、以上で今年のギルドの方針は決定されました。他に何かございませんか?」


 テーブルのちょうど中心に座っている女性がそう問いかける。
 彼女こそ、冒険者ギルド本部のギルドマスターであり、元Sランク冒険者という輝かしい実績を持つ人物であった。


 アネット・トールボット。バルバド王国の貴族として名を馳せているトールボット家の三女で、当主が女性という貴族の中でも珍しい家の出自でもある。
 肩に掛からない程度の薄い青色の髪に、同じく薄い青色の瞳をもつ三十代くらいの女性で、纏っている雰囲気は女性独特の柔らかいものではなく、差し詰め女性騎士を彷彿とさせる。


「俺から少しいいだろうか?」


 そんな彼女の問いかけに、レブロが手を上げて応える。
 アネットはそんな彼の行動を肯定するように頷きその先を促す。


「実は、先日とある少年がうちのギルドで冒険者登録をしたんだが、どうもそいつの行動が怪しくてな……」


 それからレブロは今までの経緯を掻い摘んで話すと、それを聞いていた者の顔色が怪訝なものに変わっていった。
 他の冒険者が酔いつぶれた頃合いを見計らってギルドにやってくることや、ギルドマスターである自分との接触を極端に拒絶していること、ヒュージフォレストファングの出現の情報が出回ってしばらく経ったある日、件の少年が出入りしている商会からヒュージフォレストファングの素材が販売されたこと等々、とても登録したばかりの新人冒険者が取る行動としては常識の範疇を超えている内容の数々を説明したあと、レブロは自分の考えを口にする。


「俺の見立てでは、おそらく奴はAランク相当の実力を隠していると見ている。だが、どうにも尻尾を出さなくてどうしたものかと思ってな……」


 レブロの言葉に一同が騒然とする中、会議室にある人物の声が響き渡る。


「けっ、何がAランク相当の実力者だ。レブロ、てめぇ事務仕事ばっかりやってて焼きが回ったんじゃねぇか?」

「ガドリス……」


 レブロが声を掛けられた相手の名前を呟きながら思わず顔を顰める。彼に対し今も敵意剥き出しな態度を取っているのは、バルバド王国北部に位置する都市【ヴェルバラ】にある冒険者ギルドのギルドマスター、ガドリス・チェイスである。


 レブロと同じ元Aランク冒険者であり、現役時代はお互いにしのぎを削り合った所謂ライバルである。
 二メートルに届くかというほどの巨躯に、筋骨隆々な体つきは身体能力で優れた獣人にも引けを取らない。真っ赤な短髪に猛禽類を思わせる鋭い目つきを持ち、顔には現役時代に付けたのか大きな傷がある。年の頃はレブロと同世代ということもあり四十代と若くはないが、その体つきは今もなお現役の戦士であるということを思わせる。


「“飛翔”のレブロも堕ちたもんだな、たかだかこそこそ動き回る小物程度の新人にビクついてんだからよ」

「……その二つ名はもう捨てた名だ。いつまでもそんなことにこだわってるのは成長してない証拠だな」

「……なんだと」


 レブロの険のある物言いにガドリスの態度が急変し、その視線に殺気が混じる。だが、レブロ自身も元Aランクということもあり、真っ向からその視線を受け止める。殺気交じりの高ランク冒険者同士に視線がぶつかることでその場は騒然となるが、アネットが手を二回打ち鳴らすと全員が彼女に注目する。


「現役時代から仲が悪かったと聞いていますが、今はお互いギルドマスターという責任ある職に就いているということをお忘れなく。我々はもう現役時代のように自由に動くことはできないのですからね」

「ちっ」

「わかっています」


 レブロとガドリスの二人を窘めたアネットであったが、その言葉にどこか寂しい感情が含まれていた。しかし、その感情を読み取ることができた人間はその場にはいなかった。
 そして、その場が収拾したのを見計らって女性が声を上げる。


「その新人冒険者の坊やだっけ、あたしが鑑定してみようか?」


 その言葉にレブロが視線を向けると、そこには見知った顔があった。アイリーン・ドルチェ・レンブラン。彼が、現役時代最後に組んでいたパーティーの元仲間であり、現在は商業都市【コンマーク】のギルドマスターを務めている。


 見た目の方は二十代中盤ではあるものの、実際その数倍は生きている生き字引で、艶のある褐色の肌と尖った長耳は彼女がダークエルフだという証でもある。薄紫色の髪に黄色い瞳を持ち、その顔立ちは作られたように整っている。女性として均整のとえれた体つきは世の男を手玉に取れるほどのナイスバディをしている。


「アイリーンか、確かにお前の鑑定ならあの小僧の鼻を明かせるかもしれんな。だが、そのためにはグリムファームに足を運んでもらうことになるんだが問題ないのか?」

「構わないわ、他でもないあなたの頼みだもの……」


 そう言ってしなを作りながら、熱い視線をレブロに向ける。何を隠そう、彼女はレブロに並々ならぬ思いを抱いており、レブロが結婚してもなおその想いは変わっていないらしい。彼が結婚してからしばらく妾でいいから側において欲しいと懇願していたのだが、妻一筋であった彼が丁重に断った過去があった。


