悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号

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第三章 ヒュージフォレストファング

33話

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 秋雨が初めて冒険者ギルドで素材を換金してから三日後、彼は再び森を訪れていた。
 あれから早朝に森で薬草採集をし、真夜中にそれを換金するという生活リズムが形成されつつあった。


 ちなみにこの三日間の間に、秋雨はフォレストウルフを七匹ほど狩っており、討伐証明部位の牙はギルドに提出している。
 残った死骸はギルドで解体を依頼してもよかったのだが、アイテムボックスの存在を知られるのを防ぐためと、どうやってフォレストウルフを倒したのかを秘密にするため、ギルドに解体の依頼は出していなかった。


 そんなこんなで、この三日の間にトラブルらしいトラブルはなかったのだが、今日森へとやって来た秋雨を待っていたかのようにとあるモンスターと遭遇してしまった。
 その姿を見た秋雨は、思わずとある童謡を口ずさんでしまう。


「あるぅひ、もりのなか、くまさんに、でああった、いせかいのもりのなーかーでー、くまさんにでああったぁー♪」

「グマァァァアアアア」


 秋雨の口ずさんだ歌を挑発されていると勘違いしたのか、突如として彼の目の前に出現したモンスターが雄叫びを上げる。
 その鳴き方に秋雨は違和感を覚えてしまい、ツッコんでも仕方がない事とわかっていたのだが、敢えてツッコんでしまった。


「いや、“グマァァァアアアア”って……その鳴き方は日本人にしか通用しないんじゃないか? おっと、そう言えば……また忘れていた。【鑑定】」


 これは豆知識だが、“クマ”の名前の由来はクマ自身が“クマ”と鳴いているように聞こえるからとの事だが、この異世界では恐らくクマという言葉の概念はあってもその名前の由来までは無いはずだ。


 それが証拠に秋雨が【鑑定】先生にお伺いを立てたところ、次のような結果が表示された。


【フォレストベアー】


ステータス:


 レベル6(ランクE)


 体力 110

 魔力 8 

 筋力 25

 持久力 19

 素早さ 21

 賢さ 9

 精神力 17

 運 0


 スキル:薙ぎ払いLv1、嗅ぎ分けLv1、かみつきLv1、ネイルスクラッチLv2


「へぇー、さすがクマさんだな、ランクEとは」


 もし他の駆け出し冒険者がこの場に居合わせていれば、秋雨の暢気な感想に叱責の声を上げていたことだろう。
 そもそもランクEに属するモンスターの強さというのは、六人組のGランク冒険者パーティーが命を懸けてようやく倒せるかどうかといったレベルの強さなのだ。


 今この状況をこの世界の人間が目撃すれば、「逃げてー、少年逃げてー」と声を大にして叫ぶほどの窮地に立たされているといっても過言ではない。
 だが当の秋雨といえば、目の前のフォレストベアーがランクEに属しているという事に感嘆の声を上げていたのだ。


 当然ながら、そんな無防備な状態を晒している秋雨を、フォレストベアーが黙って見ているはずもなく、彼に向かって突っ込んで来ていた。


「よっと、なんだ? 遊んで欲しいのか? お兄さんは忙しいんだがね」

「グ、グマァァァァ」


 フォレストベアーの攻撃を簡単な体裁きだけで躱すと、おどけたように軽口を叩く。
 一方のフォレストベアーといえば、自分の突進攻撃をいとも簡単に躱した秋雨を見て、警戒の度合いを強めるよう呻き声を上げた。
 だがどうも秋雨の中ではフォレストベアーの鳴き方がお気に召さなかったようで、怪訝な表情を浮かべながら口を開く。


「お前その鳴き方はこの世界では似合わないから、“ベアー”と鳴きなさい」

「グ、グマァ?」


 当然ではあるが、そんなことを言われてもフォレストベアーにとって今まで生きてきた人生……否、熊生ではずっとこの鳴き声だったため、突然変えろと言われても土台無理な話であった。


 秋雨の言葉を挑発と取ったのか、再び彼に向かって突進していくフォレストベアー。
 だが、秋雨はすでにフォレストベアーの動きを見切っているようで、上体だけで躱すとフォレストベアーの顔面に全力の三十二分の一の力を込めたパンチをお見舞いする。


「グマァ、グ、グマァァァァアアア」

「ちっ、聞き分けのない奴だな」


 さすがにEランクのモンスターとあって、秋雨の三十二分の一パンチを耐え抜き、彼の次の動きを見極めるべく睨み付けている。
 だが秋雨が攻撃してこないことに痺れを切らしたのか、「グマァァァァアアア」という大音量の咆哮と共に、三度突進を試みるフォレストベアーだったが、そんなことを何度も許すほど秋雨は優しい人間ではなかった。


「“ベアー”と鳴けと言っておろうがぁぁぁぁあああああ!!」

「ぐべらぁっ」


 秋雨は完全にフォレストベアーの動きを捉えており、そのまま腰を落とし体勢を低く取ったと思ったら、膝のバネを利用してフォレストベアーの顎に右のアッパーをお見舞いした。
 先ほど三十二分の一パンチを耐え抜いたこともあって、今回秋雨は十六分の一パンチを食らわせたのだが、その威力は絶大で何本もの木々をなぎ倒し、最終的にフォレストベアーは仰向けで大の字になって倒れた。


「ベ、ベアァー……」

「そうだそれでいいんだ。次からはそれで鳴くんだぞ」


 しかし、残念ながらフォレストベアーに次はなかったのであった。
 秋雨がそのことに気付くのは、フォレストベアーに近づき既に今まで戦っていた相手が絶命している事を確認した時だった。


 フォレストベアーがすでに亡き者になってしまった事に気付いた秋雨は、頭をぽりぽりと掻きながら気まずそうに一言既に物言わぬ相手に呟いた。


「まぁ、その、なんだ、来世では“ベアー”と鳴けよ?」


 来世もフォレストベアーとして生まれ変わる保証がないのにも関わらず、適当な事を言って自身の気まずさを打ち消そうとする秋雨。
 とりあえず、フォレストベアーの討伐が完了したため、討伐証明部位である【フォレストベアーの爪】を剥ぎ取り、残りの死骸はアイテムボックスに収納して後で秘密裏に解体屋に解体してもらう事にした。


 そして、いつものように駆け出し冒険者にしてはかなり量の多い薬草を採取して、午前9時になったのを確認すると、街へと帰還するのだった。



――――――――――――――――――――――――


フォレストベアーの死因:撲殺
……これが、弱肉強食というやつなのですね。
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