上 下
22 / 180
第二章 初めての薬草採集とモンスター討伐

22話

しおりを挟む


「犬? いや、野生だから狼か?」


 まるで狼が野生の犬のような言い方をする秋雨だったが、状況的にはそれほどのほほんとしているような場合ではない。
 草むらから現れたのは三匹の狼だった。


 尤も、ここは異世界であるからして、秋雨の元居た世界のように動物的な狼ではなく、当然モンスター的な狼である。


「おっと、鑑定しなきゃな。なかなか初めての物に対して鑑定するという行為が癖付かないな」


 そう独り言ちながら、目の前に現れた三匹の狼のモンスターの内の一匹を【鑑定】に掛けた。


【フォレストファング】


ステータス:


 レベル4(ランクF)


 体力 60

 魔力 2 

 筋力 10

 持久力 9

 素早さ 15

 賢さ 5

 精神力 10

 運 0


 スキル:連帯行動Lv1、逃走術Lv1、かみつきLv1、ネイルスクラッチLv1


「……弱くね?」


 秋雨がそう思うのは、無理もない事である。
 何せ、体力と魔力が10万もあり、他のパラメーターが1000もあるのだ、それに比べたら目の前にいる狼など雑魚以外の何者でもない。


 だが、他の駆け出し冒険者の名誉のために言っておくが、今秋雨の目の前にいるフォレストファングは、Fランクに属しているモンスターで、駆け出しであるGランク冒険者にとっては一匹でも危険な相手なのだ。
 それが三匹もいる時点で、十二分に危機的な状況であった。だからこそ、秋雨の鑑定結果の感想である“弱くね?”はあくまでもGランク冒険者としての感想ではなく、彼個人の主観であると言っておく。


 今の彼に恐怖や危機感という感情は一切ないが、これが普通の駆け出し冒険者であれば、あまりの恐怖に様々な穴という穴からいろいろなものを垂れ流していたであろう。


「グルルルゥゥ……」


 秋雨の事を獲物だと判断しているのか、それとも脅威と見なしているのか、フォレストファングの一匹が低いうなり声を上げ威嚇する。


「ちょうどいい、この木剣を試すいい機会だ」


 秋雨はそう呟くと腰に下げていた木剣を引き抜くと、片手で持ちながら正眼に構えた。
 それを戦闘開始の合図と受け取ったのか、三匹の内の一匹が秋雨に向かって突進してきた。


「グァァアアア」


 口を大きく開け、秋雨の身体に牙を突き立てようとするも、それを彼が黙って許すはずもなく、フォレストファングの攻撃を見切り側面に回り込む。
 そのまま木剣を振りかぶると、首と胴体の付け根部分に狙いを定めそのまま勢いよく振り下ろした。


 ――スパァンッ。


 秋雨が放った木剣の一振りは、何の抵抗もなくフォレストファングの頭部を胴体から切り離す。
 それと同時に勢い良くどす黒い血飛沫が飛び散り、草で覆われた地面を赤黒く染め上げる。
 その見事な攻撃に、さぞかし秋雨も誇らしげな顔を浮かべて――。


「うわぁ、引くわぁ……めっちゃ引くわぁ……」


 ……浮かべてはいないようで、むしろヒクヒクと顔を引きつらせていた。
 以前盗賊に攻撃を仕掛けた時の反省点を生かし、今回の攻撃も当然手加減していた。
 だがそれでも力のセーブが上手くいかなかったのか、襲ってきたフォレストファングの頭部と胴体を分断する結果となった。


「でもまぁ、頭が残った事を鑑みれば大きな進歩と言っていいのかもな、加減無しで斬ったら間違いなく頭が爆散するだろうしな。まったく、俺はどこのスプラッターマシンだ? ジ〇イソンじゃねえんだぞジ〇イソンじゃ?」


 今回の結果を客観的に考察する秋雨であったが、明らかなオーバーキルであろう結果を見て、自分が一体どこに向かっているのだろうと自己嫌悪に陥りそうになっていた。


「まあまだ二回目だしな、慣れて行くしかないか……」


 そう独り言ちた秋雨は気を取り直すといった感じで残り二匹のフォレストファングに向き直った。
 秋雨が考えを巡らせている間、フォレストファングたちが襲ってこなかったのは目の前で起きた光景に呆然としていたからだ。


 フォレストファングからしてみれば、“獲物を見つけて狩りをしようとしたら、仲間が首をちょんぱされてました”というどこかラノベのタイトルのような状況になっていたのだ。
 しかも仲間がやられた相手を見れば、見た目は駆け出し冒険者にしか見えない15歳の少年がそれをやってのけたのだ。


 だが、フォレストファングたちとて弱肉強食の野生の中で生きているのだ、すぐに次の行動に意識を向けた。
 この時点で二匹のフォレストファングが撤退を選択していれば生き残ることができたのだが、知能の低い彼らではそれを理解することはできなかったのであった。


「じゃあ、次はお前だ」

「グルゥ?」


 木剣の切っ先を突き付けられたフォレストファングは、秋雨の行動を理解できず首を傾げる仕草を取る。
 だが、行動自体の意味を理解できないまでも、秋雨の態度から挑発されていることは感じ取ったらしく、愚直にも彼に向かって突進していく。