「……」

「うふふ」


 できることなら彼女に借りは作りたくないとレブロは考えていたのだが、彼女は王国内でも一、二を争うほどの鑑定能力を有しており、現役時代の彼女のランクはBランクだったが、その能力を買われてギルドマスターに就任した経歴を持つほど優秀な人材だ。


「あー、コホン。どうやら、今後の方針が決まったようだ。では、アイリーンはレブロと共にグリムファームに赴き、件の少年を鑑定を頼む」

「承りましたわ」

(彼女に頼むのは仕方ないとして、グリムファームの道中夜這いを掛けられんよう注意しないとな……)


 秋雨の今度の対応についての方針が決まったことに安堵するレブロだったが、その道中で貞操の危機が迫っていることを予感して、余計な心配をしなければならないことに内心でため息を吐くのであった。


 余談だが、グリムファームの道中にアイリーンが夜這いした回数は七度であったが、その七度とも彼女を毛布で簀巻きにすることで難を逃れたらしい。






 秋雨がヴェルカノから帰還して一週間が経過していた。
 その間に彼がやっていたことといえば、相も変わらず素材の採集と狩りである。


 しかしながら、今回のケイトが攫われた一件で、自分の周囲にも危険があるということを再認識した彼は、薬草採集の合間にモンスターを狩る名目でレベル上げも同時に行っていた。それと並行する形で、創造魔法いによる魔法の開発も行っており、新たな魔法を修得していた。


 この一週間の成果を改めて確認するため秋雨は自身に鑑定を掛け現在の状態を表示させた。



 名前:日比野秋雨

 年齢:15

 職業:冒険者(Gランク)

 ステータス:


 レベル13


 体力 263479

 魔力 268651 

 筋力 2534

 持久力 1988

 素早さ 3376

 賢さ 4090

 精神力 2785

 運 5034


 スキル:成長促進Lv2、身体制御Lv3、格闘術Lv4、採集術Lv5、剣術Lv2


創造魔法Lv5、料理Lv1、錬金術Lv1、鑑定Lv5、

炎魔法Lv4、氷魔法Lv4、水魔法Lv4、雷魔法Lv4、

風魔法Lv4、土魔法Lv4、闇魔法Lv4、光魔法Lv4、

時空魔法Lv5、分離魔法Lv6、精神魔法Lv3、生活魔法Lv4



「……ありえないほど強くなってるんだが?」


 まず、レベル自体は3から13と上がり幅は10だけだが、レベル1毎の上昇率がぶっ壊れていた。女神サファロデからチート能力として丈夫な体を貰っているとはいえいくらなんでもやりすぎだろうと秋雨は苦笑いを浮かべてしまう。


 次に新たにスキルが追加され、【成長促進】、【身体制御】、【格闘術】、【採集術】、【剣術】が追加されている。


 それぞれの説明としては、レベルが上がる度にステータスの上昇に補正が掛かるのが【成長促進】で、戦闘時において肉体の力のコントロールができる精度が上昇するスキルが【身体制御】、【格闘術】・【採集術】・【剣術】はほぼ名前の通りの能力だ。


 これもすべて採集とモンスターを狩るという行為を一週間ひたすら続けた成果というべきものであったが、さらに化け物になってしまった自分に複雑な思いの秋雨であった。


 魔法関連ではまだ手を付けていない【料理】と【錬金術】以外軒並み上昇していて、新たに範囲系と一点集中型の魔法を各属性ごとに修得した。新しく追加されている【精神魔法】は【記憶編集メモリーエディター】や【記憶精査メモリースキャン】に分類する魔法をまとめたもので、【生活魔法】は汚れた服や体を清める【清浄化クリーンプリフィケーション】やちょっとした火や水を出す属性魔法の簡易版のような魔法であった。


「まあ、いつ強敵が襲ってくるとも限らないからな、こういった所は自重しない方がいいな」


 ちなみに秋雨がレベル13なのはグリムファーム近郊のモンスターのレベルが低いためであり、もう少し強いモンスターが出現する地域にいけばレベル20になっていただろう。
 さらにこの一週間で狩ったモンスターの素材はジャレーヌ商会で全て買い取ってもらっており、ちょっとした小金持ちになっていた。


 素材を買い取ってくれたマーチャント本人も、分離魔法によって綺麗に解体された高品質の素材とあってほくほく顔で喜んでいた。逆にこれだけの素材を買い叩いていることに罪悪感を覚えてさえいたほどだった。


「さて、今日からほったらかしだった【料理】と【錬金術】に手を出していこうかね」


 そう独りごちた秋雨は、ベッドから腰を上げるとそのまま街の市場へと繰り出していった。
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