34 / 180
第三章 ヒュージフォレストファング
34話
しおりを挟む「よし、冒険者ギルドに到着っと……やっぱ便利だよな【転移魔法】」
時間は午前三時半、秋雨にとってはもはや日課となりつつある時間帯だ。
秋雨は今、冒険者ギルドの前に立っていた。だが先ほどまで、自身が泊っている【白銀の風車亭】から出た通りの前にいたのだが、この一瞬のうちに冒険者ギルドのスイングドアの前まで瞬間的に移動していた。
それを可能としたのは、彼がこの三日間の間に新たに修得した【転移魔法】によるものだ。
転移魔法とは、ある地点から任意に指定した地点まで時間を掛けずに移動する移動魔法の一種で、某国民的RPGであるドラ〇ンクエ〇トに登場する【ルー〇】という魔法が最も有名だ。
だが、行きたいところに一瞬で行けるという絶大なるメリットはあるのだが、デメリットとして一度行ったことがある場所に限られている。
転移魔法としてはよくある制限ではあるので、それを不便に感じることはないが、活動拠点がグリムファームだけの今の秋雨にとっては、まだその力を十全に活かしきれてはいなかった。
他にも今後冒険者活動において必要になってくる魔法を色々と覚えたが、いずれ披露する機会が巡ってくるので、ここでは敢えて言及しないでおこう。
そんなことを考えつつ、いつものように冒険者ギルドへとやって来た秋雨は、これまたいつものようにスイングドアの下の隙間から匍匐前進で侵入したのかと言えば、今回は普通にスイングドアから入っていく。
(流石に毎回毎回匍匐前進は精神的にキツイもんがあるからな、それに【鑑定】先生曰く、普通に入っても問題ないって言われたし)
そう、この三日の間に秋雨はスイングドアから入っても何ら問題はないということに気付いた。
いくら秋雨が慎重派の人間でも、毎回ギルドに顔を出す度に服をホコリ塗れにするのは、気分的にもあまり気持ちのいいものではない。
そんな風に考えていた時に、【鑑定】先生の能力についてとある仮説が浮かんだのだ。
女神サファロデから【鑑定】の力をもらう際、秋雨は彼女に「どんなものでも見透かしてしまう鑑定能力が欲しい」と頼んでいた。
この“どんなものでも”というのは、この世界の常識からお金の価値に至るまでの知識はもちろんの事、モンスターや人物の強さやスキルも見透かすという本当の意味でのチート能力であった。
試しに秋雨が冗談で、白銀の風車亭の看板娘であるケイトのスリーサイズを教えて欲しいと【鑑定】先生にお伺いを立てたところ、すぐに答えが返ってきたので慌ててキャンセルしたくらいだ。
ちなみに秋雨がケイトのスリーサイズのうち不可抗力で聞いたのは、身長とバストサイズの十の位までであった。
そんな何でも教えてくれる鑑定先生(もはや彼の中ではその呼び方が定着している)であれば、“未来予測もできるのでは?”と秋雨は考えたのだ。
そして、その仮説を実証すべく、試しに“冒険者ギルドのスイングドアを普通に押して入ったら、何かトラブルは起きるか?”という問いに対し、鑑定先生から“NO”の答えが返ってきたため、それを聞いてから秋雨は匍匐前進を止めることにした。
もし秋雨が鑑定先生にその事を聞かなければ、彼はこの先も匍匐前進を続ける羽目になっていたことだろう。
そんなことにならなくて済んだ秋雨は、鑑定先生に心の中でお礼を言いながらいつもの受付カウンターへとやって来た。
カウンターには既にベティーがスタンバっており、秋雨が来たのを視認すると、べこりとお辞儀をして挨拶をする。
「いらっしゃいませ、冒険者ギルドへようこそ。アキサメさん、本日はまた買い取りでしょうか?」
「ああ、これを頼む」
秋雨はベティーにそう言うと、いつもの茶色がかった麻袋を投げて寄こす。
その中身といえばいつもの通り、ブルーム草5本、ジュウヤク草3本、ボルトマッシュルーム1本というラインナップだった。
「いつも同じ量なんですね」
「採り過ぎはあまりよくないだろ?」
「そりゃそうですけど、可能であればもう少し多めに採ってきてもらっても大丈夫ですよ? 実はアキサメさんの持ってきてくれる薬草の質が良くてですね、薬師の方から「もっとないのか?」とせっつかれてるんですよねー」
「……そうか」
秋雨は内心で舌打ちをした。
どうやら自分の預かり知らぬところで、悪目立ちしていたようで秋雨はその事に焦りの感情を内心で浮かべる。
(くそ、そんなとこでも目立っていたのか、でも薬草を納品しないと金が稼げないしな……)
わざと品質を落としたものを出すことも視野に入れつつ、今後の対策を考える秋雨だったが、今回の目的はいつもの薬草換金とは別にあったので、早速それを実行に移すことにした。
そう覚悟を決めた秋雨は、あの素材を出す前にベティーに一言声を掛けた。
「ベティー」
「なんでしょうか?」
「こう、口に手を当ててくれないか?」
「こうですか?」
秋雨の要請に素直に従い、自分の口を手で覆い隠すベティーを確認し、さらに念を押す。
「いいか? 今から出す素材を見ても、決して驚かない事、いいな?」
「はい、わかりました」