 しかし、それは先のフォレストファングと同じ選択を取るという悪手であり、当然その結果というのは……。


「よし、これで二匹、残りは……お前だけだ」

「グ、グルルルゥゥ」


 先のフォレストファングと同じく、頭部と胴体が切り離された死骸がもう一つ出来上がってしまっていた。
 他の仲間二匹が鎧袖一触に切り捨てられたのを見て、最後のフォレストファングが弱気なうなり声を上げる。
 そして、ここで初めてフォレストファングは、自分がちょっかいを掛けてはいけない人間を相手にしたという事に気付き、踵を返して撤退行動を開始した。


 ――シュンッ。


「ワ、ワォン?」

「はっはっはー、何処へ行こうと言うのかね? 犬ちゃん、いや狼ちゃんか」


 だが時すでに遅しで、逃げようとするフォレストファングを秋雨が見逃すはずもなく、某有名RPGよろしく“しかしまわりこまれてしまった”状態になっていた。
 その後、そのフォレストファングがどうなったのかは、言うまでもない事だろう……。
しおりを挟む
感想 172

あなたにおすすめの小説

家族に無能と追放された冒険者、実は街に出たら【万能チート】すぎた、理由は家族がチート集団だったから

ハーーナ殿下
ファンタジー
 冒険者を夢見る少年ハリトは、幼い時から『無能』と言われながら厳しい家族に鍛えられてきた。無能な自分は、このままではダメになってしまう。一人前の冒険者なるために、思い切って家出。辺境の都市国家に向かう。  だが少年は自覚していなかった。家族は【天才魔道具士】の父、【聖女】の母、【剣聖】の姉、【大魔導士】の兄、【元勇者】の祖父、【元魔王】の祖母で、自分が彼らの万能の才能を受け継いでいたことを。  これは自分が無能だと勘違いしていた少年が、滅亡寸前の小国を冒険者として助け、今までの努力が実り、市民や冒険者仲間、騎士、大商人や貴族、王女たちに認められ、大活躍していく逆転劇である。

家族に辺境追放された貴族少年、実は天職が《チート魔道具師》で内政無双をしていたら、有能な家臣領民が続々と移住してきて本家を超える国力に急成長

ハーーナ殿下
ファンタジー
 貴族五男ライルは魔道具作りが好きな少年だったが、無理解な義理の家族に「攻撃魔法もろくに使えない無能者め!」と辺境に追放されてしまう。ライルは自分の力不足を嘆きつつ、魔物だらけの辺境の開拓に一人で着手する。  しかし家族の誰も知らなかった。実はライルが世界で一人だけの《チート魔道具師》の才能を持ち、規格外な魔道具で今まで領地を密かに繁栄させていたことを。彼の有能さを知る家臣領民は、ライルの領地に移住開始。人の良いライルは「やれやれ、仕方がないですね」と言いながらも内政無双で受け入れ、口コミで領民はどんどん増えて栄えていく。  これは魔道具作りが好きな少年が、亡国の王女やエルフ族長の娘、親を失った子どもたち、多くの困っている人を受け入れ助け、規格外の魔道具で大活躍。一方で追放した無能な本家は衰退していく物語である。

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

王太子に転生したけど、国王になりたくないので全力で抗ってみた

こばやん2号
ファンタジー
 とある財閥の当主だった神宮寺貞光(じんぐうじさだみつ)は、急病によりこの世を去ってしまう。  気が付くと、ある国の王太子として前世の記憶を持ったまま生まれ変わってしまうのだが、前世で自由な人生に憧れを抱いていた彼は、王太子になりたくないということでいろいろと画策を開始する。  しかし、圧倒的な才能によって周囲の人からは「次期国王はこの人しかない」と思われてしまい、ますますスローライフから遠のいてしまう。  そんな彼の自由を手に入れるための戦いが今始まる……。  ※この作品はアルファポリス・小説家になろう・カクヨムで同時投稿されています。

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ
ファンタジー
 助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。  *話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。  *他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。  *頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。  *無断転載、無断翻訳を禁止します。   小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。 カクヨムにても公開しています。 更新は不定期です。

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

突然シーカーになったので冒険します〜駆け出し探索者の成長物語〜

平山和人
ファンタジー
スマートフォンやSNSが当たり前の現代社会に、ある日突然「ダンジョン」と呼ばれる異空間が出現してから30年が経過していた。 26歳のコンビニアルバイト、新城直人はある朝、目の前に「ステータス画面」が浮かび上がる。直人は、ダンジョンを攻略できる特殊能力者「探索者(シーカー)」に覚醒したのだ。 最寄り駅前に出現している小規模ダンジョンまで、愛用の自転車で向かう大地。初心者向けとは言え、実際の戦闘は命懸け。スマホアプリで探索者仲間とダンジョン情報を共有しながら、慎重に探索を進めていく。 レベルアップを重ね、新しいスキルを習得し、倒したモンスターから得た魔石を換金することで、少しずつではあるが確実に成長していく。やがて大地は、探索者として独り立ちしていくための第一歩を踏み出すのだった。

処理中です...