手で口を押さえているため、多少くぐもった声になっているが、ちゃんと返事が聞こえたため、秋雨は懐からとある素材をカウンターに置く。
「!?」
口を押さえた状態であったため、ベティーの悲鳴に似た驚きの声はギルドに響き渡らなかったものの、それでも秋雨には彼女が明らかに驚愕しているのがわかった。
秋雨は出したのは、今日仕留めたフォレストベアーの討伐証明部位である【フォレストベアーの爪】だった。
「これって、フォレストベアーの爪じゃないですか? どうやってこれを?」
「実は……」
秋雨は掻い摘んで説明した。
いつものように薬草を採集していると、満身創痍のフォレストベアーが目の前に現れたと。そして、必死に逃げ回りながら相手の様子を窺っていると、どうやらすでに致命傷を誰かに与えられていたらしく、しばらくしたら動かなくなってしまった事を説明した。
「とまあそういうわけで、実際俺が倒したわけじゃないんだが、その素材を手に入れることができたんだ。自分の実力で倒したわけじゃないから持って帰るか迷ったが、せっかく手に入れるチャンスが目の前にあるならって事で持ってきた」
お分かりかと思うが、当然秋雨の説明は嘘である。
冒険者として登録したばかりの新人が、Eランクのフォレストベアーを単独で狩るなど常識的に考えて不可能であった。
そこで秋雨が考えたのは、すでにフォレストベアーが致命傷を負っていて、逃げ回っていたら元々与えられていた致命傷が原因で絶命してしまった事にしたのだ。
所謂一つの言い訳に過ぎなかったが、駆け出し冒険者である秋雨がフォレストベアーの爪を持ち込んだ理由としては十分だったようで、ベティーはそれ以上の詮索をすることなく換金の手続きに入った。
「では今回の買い取り金額ですが、いつもの薬草が大銅貨3枚に銅貨1枚、そしてフォレストベアーの爪が大銅貨7枚で買い取らせていただきまして、合計銀貨1枚と銅貨1枚になります」
「それで構わない」
そう言うとすぐさま支払を済ませると、秋雨はベティーに言い含めるように念押しする。
「いいかベティー、今回のフォレストベアーの素材はたまたま偶然が重なった事で手に入れられたもんだからな、そこのところ誰か他のギルド職員に聞かれたらちゃんと説明してくれよ? 特にギルドマスターには可能な限り黙っててくれ」
「わかりました。できる限り事の顛末を正確にお伝えしますが、ギルドマスターに黙っている事は難しいかと思いますよ? 今もアキサメさんに会いたがってますし」
「なら聞かれたら、今回はたまたま偶然が重なったとだけ伝えておいてくれ。それからギルドマスターに会いたいと言われたら俺が「諦めろ」と言っていたと伝えてくれ」
秋雨はベティーにそう伝えると、踵を返してその場を後にしようとするが、そこで何かを思い出したらしく再び受付カウンターに戻り口を開く。
「そう言えば、ヒュージフォレストファングが出たらしいな」
――――――――――――――――
フォレストベアーの素材を売ってよかったのだろうか……
155
お気に入りに追加
5,812
あなたにおすすめの小説
称号は神を土下座させた男。
春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」
「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」
「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」
これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。
主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。
※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。
※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。
※無断転載は厳に禁じます
転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
家族に無能と追放された冒険者、実は街に出たら【万能チート】すぎた、理由は家族がチート集団だったから
ハーーナ殿下
ファンタジー
冒険者を夢見る少年ハリトは、幼い時から『無能』と言われながら厳しい家族に鍛えられてきた。無能な自分は、このままではダメになってしまう。一人前の冒険者なるために、思い切って家出。辺境の都市国家に向かう。
だが少年は自覚していなかった。家族は【天才魔道具士】の父、【聖女】の母、【剣聖】の姉、【大魔導士】の兄、【元勇者】の祖父、【元魔王】の祖母で、自分が彼らの万能の才能を受け継いでいたことを。
これは自分が無能だと勘違いしていた少年が、滅亡寸前の小国を冒険者として助け、今までの努力が実り、市民や冒険者仲間、騎士、大商人や貴族、王女たちに認められ、大活躍していく逆転劇である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる